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アテネ五輪では全日本女子の主将を務めて世界5位の実績を残し、バレーへの情熱とリーダーシップの強さから「闘将」と呼ばれた吉原知子さん。日本リーグとVリーグで所属した全4チームの優勝に貢献した、「優勝請け負い人」でもある。昨年18年間の現役生活を終えた彼女が女子バレーボールの魅力を語る。 |
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試合の「駆け引き」も見どころのひとつ。バレーの試合は最初から最後まで同じペースでは進まないものだ。どこかの一本で試合の流れやチームの士気が変わるので、注意深く見ているとポイントがわかって醍醐味も増すという。注目は「選手の顔つき」だ。 「このチームは負けていたのに、20点を過ぎてからはコートにボールが落ちないな。例えばそんなふうに感じたら、選手の顔つきに注目してください。それまでとは違う表情になっているはずです。顔つきは1試合(3〜5セット)を通して変わることもあります。初めは自信なさげな表情だったのに、こちらが『あれっ』と思うほどきりっとした顔になる人もいます」 表情の変化といえば、けがから全日本に復帰した栗原恵選手が思い浮かぶ。今夏の国際試合「ワールドグランプリ2007」では笑顔を見せない真剣な表情が多かったが、全試合で125得点をたたき出し、ベストスコアラー部門で9位となった。 「勝負の厳しさを知り、選手としての自覚や責任などが出てきて、戦う姿勢を身に付けたのでしょう」 こうした選手たちが北京を目指す。上述のようにアジア大会で優勝は飾ったが、世界のバレーを知る吉原さんは、アジアと世界のバレースタイルは大きく違うと語る。いちばんの差は選手の平均身長だ。セットごとにも選手は交代するので一概には言えないが、日本より8〜10p高いチームも少なくない。 |
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「小さい選手がコートに立てば狙われるのが当たり前なので、技術的、戦術的な対策が重要になります。例えば高橋みゆき選手はブロックアウトのスパイク(相手ブロックにわざとボールを当てて得点を狙う)が上手ですが、それは身長が低い(170p)からこその技術であり、そうしないと世界では通用しません。厳しい言い方ですが、できて当たり前なのです。チームも選手もこうした対策を進めています」 |
アテネでは5位に終わりメダルには届かなかったが、オリンピック初出場の選手の多さが理由のひとつともいわれている。バルセロナ、アトランタ、アテネの3大会に出場した吉原さんはこう語る。 「オリンピックは夢の舞台。出たい、出たいと思い続けた選手がその舞台に立つと、自覚はなくても浮き足立ってしまうものです。それに、ほかの国際大会とはまったく異なる独特の雰囲気があり、誰に聞いても『始まったと思ったらすぐに終わっていた』と言うくらいです。私も初出場のときはそうでした。自分では普通のつもりでも平常心がなかなか保てないのです。経験した者でないとわからないと思うので、その経験者が多いはずの北京には期待したいですね」 最後にエンジニアに向けたメッセージをいただいた。実は彼女の所属した国内チームは日立、ダイエー、東洋紡、パイオニアで、技術系の企業も少なくない。 「仕事は違いますが、やめることは簡単で、続けることは難しいと思います。また、悪い環境ほどチャンスであって、ここで頑張れるのが強い人だと思うんです。私は人をうらやましいと思ったことがありません。例えばお金持ちになりたいと思っても、きれいになりたいと思っても、上には上がいるじゃないですか。人をうらやむ時間があったら私は走りたい。そうすれば輝くことができて、むしろうらやましいと思ってもらえる人になれます。私も走りますので、お互いに頑張っていきたいですね」 |
女子バレーボールは、高さ224pのネットを境に、2つの9m×9mの正方形がつながったコートで、円周66p・重量270gのボールを交互に打ち合うスポーツです(図1)。そんな女子バレーボールの秘密と魅力に、科学的な視点から近づいてみたいと思います。 |
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相手陣地へボールを打ち込む「サーブ」でゲームが始まります。最近は、ボールがほぼ無回転のフローターサーブか、ジャンプしてコートの内側からトップスピンがかかったボールを打ち込む、ジャンプスパイクサーブが使われることが多いようです。 フローターサーブは野球の「ナックルボール」と同じようにボールが不規則に揺れながら飛び、ジャンプスパイクサーブ(ジャンプサーブ)は「フォークボール」と同じく下へと曲がる軌跡を描きます(図1)。 この「軌跡の変化」は、周囲の空気からボールがマグナス力(効果)を受けるために生じます。マグナス力を流体力学のナヴィエ・ストークス方程式から、以下の大ざっぱな近似式を導きました。 |
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これにニュートンの運動方程式を組み合わせることで、フローターサーブと(5回転/秒の)トップスピンがかかったジャンプサーブの違い・効果を、数値シミュレーションしました。 初速18m/秒でサーブを打った場合、フロートよりトップスピンの方がいくぶん前に落ちていることがわかります。そして、さらに強く秒速23m/秒でサーブを打つと、フロートではコートの中に入らず「アウト」してしまいますが、トップスピンなら十分コートの中に入ることもわかります(図2)。 |
このようにニュートンの運動方程式やナヴィエ・ストークス方程式から、ジャンプサーブの「速いサーブを打ち込める(レシーブまでの時間が短い)」「相手コートの広い場所に打ち込める」というメリットがよくわかります。 ちなみに、「予測できない揺れや沈みが生じることでレシーブを困難にする」というフロートのメリットは、縫い目などのボール表面形状を考慮していない今回の簡易シミュレーションではわかりません。ただ、回転の速いスピードボールに慣れた選手にとって、非常に受けづらいサーブであることは確かなのです。 |
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ネットから150p離れて、290pの高さから(無回転の)スパイクをする場合を考えましょう。ボールのコースをシミュレーション計算してみると、ネットから7〜9m(コートのいちばん奥)までのわずか2m幅の領域に打たなければ、ボールがネットに引っかかるか、相手陣のコートの外に行ってしまうことがわかります。 しかし、ネットに50pの場所からスパイクを打てば、相手陣奥の約7mに及ぶ広いエリアに打ち込むことができます。テコの原理ではありませんが、「スパイクを打つ場所」が少し変わるだけで、ボールを打ち込めるエリア(レシーバーが守らなければいけない範囲)が大きく変化し(2m〜7m幅)、試合の流れや駆け引きに大きな影響を与えるわけです(図3)。 また「ブロック」の大切さもわかります。なぜなら、ボールをブロックできなくとも、ブロッカーの手はスパイクコースを狭めているからです。つまり、ネット上に伸ばされた「数十pの腕」は、実は「数mに及ぶエリアを守る大きな手」となり、後ろでレシーブをしようと身構える選手たちを助けているのです。 こうした科学的な視点でバレーボールを見ると、その魅力はますます高まるのではないでしょうか。 |
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