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Webの進化は止まらない。ここでは「Webサービス」を、さまざまなインターネット関連技術を応用して、コンシューマーに新しいWebエクスペリエンスを提供するサービスと広義にとらえる。そうしたサービスの実現に不可欠のエンジニアのスキルとは何か。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき)作成日:07.08.22
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単にモノを売り買いするのではなく、単におしゃべりをするのではなく、もっと豊かな体験を人々はWebに求め始めた。高度なスキルとスピーディーな実装、そしてユーザーとの共感能力が、これからのWebサービスの鍵を握る。 amazon.co.jpの品ぞろえをより強化する出店型サービス。出店企業はamazon.co.jp内に専用ストアページを構築し、独自の価格設定や納期などの提示でサービス内容を競うことができる。ユーザーは、ほかの商品と同様に、お薦め機能、マイストア、カスタマーレビュー、売れ筋ランキングなどamazon.co.jpの機能をすべて利用でき、またamazon.co.jpを介しての決済が可能。出店企業は、約50社からスタートし、順次拡大していく予定。米国サイトでは同種のサービスを2002年から導入しており、出店企業は既に数千に上っている。 テクニカルアカウントマネージメント 林部健二氏 1972年生まれ。2001年2月入社。前職は世界ブランドの宝飾品メーカーでマーチャンダイジング。アマゾンではSCMシステムの構築を担当したあと、今年からTAM(テクニカルアカウントマネジメント)チームを担当。 地球最大規模の店舗といわれるアマゾン。その日本語サイトamazon.co.jpでは、書籍やCDをはじめ、その商品取り扱い数は1000万点以上ともいわれる。単に品ぞろえを拡充するだけでなく、独自に実装したWeb技術やデータベース技術を駆使して、ユーザーにはより楽しい買い物の体験、また出品業者には事業の最大化とより効率的なセールス・オペレーションを提供している。 その魅力を感じているのは、アマゾン社内のエンジニアも同様だ。ここでは、テクノロジーを背景にたえずビジネスモデルを変化させることができる。アマゾンのエンジニアはテクノロジーだけでなく、優れたマーケッターでもある。 「アマゾンは単に本やCDを売るショップではない。小売りのノウハウを活かしながら、ネットショッピングのプラットフォーム・ビジネスを提供する会社なんです」 2007年4月末に日本でもスタートした「マーチャント@amazon.co.jp」は、出店する企業が専用ストアページを構築して商品の販売が行えるサービス。ここにもアマゾンのプラットフォーム・ビジネスの進化が読み取れる。一つひとつの商品カタログに対して、複数の販売者が、値付け、販売ポリシー、セールス・プロモーション、配送料などを競い合うことができる。従来の、Amazonマーケットプレイスに原型をもつものだが、それを企業向けに拡張した。 「しかし、こうしたサービスも今日突然出てきたものではなく、これまでのノウハウの蓄積が重要だった。単にスピードと新奇性だけでなく、技術蓄積を重ねながら、中長期で顧客のビジネスをサポートする姿勢がこれからの技術者には不可欠」と林部氏。 アマゾンでは、顧客ニーズの発見からWebサービスへの実装までの距離と時間が短い。ユーザーや出店者の声を聞くサポートの最前線にいる技術者が、同時に新しいサービス・プロダクトの開発者でもあることもまれではない。逆にいえば、「Webサービス時代のエンジニアは、コーディングの手を休めることなく、同時に顧客と将来のビジネスについて話ができなければならない」というわけだ。 リクルーター 高橋美智子氏 アマゾンのプラットフォーム・ビジネスを支えるツールは、元は米国で開発されたもの。そのアップグレードは頻繁に行われる。日本のマーケット事情に合わせてそれらを導入・更新し、顧客のニーズをそれに反映させていくのは日本の技術者たちのミッションだというのは、同社リクルーター 高橋美智子氏。 