ソニー・ニコンシステム「回路設計・究極のレジュメ」

家電、PC、自動車……電気を使うありとあらゆるものに欠かせない電気・電子回路。世界的な景気拡大に伴い、できる回路設計技術者は引く手あまた。自分のセールスポイントを存分にアピールするためのレジュメ作成術について、取材を基に明らかにする。

（取材・文／井元康一郎　総研スタッフ／関洋子）作成日：07.06.26

　コンピュータ、携帯電話、家電、デジカメ、自動車……。現代のモノづくりにおいて絶対に欠かせないのが、処理や制御をつかさどる電気・電子回路だ。実際、回路設計は商品の形や性能をガラリと変えてしまう。例えば300万画素のカメラを搭載し、インターネット接続も可能なうえBluetoothまで実装された携帯電話などは、高度にして高密度な回路設計のたまものといえる。
　商品の高性能化、小型化、低コスト化など、競争力に直結する回路設計のスキルをもったエンジニアの人材需要は安定的で、転職市場もかなりの規模。人材も多いだけに、転職を目指すエンジニアは、自分のセールスポイントを整理し、企業に対して的確にアピールしていく必要がある。企業サイドは回路設計エンジニアのレジュメのどのような部分を重点的に見ているのか。ソニーのPC開発部隊であるVAIO事業部と、ニコングループでデジタルカメラやステッパーなどの設計業務を受託しているニコンシステムに話を聞いた。

　PCに高いデザイン性やAV機能を与えたソニーVAIOが登場して10年。現在もデスクトップ型ではデジタルハイビジョン編集、超軽量、超薄型、ノート型では12時間超の長時間駆動モデルや500グラムPC「type U」など、独自性の高い商品を供給。価格競争が厳しいPCのハードウェア市場において、高付加価値戦略を展開することに成功している。

「PCの世界において、性能や価格だけでなく、ユーザーに感動、夢を提供する商品づくりを常に目指してきた｣（VAIO事業本部Notebook PC事業部4部・伊藤進統括部長）というVAIO。ユーザーが求める機能だけでなく、作り手の側から積極的に新しい機能や価値を提案し、「持って歩くだけでうれしくなるノートパソコン｣（伊藤氏）など、独自の価値をもつPCづくりを、今後も志向していくという。
　VAIOに新しい価値を与える二大ファクターは、技術と創造性だ。これは商品企画だけでなく、回路設計エンジニアにも要求される。「例えば高密度化など回路設計の工夫で、PCや周辺機器の形状や大きさをガラリと変えることもある。VAIO開発では、エンジニアが技術的な視点から、新しい機能やデザインの提案を行うことはごく普通のことです｣（VAIO事業本部Notebook PC事業部7部・山本榮一統括部長）。
　VAIOノートPCの現行モデルの中にPCを落としてしまったときに、瞬時にハードディスクを保護してデータ損傷を回避するシステムが搭載されたものがあるが、落下検出には3D加速度センサーが使われている。PCの固定観念にとらわれない自由発想が求められるという、まさに回路設計エンジニア＝クリエーターというワーキングスタイルなのだ。

ソニー株式会社
VAIO事業本部
Notebook PC事業部
7部 VAIOペリフェラルビジネス統括部長
山本榮一氏

　ニコンブランドのデジタルカメラや半導体／液晶露光装置に搭載するソフトウェアや電子回路の設計、ニコングループ各社の業務系システム開発、CAE、マニュアル制作などを幅広く手がける。

　当社はニコングループのソフトウェア開発をバックアップすることを主事業としてスタートしましたが、能力と経営の両面で自立を目指すという中期経営ビジョンを推進中です。ニコンからの受託開発は重要な事業の柱ですが、受け身ではなく主体性をもってニコンに対して対等に技術提案を行う力をつけるとともに、現時点では売り上げの1割程度となっているグループ外の企業との取引を、3～4割程度にまで拡大させていくことを目標としています。
　そのため当社では、ソフトだけでなく、ハードの開発力の拡充にも力を入れています。デジタルカメラではシステムのトータル設計が可能、また半導体・液晶露光装置などについても制御ソフト、画像処理ソフトだけでなく、ハードも含めたユニット単位で受託開発を行えるようになるというイメージです。また、独自技術として計測制御、信号処理技術の充実も図っています。
　ハードウェアの開発体制は、現時点ではまだ規模は大きくありませんが、将来の需要増を見越して、今後、充実を図っていく計画です。光学機器関連はもちろん、異分野の回路設計エンジニアの皆さんにとっても、大いに面白みを感じていただける事業だと思います。

