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厳選★転職の穴場業界 第10回 高精度センサー 未来のモノづくりを拓く超高解像度センシング
高度なモノづくりに欠かせないのがセンサー(測定器)だ。車や家電など、機械の動作をきめ細かく制御するためのセンシングや、生産現場において加工ツールの精密制御を行うための位置測定など、日本はこの分野で世界のトップランナー。今後のニーズも広がる一方である。
(取材・文/伊藤憲二 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:06.03.08
業界動向:景気回復でますます増大する高精度センサーの開発ニーズ
 物体の形状、質量、動きや特性などを高い精度で検出する「高精度センサー」が、重要な次世代テクノロジーとして注目されている。
 工業製品では自動車や宇宙航空、家電、IT機器など幅広い分野で、製品の高度化に伴ってセンサーの高精度化が進展。また、精密機械や化学工業をはじめとする、諸工業の生産技術を高度化させるデバイスとしても存在感を増している。
 日本の高度なモノづくりを支えてきた熟練工が減少している中、彼らのスキルを要さない生産技術の開発は急務であり、高精度センサーはその実現に欠かせないものなのだ。

 センサーとひと口に言っても、その種類は多岐にわたる。オプティカル(光学式)センサー、レーダーセンサー、超音波センサーといった形状や距離計測を主目的としたもの、ジャイロセンサー、加速度センサー、角速度センサーなどの運動系、ピエゾやカーボンマイクロコイルなどを用いた抵抗型センサー、あるいは作動容量式センサーなど触覚や温度、密度計測向けとさまざまである。
 極端な話、計測を要するファクターと同数のセンサーが必要なのだ。また、それらのセンサーの多くは製品やプラントごとにマッチングを行うため、需要は増える一方だ。

 景気回復に伴い、日本の製造業も多くの企業が攻めの経営に転じており、生産能力増強や品質向上を目的とした巨額の設備投資も相次いでいる。電子情報技術総合委員会によれば、2004年度にはセンサー生産額はおよそ7500億円に達し、なお年率40%前後で伸びているという。

 付加価値の高い高精度センサーについても、エンドユーザー向けの情報家電や富裕層向けの高級車、B2Bでは生産ライン向けと、あらゆる業界で広く普及していくものと予想されている。
注目企業:熟練工を超える「機械の目」を完成させたジェイネット
 製造業の現場において深刻な問題として浮上している熟練工の人材不足。ジェイネットではこの問題を解消すべく、これまで機械では不可能だった、工作機械を動的に精密計測する高精度センサーを開発した。分解能±0.1μmの高解像度で動的計測ができ、自動車業界をはじめとして既に多数の導入実績がある。
■測定分解能±0.1μmの「ジェイコア」 ■先端位置測定後の画像処理データ
測定分解能±0.1μmの「ジェイコア」 先端位置測定後の画像処理データ
光学式高精度センサー「ジェイコア」は測定分解能が±0.1μm。赤色LEDと18枚の光学レンズ、エアシャッターによってミクロンサイズの加工機の可動部分を撮影し、その画像を高速処理することで位置をデータ化する。測定範囲は10〜400μm。サイズは幅50mm、長さ326mm、高さ95mm。PCIボードを介してさまざまな加工ツールに実装できる万能型デバイスだ。 計測結果は画像処理され、PC上のエクセル表示ですぐに確認できる。ドリルなど計測対象が高速回転時にジャイロ効果などで揺れたり、空気の渦が発生していても計測可能。付着したオイルや切り子と工具先端を見分けるため、人間の目と同様に外形を線で仕切って正しい形状を認識する。一方、計測データを蓄積して、ツールの欠けや摩耗を、画像の変形推移から検出することもできる。

高精度センサーの常識を塗り替えた「ジェイコア」

 数ミクロン単位の誤差も命取りになる精密加工の世界では、モノづくりの完全自動化はきわめて難しく、今日でも高精度な加工部品づくりには熟練工の手が欠かせない。
 その精密・微細加工において、熟練工の経験や勘に頼らずとも、マシンのキャパシティを機械力によって限界まで引き出す。そんなセンサーを開発したのが、埼玉県の治工具メーカーであるジェイネットだ。

 センサー「ジェイコア」の分解能は実に±0.1μmと、サブミクロンオーダーを達成。目下、世界の光学式高精度センサーでトップ級だ。分解能が飛躍的に向上したことにより、従来の工具長測定器に比べてはるかに高い精度で原点位置出しが可能。さらに従来品が静止状態のものしか測定できなかったのに対し、ジェイコアは切削のために数万rpmで高速回転している状態でも測定できるという。
「うちは精密加工を強みとする会社。その強みの源である熟練工が将来的に退社してしまえば、技術もそのまま失われてしまう。そんな危機感から2000年に開発に乗り出しました」

 こう語るのは代表取締役の長谷川浩幸氏。同社はボールグリッドアレイに多ピンICを実装するため、50μmという微細貫通穴を5000個開けるといった、超ファインピッチ製品を製作する。ただ、その製造技術をもつ熟練工は日本に3人しかいないと長谷川氏は語る。引退後の技術伝承は不明だ。
「今、世間では2007年問題が喧伝されていますが、精密加工の世界ではそんなことはずっと前から問題視されていました。今ごろになって騒いでいるようでは遅いんです。早くに手が打ててよかったと思います」

