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第4回サプリメント 成分発見から製造装置までサプリのR&Dが急進中
健康ブームに乗って市場が急拡大しているサプリメント業界。近年は医薬品のみならず食品、バイオ、化学関連企業など異業種組が次々に参入。さらには抽出や培養などの装置を通じて電機、機械などのハードウェア関連企業が手がけるケースも。未経験エンジニアが転職できる余地も大きい。
(取材・文/伊藤憲二 撮影/兼岩直紀 総研スタッフ/高橋マサシ) 作成日:05.09.14
業界動向:医から食へのシフトで高まるサプリ業界のR&D志向
 体質改善、老化防止、滋養強壮――従来は「医」の領域とされていた健康増進が今、サプリメント分野への移行を見せている。それに伴い、食品、ケミカルなど、医薬品以外の企業が多数参入、折からの健康志向とあいまって、業界は大いに活気づいている。

 世界のサプリメント大国といえばアメリカ。市場規模は約2兆5000億円で、現在も拡大中だ。日本でもサプリメント市場は急速に伸びており、日本食品機能研究会は2010年に3兆2000億円の市場を形成するとの予測を発表。ダイエット向け食品と合わせると、その市場規模は何兆円になるかわからない。

 サプリメントのキーテクノロジーは、有効成分の発見とその製法。成分については医学、薬学的な色彩が強いが、製法については食品、化学はもちろんのこと、それ以外の異業種の企業が、各社の得意とするテクノロジーを生かして参入するケースもある。
 分析化学、農業工学、またB2B、B2C向け製品の量産に向けたプラントエンジニアリング、品質管理など、その分野は多岐にわたっている。

 サプリメント業界は、新成分のスクリーニング、新製法の開発などを巡り、日々激しい開発競争が繰り広げられている。R&D志向の強いエンジニアのチャレンジ精神を満足させてくれる企業が、今後もどんどん登場しそうだ。
注目企業:微細な藻から「健康」を抽出するヤマハ発動機
 2005年7月、ヤマハ発動機がヒューマンサプリメント原料業界への参入を発表した。CO2対策として研究してきたバイオテクノロジー関連技術を応用し、抗酸化作用に優れた物質を含有する藻類の大量培養に成功。サプリと一見無縁な二輪車メーカーの参入は、バイオ分野における技術のボーダーレス化を強烈に印象づけた。
■アスタキサンチン抽出物とヘマトコッカス乾燥藻体■光合成装置「フォト・バイオリアクター」
アスタキサンチン抽出物とヘマトコッカス乾燥藻体光合成装置「フォト・バイオリアクター」
左はアスタキサンチンの含有液。1を抽出するのに、ヘマトコッカスを含んだ培養液約1万が必要。サプリメント製造の際に100倍から10万倍に希釈する。右は淡水性単細胞緑藻の、ヘマトコッカス藻を乾燥させた粉体。通常は緑色の藻類だが、外部からのストレスにより、カロテノイドの一種であるアスタキサンチンを蓄積し、赤色に変化する。 珪藻培養において従来の6倍の生産性を実現した、初期のバイオリアクター(写真左:1/10モデル)。温度、光の制御、培養液の組成など培養環境を最適化。さらに流体解析技術を応用し、培養液を効率的に循環させることで、微細藻類の大量培養を実現した。ヤマハ発動機独自の屋内培養装置。現在のヘマトコッカス藻の培養リアクター(写真右)は、高さ約2m、長さ約9mのプレート形状だ。
CO2削減を狙った微細藻類の培養技術で、二輪メーカーがサプリに進出

 ヤマハ発動機がヒューマンサプリメントの原料進出の第一弾として選んだ素材は、抗酸化作用に優れ、老化防止、免疫力向上、筋肉疲労改善などの効能が期待できる赤色の物質、アスタキサンチンだ。
 原料となるのは「ヘマトコッカス」という名の微細藻類。赤色カロテノイドであるアスタキサンチンを豊富に含有していることで知られているが、大量培養が難しいのが欠点だった。

 ヤマハ発動機ではCO2対策のため、1997年に高い光合成能力をもつクロレラなどを活用した藻類培養の研究に乗り出していたが、その際に開発したバイオリアクターを使用して、ヘマトコッカス藻を大量培養。提携先である日清オイリオの抽出技術によって、アスタキサンチン抽出物を製造する。

 バイオの事業化というミッションのために同社に入社した佐々木大介氏は、「アスタキサンチンという物質について、いいところを狙っていると思い、この事業に携わることを決めました」と語る。

「抗酸化作用は主な機能性物質の中でも、ビタミンEの100倍以上、ベータカロチンの10倍以上という性能で、ヘマトコッカス藻などの微細藻類に多く含まれるほか、オキアミやサケ、エビなどの甲殻類や魚類まで、自然界に幅広く分布しています」

入門は高校生物の知識。10年続ければエキスパートに!?