「例えば、TPM(テクニカル・プログラム・マネージャー)もその一つ。サプライチェーンプログラムマネージャーや米国の開発チームと協力し、新システムの日本導入を支援します。具体的にいえば、アマゾンの「お急ぎ便」サービスなどは、こうした技術者がいなければ実現しえなかったものです。 ほかにも、顧客企業とアマゾンの電子データ交換業務をサポートする企業間情報システムエンジニア、顧客がアマゾンのプラットフォームやツールを使う上で困っている点をテクニカルにサポートするTAM(テクニカル・アカウント・マネージャー)も重要な職務で、いずれも今は人材が足りません。 これらのエンジニアは、国内のビジネスだけでなく、本人の希望次第では海外でのビジネスをサポートすることもあります。グローバルな視野が広がるチャンスはいくらでもあります。一方で、モバイル先進国の日本ならではの技術開発を世界のアマゾンチームは今大いに期待しています」(高橋氏) オンライン上に立ち現れた仮想世界。米国では「Second Life」が爆発的な人気を集めている。日本でも、プロダクション・アイジーなどが業務提携する株式会社ココアが「meet-me」を、年内にもα版としてサービス開始の予定。東京の街をリアルに再現した3D空間内で、ユーザーが自由に家を建てたり買い物ができたりする。Second Life と違って、アダルトコンテンツやギャンブル性を排除し、女性や子供も安心して楽しめるメタバース事業を目指す。 プロダクション・アイジー 石川光久氏 1958年生まれ。1980年代にタツノコプロにて制作・プロデューサーを担当。その後独立してアイジータツノコ(現・Production I.G)を設立。2004年より東京大学特任教授に就任。 プロダクションIGはこれまで、トランスコスモスと共同でネットビジネス事業「amimo」を設立し、アニメコミュニティサイト「Clappa!」などを展開中だ。映画、TV、雑誌メディアだけでなく、ネットもまた同社のアニメキャラクターの重要な活躍フィールドという認識がある。今回の「meet-me」では、3D空間におけるオリジナルキャラクターを開発すると同時に、キャラクターを通じてリアルと仮想世界を連動させる企画やコンテンツなどを提供する予定だ。 「リアルと現実の境界領域。そこにどれだけ普遍的なサービスを提供できるかが鍵になる」と、石川光久社長。SecondLifeにも早くから注目はしていたが、「現在はアダルトやギャンブル、暴力といったコンテンツが人を集めている。新しいサービスにはそういう要素がつきものだとはいえ、それは当社がかかわるべきものではないという判断があった」という。 meet-me の事業では、アダルト、ギャンブル要素を極力排するという合意がなされている。 しかし同時に重要なのは、こうしたメタバース空間の主役はあくまでもユーザーだということだ。 これまでのWebサービスは、「こういうサービスやビジネススキームを作ったから、それを利用して」という事業者主体の一方通行の働きかけが目立ち、しかもいきなりマスを狙うので、コンテンツも「広く浅く」になりがちだった。 「それではもうお客さんは誘導されない。狭く深く、かつ決して一方通行でなく、利用者と共に成長していくビジネススキーム」が、これからのWebサービスの核になると石川氏。 そのためには「単に人を集めればいいのではなく、どれだけ深い精神的満足を与えられるかという精神性、顧客と時代の流れが理解できる共感能力、顧客の反応にスピーディーに応える開発能力」の3点がクリエイターには求められる。これらは必ずしもアニメーター、脚本家、ゲームデザイナーだけでなく、これからのWebサービスをつくるエンジニア全般に求められる能力だといえる。
[メタバースとは]