株式会社ニコンシステム
第3システム本部　第1開発部
広瀬武彦氏

キャリア採用では資格より実績重視

最終学歴

専門、高専卒

卒業年月

19**年3月

英語実務経験

文書読解

資格

特になし

言語

C、アセンブラ、HDL（Verilog-HDL、VHDL）など

		中途採用では経験重視のため、学歴は関係ない。言語については必須というものはないが、C、アセンブラなどができれば、入ってからエンジニアの仕事の幅が広がる可能性がある。資格についても机上の勉強だけでは役に立たないこともあるので、あまり重視しない。むしろ、欲しいのは英語力。スペックシートを読むぐらいの英語力があるといいが、やる気があれば十分対応可能なので、やる気を見せてほしい。電気CADについては何らかの電気CADシステムのオペレーション経験があればOKだ（VAIO事業本部Notebook PC事業部7部1課・市山文士統括課長）。
VAIO事業本部 NotebookPC事業部 7部1課統括課長市山文士氏

最終学歴

専門、高専卒

卒業年月

19**年3月

英語実務経験

文書読解

資格

特になし

言語

C、アセンブラなど

　学歴や資格より経験、実績を重視する。回路設計では電子回路の知識やCADの経験は当たり前だが、論理記述言語によるFPGA開発のスキルも必要。ソフト的なスキル（プログラミング言語）は必須ではないが、自分でテストプログラムを書けるくらいの知識があれば、ソフト開発工程への理解が深められ、よりよいシステムづくりに役立つ。ただし、上流のシステム設計から担当する場合は多少のソフトのスキルは必須。また、画像処理、信号処理回路などを手がける場合は、数学的な素養も求められる。英文データシートや規格書を読んだり、海外に出張する機会もあったりするので、英語力はあるとなおいいだろう。

スキルをVAIOの進化に生かす情熱を見る

経験職務	情報・通信・AV機器
経験製品	携帯電話　3年以上
経験業務	開発・設計（電気・電子系）開発マネジメント、リーダー　1年～3年回路設計エンジニア（デジタル）3年以上回路設計エンジニア（アナログ）3年以上

業種

情報・通信・AV機器

職種

回路設計（デジタル・アナログ）

主な職務内容

【主な職務内容】
200x年8月～200x年4月
［主な開発案件］
cdmaOne携帯電話向けの回路設計
［役割と開発内容］
主担当はA/D、D/Aコンバーター回路の開発
小型化要求が強く、パワーアンプ、高周波回路、デジタルフィルタ回路などほかのセクションと開発情報について密に交換しながらの設計となった。CAD上で熱シミュレーションを行いながらの設計で、試作レス志向のプロジェクトだった。
［立場］メンバー

200x年5月～200x年12月
［主な開発案件］
3G携帯電話の回路設計
［役割と開発内容］
統合チップOMAP2を使い、小型軽量化を目指した。OSグループ、アプリケーショングループとの連携により、搭載メモリ量を当初見込みより30％削減した。生産技術チームの協力により、フリップチップによる高密度実装化を実現。
［立場］グループリーダー

200x年1月～200x年8月
［主な開発案件］
政府系通信技術研究組織に出向
［役割と内容］
4G携帯電話の技術評価用回路の仕様検討に携わった
［立場］グループリーダー

		VAIOの開発にあたっては、さまざまな分野の技術が応用可能。外装設計、マザーボードから光デバイス、通信、USBまで、要素技術は無数にあるが、どの分野であっても最終商品のイメージをもてるようなエンジニアに来てほしい。経歴書においても、どういう商品を作りたいのか、が書いてあると目に留まりやすい（伊藤氏）。　ペリフェラルデバイスの開発は、かなりの部分が自己完結型で行われる。企画から設計までをひとりのエンジニアが担当することもしばしばだ。回路設計のうまさだけでなく、VAIOをより面白くするアイデアも求められる。エンドユーザーが直接評価する民生品の開発経験があるエンジニアは大歓迎だ（市山氏）。
VAIO事業本部 Notebook PC事業部 4部統括部長伊藤進氏

経験5年以上の即戦力を希望

経験職務	情報・通信・AV機器
経験製品	その他映像音響機器　3年以上
経験業務	開発・設計（電気・電子系）　開発マネジメント、リーダー　1年～3年回路設計エンジニア（デジタル）3年以上

