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行列防止・日立製作所「μチップ」、情報取得・KDDI「愛・MATE」 いよいよ開幕!愛知万博を支える先端技術の裏側
2005年日本国際博覧会(愛知万博)が3月25日に開幕する。メインテーマは“自然の叡智”とエコロジーを標榜するが、その裏舞台に目を移すと、エンジニアにとって垂涎の的ともいうべき先端テクノロジーが目白押しだ。その先端技術の開発フィールドを探訪する。
(取材・文/井元康一郎 撮影/早川俊昭 総研スタッフ/関洋子)作成日:05.03.09
万国博覧会は先端技術の宝庫だ
 19世紀半ば、イギリスで最初の国際博覧会が開催されて以降、万国博覧会はいつの時代も技術の宝庫だった。これまで日本では70年の大阪、75年の沖縄、85年の筑波、90年の大阪と、4回万博が開催されたが、どの万博においてもその時代の先端をいくテクノロジーが投入されてきた。
 
 
愛知万博概要をチェック
正式名称:2005年日本国際博覧会
開催期間:2005年3月25日〜9月25日
テーマ:自然の叡智(Nature’s Wisdom)
会場は長久手と瀬戸の2カ所。2つの会場はゴンドラなどで結ばれている。参加国数127。日本で開催された万博の中で過去最大。
 高度成長のなかで開催された70年の大阪万博では、モノレールに自動運行システムが導入され、文楽ロボットが話題を集めた。沖縄海洋博では半潜式海上都市、アクアポリスが建設された。史上空前の総合科学博となった科学万博つくば85では、多くの企業が宇宙・海洋科学や工業技術といった先端テクノロジーを競って展示し、3D映像などのニューメディアが観客の度肝を抜いた。また、会場全体がLANで結ばれるなど、情報化社会の到来にふさわしいプラットホームがお目見えした。

 科学万博からちょうど20年、今回の愛知万博は環境博という色彩が強いが、運営には幾多の先端テクノロジーが惜しみなく投入されているという。関係者は「技術面ではIT博といってもいいほど」と口をそろえる。エンジニアにとって万博は、技術の最新動向を探る絶好のフィールドなのである。
 
日本で開催されたこれまでの万博博覧会(特別博を含む)
*日本を含む
注目! 愛知万博で披露する先端テクノロジー
 愛知万博では環境関連テクノロジーを中心に、さまざまな最先端技術がお目見えする。今回はその中でも特に、万博の運営を支援する2つのテクノロジーにフォーカスを当て、紹介しよう。
 
入場チケット1枚で行列防止を実現する ──日立製作所「ミューチップ」
0.4mm角の最新RFIDがチケットに
 
ミューチップ画像  
ミューチップとそれが組み込まれている
愛知万博のチケット
 
 一見何の変哲もない万博の入場チケット。透かしてみても、中央に線らしきものが入っている以外はただの紙切れにしか見えない。実はこの中に、わずか0.4mm角という、現時点で世界最小のRFID、ミューチップが組み込まれているのだ。

 万博会場ではパビリオンに入場するのに何時間も待たされる例が多い。つくば85では5時間待ちのパビリオンまで出る始末だった。愛知万博では入場予約システムによって、長蛇の列にうんざりという事態はぐっと減る見込みだ。そのシステムのコアテクノロジーが、ミューチップなのである。
「ミューチップはもともと、紙幣や有価証券などの偽造防止技術から出てきたものなんです。折り曲げたり手荒に扱っても壊れたりしないRFIDを開発するには、大きさを小さくするのがいちばんなんです」

 ミューチップを開発した宇佐美光雄氏は語る。80年代から同社の大型コンピュータのLSI開発を手がけてきた、“半導体一筋”のエンジニアだ。「技術開発には面白さが大事。出口のいっぱいあるICタグは、研究対象として魅力的だった」。ミューチップの名前は宇佐美氏が自身のイニシャル「M.U」にちなんで名付けられたという。「これは開発者の醍醐味です」
 
