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世界のエネルギーを生み出す発電プラントを一から創り上げる
海外受注が激増!三菱重工業プラント技術者急募の真相
環境負荷削減とエネルギー需要の逼迫という二つの難題に応えて、より効率的で信頼性の高い発電所プラントを製作するのが、三菱重工高砂製作所の任務。いまプラントエンジニアには何が求められているのか。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/平山諭)作成日:08.10.29

[PART1]世界中が期待する三菱のタービン、プラント技術。エンジニアリングの醍醐味をここで味わう。

 波光きらめく播磨灘に面した兵庫県高砂市。三菱重工高砂製作所の広い敷地に一歩入ると、入口そばに置かれた巨大な鋼鉄の物体がいやでも目につく。日本で最初の加圧水型(PWR)原子力プラント、関西電力美浜発電所一号機のためにこの工場で設計・製造され、1970年に納入されたタービンの実物だ。この原子力タービンが象徴するように、高砂製作所は、三菱重工における原動機事業の基幹生産拠点である。


世界のエネルギー需要を敏感に反映する職場

 発電用のガス・火力・原子力タービンのほか、発電用水車やポンプなどがここで作られている。最近は、ガスタービンによる発電で出る排熱を利用し、蒸気タービンも回して発電するガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)が世界各地で注目されているが、そのプラント技術でも高い評価を得ている。いずれも、生活と産業を支えるエネルギーを生み出す仕事だ。

 今地球環境問題に直面して、世界各国のエネルギー政策は大きく変化している。温暖化ガス削減という要請を受けて、原子力発電需要が活性化し、石炭火力発電からGTCCへのシフトが始まっている。そうした世界のエネルギー事情は、高砂製作所の事業にもダイレクトに影響する。

 同製作所のガスタービンには、この1年だけでも、米国、ロシア、トルコ、ウクライナ、カタール、サウジアラビア、スペインなど世界各国から受注が殺到した。急速に高まる需要に生産が追いつかない状態だ。それを受けて、高砂ではガスタービンの増産に取り組む。

 ガスタービンと同時並行で、原子力タービン工場の新設も進んでいる。高砂におけるガス・原子力タービンの設備増強は総額約250億円に達する。高砂が得意とするのは、タービンやボイラー、ポンプといった個々の装置の設計・開発だけではない。その全体を組み合わせてより効率的な発電を行うための発電所プラントの設計・施工技術も、同製作所の得意分野の一つ。そのプラント技術は、火力、原子力などの各エネルギープラントで高い発電効率と環境性能を示し、世界市場のなかでも高い技術優位性を誇っている。

 発電所プラント建設では、タービンなどの構成部品を単体で納める場合もあるが、土壌改良に始まり、建屋建設から設備導入まですべてにわたって一社が一括して受注する場合もある。これを「フルターンキー契約」と呼ぶが、三菱重工はこのフルターンキー受注ができる唯一のタービン製造会社という側面をもっている。それだけ社内に、多様な技術や経験を集積しているということでもある。


G型ガスタービン
G型ガスタービン

要素研究から設備設計、プラント建設まで フルターンキーの技術蓄積が強み

 高砂製作所の発電所プラント技術が世界から高く評価されている理由について、プラント技術部の主幹技師 長谷川直幹はこう語る。
「R&Dでは、隣接する三菱重工高砂研究所と一体になった技術開発を行っているのが強み。タービンの材料開発や冷却技術、タービン内の流体設計、またタービン翼の3次元設計技術などは、研究所と共同の技術成果のひとつだ。また、実際の発電所と同規模の実証設備を持ち、そこでたえず実証実験を重ねていることも重要だ。これらがプラント技術の高品質・高信頼性の確保に繋がっている」。

 こうした固有の技術を、組織としていかに発揮するかが、プラントエンジニアリングでは欠かせない。日本では原子力発電所の新設はこの10年ストップしており、それが核物理学の研究者からプラントエンジニアに至るまで、人材の枯渇感を招いてきたことは事実。しかし、いま三菱重工に各国から原子力プラントのオファーが舞い込むのは、原発のアフターサービスを通して、組織の中に原子力関連技術をしっかりと蓄えてきたためだ。

 個々の技術者が属する機能別組織の基盤がしっかりしていて、そこに永年にわたる技術が集積している。その井戸の中を掘れば無数のノウハウが得られるのだ。そこで得たノウハウを武器に、プラントエンジニアたちはそれぞれのプロジェクトに集合し、力を発揮する。そうした、縦横の糸で編んだマトリクス構造の組織は、若手エンジニアを育てるゆりかごの役目も果たしている。

