ここは地獄か戦場か？火を噴くプロジェクト　死闘編

　仕様はころころ変わり、プロマネはいい加減で、いくら残業を続けても先が見えない。人もお金も払底して、チームの雰囲気は最悪になり、一人二人と倒れる者が現れる。そして、人が減った分だけ仕事は増えていく……。思い出したくないでしょうけど、火の噴いた経験、ありますよね？

（取材・文／総研スタッフ　高橋マサシ　イラスト／CLAP）作成日:06.11.01

　300人のSEに、「最悪だった火を噴くプロジェクト」を質問。「スケジュールに追われて残業が増える程度ではない悲惨さ」という条件をつけたので、ひょっとしたら「経験なし」の回答があるかも……と思いきや、ひとりも欠かさず全員から答えがありました。うーむ、複雑な心境です。

物流機械を製造するメーカーの、自動制御パッケージの開発を丸ごと請け負った。期間・品質ともにシビアな仕事だったが、マネジャーもリーダーもSI企業の下請け経験が長い人で、今思えばこんなプロジェクトの運営を統括できるスキルはなかった。私は入社3年目くらいで、プログラマとしてサブシステムを担当していた。

業種：ソフトハウス職種：オープン系SE（37歳） PJ規模：24カ月／250人月

仕様検討の時点からプロマネが完全に顧客の信頼をなくし、言うことなすこと顧客から全否定。スケジュールは遅れに遅れ、無理やり仕上げたプログラムの品質はボロボロ。プロマネは心身症気味になり顧客から出入り禁止を食らう。プロジェクトは顧客主導でほぼつくり直しとなったが、そのペナルティとして要求されたのは、人質ひとりを1年間提供することだった。その人質とは私のことだった！　私の丸一年はいったい何だったのか。

携帯電話端末の開発で、メールクライアントの要件定義から市場投入試験までの工程。外注含めて、最終的には60～70人体制の責任者を担当した。

業種：通信系企業　職種：制御系SE（33歳）　PJ規模：18カ月／500人月

開発途中で資本関係が変化し、買収先から仕様変更などの圧力がかかった。現行よりもプアで互換性のない仕様だ。しかも、海外標準仕様の設計が不十分なまま、スケジュール重視政策によってつくり込みが進んでしまった。できたのはまともに動く代物ではなく、サーバーとの整合性が取れていないなど、あり得ない状況となった。その間の約半年の私の残業時間は1500時間以上、月にして200時間以上。ほとんど会社に泊まっていた。

大型測定器の制御プログラムを開発した。5つのサブシステムのうち、1サブシステムのメインコーダーとして参加。

業種：SI企業　職種：制御系（27歳）　PJ規模：21カ月／10人月

入社6年のベテランが担当したサブシステムのコード品質が、著しくひどいと判明した。シミュレーションでは高性能なPCを使っていたので気づかなかったが、実機で動かすと実用に耐えうる速度ではなかった。本人は既に別のプロジェクトに移っていたため、残るわれわれがしりぬぐい。規模が無駄に大きく、完全な「俺ワールド」を展開して書かれたコードは、解釈に困難を極め、残業は月に100時間を軽く超えた。

金融機関での株取引の開発。私はプログラマで、当初はプログラム設計から結合テストまでのはずでしたが、なぜか今は、客先で検収テストの真っ最中です。現在も残留しております。

業種：SI企業　職種：汎用機系SE（27歳）　PJ規模：1カ月／300人月

プロジェクトリーダーがどんな要求にも「はい」と答えるイエスマン。開発段階から毎日終電。結合テストはテスト要員でなく私たちプログラマが行うことになったが、業務の流れを知らないので作業は遅々として進まない。設計者は「何でテストケースが消化できない！」と怒り出し、だれのフォローもなく、偉いプロマネの方には毎日プレッシャーをかけられ、精神が壊されかけました。管理能力のあるリーダーに代わってからは仕事が回り始めましたが、あのときは人間がダメになると思いました。

プラントメーカー向けの基幹システム構築案件に、自社と複数企業のパッケージ製品を組み合わせて提案し、要件定義から総合テストまでの全工程を受注した。入社4年目でプログラマとして参加。自分以外にプロパーは数人で、残りはパートナー企業の社員だった。

業種：SI企業　職種：汎用機系SE（27歳）　PJ規模：12カ月／150人月

生産管理や勤怠管理、営業支援関連の部分の開発を、リーダーが口約束で決めてしまった。現場のエンジニアは「絶対に間に合わないからやめたい」と部長にお願いしたが、部長は「会社として途中で降りることはできない」と一蹴。本来の予定から1年以上経過した今でもまだカットオーバーされていない。ひとまず納品はしたが、検収をもらったという名目で開発者をほとんど放出。運用テスト中に不具合が出ても、修正できる人間がいない機能もある。受注額の10倍以上のコストがかかったようだ。

