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我ら“クレイジー★エンジニア”主義! vol.1“ウエアラブル伝道師”塚本教授の予言 2006年、ウエアラブルな若者が街を闊歩する
常識に縛られない異才・奇才が未来技術を切り拓く。まさに今、日本に必要なのは、常識破り、型破りの発想ではないか!そこで、日本の異才・奇才を紹介する新連載。第一回は、神戸大学教授・塚本昌彦氏。“ウエアラブルの伝道師”と呼ばれる男だ。彼の人生観、キャリア観から、エンジニアの本質を探ってみたい。
(取材・文/上阪徹 総研スタッフ/宮みゆき) 作成日:05.08.10
クレイジー☆エンジニア
塚本昌彦氏  神戸大学工学部教授

  額に取り付けられているのはヘッド・マウント・ディスプレイ(HMD)。彼の目には、小型PCとつながったHMDのモニターが常にとらえられている。実験中の姿ではない。電車に乗るときも、食事をするときも、講義のときにも、一日のほとんどの時間を彼はこの姿で過ごしている。人呼んで“ウエアラブルの伝道師”。
2006年、HMDを付けた“ウエアラブル”な若者が街中を闊歩する
 僕は昔から、毎年いろんな予言をするんですよ。1997年は「5年後、みんながHMDを付けて街を闊歩するようになる」という予言をしました。「だから3年後には、僕も頭に付けています」と付け加えて。それで予言を実行して、僕は2001年からHMDを付け始めたんですが、それから2年たっても街でHMDは流行しなかった。予言は外れてしまったんです。でも、来年はきっとHMDを付けた若者が渋谷や原宿を闊歩しますよ……と毎年、言い続けて、もう4年になります(笑)。ちょっと来るのが遅れていますね。

  とはいえ、僕が付け始めたら、研究者仲間やら研究室の学生やらが少しずつ付けてくれるようになると思ったんです。ところが、誰も付けてくれなかった(笑)。
  ただ、思わぬところで効果がありました。世の中の反響です。一度、メディアに取り上げられたら、ものすごい数の取材が来て。みんな、ウエアラブル・コンピューティングに興味をもっているし、期待しているんです。研究者になってから、こんなに注目されたのは、もちろん初めて。私しかやっていない、しかし反響は大きい。この2つの理由で、この格好をやめるにやめられない、という結論に達しました(笑)。
塚本教授
「あるわけないやないか」が現実となった、10年前の予言
塚本教授
 一方で、当たった予言もあります。10年前、僕がシャープを辞めて大阪大学で研究を始めたとき、1枚の予言を絵に残しているんです。それは、10年後、街の人たちが歩きながらコンピュータを使っている、という絵でした。当時、その絵を学会で発表すると、みんな大笑いしました。「あるわけないやないか」「なんで外でコンピュータを使うねん」。でも10年後の2005年、ノートパソコンを持ち歩くのは普通の光景だし、携帯電話というコンピュータをみんなが歩きながら使っている。当たっているんです。

 では「あるわけないやろ」が現実になったのは、なぜか。コンピュータの使い方が変わったからです。かつてのコンピュータは大型計算機で科学技術計算などをやっていた。それがデスクトップになって企業のOAに貢献し、モバイルになって個人に生活に入り込んできた。小さくなって用途が変わっていったんです。そして今進んでいるのは、コンピュータの500円玉大化であり、豆粒大、ごま粒大化です。間違えてはいけないのは、今のコンピュータがそのまま小さくなるんじゃないということ。これからのコンピュータは、これまでとまったく違った使い方をされるということなんです。
 
HMD
 
HMDは付けてみると軽い。モニターは小さいが、ちゃんと文字も見える。サングラスやメガネの一部がモニターになる日もそう遠くないと笑う学生さん
絵
 
10年前の塚本氏の予言の絵。「違ったのは、人々が小さなコンピュータを持っていること。実際は、携帯電話の進化からモバイルが拡大しました」
子ども
 
ウエアラブルコンピュータの時代には「子どもの鬼ごっこも変わる」と塚本氏。タッチした個所で得点が付く、タッチすると音が出る、など楽しみが広がる
シャープ時代も生きた、人の反応をモチベーションにすること