その人の個人史を物語るような自慢のコレクション、今欲しくてたまらないグッズ……。そうした情報を開陳しながら、モノを媒介にしたコミュニケーションを実現する新しいSNSサイト。単にユーザー相互の売買を仲介するだけでなく、大量生産時代におけるモノの価値を見直すことで、新しい商品開発やサスティナブルなモノづくりに寄与することを目指す。 コードクリード代表取締役CEO 兼 富田拓朗氏 1971年生まれ。幼少時よりコンピュータに触れる。自ら起業した携帯電話向けリアルタイム動画変換技術の(株)セーバーは06年に大手企業に売却。06年にコードクリード社を設立して、新たなビジネスを仕掛ける。古いコンピュータから、書籍、オーディオ、レコード、万年筆、ロードバイクまで自身が並外れたコレクターでもある。 「モノとは人間の身体能力の延長にあるもの。『我、購う故に我あり』。つまり、モノを見れば人がわかる」と、zigsow のコンセプトを語るのは、コードクリード代表の富田拓朗氏。この8月に一般公開した、モノ・コミュニケーションサイト「zigsow」のコンセプト・プランナーだ。 Webにはいまや無数の商品直結型ECサイトやアフィリエイトで小遣い稼ぎをするブログがあふれ、中古品オークションも盛況だ。だが、zigsowがそれらと一線を画すのは、「物欲」の提示に「その人の存在」という人的フィルターを加味していること。手持ちのコレクションがその人の人品を物語るように、これから欲しいモノのリストは、その人がこれから「どうありたいか」という自己実現の願望の表れともいえる。いわば、人が「モノ語り」をすることで、新しい出会いが生まれる。 zigsowは誰にも開かれたサイトだが、自らの情報や物欲を公開せずに「ただ見てるだけ」のユーザーが閲覧できる範囲は限られる。「この人になら、私のコレクションを見せてもよい」と、その目利きのセンスが評価され、ユーザー間にマニア的共感が生まれれば、閲覧範囲は広がるという仕組み。「自ら情報を発信しないものは情報を得るべからず」という原則が貫かれている。 「モノへのこだわり、モノへの目利きは、優れた商品や優れた企業を育てるきっかけにもなる。使い捨てをよしとしないサスティナブル社会の基盤にもなるもの。将来的には失われたモノを展示するバーチャル博物館やモノの来歴を語るモノWikipedia 的にも成長させたい」と富田氏。 ビジネスモデル的には、アマゾンなどへのアフィリエイト機能や中古販売業者との業務提携のほか、サイトを支援するスポンサー企業に対するマーケティングサービスで収益を上げる。「バナー広告は美しくない」(富田氏)と、バナー広告を前面に出した画面にはしない方針であり、その企業の製品を持ちものとして登録したユーザーページに企業ロゴを表示する「マーク・インプリメンテーション」という新しい広告展開のあり方を模索する。 画像付きの商品を縦横に検索したり、緻密なアクセスコントロールを行うため、高度なデータベース・チューニングや画像圧縮技術、認証プロセスの作り込みなど、エンジニアには高度なスキルが求められる。「ただ、単にサイト構築の部品を作るのではなく、全体感をもってシステム構築に当たれる人」(富田氏)が必要だという。 実際の運用は、コードクリード子会社の zigsow(株) が行うが、同社のCTO・田中一秀氏は人工知能研究で学位を取り、これまでは携帯電話の組み込みソフト開発などを手がけた人。 「zigsowを新商品マーケティング的にも使えるようにするためには、購買行動を予測する人工知能的な技術が不可欠。これから独自のアルゴリズムを開発し、実装していきたい」と抱負を語っている。
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最近のWebサービスの動向と、その変化に応じてエンジニアに求められるスキルや資質が、どう変わっていくのか。技術評論社『Software Design』『Web Site Expert』編集長の馮富久氏に意見を求めた。 技術評論社 馮富久氏 1975年生まれ。技術評論社では「Software Design」「Web Site Expert」編集長のほか、gihyo.jpのコンテンツディレクターも兼任。仕事柄、新しいWebサービスが登場するとまずはエントリーするのが癖になっている。 Web2.0の提唱は、インターネット発明以来の久々のインパクトだったと思います。これまではWebを作るのはWebデザイナーやWebエンジニアだったわけですが、そこにユーザー視点というものを持ち込んだ。ユーザー自身が自分で作っていて、よければみんなに使ってもらう。これが、Web2.0が示すこれからのWebサービスの基本です。 ユーザー視点ということがすぐに納得できるのは、30歳前後の若い技術者たちでしょう。