ミューチップで楽しい社会を作りたい
 
宇佐美光雄氏
  宇佐美光雄氏
株式会社日立製作所
中央研究所 所長付
知能システム研究部
研究主幹 工学博士
  ●プロフィール
1971年、東京工業大学工学部電子物理学科卒業後、日立製作所入社。以来、超大型計算機用高速論理LSI、非閾値論理LSI、インターフェースLSI、薄型チップ応用薄型ISカード、ミューチップの開発に従事する。2001年8月より、現職。
 ミューチップの製造プロセスは0.18μmと、それほど微細スケールではない。回路の微細化ではなく、RFIDに持たせる機能を徹底的にそぎ落とすことで、小型化を実現させた。これからさらに進展が予想されるインターネットシステムを最大限に活用することが、ミューチップのテクノロジーの肝なのである。同社のパビリオンではミューチップのID読み取り機能を持つ端末が用意され、一人ひとりに合わせたエンターテインメントプログラムが提供されるという。
「将来は、東京大学の坂村教授の提案のように、このような博覧会会場に電波を受信できるブロックを敷き詰めて、来場者の位置情報を正確に把握できるシステムにまで発展させたいです」

 宇佐美氏の夢は、ミューチップを見えないくらいにまで小型化し、ユビキタスコンピューティングのデバイスに活用することだ。高齢化社会の到来によって、バリアフリーや行動アシスタンスの需要が大いに高まるといわれている。
「日本では高齢になると、社会の邪魔にならないよう、家に引きこもってしまいがちですよね。でも、そんな世の中はつまらない。遠出をして、かりに迷子になってもミューチップで位置情報が得られれば家に帰ることができる。また、急病や孤独死の心配なしに充実した人生を満喫できるようになる。そういうインフラを作りたい」

 万博のチケットに組み込まれたミューチップ。サイズは小さいが、開発者の思いは果てしなく大きい。
 
 
混雑情報や交通情報、迷子情報を必要なときに取得できる ──KDDI「愛・MATE」
携帯or PDA? スタッフ用ハイブリッド端末
 
ハイブリッド端末 画像  
愛知万博のスタッフが使用するハイブリッド端末「愛・MATEオレンジ」と「愛・MATEブルー」  
 一見携帯電話のようなデザイン。しかしPDAとして十分以上の性能を備えるハイブリッド端末──通信業界大手KDDIが愛・地球博のために開発したスタッフ用携帯端末「愛・MATE」は、同社の持てる技術が惜しみなく投入されている。

「『愛・MATE』は万博の会場スタッフの皆さんに1基ずつ持ってもらうことを前提に開発しました。各部署での稼働数に予備機を加え、合計5000台製造しました」
 開発に携わった本間信尚氏は語る。
「開発部署が新ビジネス推進部ということからもおわかりのように、当社の基幹事業であるauとは別系統の試み。汎用OSを搭載した端末で、いろいろなアプリケーションを搭載可能にすることにより、どういう新サービスが創出できるかという実験的な意味あいもあります」

 万博スタッフの業務連絡や各種情報閲覧等を主眼とした「愛・MATEオレンジ」と、入場チケットに埋め込まれたミューチップのID読み取り用がメインの「愛・MATEブルー」の2種類がある。
 
多機能を搭載、来場者に技術力をアピール
 
 通信方式には3GのCDMA2000 1X EV-DOを採用。音声通話はもちろんネットサーフィン、メール送受信といったインターネット端末機能も備える。通信速度は最大で2.4Mbpsと、ブロードバンドにも十分対応できる。MPUにはインテルPXA270(520MHz)を使用し、システム用のフラッシュメモリ64MB、RAM128MBを搭載。OSはWindows Mobileで、Windows Media Playerやグラフィックソフトも快適に走る。Bluethoothや無線LANも搭載。2.8インチ液晶画面はタッチセンサーパネルだ。

本間信尚氏
  本間信尚氏
KDDI株式会社
経営戦略本部
新ビジネス推進部
課長補佐
  ●プロフィール
1989年に電機メーカーを中途退社後、日本移動通信(現KDDI)入社。情報システム部門で約8年間、auの代理店向けシステムの構築などに携わる。2002年11月、社内公募により新ビジネス推進部に異動。現在、「愛・MATE」のシステム開発を担当。
 重量比で携帯電話の2倍強という小型のボディーにこれほど高機能を盛り込んだ端末は、過去にほとんど例がない。
「本体は富士通、アプリケーションはアクセス、OSはマイクロソフトとマルチベンダーだったので、インターフェースの連携を取るのが難しい、また開発期間が短いなどさまざまな苦労がありました。ですが、今回の万博には環境以外に“IT博”というもう一つの顔があります。それにふさわしいものを作るには、これくらいの内容が必要でした」

