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頑張れニッポン! 選ばれし女神たちがワールドカップに降臨する エンジニアよ! 女子バレーの魅力と科学にハマれ 頑張れニッポン! 選ばれし女神たちがワールドカップに降臨する エンジニアよ! 女子バレーの魅力と科学にハマれ

9月13日、タイで行われたバレーボールアジア女子選手権大会で、全日本女子が24年ぶりの金メダルを獲得した。次なる目標は11月2日から始まるワールドカップ優勝、そして来年北京オリンピックでのメダル獲得だ。エンジニアに(隠れ?)女子バレーファンが多いことは周知の事実。何を隠そう私も大ファンだ。
(取材・文/平林 純、総研スタッフ 高橋マサシ イラスト/CLAP 写真提供/日本バレーボール協会)作成日:07.10.25
女子バレーボール全日本代表選手の雄姿を見よ!
ワールドカップバレーボール2007
全日本前主将の吉原知子が語る、女子バレーボールの見どころ
アテネ五輪では全日本女子の主将を務めて世界5位の実績を残し、バレーへの情熱とリーダーシップの強さから「闘将」と呼ばれた吉原知子さん。日本リーグとVリーグで所属した全4チームの優勝に貢献した、「優勝請け負い人」でもある。昨年18年間の現役生活を終えた彼女が女子バレーボールの魅力を語る。
女子バレーボール元全日本主将 吉原知子さん 選手の個性が試合を変え、チームを変化させる
 9月13日のアジア女子選手権大会で24年ぶりの優勝を決めた全日本女子。勢いに乗って臨む今回のワールドカップは、オリンピックに向けた大きなチャンスであるという。
「強豪国の中国は開催国で出場せず、ロシアは予選で敗退しているので、上位を狙えるチャンスの年です。また、上位3チームに入ってオリンピックの出場権が取れれば、それ以降の予選会に出場しなくてすむので準備期間がしっかりと取れます。ただし、強いチームはもちろん、ランキングは下でも力のあるチームも出場します。油断をすると足元をすくわれるので、コンディションを保って戦ってほしいですね」
 では、バレーの見どころはどこにあるのか。それは、ひとりの選手の交代やひとつのプレー(サーブやスパイクなど)の決定で、試合の流れがガラっと変わることだという。チームプレーである一方、いい意味で個人プレーの要素も大きい。

「選手は試合で個性あるパフォーマンスを出すことが求められ、それが試合に変化を起こし、チームのカラーも変えていきます。極端に言えば同じタイプの選手は必要ありません。そのために12人がいるのです。ですので、観客の方には選手個人にも注目して試合を見てほしいです。スパイクがパワフルな選手、バックアタックが得意な選手などを知って、そのうえでチームプレーを観戦すれば、『今日は全体的なコンビネーションが単調だ』『誰と誰の連携が決まっている』などがわかって面白いと思います」
 選手の個性はキャプテンという仕事でも同様だという。全日本女子の主将はセッターの竹下佳江選手。共にアテネで戦った同志であり、そのためか前主将の吉原さんと比較されることが少なくない。
「キャプテンは誰かと同じスタイルでなくてもいい。というより、まねをしても逆効果なので、自分の方法でチームを引っ張ったほうがいいんです。彼女はチームを組み立てるセッターであり、ポジションも私のセンターと異なります。ここでも『同じ人はいらない』と思います」
選手の顔つきを見ると試合の流れがわかる
 試合の「駆け引き」も見どころのひとつ。バレーの試合は最初から最後まで同じペースでは進まないものだ。どこかの一本で試合の流れやチームの士気が変わるので、注意深く見ているとポイントがわかって醍醐味も増すという。注目は「選手の顔つき」だ。
「このチームは負けていたのに、20点を過ぎてからはコートにボールが落ちないな。例えばそんなふうに感じたら、選手の顔つきに注目してください。それまでとは違う表情になっているはずです。顔つきは1試合(3〜5セット)を通して変わることもあります。初めは自信なさげな表情だったのに、こちらが『あれっ』と思うほどきりっとした顔になる人もいます」
 表情の変化といえば、けがから全日本に復帰した栗原恵選手が思い浮かぶ。今夏の国際試合「ワールドグランプリ2007」では笑顔を見せない真剣な表情が多かったが、全試合で125得点をたたき出し、ベストスコアラー部門で9位となった。
「勝負の厳しさを知り、選手としての自覚や責任などが出てきて、戦う姿勢を身に付けたのでしょう」

