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地球温暖化を救うエンジニアはエレ・メカ・ソフト関係なし
三菱重工業の挑戦!発電プラントをゼロから創る技術者の闘い
世界中で急増する原子力発電所需要を受けて、三菱重工業が攻勢に転じている。その中核事業所である神戸造船所では、工場設備投資の拡大に加え、年間数十人規模でプラント技術者の中途採用を進めている。同社の開発戦略と人材採用の狙いを取材した。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/有本秀雄)作成日:08.11.05

【Part1】世界の原子力需要に応える、三菱重工業神戸造船所のDNA

20年間で100基建設。追い風に乗る原子力発電プラント

 神戸港に面したドッグでは、全長300メートルを越える新型コンテナ船がその巨体をあらわにしていた。巨大なクレーンが船体を取り囲み、これから組立の最終工程に入るところだ。  三菱重工業神戸造船所。略称「神船」は、100年以上の歴史を誇る国内有数の造船所。コンテナ船、自動車運搬船、クルーズ客船など拡大する商船需要に応えてきた。海上自衛隊の潜水艦や海洋研究開発機構の大深度潜水調査船「しんかい6500」もここで造られた。ただ、神船の生産高に占める割合でいうと、船舶・海洋機器は2割程度にすぎず、むしろ事業の主力は約7割を占める原子力・原動機関連だ。

 三菱重工業は、加圧水型(PWR)原子力発電プラントの国内唯一の総合メーカー。神戸港に面した神船本工場と、明石市にある神船二見工場、さらに高砂市の高砂製作所の兵庫県内3拠点で、プラントの開発・設計、製作、検査、据付から運転支援、アフターサービスまでを分担する。なかでも本工場は、原子炉容器、加圧器、蒸気発生器、それらを収める格納容器など、原子力エネルギーを生み出す一次系を受け持つ最重要拠点だ。

 今、海外から原子力プラントの引き合いが殺到し、神船の設計・製造の現場は大忙しだ。発電時のCO2排出量ゼロという特長から地球温暖化対策の切り札として原子力発電が見直され、今後20年間に世界中で建設予定の原子力プラントは100基超ともいわれる。欧米の大型炉、東欧・東南アジアなど新興国でのニーズが見込まれる中型炉、そのいずれでも同社の技術力が大いに期待されているのだ。





国内23基の実績が、世界中から注目を集めている

 最近の原発需要は、2005年、ブッシュ米大統領の包括エネルギー法案署名が転換点となり原発建設再開に向けて舵を切る。しかし、30年間原発建新設を凍結してきた米国では、多くのメーカーが原子力事業から撤退し、プラント新設技術はやせ細っていた。こうした“原発冬の時代”にも、日本では安定した原発建設実績があり、たしかな技術を継承してきた。

 各国のエネルギー政策の転換は、原子力メーカーの世界的再編につながっていく。米国の名門ウェスチングハウスは東芝に買収され、GE(ゼネラル・エレクトリック)は日立製作所と新会社を設立した。そして、世界の主流を占めるPWR陣営では三菱重工業と仏アレバ社が2006年に中型原子力プラント開発で事業提携を発表することで、世界の原子力メーカーは、日本企業を軸にした3大グループに集約されることになった。

 今や日本企業の力を借りなければ、原子力プラントの新設は不可能とさえ言われる。中でも、三菱重工業には1970年の関西電力美浜発電所1号機を皮切りに、関西、九州、四国、北海道の国内電力事業者にPWRプラントを23基納めた実績(もちろんトップシェア)がある。新設並びに既設原発のアフターメンテナンスを通して培った、たしかな技術がある。

 当初、国内原子力プラントの寿命は「30年」と言われたが、今は「60年」。大型主要機器のリニューアルによって稼働期間を安定的に延ばす長寿命化対策も、「世界初」の実績を多数有する重要な技術だであり、今も多くのプラントで工事が進められている。さらに、70〜80年代に建設された初期の原子力プラントは、あと20年もすればリプレイス需要が見込まれており、原子力プラント技術者を必要とする理由の一つになっている。


PWRプラントの仕組み
PWRプラントの仕組み

【Part2】原子力プラントは総合技術。それぞれの専門を集約して、「でっかいもの」を動かせ

巨大プラントを正確にコントロールする電気制御技術

 原子力プラントは、各種主要機器や配管など各構成機器の開発・設計・製造から運転制御、土木・建設技術までを含む、数多くの要素技術の総合体だ。神船のエンジニアたちの学生時代の専攻分野を見ても、核物理など原子力が専門の人は2割程度で、ほとんどが化学、機械、電気、建築、土木などを専攻した人たちだ。

 これまでは新卒をじっくり育てるのが基本だったが、国内既存プラントの設備更新、海外での新規建設という両面での需要の高まりを受け、神船では昨年度から数十人規模の本格的な技術者中途採用を始めた。
「ほとんどが、それまで自分は原子力とは無縁と思っていた人たち。しかし、プラント建設にあたっては、その人たちの力が重要になる」というのは、原子力プラント設計部の安井譲次長だ。

