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踏んでからでは遅すぎる!法律グレーゾーンに潜む地雷(3)待遇編 裁量労働制はよく理解していないと損をする?
日々の業務で「これってもしかして法律違反なんじゃ……」と、ふとわいてくる疑問。そこで今回、エンジニアが陥りがちな業務事例を通して、法律的な“白黒ジャッジ”をつけたい。第3回目は、「待遇」。
(取材・文/宮尾有希 総研スタッフ/山田モーキン イラスト/内山弘隆)作成日:06.02.22
 納期が迫っている、ライバル社との熾烈な競争に負けられない……などのせっぱつまった理由で、反則スレスレの技を使ってしまうエンジニアは多いと聞く。そこで、ギリギリで勝負している現場からの「どこからが法律に触れるのか?」というグレーな疑問を3回連載で、法律の専門家に直接ぶつけるこの企画。
  第3回目のテーマは、 「労務や待遇」 の問題について。日々職場環境の変化が激しいエンジニア業界だからこそ、休日出勤や突然の地位待遇の変化に関して、会社との間にグレーな問題が多発する。そこで今回、あるひとりのエンジニアの日常業務を通して見えてきた労務・待遇に関する問題点について、社会保険労務士にアドバイスを求めた。
今回の相談者
N・Tさん(31歳) N・Tさん(31歳)
ソフトウェア開発会社に3年間勤めたあと、独立系の中堅システム・インテグレーターに転職。現在までずっと客先常駐という形でサーバシステムの開発・保守を行っている。
今回の法律アドバイザー(監修)
伊藤 滋基氏(開東社会保険労務事務所 社会保険労務士) 伊藤 滋基氏(開東社会保険労務事務所 社会保険労務士)
平成15年 社会保険労務士登録
ソフトウェアメーカーに12年勤務した経験を生かし、IT関連企業を中心に労務問題のアドバイスを行う
企業向け労務管理セミナーも多数開催
相談ポイント1  エンジニアにとって、裁量労働制のメリットは?
 現在の職場は仕事量が多いわりに納期がタイトで、毎日忙しく働いています。効率化にも限度があるので、遅くまで残業したり、土・日に出たりして、なんとかこなしている現状です。時間外労働も多く、自分の業務にとっては損なのでは?
A. 時間に縛られず働けるところがメリット
 裁量労働制は「仕事のやり方、進め方を個人の裁量に任せる」制度ですから、会社から労働時間の拘束を受けたり、仕事を進める手段について細かい指示を受けたりすることなく、自由に働けるというメリットがあります。
 裁量労働制は「この仕事内容なら通常これくらいの労働時間がかかるだろう」という「みなし労働時間」を決める制度です。仮にみなし労働時間が1日8時間であれば、1日に10時間働いても「8時間の労働」だとみなされるので、プラス2時間分の時間外手当は支給されません。ただし、深夜10時以降翌日の朝5時までと法定休日の労働については、法律で定められた割増賃金を支払う必要があります。その場合、深夜で2割5分以上、休日で3割5分以上の割り増しとなります。
 またそれ以外にも裁量労働制に関して不明な点や、あまりにも実情とかけ離れている場合には、まずは厚生労働省が各地に設置している総合労働相談コーナーや、東京都であれば労働相談情報センターなどに相談してみることをお勧めします。
相談ポイント2 代休を消化する余裕がない場合、どうすればいい?
 仕事内容はウェブ系のシステムです。平日は24時間動き続けているシステムのため、メンテナンスはどうしても土・日になってしまいます。しかし、先ほども話したように、メンテナンス以外でも休日出勤しなければいけないほど多忙な職場のため、結局、代休を取る余裕がないんですよ。なんとかまとめて消化するようにしていますが、今後も休めるかどうかわかりません。その場合、代休はどうなるのでしょうか?
A. 代休の代わりに「休日出勤手当」の請求を検討してみては?
 代休を取得しなかった場合は、休日出勤した日数分の賃金を請求できます。お勤めの会社の就業規則にもよりますが、休日に出勤した場合、割増賃金も支給することになっているケースが多いので、一度確認されたほうが良いと思います(なお労働基準法上は、法定の休日に労働した場合に休日の割増賃金を支払うことを使用者に義務づけています)。
 また、「代休」という考え方は、まず急な休日出勤ありきの事後的な休みなので、たとえ代休を取得したとしても、休日労働した分の割増賃金が支払われなければなりません。なお、出勤日と休日をあらかじめ入れ替える「振替休日」の場合、この割増賃金は発生しません。
 今回の場合、なかなか代休を取得できる環境ではないとのことですので、それに代わる休日出勤手当の請求を検討してみてはいかがでしょうか?
相談ポイント3 常駐先に気に入られて転職しようと思うのですが、問題ありますか?
 客先に気に入られてスカウトされた同僚は「あからさまに引き抜くともめるので、いったん円満退社してから中途採用試験を受けるように」と言われていました。たしかに引き抜かれる会社の気分は害するかもしれませんが、常駐先が他社の社員を引き抜くというのは、なにか法律的に問題がある行為なのでしょうか?
A. 注文主(常駐先)と請負業者(派遣元)の間の契約内容による
 もともとお勤めの会社との契約の中で、同業他社に退職後何年間は就職してはいけないという「競業避止」の条文が雇用契約や就業規則に記載されていた場合は、引き抜きに応じると契約違反になる場合があります。しかし基本的には「職業選択の自由」がありますから、実際に争いになったときの裁判でどうなるかは一概には言えません。法的な問題というより、注文主と請負業者との信頼関係を懸念してのことでしょう。
(コラム) 今回の法律アドバイザーから、待遇に関する注意ポイント
 終身雇用制が崩れた今、特にエンジニアの方は何度も転職される人が多いと思います。待遇面で納得いかない思いをしないために、採用が決まった時点で、自分がどのような労働条件(契約期間、給料、残業の有無、労働時間、勤務場所など)で働くことになるのか、就業上のルールは何か、など雇用契約書や就業規則など書面で確認することが重要です。あいまいな点があれば実際に働き始める前に質問して納得されることをおすすめします。
 私どもが相談を受ける問題も、口約束だけで「言った」「聞いていない」ということが原因となっているケースが多々あります。
 労働基準法は毎日の業務にかかわるとても身近な法律ですが、マネジャー職の方を対象に労働基準法関連の勉強会を行っていても、基本的なことをご存じない方が多いという印象を受けます。労働者を守るために存在している法律なので知っておいて損はありませんし、もし独立開業して人を使う立場になれば、なおさら「知らなかった」ではすまされません。各自治体や労働局などでも定期的に労務に関するセミナーを行っていますので、気軽に参加してみてください。
 
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山田モーキン(総研スタッフ)からのメッセージ  
山田モーキン(総研スタッフ)からのメッセージ
待遇に関する不満をもっていらっしゃる方は多いと思いますが、その不満のなぞを解く「労働基準法」に関する知識のある方は、多くないと思います。それは「法律」そのものに対して壁を感じるからだと思いますができればぜひ一度、今回の記事をきっかけに、ご自身の身の回りの契約や法律を見直していただき、日々の不満や疑問解決の糸口になることを願ってます。

このレポートの連載バックナンバー

法律グレーゾーンに潜む地雷

特許やセキュリティなどエンジニアの職場に存在する法律グレーゾーン。誤って地雷を踏んでしまわないよう法律アドバイザーが個々の事例をジャッジします。

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