 もう一つ、長谷川さんが「三菱重工らしさ」として挙げるのは、エンジニアたちの技術に向き合う態度だ。
「プラントエンジニアがつねに問われるのは、設計の根拠。一つのプラントを設計すれば、なぜこういう設計にしたのかという質問が矢のように飛んでくる。それに明確に応えられなければ、ここでの仕事は務まらない」。

 同じ発電所プラントといっても、火力と原子力では扱う蒸気の量が違う。同じ発電量で比較すると、従来火力に比較して原子力は蒸気量で、約2倍、体積流量で約5倍に達する。それに伴って設備や全体のサイズが違ってくる。たとえ同じ設備を使うにしても、小さなものをスケールアップすればそのまま対応できるというものではない。一つひとつの条件をクリアにし、設計の根拠を積み上げることで、より安全性、信頼性、効率性の高いものが開発できる。

長谷川直幹さん
プラント技術部 主幹技師
長谷川直幹さん


タービン入口温度と冷却技術の変遷
タービン入口温度と冷却技術の変遷

人と社会の間でニーズを調整するコーディネイター

 プラントエンジニアは、単に図面を描くだけの仕事ではない。プラント技術の最上流部にいて、前工程の営業、後工程の製造、調達、建設といった部門と調整しなければならない機会は多い。
「何か問題が発生すれば、メールではなく実際に足を運び、議論を重ねる。そういう人間くさいコミュニケーションが欠かせない。社内に知己を広げ、報・連・相を欠かさない。人と話すことが大好きであることが、重要な資質」と長谷川さんは言う。

「海外からの受注案件では、エンジニアにも英語で書かれた契約書を読む力が問われる。それぞれの国・地域の社会のなかで契約がどのような意味をもっているのかまで考えないと、海外ビジネスはうまく進められない」とも。自身が、インドネシアのGTCCプラント建設に3年間従事した経験があり、海外で仕事をすることの難しさと面白さを同時に感じた。

「首都ジャカルタにいても停電はしょっちゅうあった。途上国では日本以上に、発電所建設が社会インフラに与えるインパクトが大きい。それだけにプラントが完成したとき、地元の人と一緒に体験できる喜びは大きい」
 そうした意味も含めて、プラントエンジニアは、関連する人々の能力を総合的に高め、発電所建設を進め、地域社会のインフラに貢献できることに喜びを感じる、感受性の高いコーディネイター、コミュニケイターであるべきなのだ。

「廊下を歩いていると、かつてのプロジェクトで一緒に苦労した別の部門の人とすれ違う。多くの言葉は交わさないけれど、“やっ、元気?”という短い挨拶でそのときのプロジェクトの厳しくも楽しい思い出が蘇る」と長谷川さん。高砂製作所では、そんな光景がよく見られる。人に支えられ、人と共にある仕事の醍醐味だ。



[PART2]原子力プラント二次系設備の上流設計。新設プラントを一から創り上げる

中国原発の二次系設備。上流設計を任せられて

 一口にプラント設計といっても、個別の機器設計から、電気、配置・配管、建屋の設計などがあります。私はその内プラントの系統を設計する仕事。例えば、ポンプや配管の計画検討やどの様に系統を構成すればプラントを問題なく運転出来るかを計画する業務です。実際のポンプやヒータ、配管などの装置設計は、後の詳細設計の工程に任せることになります。

 三菱重工の原子力プラントの場合、原子炉など原子力によりエネルギーを生み出す一次系設備を神戸造船所が、エネルギーを電気に変えるタービン及びプラント設備といった二次系設備を高砂製作所が設計しています。私たちの設計領域は二次系設備全般の運用計画であり、当然、一次系とのやりとりも多く発生します。

 現在は、中国浙江省に建設予定の120万KW級の原子力プラントの設計に携わっています。一次系設備は米国のウェスティングハウス社が受注していますが、最新鋭の54インチ級翼を採用した原子力用蒸気タービンや復水器、ポンプなどで構成される二次系設備は三菱重工が受注しました。プラント建設にあたっては、中国の設計メーカとの協業で進めており、このプロジェクトはこれからの中国原子力市場開拓の重要な布石になるものと、社内では位置付けられています。

プラント技術部 原子力プラント設計課
藤井雄一郎さん
29歳。大学院では機械システム工学を専攻。2004年、素材メーカに入社し、環境事業部門でゴミ処理プラントの設計に従事。より大規模なプラント設計に関わりたくて、2007年三菱重工に転職。


