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賛否両論!アジア技術者が採点する日本技術者の実力 (2) 韓国編 日本技術者と働きたい韓国技術者はたったの3%?
デジタル景気が失速した日本企業とは対照的に、韓国企業は好調を維持している。韓国サムスン電子をはじめ、大幅な増収増益で世界トップクラスに躍進する企業も目立つ。この高度成長を最前線で支える韓国技術者たちが評価する日本技術者の実力とは?
(取材・文/小平達也 総研スタッフ/宮みゆき イラスト/有田満弘)作成日:05.03.30
Part1 急速な高度成長を続ける韓国企業における技術者の地位
韓国の技術者は恵まれている?
「韓国の技術者は、高い給与と待遇がもらえる」。そんな話を聞いたことがあるだろうか。ご存じのとおり、韓国には徴兵制度があるのだが、実は政府に認められた研究所で技術者として一定期間働くことを条件に、兵役が免除になるという技術者優遇制度が存在する。また、1997年の「IMF(国際通貨基金)通貨危機」以降に導入された青天井の成果主義制度の徹底により、年俸制と徹底した能力給を採択する企業が多く、実力があれば日本に比べて破格の給与を手に入れることも可能だ。

 現在の韓国企業はこのIMF危機を抜きにしては語れない。当時、韓国政府はIMFから資金援助を得る代わりに、それまでの同族経営など経営手法を根本的に変えるという条件を与えられた。各企業は「一定年齢以上の社員にはいったん全員の辞表を提出させ、そこから残す人を決める」などといった強烈な体制改革を行い、生きのびる道を探った。その結果、年功序列で君臨していた上司が会社から強制退場したのを受けた若手世代が大幅に権限を手に入れ、その先にはさらに激烈な競争と格差のあるサバイバル型の超実力主義が誕生したのである。

 学生の就職についても同様だ。日本企業で働く韓国人技術者Yさんに当時の状況を尋ねたところ、「IMF危機以後、ソウル大学など超一流大学でも就職率は3割をきった時期がありました。そのほかの大学全体を含めると就職率はかなり低く、本当に苦労しました」と話してくれた。そこからは、し烈な競走に身をおき、努力を続ける韓国人技術者の姿が浮かび上がってくる。

韓国経済に詳しい東京大学大学院教授の深川由紀子氏はこうコメントする。
「韓国企業の多くでは35歳から45歳の間で実質的な第一定年を迎えます。インターネット社会で調整型管理職のポストはますます不要になっていますし、グローバル規模での事業再編などで部門そのものがなくなることなども頻繁だからです。就職氷河期が続く中で、韓国サムスン電子では平均役員年俸が5億円ともいわれ、スーパービジネスパーソンの一部のエリートと一般社員の二極化が進んでいるのです」

 たしかに「実力主義」による評価制度は、優秀な人材を惹きつける。上述した「韓国の技術者は、高い給与と待遇がもらえる」のは実はひと握りのハイパーエンジニアたちに対してであり、一般の技術者とは二極化の傾向があるようだ。そのことを理解しながら、次の調査結果を見てほしい。
Part2 韓国ハイパー技術者たちは日本の技術者をこう評価している
 二極化が進む韓国。その社会に身をおく韓国人技術者は、日本人技術者をどのように評価しているのだろうか。今回は韓国技術者と仕事をした経験のある63人の日本人技術者にも同時調査を行った。
韓国技術者が日本技術者の実力を採点 日本技術者が韓国技術者の実力を採点
日本人技術者の印象は?

・ 「仕事に対するプライドが韓国より高い」 (サービスエンジニア/30代前半/年収400万円台)

・ 「日本は技術だけで一生を生きられる、韓国は生きていけないという差異がある」
  (システム開発/30代前半/年収400万円台)

・ 「日本は製品の安全性を優先して開発するが、韓国は機能的な部分を優先して開発する
  (回路・システム設計/30代後半/年収600万円台)

・ 「日本は会社のために、韓国は自分のために業務を進行している」
  (回路・システム設計/30代後半/年収900万円台)

・ 「技術に対する知識と相手に対する理解と説得力が高い」 
  (回路・システム設計/30代後半/年収1000万円台)
※韓国(ソウル)在住の25〜39歳の技術者100人(大卒、年収2000万ウォン以上)に調査(2005年2月)
日本技術者 vs 韓国技術者 お互いの評価とその裏側

「技術力・専門知識」「ビジネスコミュニケーション能力」の回答結果には同じ傾向が見られる。韓国人技術者による日本人技術者への評価は半数以上が「高い」と答える一方、韓国人技術者に対し高い評価をした日本人技術者は3割程度である。

 ただしこの結果だけで、韓国人技術者が一方的に日本人技術者を高評価しているのだと理解するのは早急のようだ。「技術や研究開発への情熱・意欲」では韓国人技術者、日本人技術者ともに50%以上の高い数字になっている。上記2項目と比べ、日本人技術者の韓国人技術者に対する評価が目立って高くなっていることについてどうとらえたらよいのか。

