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景気回復や団塊世代の退職、新卒者の相対的な量の減少などで、今あらためて注目される転職マーケット。20代前半の有効求人倍率(年間平均)だけ見ても、98年度は0.58倍だったのが、2006年度は1.16倍と倍に跳ね上がっている。引く手あまたの状況は明らかだ。就職氷河期に新卒で目当ての企業に入れなかった第二新卒層が、この機会をとらえて“リベンジ転職”する例も増えている。30歳という節目を前にして、あるいは35歳ともいわれる転職年限を意識して、転職を考える人も多い。もちろん、35歳以上でも今や転職は当たり前になってきた。 こうした転職活況期に、転職者の満足度はどうなのかをあらためて聞いたのが今回の調査だ。今回、転職理由や満足度を聞いたエンジニアは総数200人。年齢は22歳から39歳まで。職種はシステム開発(Web・オープン系)が28%、社内情報システム・MISが16.5%、運用・監視・テクニカルサポート・保守が11.5%などIT系の割合が多い。 転職を決意した理由は、「会社や業界の将来に不安を感じた」(39%)と「会社からの評価や給与が上がらない、または下がった」(38%)が双璧をなしている。ほかにも多いのは「休日数、残業、勤務時間に不満があった」(22%)、「仕事量や雑務が多くなっていた」(18%)、「会社の人間関係に不満を感じた」(16%)などである。「仕事(の中味)」「お金(待遇)」「人(人間関係)」は昔から転職要因の三大要素といわれるが、ここでもそれを如実に反映した結果となっている。 |
DATA1 会社の将来が不安、評価が低いが上位!「転職を決意した理由」 |
「会社の将来に不安を感じた」と「評価や給与が上がらない」が、ほぼ同じ割合でトップを占めているのは興味深い。いわば、社員からの会社に対するマイナス評価と、会社からの社員に対するそれが真っ向からぶつかっているのだ。データからはこうした企業と個人のミスマッチが感じられる。 その背景には、「会社のためにも自分のためにもなると思い、一生懸命仕事をしたつもりが、まったく反対の評価をされた」というショックがあったり、「給与が上がらないのは、結局、自分のせいというよりも、会社全体の業績が悪いせいだ」ということに気づいたりと、さまざまな苦い体験があったはずだ。 こうした体験は誰にもあるものだが、いま職場に欠けているのは、それでも今の会社で頑張るという方向に気持ちを切り替えるだけの、職場の風土、たとえばよき導き手となるべき上司や先輩が、なかなかいないということだ。好況期の繁忙で仕事量は増えるばかりで、みな時間がない。将来のビジョンを語り合い、共有できる人間関係はますます希薄になる一方だ。このままでは自分のエンジニアとしての技術やビジネスパーソンとしてのキャリアも見えづらい。自分の将来を考えるうえでも、よりゆとりのある職場で、より高いレベルで勝負してみたいという気持ち。それが転職のスイッチを押させる。 |
にっちもさっちもいかない状況からの脱出を、人は転職に求める。そこに求めるものは、前職での不満をポジティブに反転させた希望だ。「あなたが転職先の企業を選択した理由」では、「仕事内容の面白さ、醍醐味」が43%とダントツ。ついで「年収(残業代含み)の額」が36%で2位につけている。 |
DATA2 仕事の面白さ、年収額が決め手!「転職先を決めた理由」 |
もちろん「企業理念やビジョンの明解さ」や「事業戦略や経営目標の将来性」なども挙げられているが、そうした長期的な将来性よりもむしろ「経営者や社員の好感度」や「残業量」といった、とりあえず目先に映るものを選択の理由とする傾向が強いことがわかる。「他社と比べた事業や商品の競争力」や「評価制度や教育制度の充実度」が低いのも不思議だ。 しかしながら、これらを転職者の近視眼的な傾向と批判することはできないだろう。実際に理念や社是通りに事業を営む会社はそう多くはないし、会社の風土や慣習は実際に入ってみないとほんとうのところはいえない。もはや新卒ではなく、事業や商品の競争力など通りいっぺんの「会社研究」がたいていは役立たないことも経験的に知っている世代だ。それ以上に重要なのは、この会社って「仕事オモシロそうだ」という自分の実感と、「給料が多いぞ」というファクト。そのことをアンケートは物語っているのではないだろうか。経験者ならでは勘と実利主義というべきか。そしてそれこそが、転職というリスクのある航海に旅立つための信頼に足る羅針盤といえるのかもしれない。 |