 こうした選手たちが北京を目指す。上述のようにアジア大会で優勝は飾ったが、世界のバレーを知る吉原さんは、アジアと世界のバレースタイルは大きく違うと語る。いちばんの差は選手の平均身長だ。セットごとにも選手は交代するので一概には言えないが、日本より8〜10p高いチームも少なくない。
吉原知子さん
「小さい選手がコートに立てば狙われるのが当たり前なので、技術的、戦術的な対策が重要になります。例えば高橋みゆき選手はブロックアウトのスパイク(相手ブロックにわざとボールを当てて得点を狙う)が上手ですが、それは身長が低い(170p)からこその技術であり、そうしないと世界では通用しません。厳しい言い方ですが、できて当たり前なのです。チームも選手もこうした対策を進めています」
人をうらやむ時間があれば私は走りたい
吉原知子さん  アテネでは5位に終わりメダルには届かなかったが、オリンピック初出場の選手の多さが理由のひとつともいわれている。バルセロナ、アトランタ、アテネの3大会に出場した吉原さんはこう語る。
「オリンピックは夢の舞台。出たい、出たいと思い続けた選手がその舞台に立つと、自覚はなくても浮き足立ってしまうものです。それに、ほかの国際大会とはまったく異なる独特の雰囲気があり、誰に聞いても『始まったと思ったらすぐに終わっていた』と言うくらいです。私も初出場のときはそうでした。自分では普通のつもりでも平常心がなかなか保てないのです。経験した者でないとわからないと思うので、その経験者が多いはずの北京には期待したいですね」