  シャープに就職したのは、当時、小型コンピュータでトップを走っている会社だったから。昔から小型のものが好きで、小さいものにロマンを感じるんですね。仕事は、研究所での通信の研究。一部ですが、ザウルスの赤外線通信などにも関わっていました。当時のシャープは、左右開きの冷蔵庫とかヘンな商品をたくさん作っていて、「もっとヘンなものを作れ」という号令のもと、面白い仕事をさせてもらえました。上司も豪快で、要求がヘンなものですから、めちゃくちゃ理不尽な指示とか来たりして(笑)。「ひでぇなぁ」と思いながらも、夢は感じられましたね。

  研究は本当に面白かった。「どうだ、この技術、すごいやろ」と発表できる学会もあったし、「新しいことをやろう」という人たちが集まっているから、ますます研究に没頭できて、いろいろ成果を挙げられて。僕は昔から、人の反応をモチベーションにできるんですよね。褒めてもらったりすると、うれしくて。だから、また頑張れて、それが成果につながって。

 当初はシャープを辞めて大学に戻るなんて、考えてもみませんでした。成績も悪かったはずだし(笑)。実は、シャープに入ってからも、大学でも研究は続けていて、恩師に「戻ってきたら」と言われて。それも面白そうだ、シャープで身につけたコンピュータシステムと通信のつながりを研究したら全体を考えられる、と思って大学に戻ることにしたんです。
塚本教授
NPO法人 ”チームつかもと”の立ち上げ
 姿こそ特異に見える塚本氏だが、大学に戻ってからの10年間、研究者として実に戦略的に動いている。2003年1月には産官学連携のNPO法人ウエアラブル・コンピュータ研究開発機構“チームつかもと”を立ち上げた。ベンチャー企業や大手メーカー約30社と10の大学・公的機関が集まり、実践的な研究が展開されている。
 例えば、毎年夏に開催されるバイクレース「鈴鹿8時間耐久ロードレース」でウエアラブル情報システムを使ったサポートを行っているほか、ファッションショーやアクセサリー開発など、自らウエアラブル・コンピューティングのコンシューマー市場形成のプロデューサーをも担っている。
「“映像”もねぇのかよ、イケてねぇなぁ」という時代が来る
 500円玉大のコンピュータができても、そんなのじゃメールも打てないじゃないか、という声を聞いたりします。でも、それはぜんぜん違うんです。これからのコンピュータはこれまでとまったく用途を変え、ごく普通の生活に浸透していく。便利や安心を提供するものから、豊かさや楽しさを提供するものになるんです。

 例えば、飲み会があったとしましょう。「今日こんなことがあって」と話をしたりするのは普通の会話ですが、これからは各人のHMDに自分で撮った今日の映像を飛ばして、みんなに今日の出来事を見せるんです。テレビって再現ドラマをよく作るじゃないですか。映像って、それだけ力がある。だから映像で見せる。飲み会に行って、今日自分に起きたことを“話し”始めたりすると、「お前、映像もねぇのかよ。イケてねぇなぁ」と言われる時代が来ますよ(笑)。

 彼女とのデートでも同じです。映像も見せるけど、店のBGMが今ひとつでは恋も盛り上がらない。だから、2人だけのBGMをHMDで流す。盛り上がりますよ、これは。同時に『彼女を落とすBGM』というマニュアル本がベストセラーになっているはず(笑)。若者文化に、小型コンピュータは大きなポテンシャルをもっています。遠からず、HMDはメガネの一部になるかもしれない。メガネやサングラスの一部が、モニター画面になる。そうなれば、市場もターゲットも一気に加速するでしょうね。