より多くの経験と知識の吸収を目指して

 前職ではゴミ処理プラントの設計を担当していました。プラント設計というものの基本的な考え方や業務の進め方には共通する部分が多くありますが、原子力プラントは全く別次元のプラントであり、当然扱う機器も異なります。 技術的知識、経験ともに不足する中、所属部署のざっくばらんな雰囲気にも助けられ、周囲から多くの知識を吸収しています。また、同年代の若手エンジニアが多く、各人のコミュニケーションもかなり密で、働きやすい部署だなというのが実感です。

 高砂製作所全体に言えることだと思いますが、若手が活躍できる環境が整っているため、チャンスを掴む機会には恵まれています。入社2年目の私が中心になって仕事を進める機会が多くあり、「やりがい」に事欠くことはありません。 新しい経験と知識を貪欲に吸収しながら、この部署になくてはならない存在を目指したと考えています。


[PART3]たとえプラント未経験でも、それぞれの技術を生かせる職場がある


技術+ヒューマンスキルのバランスを重視

 高砂製作所では、さまざまな職種のキャリア入社者を大量に募集しています。
 プラントエンジニアの場合は、プラント設計経験をもつ人の応募が大半ですが、なかにはプラント未経験でも採用される人もいます。当社の場合、フルターンキーで受注できることが強み。設計だけでなく、品質保証、サービスエンジニアリング、生産技術などさまざまな技術領域があり、これまでの経験を活かせる職場が必ずあります。これから発電所プラントに関わってみたいと考える人に、ぜひ大勢応募してほしいと思います。

 プラント・エンジニアリングでは内部・外部との調整作業が必至。採用に当たっては、専門技術だけでなく、コミュニケーション能力などヒューマンスキルにも優れた「バランスのよさ」を重視しています。
 製作所の雰囲気を一口でいえば、意外と若手のエンジニアが多く、伝統の重みというよりは、活気のある工場だなというのが実感。これはおそらく三菱重工の他事業に比べてもいえる高砂の特長だと思います。若手がベテラン社員をつかまえ、言いたいことを率直にぶつけているシーンをよく見かけます。年齢・経験を問わず、「なぜ」という疑問をとことん突き詰める、技術者集団ならではの風土があるように思います。

長谷川直幹さん
総務部勤労課 キャリア採用担当
P能奈津美さん

「中途同期」のネットワークで仲間を増やす

 転職者向けの教育は、3日間の導入教育の後は、OJTがメインです。ただ、オフラインの研修では専門技術習得のために豊富なメニューが用意されています。語学研修などもたくさんあり、伸びようとする人を応援する雰囲気があります。
「せっかく入社したのだから、長くいてほしい」というのが私たちの基本的な思い。ただ、キャリア採用の人は「同期がいない。最初は職場に気軽に相談できる人が少ない」という悩みがあることは承知しています。そのため最近は、キャリア同期入社組のネットワークづくりを心がけています。一度に複数の人が入社をする為、入社時に自己紹介タイムを設けて、「同期入社」の意識をつけてもらったり、入社6ヶ月〜1年半くらいまでのキャリア入社者を集めて、研修やパーティを開いたり、仲間を増やしてもらうための工夫をしています。
 私自身もキャリア入社者なので、同じ立場の人がたくさん入社してくれるのは嬉しいですし、キャリア入社者ならではの悩みもリアルにわかるつもりです。
できるだけ、「キャリア入社だから」と考えることのないような雰囲気を作っていきたいと考えています。

 高砂は兵庫県の中でも風光明媚でお魚も美味しく、よいところですよ。明石までは電車で15分、そこから神戸、大阪まではすぐ。私自身、終業後、三宮で友だちと食事してカラオケして帰ることもあります。
 休みのときはみなさん、子供と近隣の海岸に潮干狩りに行ったとか、地元の夏祭りに参加したとか、よく話されています。家族を大切にする人が多いというのが、この製作所の温かい雰囲気を醸し出しているのかもしれませんね。

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宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ 宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
日本では何の不自由もないライフライン。例えば電気一つをとっても、海外の発展途上国ではまだ整っていないところがあります。そうした海外の生活向上に貢献できるという体験はなかなかできないもの。その達成感の心地よさを楽しげに語っていた長谷川さん。自分の技術の貢献度を実感しながら働けるなんて、うらやましく感じました。プラント以外の異業界出身者も歓迎とのことなので、興味のある方はぜひチャレンジを!

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