最後にエンジニアに向けたメッセージをいただいた。実は彼女の所属した国内チームは日立、ダイエー、東洋紡、パイオニアで、技術系の企業も少なくない。
「仕事は違いますが、やめることは簡単で、続けることは難しいと思います。また、悪い環境ほどチャンスであって、ここで頑張れるのが強い人だと思うんです。私は人をうらやましいと思ったことがありません。例えばお金持ちになりたいと思っても、きれいになりたいと思っても、上には上がいるじゃないですか。人をうらやむ時間があったら私は走りたい。そうすれば輝くことができて、むしろうらやましいと思ってもらえる人になれます。私も走りますので、お互いに頑張っていきたいですね」
平林純@hirax.netが解析するバレーボールの科学式
女子バレーボールは、高さ224pのネットを境に、2つの9m×9mの正方形がつながったコートで、円周66p・重量270gのボールを交互に打ち合うスポーツです(図1)。そんな女子バレーボールの秘密と魅力に、科学的な視点から近づいてみたいと思います。
2つの方程式から科学する「フローターサーブとジャンプサーブ」
図1 バレーコートと2種類のサーブ
図1 バレーコートと2種類のサーブ
 相手陣地へボールを打ち込む「サーブ」でゲームが始まります。最近は、ボールがほぼ無回転のフローターサーブか、ジャンプしてコートの内側からトップスピンがかかったボールを打ち込む、ジャンプスパイクサーブが使われることが多いようです。
 フローターサーブは野球の「ナックルボール」と同じようにボールが不規則に揺れながら飛び、ジャンプスパイクサーブ(ジャンプサーブ)は「フォークボール」と同じく下へと曲がる軌跡を描きます(図1)。
 この「軌跡の変化」は、周囲の空気からボールがマグナス力(効果)を受けるために生じます。マグナス力を流体力学のナヴィエ・ストークス方程式から、以下の大ざっぱな近似式を導きました。
比例係数×ボール回転数(rpm)×ボール速度
図2 ジャンプサーブとフローターサーブの軌跡
図2 ジャンプサーブとフローターサーブの軌跡
 これにニュートンの運動方程式を組み合わせることで、フローターサーブと(5回転/秒の)トップスピンがかかったジャンプサーブの違い・効果を、数値シミュレーションしました。
 初速18m/秒でサーブを打った場合、フロートよりトップスピンの方がいくぶん前に落ちていることがわかります。そして、さらに強く秒速23m/秒でサーブを打つと、フロートではコートの中に入らず「アウト」してしまいますが、トップスピンなら十分コートの中に入ることもわかります(図2)。
 このようにニュートンの運動方程式やナヴィエ・ストークス方程式から、ジャンプサーブの「速いサーブを打ち込める(レシーブまでの時間が短い)」「相手コートの広い場所に打ち込める」というメリットがよくわかります。
 ちなみに、「予測できない揺れや沈みが生じることでレシーブを困難にする」というフロートのメリットは、縫い目などのボール表面形状を考慮していない今回の簡易シミュレーションではわかりません。ただ、回転の速いスピードボールに慣れた選手にとって、非常に受けづらいサーブであることは確かなのです。
守備可能な範囲を考えよう「レシーブ限界方程式」
 敵陣で打たれたボールをセッターに返すのが「レシーブ」です。研究結果によれば、選手は秒速約4mで移動でき、ボールに反応するまでの「ムダ時間」が0.3秒あるといいます。すると、レシーバーの守備限界範囲として、以下の「レシーブ限界方程式(?)」が導かれます。
守備限界=4m/秒×(ボールの滞空時間−0.3)+1
 1(m)は選手のリーチ長で、0.3(秒)は選手が状況に応じて動き出すまでの反応時間です。また、ボールの滞空時間は速いスパイクで0.4秒程度、ジャンプサーブで0.8秒程度ということです。すると、レシーバーが守備できる範囲はスパイクで半径1.4m( 図3下)、ジャンプサーブ半径3.0mということがわかります。
 9m×9mのコートで守備につく選手たちの間にどの程度の距離があるか、どのようなフォーメーションをしているか、をこの「レシーブ限界方程式」とともに眺めてみると、ちょっと面白いかもしれません。
小さな違いが大きな差を生む「トス・スパイク・ブロック」
図3 スパイクを打つ位置とボールの到達エリア
図3 スパイクを打つ位置とボールの到達エリア
 ネットから150p離れて、290pの高さから(無回転の)スパイクをする場合を考えましょう。ボールのコースをシミュレーション計算してみると、ネットから7〜9m(コートのいちばん奥)までのわずか2m幅の領域に打たなければ、ボールがネットに引っかかるか、相手陣のコートの外に行ってしまうことがわかります。
 しかし、ネットに50pの場所からスパイクを打てば、相手陣奥の約7mに及ぶ広いエリアに打ち込むことができます。テコの原理ではありませんが、「スパイクを打つ場所」が少し変わるだけで、ボールを打ち込めるエリア(レシーバーが守らなければいけない範囲)が大きく変化し(2m〜7m幅)、試合の流れや駆け引きに大きな影響を与えるわけです(図3)。
 また「ブロック」の大切さもわかります。なぜなら、ボールをブロックできなくとも、ブロッカーの手はスパイクコースを狭めているからです。つまり、ネット上に伸ばされた「数十pの腕」は、実は「数mに及ぶエリアを守る大きな手」となり、後ろでレシーブをしようと身構える選手たちを助けているのです。
 こうした科学的な視点でバレーボールを見ると、その魅力はますます高まるのではないでしょうか。
関連記事:エンジニアは経済学とどう付き合ってきたんですか?
「天皇杯・皇后杯 全日本バレーボール選手権大会」
吉原さんも注目する「天皇杯・皇后杯 全日本バレーボール選手権大会」
「天皇杯・皇后杯」は誰もが日本一を目指せる大会だ。中学や高校のクラブ、ママさんバレー、有志で作った即興チームでも参加できる。こうした約4万のチームから勝ち抜いたチーム(男子16、女子14)とVプレミアリーグのチーム(男子8、女子10)とがトーナメント戦を行い、日本一を決める。
「予選大会から見ていますが、夢のある大会だと思います。バレーから遠ざかっていた人が試合をしたり、中学生や高校生が日本トップの選手たちと対戦ができるチャンスですから。ママさんチームと対戦した中学生が勝つなども起こっています」
 一方ではVプレミアリーグの選手としてはちょっとやりにくいという。理由は、万が一にも負けられないというプレッシャーと、下手なプレーは見せられないというプライドだ。
「チャレンジャー側とすれば『当たって砕けろ』で向かってきます。対するのはVプレミアリーグや中には全日本で活躍する選手ですが、高校生やクラブチーム相手にスパイクをバシバシ決められるわけにはいきませんよ(笑)。それ以前に負けることもあり得るのです。全力で立ち向かいますので、面白い試合が見られると思いますよ」
 男女ともに4チームが競うファイナルラウンドは、2008年1月5日、6日に開催される。
ワールドカップバレーボール2007 全日本女子開催日程
第1R 11月2日(金)〜4日(日):東京都(東京体育館)、静岡県(浜松アリーナ)
第2R 11月6日(火)〜7日(水):大阪府(なみはやドーム)、宮城県(仙台市体育館)
第3R 11月9日(金)〜11日(日):北海道(きたえーる)、熊本県(熊本県立総合体育館)
第4R 11月14日(水)〜16日(金):愛知県(日本ガイシホール)、愛知県(パークアリーナ小牧)
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
私は女子バレーが大好きで、特に吉原知子選手の大ファンです。アテネ五輪の中国戦で負けがほぼ決まった後、私の耳には確かに吉原選手の声が聞こえました。「これが私のバレーよ!」「これが私のセンターよ!」と言いながらスパイクを決めていたのです。この話を取材で伝えたら、「言ってません」とのこと……とてもシャイで礼儀正しく、すてきな女性でした!

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