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“ヒーローエンジニア”を探せ!vol.5 最先端ミュージックロボット『miuro』を“踊らせた”元ゲームプログラマの意外な転身
独創的な発想で活躍している若手エンジニアを紹介するこのシリーズ。今回登場するのは、ZMPの“自分で移動し、踊る”世界初の多機能ネットワークミュージックプレイヤー『miuro(ミューロ)』のダンスプログラムを手がけた元ゲームプログラマ。そのユニークな働き方とは?
(取材・文/上阪徹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:06.10.25
株式会社ゼットエムピー 技術開発部 ソフトウェアグループ 味岡嘉孝さん
1974年生まれ。東京工業大学情報工学科卒、同大学大学院修了。任天堂に入社し、ゲームプログラマに。6年半の在籍で3つのゲームでキャラクターのプログラムを担当。最後に手がけた『ニンテンドッグス』が大ヒット。2005年10月、ゼットエムピーに転職。ソフトウェア技術者として、『miuro』の開発に携わった。
株式会社ゼットエムピー
ロボット開発を専業とするベンチャー企業。エデュケーション事業では、2004年発売の『e-nuvo』が高校や大学、研究所など海外を含む70ユーザーが約300台を導入。また、2005年4月には世界初の一般家庭向け量産型人型二足歩行ロボット『nuvo』を発表、大きな話題となった。

http://miuro.com
http://www.zmp.co.jp
最先端ロボット技術搭載のミュージックプレイヤー『miuro』を踊らせた!
  KENWOODとのコラボレーションで生まれた、世界初の多機能ネットワークミュージックプレイヤーが『miuro』。2006年8月に先行予約受付が開始され、12月から納品開始。iPodやそのほかの携帯音楽プレイヤーの再生、ネットラジオ、PC上音楽データを再生できる。味岡さんがソフトウェアプログラムを担当したのは、プレイヤーのインターフェース、そして注目機能のひとつダンス。2つの車輪を使って、音楽に合わせてオーディオ本体がダンスするのだが、これが半端ではない。予想をはるかに超えたレベルの動きに、デモでは「これは欲しい!」という声が次々に上がるという( 我々取材陣もビックリ!)。ロボットを見事に“踊らせた”元ゲームプログラマの思いとは。
ほんのちょっとしたプログラムが、全体を大きく変える
 ゲームプログラマとして最初に関わったのは、ゲームキューブの立ち上げのときに出たゲームでした。担当は、キャラクターの動きのプログラム。実はゲームプログラマを目指していたわけでもなくて、ゲームのことはよくわかっていなかったんです。でも、思っていたのは、せっかくやらせてもらうんだから、自分なりにいいものにすること。それで、ひとまずは与えられた仕事をこなしていたんですが、いきなり気づいちゃったことがあって。最初の企画自体に納得できないと、どんなにプログラムだけを頑張ったとしても、うまくいかないってこと。結局、このゲームはあまりヒットせず、僕の中で心苦しい仕事になってしまったんです。

 3年目から2年にわたって携わったゲームは、実はいろんな事情があって世に出せませんでした。でも、この仕事がプログラマとしての大きな転機になりました。担当は、ユーザーが作ったキャラクターを遊ばせる場所や環境を作り込むこと。これが、すごく仕事の自由度が高くて。何をやってもいい、という中でいろんなことが見えてきたんです。

 例えば、公園に遊びに行く。公園ではたくさんの遊具があって、子どもたちが遊んでいる。近づくと子どもたちが寄ってくる。そんなふうにキャラクターの居場所を自由に作っていくわけですが、居場所そのものは、ゲームの内容とは関係がない。つまり、ここではユーザーは環境を見ているだけなんです。でも、それでも楽しく思えないといけない。ユーザーが介入しないで見ていられるだけで楽しい環境って、実は作り手の力量がすごく問われるんです。走り寄る。手をつなぐ。ボールが転がってくる。ボールで遊ぶ……。こういうアイデアに頭をひねって、AI的な部分も考えながら実装する。

 まずわかったのは、技術的に複雑なことなんかじゃなくても、ほんのちょっとしたことで、ゲームの楽しさが一気に変わることでした。でも、これは一つひとつやってみないとわからないんです。作り方としては効率が非常に悪い。でも、やってみて進んでいくと確実にレベルが上がることがわかったんです。そしてもうひとつ気づいたのは、何かひとつアイデアを追加することで、ある日突然に一気にレベルが上がる瞬間があること。ひとつのアイデアの実装で、全体が底上げされてレベルが一気に上がってしまうんです。これは面白い経験でした。
売れたものの続編なんて、自分のなかではありえなかった
 当時は、とにかく猛烈に働いていました。マリオやゼルダみたいなビッグゲームの開発メンバーより遅くまで残っていたので、怪訝な顔をされたりして(笑)。でも、納得するまで時間をかけることが大事だという、自分なりの作り方が見えてきていましたから。そして次に携わることになったのが、『ニンテンドッグス』。ちょうど立ち上げ期で、細かなことが何も決まっていない状態でした。