 小さなコンピュータはもうできていて、くっつけたりもできる。モバイルの自然の延長が、人にコンピュータがくっつくウエアラブルであり、モノにくっつくユビキタスなんです。そんなものを人やモノに付けてどうするんだ、という人がいますが、それを考えていこう、というのがまさに私の研究。楽しいですよ。すごいことがいっぱいできますよ。僕は今年、15の予言をしているんですが、本当に面白いことが起きるんだから。
塚本氏の9番目の予言
『デートをHMDで録画したり彼女が喜ぶBGMを流す時代が来る』
「評論家」になっちゃだめ。自分で試してみなきゃわからない
塚本教授
 人はついつい、ちょっと聞きかじっただけで、すべて知っているような気持ちになりがちです。HMDだって、知っているという人は増えていますが、実際に見て、触って、装着してみたという人はどれくらいいるでしょうか。開発者として最も怖いのは、“評論家”になってしまうことです。何か新しいことをやろうとしたとき、人がやっていないことをやろうとしたとき、「それ、知ってるけど、こうだよ」「それって、聞いたけど、こうらしいよ」などと知ったかぶりして評論していないかどうか。評論だけしていても、新しいものは生まれてきません。それは誰でもわかる。まずは自分でやってみないと。

 僕は面白いことをやりたいと思っている。面白いこととは、やっぱり何もない荒野にピョンととんがった新しい塔を立てることだと思っています。横から押したら、簡単に倒れるかもしれない。あちこち隙間だらけ、穴だらけでボロボロかもしれない。でも、やっぱり新しい塔を建てるのが、一番面白いと思うんですよ。誰かの立てた棟の隙間や穴を埋めたりするよりも、つべこべ言わずに黙って新しい塔を建てようと考えたほうがいい。大変だし苦しいけど、そのほうが間違いなく楽しいんだから。
未来は誰かに作られるのではない。自分たちが作ればいいのだ
 これから10年、我々の生活にコンピュータがどんどんチャチャを入れてきます。すると、すごい変化が起きることになる。自由な発想で積み上げていけば、いろんな方面で面白い仕事になります。

 日本の技術には元気がないという声もあります。でも、僕はエンジニアは元気だと思う。ただ、ひとつアドバイスするなら、人と違うことをやってほしいということですね。横の人、周りの人に合わせない。とにかく違うことをやろうとしてほしい。安く大量に作ったり、悪いところを見つけて直す時代はもう終わりました。これからは新しい暮らしを作っていく時代。人と同じじゃイヤなんですよ、みんな。だから、人と違うことを考えないと。これからの時代に力を発揮するのは、人と違うことをやる人ですよ。

 もうひとつは、ポジティブ志向を越えたポジティブ人間になってほしいということです。気持ちが前向きなだけでなく、自分も前に進んでしまうんです。「10年先、どうなるか」なんて未来予測が語られたりして、みんな気にしたりするわけですが、考えてみれば予言者や占い師が未来を作れるわけではない。当事者は自分たちなんです。「こうなるのかな」ではなく「こうしよう」なんですよ。自分たちがどうしたいのか。実はそれが、未来を決めるんです。
塚本教授
塚本教授 profile
塚本昌彦(つかもと・まさひこ)
神戸大学工学部教授
1964年生まれ。87年、京都大学工学部数理工学科卒。89年、京都大学大学院工学研究科応用システム科学専攻修士課程修了後、シャープに入社。95年、大阪大学工学部情報システム工学科講師。96年、大阪大学工学部情報システム工学科助教授。2002年、大阪大学大学院情報科学研究科マルチメディア工学専攻助教授。2004年10月、神戸大学工学部電子工学科教授。
2004年2月よりNPO法人ウエアラブルコンピュータ研究開発機構(チームつかもと)理事長を兼任。
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 宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ 
宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
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ピンクの背景に金髪・ブルーコンタクトでキメてる写真がかっこいい塚本教授の名刺。大学教授の名刺には見えないユニークさはまさにクレイジー。「自分で予言したことをエンジニアは自分で実現できる」と笑う塚本教授は、「当たる、当たらない」という結果より、自身が楽しいこと、またそれを聞いた人も楽しんでくれることに快感を感じる人。次回はクレイジー☆ロボットクリエイターが登場します。お楽しみに!
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