人間の視覚理論から認識アルゴリズムを考案

 開発過程でもっとも難しかったのは、ミクロンオーダーである微細加工ツールの先端部を、マシンにきちんと認識させることだ。
「例えば先端部分に細かい切り子が付いていたり、油がたまったりしていると、そっちを先端として認識してしまうのです。こんな誤認識を防ぐためのプログラム、すなわち補正回路づくりを多くのソフトハウスに持ち込みましたが、どこでも無理だと断られました」
 そこで長谷川氏は、「つくろうとしているのは人間の目の代わりになる機械。既存のアルゴリズムで誤認識が避けられないなら、人間の目が形状をどう認識するのかを考えればいい」と着想する。その結果、物体の形状を構成するラインを理想曲線としてとらえるというアプローチを行い、アルゴリズムの開発に成功した。

 光源にも特徴がある。18枚の光学レンズを使用した集束光を、対象物に当てて計測する方式。当初はレーザー光を検討したが、物体を目で見るように面でとらえようとすると、レーザー光のメリットであるはずの干渉縞がモアレを発生させてしまうことがわかった。
 そこでLEDを選ぶのだが、この「面でとらえる」はジェイコアのコアテクノロジーにつながっていく。ニードルが2万rpmで高速回転すると、周囲には空気の渦が発生する。レーザーの場合はこの渦で測定不能になるが、面でとらえるLED方式なら動的測定も容易にこなせるのだ。
「いちばん大事なのはスキルではなく、発想力や問題解決能力ですよ。現時点で存在しない、まったく新しい装置を常に考案していく必要があるのですから。ちなみにうちで商品企画を担当している社員は全員文系出身です。理系出身者の場合、豊富な知識が創造性を阻害してしまうケースもあると思います」

 ジェイコアは既に、熟練工レス工法の開発競争を展開しているトヨタ、デンソー、ホンダなど自動車業界をはじめ、順調に納入実績を伸ばしている。また、現在はほとんど手づくりで製作しているが、量産化に向けたプロジェクトも動いているという。この小さな計測器が、日本の製造現場を変えていくかもしれない。

長谷川浩幸氏
株式会社ジェイネット
代表取締役

長谷川浩幸氏

1960年生まれ。大学卒業後、計測機器メーカーでソフトおよび回路開発に、電子機器メーカーで画像処理装置の開発に携わる。97年にファブレス方式の精密加工メーカーという新業態を視野に入れてジェイネットを設立。精密工作機械や高精度センサーなどの加工装置と、加工品の受託生産が主な事業。
ジェイネットの精密加工技術は、IC実装基板であるボールグリッドアレイ製造で、50μm径の穴を精度レンジ5μmで5000個開ける。他社の同等製品が1600個程度であるのに比べて格段の差だ。
穴場求人:機械や回路設計などハードに加え、ソフト分野のニーズも大
 エンドユーザー向けから生産技術まで、多くの局面で需要が急増している高精度センサー。開発案件も増加の一途をたどっており、中途採用ニーズも立ち上がりつつある。リクナビNEXTでは「センサー」をキーワードに検索すると、多くの求人情報をゲットすることができるだろう。

 高精度センサーは電気式、ジャイロ式、光学式、レーダー式など、さまざまな種類がある。センシング部についてはそれぞれ電気・電磁気、流体、オプトメカトロニクス、電波というふうに、専門知識が要求される。
 ただし、高精度センサーを構成するのはセンシング部だけではない。センサー本体の機構設計からデータ処理のための回路設計、ソフトウェアやアルゴリズムの開発まで、さまざまなスキルが求められている。機械設計やソフトウェア開発に携わっているエンジニアの多くが、何らかの形でかかわることのできる世界なのだ。

 具体的には、機構部分ではメカトロニクスや自動車、精密機器などの機構設計経験が生きる。処理部ではデジタルとアナログの両回路設計、特にセンサーから得られた情報を送出するための信号を生成するアナログ回路は、性能向上に直結するためニーズが高いだろう。
 また、コンピュータと接続する必要があることから、LANやシリアルポート、デジタルポートなどI/O設計の経験も生かせるだろうし、画像処理・認識技術も非常に重要なスキルだ。ソフトウェアは、商用レベルのプログラミング経験があればとりあえず大丈夫だろうが、認識アルゴリズムの開発経験など、高度なスキルがあると有利だ。
 高精度センサーは当面、需要は増えることはあっても減ることはない。専門家が多くない世界だけに、まさに転職の穴場業界といえるだろう。
高精度センサー業界のエンジニアニーズ
・ センシング部のみが開発対象ではなく、技術ニーズの幅は広い。
・ ハードウェアはメカトロ、画像処理、回路設計などが有利。
・ アルゴリズムやソフトの新開発案件が多く、経験者は要注目。
・ 個々のスキルより、これまでの経験を生かした発想力も重視。
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 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 
高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
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ジェイネットの経営スタイルは「高い技術の製品づくり」とのこと。難易度の低いモノづくりではだれもが参入できるため、競合が増えて価格が落ち、結局は安値合戦になる。これでは企業もエンジニアもやっていられない。だから、高い技術でしかできない製品を提供して、正当な値段をいただくというモデルです。現実的にはなかなか難しいものですが、今後もこのような企業を紹介していきます。
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