 実はあれは当初はゲームではなくて、ユーティリティソフトの壁紙だったんです。いくつか求められる機能はありましたが、とにかく思ったのは、難しく考えるんじゃなくて、ユーザーにとって楽しいものを、ということ。それで、触ると「気持ちいい」というところにこだわって作りました。そのこだわりが後に会社の幹部の目に留まって、これならペットゲームができるぞ、という話になって。でも、特に思いは変わらなかったですけどね。ユーザーにとって、もっといえば自分にとって気持ちのいいものであること。それだけ。ただ、自分で作ったんだ、という意識が強かったですから、ヒットしたのはうれしかった。味岡テイストみたいなものを出すことができて、それが結果につながったわけですから。

 ところが、次のプロジェクトはどうしようかという話になったときに、『ニンテンドッグス』のパート2を、となって。これは嫌だった。ある程度売れることもわかる。ペットゲームなんて売れないとわかってて、そこからの挑戦だったから面白かったんです。売れているものの続編なんて、自分のなかではありえなかったんですよね。

 会社も絶好調でした。今でいう勝ち組。でも、別に勝ち組に乗りたいとは思わなかった。むしろ、勝つかどうかわからないくらいのほうが面白いんじゃないかと。勝っているのが、自分の力なのか、会社の力なのか、わかんないし。会社のブランドで勝ってもなぁ、みたいな。今にしたら、思い上がりですけど(笑)。

 そのときに浮かんだのが、そういえば大学に入るとき、ロボットに興味あったな、って。画面の向こうのキャラクター動かすより、実際にモノが動いたほうが100倍楽しそうだと思った。ゼットエムピーは、実は知らなくて(笑)。世の中の会社に興味があって、調べたりしたこともなかったし。適当に転職サイトとか見てたけど、ピンと こなくて。それで、ロボット、ベンチャー、なんてキーワードで検索してきたら、出てきた。たまたまソフトウェア技術者を募集していたんです。
明らかに難しい挑戦。でも、だからこそ刺激が受けられる
 面接を受けて何より魅力に感じたのは、方向性がはっきりしていたことでした。一般消費者向けに、人型じゃないロボットで、価格は約10万円。それが面接で聞けた。面白そうだと思いました。ほかの会社にはない挑戦だったし。ただ、入社して音楽プレイヤーで、ダンス担当と聞いて、ちょっとヘコんだんですけど。だって、音楽もダンスもまったく無縁だったから(笑)。すぐにiPodを買いに走り、いろんな音楽を聴きまくりました。

 ハードのことは全然わかっていませんでしたが、電気系のモーターに制御信号を送るのは、専門の方がいたので安心しました。それでまず作ってみたのが、音を解析してウインドウズ・アプリケーションで3次元モデルを出し、車輪に送るとどうなるかをパソコン上でシミュレーションして見られるモーションシステム。これを見せたら、プロジェクトの 皆さんはぼう然。そんなことまでやるソフト屋はこれまでいなかったみたいで。

 でも、やるならやっぱり面白いものを作りたかったから。ハード担当の方が作るのを待っているんじゃなくて、どんどん自分が先に進んでいく。一番いかんと思うのは、モノが上から順番に作られていくことです。そうなったら、自分にできることは限られちゃう。最終段階になって、いいものが作れる可能性が小さくなっていたら、悔しいじゃないですか。だからどんどん先走る(笑)。任天堂のときも、自分の担当する部分だけでも商品にしてやる、くらいに思っていました。でも、先走っても、所詮はシミュレーションだけ。実際に、モノができて動いたときは、これは本当にうれしかった。モノ づくりっていいなぁ、って思いましたね。

 リアルタイムに音楽の波形からテンポを解析し、音のピークに合わせて、いろんな細かなモーションを切り変えていきます。FFTで解析したりと、いろんな試行錯誤をしたんですが、この方法に落ち着きました。同じロックでも、その音楽のノリに合わせて動く。だから、「これはまさにダンスだ」と言われるんだと思っています。そもそも自分がこれがいい、と思ったものを作った。だから、それが支持いただけるのはうれしいですね。ただ、自分としてはまだまだ磨けると思っています。磨き足りない。ギリギリまで、磨いて、もっともっと驚かせたいです。

 同じプログラムでも、ゲームとモノではまったく違います。ゲームでは動きは誇張して作られるんです。ところが、ロボットは動かないものを使ってより派手に見せないといけない。どこを直せばいいのかも一筋縄ではいかない。ハードについてはわかんないことも山ほどある。実はPCのソフトの知識もあまりないし(笑)。でも、明らかに新しい感性の刺激は受けていますね。新しい味岡テイストが求められている。それが心地いいんです。