大手クレジットカード会社のアプリケーションサーバー構築。基本設計からリリース後のフォローまで、すべてのフェーズをプログラマとして担当。

業種：ソフトハウス　職種：Web・オープン系（27歳）　PJ規模：6カ月／7人月

プロジェクトリーダーの力量不足が最大の原因。客の言いなりのうえにプログラムの知識は皆無に等しく、そのしわ寄せで毎日終電、もしくはタクシーで帰宅。残業時間は月に二百数十時間！　休日返上でさせた作業が彼の勘違いによるもので、まったく実装されないこともあった。さすがにプロジェクト終了後に左遷された。

中堅企業のBtoBのECサイトを構築した。全工程を受注し、私は開発チームのメンバーとして入った。UNIX＋Javaと、オフコン上のCOBOLを連携させたプロジェクトで、当時はそのような構成のシステム構築はまだ実績が少なかった。

業種：SI企業　職種：オープン系SE（31歳）　PJ規模：15カ月／60人月

開発が終盤になっても要件や設計があいまい。チームメンバーには膨大な作業量が割り当てられ、外注のPLが行方不明となった。そのサブシステムの開発とテストがストップし、テストでは数千個のバグが発生。われわれは客先に常駐して3日間不眠不休でデバッグ→家で数時間睡眠→3日間不眠不休でデバッグという生活を2～3週間続けた。カットオーバーは1カ月ほど遅れ、その後も不具合が続いたので、お客だけでなく、お客のお客にまでプロジェクトルームに怒鳴り込まれた。

ファストフードチェーンの販売仕入れ管理システムの見直し。平社員なのにほぼすべての仕事を押しつけられ、権限がないので決済などで細かく承認を取らなければならなかった。

業種：インターネット系企業　職種：Web・オープン系（30歳）　PJ規模：4カ月／1人月

顧客の言うことが会うたびにころころ変わるので、振り回されっぱなしだった。しかも、納品間近になってから担当者と仲のよい上司が「こんな機能もいいかもね」などと余計なことを言い、向こうもその気になってほとんどつくり直しになってしまった。絶対的な人手が足りず、プロジェクトの最中は1日も休みが取れなかった。

中小企業のWebサイトの起案から運用開始まで、全工程のシステム案件を受注した。進行につれて顧客の要求が多くなり、当初の予算より膨らみ始め、その料金交渉が地獄だった。客は十分吟味してから受注してくれ。現場はつらいよ。

業種：コンサルティングファーム　職種：Web・オープン系（34歳）　PJ規模：７カ月／5人月

結局4カ月客先に泊り込み、全員が家に帰れたのはシステムが完全に立ち上がった後。皆ひげをそらずにいたので、笑いごとではないが熊みたいな顔だった。

　人間には不思議な力がある。何度か似たような環境を経験すると、「今度はこうなるな」というカンが働くのだ。簡単に言えば学習能力なのだが、エンジニアが「このプロジェクトは火を噴きそうだな」と直感するのはどんなときか？　あなたにも思い当たることがあるはず。

　プロジェクトが火を噴く要因には、さまざまなものが考えられる。お客が要求を頻繁に変える、仕切り役のプロマネが動かない、メンバーが圧倒的に足りない、そもそも予算がない……。そこで「火を噴く理由」をエンジニアに尋ね、その結果からシミュレーターをつくってみた。ぜひ挑戦してください。

　上のグラフが「火を噴く理由」を尋ねたアンケート結果。これに重み付けをして下のシミュレーターを作成した。別のアンケートで「これまでの仕事の中で火を噴くプロジェクトを経験した割合」を質問し、「ほとんどない」と答えた人を1、「2割程度」を2、「4割程度」を3、「6割程度」を4、「8割程度」を5、「すべて」を6とした。そして、この数値を上記グラフの回答に掛け合わせた。「火の経験」が深い人ほど、その回答を尊重しようという趣旨だ。

　ただ、成功したプロジェクトであっても、たいていは初期段階では上記のようなひどい条件が重なっているもの。こうしたリスクを察知して、顧客や担当者や上司やメンバーとしっかりとまとめていくのが、本当のプロマネの仕事。もちろん、リーダーやメンバー各人の力量も試される。
　だから……今後、あなたのプロジェクトが火を噴かないことを祈ります。まずは予想シミュレーターでご確認を。

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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ

アンケートには何らかの定義が必要になります。「意味するところはこうだ」と、具体的にイメージしてもらうわけです。私の「火を噴くプロジェクト」の定義は「せっかく人手を増やしても焼け石に水、仕事はまともに進行せず、お客には怒鳴られ、チーム内の雰囲気は最悪、深夜残業や休日出勤が続く」でした。当たっているでしょ？　この記事をよりパワーアップさせた後編は、来年1月10日（水）の掲載予定です！