他の世代と比べたときの彼らの特徴は、小さいときからファミコンなどのTVゲームに触り、Webや携帯電話の進歩を目の当たりにして、使いこなしていること。つまりまずは彼ら自身がこうしたメディアのユーザーだったわけで、そのユーザー視点がモノづくりの原点になっているということです。 ユーザー視点に立ったWebサービスの一つの方向性は、ユーザーがごちゃごちゃ考えなくてもボタン一発で答えが見つかるようなサービスです。アマゾンのレコメンド機能などに典型的ですが、昔なら自分の足で何軒も本屋さんを回らないといけなかった、関連書を探す手間とスキルが不要になった。しかし、これはあくまでもアマゾンが作ったアルゴリズムに従うということで、それに充足しないユーザーももちろんいます。 お仕着せのものはイヤだという方向ですね。ブログやmixiなどのSNSを通して、コンテンツを自ら発信していく。そこから人とつながっていくという欲求は根強いものがあります。 これら相反する2つの考え方を見ると、今後は一つのアーキテクチャに囲い込むのではなく、外の世界との連関もたえず考えたWebサービスがより一層重要になってくると思います。 その一方で、Webビジネスでは常に差別化が重要です。同じコンテンツでも見せ方を変えれば注目を集める。その手段として、単純なFlash動画ではなく、PIP(Person in Presentation)のように人間やキャラクターを登場させ、より情緒的に語りかけるスタイルも模索されています。また、Webは誰にも公開されているので、マーケティング的には逆にターゲットが絞りにくいといううらみもあります。広く浅くではなく、狭く深くということを考える企業は、むしろSNSのように閉じたサイトでのマーケティングというスタイルを選ぶようになりました。 リッチコンテンツの閉じたサイトという意味では、Second Life も伸びていますが、そのビジネスの可能性はまだ未知のところがありますね。私が取材していても「将来の可能性あり」という人と、「あれはゲームの世界でWebとは文化が違う」と否定的な人と意見は真っ二つです。これはその人のゲームに対する親近度にもよると思いますが、3Dでモノが動くのはいかにもアメリカ的。PCもハイスペックが要求されますし、ビジネス的な成果が出てくるにはあと1、2年はかかるのではないでしょうか。 これらのサービスを支えるWeb技術の動向ということでいうと、一つは「脱ブラウザ」の動きが注目されます。アドビのAIR(Adobe Integrated Runtime)やマイクロソフトの Silverlight など、既存のブラウザの限界を超えたアプリケーションを開発し、よりプラットフォームに近いところで、ユーザーにリッチコンテンツを体験してもらうという方向です。 こうした流れを実現するためには、Webデザイナーとプログラマの協業がより密接にならなければなりません。これまではWebデザインとデスクトップ・アプリケーションの開発はまったく別のものでしたが、その境界があいまいになってきた。言い換えれば、デザイナーもコーディングのことを知っていないといけないし、プログラマもデザインやインターフェイスのことを考えながら開発をしないといけなくなる、ということでしょう。あるいは、その2つをつなぐポジションの人物が必要です。 こうした境界を越えるクロスオーバーの動きは、プログラミング言語への関心という点でも言えることです。例えばJavaは今OSレベルまでインフラが整ってきて、次の動きを示しています。サンはJavaFXという形で、リッチなGUI作成向けのスクリプト言語や携帯端末向けの実行環境を新たに発表しました。このように言語が多様化するなかでは、一つの言語について「原理主義的」に閉じこもるのではなく、他の言語についての理解も深めることが、これからのエンジニアの基本スキルになると思います。 Javaメインの技術者だが、Cもわかる。PythonやPerlなどのLightweight Languageも勉強しているなど、たえず「横も見ているよ」というスタンスが、これからのエンジニアの重要な価値になると思います。技術のアンテナはますます高く広く掲げておくべきでしょうね。 |
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