 中でも今最も必要とされる職種の1つが、プラントを実際に動かし、停止させる電気制御設計のエンジニアだ。プラントの運転制御は、今やコントロールルームのタッチパネルで集中管理できるようになっているが、それらの制御系システムやマンマシンインターフェイスを設計するのが仕事だ。電気系の知識を専門技術とする、計測制御設備の設計・開発経験者が求められている。

 もう少し具体的に言うと、三菱重工業の原子力プラントで使われる制御装置のハードは装置メーカーからの購入品が多いが、プラントでの用途や原子力特有の仕様及び客先の運用ニーズに合わせてカスタマイズする必要がある。それらの計測制御設備の基本計画から詳細設計、および現地試運転調整までが業務範囲だ。

 原子力プラントといわれれば、「圧力容器や配管を設計するのか」「建屋を建てればいいのだな」などと機械系や建築系の人はピンと来るが、電気系の人には対象が茫漠としていて、自分の専門の何が活かせるかわかりにくいところがある。たとえ電気制御の経験があっても、プラントは初めてだったり、弱電の組み込みしか経験がなかったりすると、その「経験不足感」から、つい尻込みしてしまいがちだ。
 しかし、安井氏は「原子力はもとより、プラント設計の経験も問わない。重電系の制御システム経験はあればいいが、必須ではない」とまで言い切る。



原子力設計部 次長
安井 譲氏


設計の信頼性をどこまでも追求する伝統

 電気制御系のエンジニアにとって、原子力プラントの仕事には経験不足を補って余りある面白さがある。何より巨大な設備機器や構造物を制御する醍醐味だ。「私自身が電気系の出身だが、でっかいものを動かしたくて重工に入った」と安井氏は振り返る。
 某電力事業者のプラント装置開発に10年間従事、その後、いくつかのプラントの新設・更新計画から制御システムの設計、さらに試運転時の調整まで、原子力プラントにまつわる様々な場面に関わってきた。

 20年以上にわたる神船でのエンジニア生活を通して実感するのは、所内にDNAのように刻み込まれた「技術の蓄積と技術者の倫理観」だという。
「マイクロフィルムで記録されている先輩の設計図書、なかでも設計検討書を見れば、なぜそういう設計にしたのかという、明確な根拠が記されている。さまざまな制約があるなかで、設備の信頼性を保つために大変な努力をしている。回路設計一つとっても、ここまで考えて設計しているのかと驚くことが多い」
 どのように技術革新が進んでも、その根っこのところは変わらない。エビデンスを積み上げ、厳密なルールに従って設計する。それがプラントの信頼性・安全性を担保するのだ。


社内外で、専門を超えた技術者同士の連携

 もう一つ、安井氏が指摘するプラントエンジニアの特性は、それぞれの仕事が他部門、他の専門技術者と密接につながっているということだ。
 基本設計、詳細設計、製造、建設、稼働、メンテナンスに至る時系列のなかで、各フェーズの担当者は、自分の担当業務に課せられた責任を全うするためにも、前工程、後工程のエンジニアとの綿密な打合わせが欠かせない。電気と土木、機械とシステムといった専門を異にするエンジニアたちが、一つの課題について腹を割って対話を重ねるのだ。これは他の産業ではなかなか見られないシーンである。
「自分の図面を引けばそれで終わりという仕事ではない。それぞれが自分の専門に閉じこもっていては、とうてい達成できない事業」(安井氏)なのだ。

 こうした連携は、社内だけにとどまるものではない。機器によっては生産の一部を協力メーカーに依頼することがある。また、海外プロジェクトでは各国の企業と共同で作業を行う場合もある。そうした場合、他企業のエンジニアをまとめあげたり、作業の分担を調整するリーダーシップやコーディネイト力が必要になる。こうした要素も、神船で身につけられる重要なスキルの一つである。

 原子力プラントでは最終的な顧客は電力事業者であり、その数は世界でも限られている。また、新設プラントの場合は計画から稼働まで何年もかかるだけに、メーカーと事業者は、互いにリスペクトしあう、長期的な関係で結ばれることになる。
「事業者の仕様にメーカーが単純に従うという関係ではない。どんなプラントでもつねに重工の考え方、ポリシーを尊重していただいている。それだけに、我々はこう考えるという明確な主張ができないといけない」と安井氏。その言葉にはエンジニアとしての矜持があふれている。

 安全・安心の社会インフラを担うという重責は、それ自体エンジニアの仕事のやりがいに繋がる。納期はむろん重要だが、半年ごとのモデルチェンジに追われるというような慌ただしさはここにはない。大きなテーマにじっくりと取り組みたいというエンジニアにとっては、魅力ある職場だ。


【Part3】プラント制御を支えるエレクトロニクス技術者の底力

原発の運転員を訓練するシミュレータ設備

 原子力プラントの運転にも資格が必要です。プラント全体の仕組みや機械の構造を覚え、事故発生時などの緊急対応も知っていないといけません。各電力事業者はそうした技術者を自前で養成しているのですが、そのためには運転訓練センターでの長期にわたる訓練が必須になります。神船では、原子力プラントの運転訓練用シミュレータ設備も造っており、私はその設計・開発を担当しています。