手がけた開発のレイヤーを明示すること

業種

情報・通信・AV機器

職種

回路設計（デジタル）

主な職務内容

【主な職務内容】
199x年7月～200x年6月
［主な開発案件］
AV機器向けDSPベースのシステム・オン・プログラマブル・チップデザインの開発プロジェクト［役割］
・FPGAの論理回路設計を担当
・構成にあたって、ユーザーの要件定義と仕様書作成からかかわる
・FPGAはDSPボードに実装
［立場］メンバー

200x年7月～200x年2月
［主な開発案件］
HDTV対応非圧縮ノンリニア編集装置開発プロジェクト
［役割］
・PCI Expressボード開発を担当
・ATI社製チップ（コアクロック450MHz）を実装し、回路はオリジナル設計
・高伝送レートと低ノイズ化を両立させた
［立場］開発主任

200x年3月～200x年6月
［主な開発案件］
デジタルハイビジョン対応VFXワークステーションの開発を行ったが、経営方針の転換により開発中止
［立場］開発主任

　ニコングループというと光学専門というイメージをもたれるかもしれないが、当社のハードウェア設計は露光装置関連、デジタルカメラ関連が主であるものの、光学機器関連の回路設計をやっていなければだめといった制約は特にない。回路の知識もデジタルが主だが、アナログも多少は必要だ。職務経歴では開発に携わった製品のジャンルもさることながら、どのような立場で、どのようなレイヤーの仕事をしたかということを重視する。例えばプロジェクトリーダーか担当者レベルか、携わったフェーズはシステム設計／基本設計／詳細設計のどのレベルか、新規設計か流用設計かなどについて明記するのが望ましい。

「こういうモノ」を作りたいという意思を感じたい

VAIO事業本部
Notebook PC事業部
5部統括部長
佐藤英和氏

　世の中に回路設計が必要な機器はたくさんある。その中で、どんなものを作りたいのか、それを志すのはなぜかという理由はぜひ明示してほしい。VAIOは新技術の導入が非常に早い商品だが、開発部門でも新しい技術が出てくるとすぐに勉強してモノにしてしまうようなエンジニアが多い。その原動力はVAIOに対する気持ちの高さだからだ。あと、｢現有技術でこんなすてきな機能や製品を作ることができるのではないか」などという提案ができる人も、大歓迎している。そういうところから携わりたいという思いも、自己PRのところでアピールしてほしい（VAIO事業本部　Notebook PC事業部5部・佐藤英和統括部長）。
　前職で、実際にどんなものをアウトプットしたかという話が書いてあると興味を引かれる。あと、趣味や特技なども見たいと思う。日ごろどんな遊びをしているのか、どんなものが好きなのかといった、人間性が見えるようなことも書いてほしい（伊藤氏）。

問題解決能力についてのコメントがあるとベター

　自己PRの欄でまず見るのは、何を得意としてきたかということ。システム／ハード／ソフト、デジタル／アナログの経験、言語や開発ツールの習熟度など、具体的なスキルやツールが列挙されているとわかりやすい。また、経歴書で書ききれなかった手法や工夫などについても、差し支えない程度で書いてあるとベターだ。また、問題解決力についてもコメントがあるとよい。なぜなら、設計作業にしてもトラブル対応にしても、開発の全工程において「物事を論理的に切り分ける力」が求められるからだ。

　転職を希望する回路設計エンジニアに対してソニー VAIO事業本部、ニコンシステムの両社が共通して求めているものは、開発の中でどのような役割を果たし、設計品質向上やトラブルシューティングなどの課題についてどのような創意工夫を行ったかということ。それらの事例を具体的に叙述することが、レジュメ作成の重要ポイントだろう。
　また、転職市場においては、中堅からPLクラスの人材が求められるケースが多いため、単に回路を設計しましたと書くだけではポイントは低い。ゼロから新規開発を行ったような経験がある場合は、市販品の組み合わせや流用設計ではなく、新規設計であることを明示しよう。また、中・上級エンジニアには、迅速に問題を解決するのに必要な、物事の“本質”を見る目も求められる。技術者としてのインスピレーションが養われるようなステップアップを果たしてきたことを、レジュメを通じてしっかりアピールするように心がけたい。

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関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ

　今回は回路設計技術者に求められる要件について、ソニーのVAIO事業部とニコンシステムに聞いてみました。共通しているのは、あるひとつの技術だけが得意な人というよりも、幅広く携われる能力、エンジニアとしての柔軟性を重視していることが印象に残った。これはハード、ソフトに限らず、企業が求めている能力なのだと思う。この究極のレジュメシリーズは最終回となりました。約1年間のシリーズでしたが、応援ありがとうございました。「こんな企画をやってほしい」という皆さんの声、お待ちしております。