 大きな会社だと、「この企画がポシャったら、次に異動」ですむ。でも、ベンチャーはそうではない。もしかしたら、これがロボット開発に携われる最後のチャンスかもしれない。そんな緊張感がある。自分も入社してからは、そのくらいの気持ちで仕事をしてきました。この緊張感がまた、たまらなく心地いいんですよ。
ヒーローの野望 売れるものを作ることにこだわっていきたい
 ずっと開発者として開発の最前線にいたいですね。自分で面白くできるから。作ることに携わるからには、ユーザーに喜ばれるものを作りたいんです。違う言い方をすれば、売れるものを作ることに、こだわっているのかもしれないですね。そして、自分がこれをやったから売れた、ということが言えるようなものが作れれば、それが一番うれしいと思う。せっかく仕事をするんなら、自分が面白いと思えることをやりたいじゃないですか。

 正直、転職して収入は大幅にダウンしました。でも、実は社会人になってわかったのは、自分は意外にお金をつかわないってことで(笑)。だから、別にお金が稼ぎたいわけではなかった。電車の時間を気にせずに仕事がしたいから、会社の近くに住めることができればそれでいいや、くらいで。でも、だからこそ結果くらいは大きなものを求めたいのかもしれない。仕事のストレスは、仕事で発散できるし(笑)。新しいものにも、どんどん挑みたいです。それこそ自分をもっともっと追い込むことができれば、確実に自分を成長させることができるんですから。
仲間の目 上司代表取締役社長 谷口恒さん
 採用の面接で感じたのは、柔軟性でした。ヒットして話題になったゲームのプログラマだけれど、自分が培ってきた技術に固執することはなかった。それを生かして新しいことをやってみたい、とはっきり言っていた。新しいものを生み出すには、こだわりがありすぎるとダメなんです。その点で、視野の広さと、エンジニアとしての強い向上心を感じましたね。もともと、あれこれと細かく指示するのではなく、任せたほうがいいタイプだと感じました。実際、目指す方向だけ伝えておいたら、入社後はどんどん自分から動いてくれて。プロジェクトに入って1週間ほどで、パソコンを持ってきて、いきなりモニターで3Dの画像がクルクル回っていたのにはみんな度肝を抜かれました。早くも実験シミ ュレーションを作ってきちゃったんです。

 その後も、いかに面白くダンスを表現できるかをずっと考え続け、水族館に行って映像を撮ってきたり、マイケル・ジャクソンのダンスから法則を見つけ、方程式を作ったり、びっくりするような試みを常に続けていました。その結果が、誰もが驚くことになった『miuro』のダンスだったと思うんです。『miuro』はもっともっと良くなるはず。彼もまだまだ挑戦を続けている。そして今後のプロジェクトでも、ゲームで培ってきた技術、さらには遊び心を大いに発揮して頑張ってほしいと思っています。
ヒーローを支えるフィールド スピード、性能、価格、品質、すべてに妥協は許されない
『miuro』のデモを見せてもらっているときの味岡さんのうれしそうな顔がすべてを物語っていると思った。それが、どれほどの努力によって生み出された動きなのかは、『miuro』のダンスを見ればすぐにわかる。機械がこれほどまでスムーズにダイナミックに動いているのを見たことがない。それほどのダンスだった。だが、間違いなく彼は、楽しみながら『miuro』のダンスを作っていたに違いない。やりたいことをやる。それこそが、最も意欲を、そして能力をかきたてられることだから。

 そしてゼットエムピーという会社は、それをよくわかっている会社だった。味岡さんは「任されたほうがいいタイプ」だとすぐに見抜き、「ほとんど野放し状態だった」と社長の谷口さん。だが、だからと言って、まるっきりほったらかしにされていたわけではない。味岡さんは、忙しい社長がしょっちゅう職場に顔を出し、声をかけてくれていたことを覚えている。こうしなければいけない、などというルールはない。
 そもそもが、大企業を中心にさまざまな会社からエンジニアが集まっているベンチャー。どこかの会社のルールに合わせては、コンフリクトが起きてしまう。そこで、古い考えにとらわれず、新しいルールを作ろう、と心がけたのだという。減点主義ではなく、加点主義もそう。マネジメントの基本は、 褒めること。それがまた、やる気を生む。

 会社のブランドや安定性、勤務条件にこだわって働くのも、ひとつの生き方である。しかし、やる気にこだわり、やる気の出る仕事や環境にこだわる生き方もあっていい。「才能よりもスキルよりも何よりも、やる気こそが結果を生む」と谷口さん。それを手に入れることができたエンジニアは、とにかく強い、と感じた。
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[] 宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ []
宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
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今回取材をお願いした味岡さんのモノづくりに対するこだわりはとにかくすごい!女性が『miuro』に触れたときの感触を知るために、自分の爪をのばし(ここまでは普通?)、ぴかぴかに磨いているのだとか。ロボットの動きが魚のカレイをイメージしていると聞けば、水族館に飛んでいってビデオを撮って一日眺めてプログラムを組んできて、それを見事に再現してみせたとか。聞けば聞くほどユニークなエピソードがたくさん!集中しちゃうと寝ないし、食べないからふらふらしてると聞きましたが、お体だけはお大事に!味岡さん……。
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“ヒーローエンジニア”を探せ!

あの有名製品をつくったのはこんな人。前例・常識にとらわれず、独創的発想で活躍している若手エンジニアを日本全国からご紹介します!

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