 シミュレータは実際の原子力プラントの運転制御室とほぼ同じ仕様、同じ規模の設備で、多数の制御器とプラントの挙動をモデル化したソフトウェアからなります。実機と同様にスイッチをひねれば弁が開くしポンプが動く、事故が起これば警報音が鳴り警報窓が点滅する、本物のような臨場感があります。

 シミュレータの設計に当たっては、プラント全体の構造や運転の仕組みを知る必要があります。幸い、神船は原子力プラント全体の設計を行う事業所なので、ほとんどのことが社内で学べます。1970年代からの建設実績があり、多数の設計図面が残っています。先輩技術者の話を聞くこともできるので、原子力プラントについて全く知識がなかった私も、一つひとつ目標をクリアすることで、この仕事をこなせるようになりました。


原子力プラント設計部 デジタル制御設計課
増田浩平さん

大学院電気電子工学研究科修士修了。2000年入社。一貫してデジタル制御設計課で、原子力発電所向けの運転訓練用シミュレータの設計・開発に従事。現在は国内原子力プラント向けシミュレータの設備更新や、海外プラント向けの新設プロジェクトのサポートなどを行う。

長くじっくり取り組んで、技術を後生に残したい

 原発の運転制御技術もつねに進化しています。例えば、新型の制御盤は従来のスイッチではなく、すべてタッチパネル方式で制御するようになります。そのために、シミュレータにもそれに応じた新しい技術を導入しなければなりません。 そういった新しい技術やアイディアを駆使するのは自分の代の腕の見せ所。言われるままの仕事をするのではなく、自分らしさをどんどん出して、何年も後の後輩技術者に、「すごいなぁ」と思われるような仕事を残したいものです。

 大学院時代は電気電子工学専攻で半導体の研究をしていました。研究室の仲間はほとんどが家電・コンピュータメーカーへ就職し、重電メーカーを選んだのは私だけ。製品サイクルがころころ変わる仕事ではなく、長くじっくり取り組めて、かつ規模の大きな仕事がしたかったので、三菱重工を選んだのは正解でした。

 神船のなかでエレクトロニクス系の技術者は少数派ですが、それだけに重宝されて、いろいろな技術や製品を担当することができます。私のデジタル制御設計課以外にも計装制御設計課があり、ここにも電気系エンジニアがいます。原子力プラント関連ではシミュレータ以外にも、各種センサーの設計、各種装置の制御、さらにメンテナンス用ロボットの開発など、電気系エンジニアが活躍できる場所がたくさんあります。

 少し堅いイメージが強い三菱重工業ですが、若い人が何でも自由に発言できる風通しのよい風土であることは、入社前には想像できないことでした。最近、キャリア採用の技術者が私の職場にも増えてきましたが、神船という職場しか知らない私にとって、彼らの意見は非常に新鮮であり、有益なものに感じています。

 たとえプラントの経験がなくても、専門知識は入社後にしっかり学べます。世界中の人が必要としている電気を安心・安全に届けるというダイナミックな事業はとてもやりがいのある仕事。モノづくりが大好きであること、大きなものを動かしたいと思う人には是非、私たちの仲間になって欲しいと思います。


増田浩平さん

【Part4】熱い技術者たちの風土に、一刻も早く馴染んで欲しい


 神船の技術者風土を一口でいうと「家族的」。とりわけ他に類を見ない安全性が求められる原子力プラントでは、達成すべき品質レベルの高さゆえに、部門や専門を超えて技術者が団結しなければなりません。技術者コミュニティの一体感は、人事部門から見ても羨ましいほどです。  そうしたコミュニティに一刻も早く馴染んでもらうために、キャリア採用者向けには、原子力プラントの仕組みを一から学べる各種研修はもちろんのこと、キャリア採用者同士や時には人事部門も交えた懇親会なども随時行っています。それらを通して、社内ネットワークを広げていただくと同時に、キャリアアップの相談にも乗っていきたいと考えています。

 これから入社される方々は、原子力プラントの技術を引き継いでいただく貴重な人材基盤。同時に欧米やアジアでの新規プロジェクトに、計画段階から参画できる醍醐味も味わっていただけると思います。  原子力に限らず、エネルギー関連事業は息の長い仕事です。その成果が現れるのは10年後、20年後かもしれません。しかし、地球環境の危機を救うことと豊かな未来を創ることを両立するという壮大な夢を実現するまたとないチャンスでもあります。

堀内俊孝氏
総務部人事教育課 主任
堀内俊孝氏



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宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ 宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
神戸造船所に取材に伺った日。本館の受け付けで挨拶してくれたのは、コミュニケーションロボットの「wakamaru」。その可愛らしいしぐさを楽しんだ後、展示ホールを見学させていただきました。神船のモノづくりの歴史が一目でわかる写真や模型の数々には圧倒されます。日本の重工業発展の歴史は一見の価値ありです。

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