仕事と給料に惹かれての転職とはいっても、満足度は全員が残念ながら100%プラスというわけにはいかない。今回の回答者たちの65%が、転職で年収が上がっている。それにも関わらず、「転職先での年収の満足度」を聞いた設問では、「とても満足」は9%止まり。「まあまあ満足」が33%、「普通」が34%で同率。「やや不満」が16%、「かなり不満」が9%という結果になった。総じて4割が満足しているのだが、3割強は変わらず、4分の1は不満ということだ。年収満足度は、つねに仕事や職場の雰囲気など他の要素との相対比較で感じるものだから、金額の絶対的な差とは必ずしも言えないのだ。 この満足度についての回答には、単に年収の絶対額が増えたというだけでなく、仕事や職場の雰囲気など他の要素との相対比較の結果も影響していると考えられる。転職はリスクのある航海と書いたが、それでも失敗はしたくはないもの。4割の満足派の中に入るべく、職場での仕事内容を可能な限り調べて、そのなかから最善の企業を選択することが不可欠になる。 |
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結果は、DATA4の通り。「退職金を支給された」が全体の4割、「支給されなかった」が6割で、実は退職金をもらわずに転職する人の方が多いという、ある意味、驚くべき事実が浮かび上がった。 今回の調査では退職金を受け取った人は78人いるが、その総額は8,556万円。平均すると約110万円である。ただし、最高額1,050万円(国内中小企業/正社員/品質管理、勤続14年)の人が一人いるので、その特異値を除いて再計算すると、一人平均約97万円ということになる(いずれも税込み)。 同じ勤続14年でも支給額200万円(国内中小企業/契約社員/サービスエンジニア)の人もいれば、勤続10年で180万円(国内中小企業/正社員/テクニカルサポート)という人も。9年勤めてわずか10万円(国内大手企業/正社員/システム開発)という人がいるかと思えば、同じ9年で450万円(国内大手企業/正社員/ネットワーク設計)という人もいた。このように企業によって退職金の支給額はまちまちだ。 ただ、おおよその相場はある。東京都産業労働局が2006年に中小企業(300人未満)を対象に調査したデータによれば、転職など自己都合退職の場合は、大卒・勤続年数5年・27歳で43万8,000円〜47万3,000円、同じく10年・32歳で120万2,000円〜125万6,000円だった。 繰り返すが、退職金をもらえるのはまだよいほうで、半数以上が退職金ゼロ。派遣や契約社員ならまだわかるが、正社員でもゼロのケースがある。その企業の退職金規程を満たすだけの就業年月に達していない可能性もあるが、そもそも退職金規程のない会社に勤めていたケースもあるのではないかと思われる。 |
そもそも退職金というのは、欧米にはほとんど見られない日本的給与システムの一つだ。日本企業では一般的とはいうものの、労働法規に定められた制度ではないので、就業規則に盛りこまれていなければ、別に退職金を支払わなくても違法にはならない。 退職金は会社に長く勤めれば勤めるほど、たくさんもらえる、きわめて“年功的”な制度だった。高度成長期の人手不足時代には従業員の定着を促すという点で意味があったが、現在では逆に企業にとって重荷になっている。重荷のうちでも最大のものが団塊の世代の退職金だ。彼らがいっせいに退職する時期になって、その多額の退職金支払いに企業は耐えられなくなりつつある。そのため、10年ほど前から大手企業を中心に退職金を見直たり、退職金制度を廃止する企業も増えてきた。 退職金の1年分に相当する金額をその都度、ボーナスや月給に上乗せして受け取ることも可能にした企業や、退職金や賞与制度を廃止し、成果給を4カ月に一度支給する企業などの例がよく知られる。これらは、むしろ団塊対策というよりも、若手社員に向けた対策ということができる。遠い将来の退職金をちらつかせるより、その年に働いた分を評価して、給与に上乗せしようというのだ。よりモチベーションが高まる方向で給与資源を使った方が、従業員とりわけ若手社員には効果的だという企業の判断がある。言い換えれば、退職金制度そのものが、終身雇用を前提とした仕組みから脱皮しつつあるともいえる。 このように傾向としては、退職金制度は廃止または改変の方向にある。退職金は旧態依然の制度で、現代の雇用環境にはそぐわないといわれればそれまでだが、とはいえ、働く側にしてみれば、それに見合うだけの賃金アップが前提だろう。 今回退職金をもらえないまま転職した人は、果たして今の職場ではどうなのだろうか。定年までそこに勤めるつもりか、それとも2〜3年内に再び転職するつもりか、どちらにしても、これからの人生設計のためにも、何年で辞めるといくらもらえるか、その計算はしっかりしておいたほうがよいかもしれない。 |
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