 佐々木氏は大学時代に微細藻類の研究をしたが、卒業後は食品会社や飲料メーカーに勤務。生物学との関連性が薄いプラントエンジニアリング、SE、経営企画、品質保証などを担当した。その経験が、このサプリメントの事業化に生きたという。

 「生物をやっている人は、得てして研究段階にとどまってしまう。よい製品を安定した品質と価格で供給するためには、どういう製造方法がより適しているのか、どういうラインを組むのかといった、量産化のための工学やIT知識も必要です。つまり、生物以外のスキルです」

 とはいえ、サプリメントは安全性やユーザー心理の関係から、生物由来というのはほぼ必須の条件だ。
 「生物知識は正直、高校レベルの知識があれば大丈夫だと思います。奥は深いですが、独学でもバイオ技術のための基礎は身につけられるでしょう。ITや工学のように0か1かで結果が出る世界と違い、生物は結果にゆらぎを持つのが当たり前。そういうゆらぎを楽しめる人は向いていますね」

 ヒューマンサプリメントビジネスへの参入を果たすため、ヤマハ発動機は無数のヘマトコッカス藻株の中から高機能株を選択、育種することで大量培養に向いた品種を生み出した。佐々木氏は、「そういうバイオ的な作業も、やってみると結構面白い。10年くらいやれば、一家言もつくらいになれますよ」と語る。
 7月にはR&Dの拠点となるライフサイエンス研究所が完成。10年後の売り上げ300億円を目指すとともに、第2、第3の新成分を探求していくという。二輪メーカーが参入を果たしたサプリメントに、既に業界や業種のボーダーはない。
 
バイオ事業準備プロジェクト主査 佐々木大介氏
コーポレートR&D本部
バイオ事業準備プロジェクト主査

佐々木大介氏

大学では水産微生物学を専攻し、微細藻類の研究を手がける。大学卒業は大手食品メーカーで、プラントエンジニアリング、経営企画業務を担当した。外資系大手飲料メーカーに転職して品質保証を手がけた後、ヤマハ発動機に入社。
2005年7月に静岡県袋井市に竣工したライフサイエンス研究所。2006年10月には大規模な微細藻類の生産工場を建設予定。
穴場求人:人材ニーズは立ち上がり中。生物系以外のハード系職種も多様
 現時点での人材ニーズはそれほど多くないが、求人は着実に発生してきている。リクナビNEXTでは「サプリメント」「健康食品」などのキーワードで求人情報を得られる。

 ただ、大手食品メーカー、ヘルスケア関連メーカーなどの多くは、何らかの形でサプリメントにかかわっている。業種別で検索し、個別に求人内容をチェックしてみるのも手だ。
 また、バイオテクノロジーにハードウェア面からのアプローチを見せる企業もある。培養や抽出といった主に製造に関する各工程での製造装置やライン構築技術だ。企業のHPなどにあるアニュアルレポートや事業計画書を読み解くことで、進出計画をもつ企業の門戸をたたく方法もある。

 エンジニアに要求されるスキルは、新成分の探索と量産化で大きく分かれる。新成分探索のほうは医薬品業界が主で、薬学、化学、生物に関して高度に専門的な知識が必要。異業種からの参入企業は、この部分については医薬、薬学分野の研究所とのコラボレーションによってスクリーニングを行うケースが大半だ。
 とはいえ、共同開発においてもある程度の見識が求められるため、メーカー側のエンジニアも、生物学に関する論文読解力、成分分析や統計など、提携先の専門家と意見交換できるくらいのスキルは必要となる。

 量産化に関しては、必ずしも生物や薬学の専門教育を受けている必要はない。むしろ、ライン構築、工程、品質管理、原価低減、調達といった、ほかの製造業の生産部門と同様のスキルが求められる。
 生物が好きというのは大前提。生物学、薬学などについての基礎知識をもっていることが望ましいが、本格的な勉強は入社後の社内教育で事足りるというスタンスの事業者も多い。

 サプリメントはエンドユーザーに直結した商品づくりができるばかりでなく、新物質や新製法が次々に生み出されるという、クリエーティブな側面ももつ分野。医学、薬学とは無縁なエンジニアにとっても、十分なやりがいと参入機会があるという点で、きわめて魅力的な業界といえる。
サプリメント業界のエンジニアニーズ
・ 生物学的知識は高等学校レベルでOK。生物が好きなことが何よりの要件
・ 製品化、量産化のプロセスではプラントエンジニアリングの経験が生きる
・ 商品開発においては成分などの分析化学、農芸化学のスキルが有利に
・ 生物を工業的にコントロールするロジック開発では数学的素養が問われる
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  高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ  
高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
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ヤマハ発動機さんにサプリメントの取材に行くなど、一昔前なら考えられなかったでしょう。バブルのころは多くの企業が余ったお金で「多角化」を進め、それが「選択と集中」に移り、今また、的を絞った有望業界への進出が行われているようです。転職に関係なく、そんな穴場業界をリサーチするのもエンジニアの楽しみかもしれません。
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