 韓国企業の若手ハイパー技術者との技術交流、マーケティング、装置納入などの経験をもつ株式会社テクノ・インテグレーション代表取締役社長、早稲田大学客員教授・出川通氏はこう解説する。
「日本では技術者はみな等しく、技術者。海外企業と技術提携など行う場合は極端な話、だれにでもその仕事が訪れる機会があります。一方、韓国企業ではほぼ必ず、といっていいほど最優秀クラスの技術者が最初に登場し、プロジェクトが開始されます。彼らのほとんどは、アメリカで教育を受けたりする人も多く、プレゼンテーションがうまく、技術者としても非常に優秀な人たちです。平均的な日本人技術者と比べても、かなり高い水準の技術者たちといえるでしょう」
 ただし、と出川氏は続ける。「実際に量産のフェーズに入り、今度はマスプロダクション担当の技術者などと話をすると『あれ?何これ?』というような低レベルの問題が発生するのも事実です。同じ韓国人技術者でもこの格差が非常に大きい。日本の技術者ではここまでの格差はありませんよ」 。

 前出の深川氏もこう語る。
「なくなったとはいっても、韓国はまさに儒教の本場。儒教的な『手を汚す仕事を軽視する』という風潮は依然として残っています。欧米で学位をとったような技術者はひたすら論文を書いて、それで評価される。こういう人材は普段はほとんど生産現場にはいません。一方、日本の大手メーカーには特許や人材が蓄積されていますし、また現場とのつながりがあるのが特徴です。言ってみればノーベル賞クラスの人材がそれこそ、社内に多数存在している状態です。その意味では韓国の土壌では、ノーベル賞をとった田中さんのような技術者は出てくるのは難しいといえるでしょう」

 だが、「二極化する超実力社会」に身をおく韓国人技術者は、成果主義の導入が浸透しつつある日本の技術者にとっても他人事とはいえない。日本でも、2007年にやってくる団塊世代大量定年退職がやってくる。「そうなれば日本企業は年齢に関係なく、優秀な若手人材を抜擢・登用せざるを得なくなる」と、出川氏は話す。日本にも韓国のような技術者の競争社会と二極化現象が起こりうる可能性は十分あるといえる。
  トップクラスの若手技術者集団を有する韓国と、人材の厚みと技術力の蓄積がある日本
  日韓技術者の平均レベルとエリートレベル(イメージ)(現状:2000〜2006)
韓国一般技術者から見た日本技術者の技術力・専門知識は? 韓国ハイパー技術者から見た日本技術者の技術力・専門知識は?
Part3 韓国ハイパー技術者たちは日本と仕事をしたがっているか?
 Part2の調査データによれば、韓国ハイパー技術者たちは日本の技術力を高く評価しているらしい。では、韓国技術者と日本技術者、お互いを仕事のパートナーとしてはどんな印象をもっているのだろうか。
 興味深い結果が出たのは、日本人技術者、韓国人技術者ともに、「仕事を一緒にしたい」という回答が6割程度と高いものの、「今後『ぜひ』一緒に仕事をしたい」という回答に注目すると、日本人技術者で韓国人技術者とぜひ一緒に仕事をしたいと答えているのが17%存在するのに対し、韓国人技術者の回答ではたった3%のみ。

 日本人技術者からは「韓国の携帯電話などは、まだまだ発展していきそう」(品質管理/33歳)など、携帯電話やデジタル家電で世界的にシェアを伸ばしている韓国企業の技術者と仕事をすることに強い意欲を示すコメントが見られる。

 一方、3%と出た韓国人技術者のコメントでは日本の技術力を高く評価するものの、「パートナーとしてはヨーロッパ、アメリカ、中国も大事」(機械・機構設計/30歳)というコメントも目立つ。日本の高い技術力は評価しつつも、グローバル市場で展開をしている中で、日本人技術者への関心は決して特別な意識はされていないようである。
仕事のパートナーとしてどう思う?
韓国人技術者 日本技術者
日本技術者に関心が低い韓国技術者
・ 「日本人技術者だけでなくほかの外国人技術者とも働いてみたい」 (システム開発)
・ 「日本人技術者と一緒に仕事することが自分の技術向上に役立つのであれば」 (システム開発)
・ 「日本人技術者の徹底した仕事ぶりが好き」 (研究)
・ 「日本人技術者は役には立つが、いなくてもそんなに困らない」 (サービスエンジニア)

韓国技術者に関心が高い日本技術者
・ 「韓国企業は決断もスピードも驚異的に速い」 (半導体設計/35歳)
・ 「韓国人技術者はすべての面において非常にハングリー」  (通信・インフラ設計/28歳)
・ 「韓国人技術者は自己顕示欲が強い」 (光学技術/31歳)
次回は、世界のアウトソーシング拠点としての地位を確立したグローバルレベルで生きるインド人技術者が評価する日本人技術者の実力を紹介します。
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  宮みゆき(総研スタッフ)からメッセージ  
宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
「自己主張ができる」「若手が活躍」「押さえつけの上司がいない」「実力で報酬が決まる」「常に新しいことにチャレンジする」。韓国企業は一見、理想的な職場にも思えますが、じっくりと技術を究め、高い技術力を追求する風土は少ないようです。韓国が日本のような高い技術力を手にしていくのか、日本が韓国のような成果主義社会となっていくのかは、まだわかりません。でも、日本本来の強みである、技術者が技術だけに没頭できる環境もやっぱり残ってほしい、そう思いました。みなさんはどうですか?

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