 本間氏は「情報システム部に8年在籍し、スキルをさらに広げたいと考えていたとき、社内公募があったんです。今までと違った新しいモノづくりに携わりたいと思い、応募しました」という。
 先進的な機能を満載した「愛・MATE」シリーズだが、デザインは何となく見慣れたものだ。実は「愛・MATE」のデザインには、auの「INFOBAR」などを送り出した「au design project」もかかわっているという。

 この「愛・MATE」、万博の会期を通じて来場客への情報提供のほか、迷子、遺失物検索、スタッフへの指示伝達などに使用される。日本館では、「愛・MATEオレンジ」が障害者、外国人向けの観覧支援デバイスとしても活用される予定だ。なお、一般来場者を対象とした実証実験も計画されている。
「ぜひ、未来型PDAの一形態である『愛・MATE』の出来映えを堪能して欲しいですね」
 
 
エンジニアなら注目! その他の注目技術とその見方
リニアからホログラムまで、先端テクノロジーの競演
踊る指南鉄塔 画像  
鉄塔部分に可変形状トラス技術を採用した「踊る指南鉄塔」  
 愛知万博は「愛・地球博」という愛称が付けられているとおり、エコロジーのイメージが先行しがちだが、先端技術の競演という点では、まさに国際万博にふさわしい充実したものになる見通しだ。
 重工分野で最大の目玉は、何と言ってもリニアモーターカーだ。会場へのアクセス列車はリニア駆動。JR東海が保有する最高速度500km/h超の実験車両も間近に見られる。

 昨今話題になっているヒューマノイド(ヒト型)ロボットをはじめ、数多くの未来型ロボットも出展される。開会式ではソニー、トヨタ、ホンダのヒューマノイドロボットが競演。また6月9日から12日間行われる「2020年人とロボットが暮らす街“モリゾー・キッコロメッセ”(プロジェクトリーダー:井上博允・東京大学教授)」では、65種類ものロボットが一挙に出演、デモンストレーションを行う。
 
 映像技術では、NHKのスーパーハイビジョンが圧巻。従来のHDをはるかに超える縦走査線4000本級は、従来とは別次元の描写力。非圧縮ノンリニアHDD収録など最新デジタル技術の結晶である。体感型映像空間「めざめの方舟」では、ホログラム(立体映像)を目に見える形でデモンストレーションする。長久手日本館では世界初の360度全天球型映像システム「地球の部屋」がお目見え。

 情報端末については、KDDIの「愛・MATE」をはじめ、産業技術総合研究所と東京特殊電線が共同開発した「Aimulet GH」など、多くの新商品の実証実験が行われる。

 愛知万博の展示物のなかでひときわ注目度が高いのは冷凍マンモスだが、単に展示されるだけでなく、名古屋大学の研究チームによって会期中にゲノム解析が行われるという。これら、万博と並行進行するプロジェクトにも興味深いものが多い。
  ヒューマノイドロボット 画像
  長久手会場にあるわんパク宝島パビリオンのロボットステーションに展示される恐竜型二足歩行ロボット。手前が草食恐竜「パラサウロロフス型(全長3.5m、体重85kg)」、奥が肉食恐竜「ティラノサウルス型(全長3.5m、体重87kg)」。関節構造など、かなり忠実に再現されている。
   
環境技術が示唆する自然との共生
  大型低公害バスIMTS 画像
  IT技術等を活用し、大型低公害バスIMTS(インテリジェント・マルチモード・トランジット・システム)
 愛知万博本来のテーマである“自然の叡智”に沿った環境関連テクノロジーも多数お目見えする。ワンダーサーカス電力館(電気事業連合会)では、フィルム基盤アモルファス太陽光発電、風力発電に加え、世界初となる平板型固形酸化物燃料電池を使用したコジェネレーションシステムを稼働させる。トヨタも田原工場に風力発電機を設置し、パビリオンに電力を供給するという。

 また瀬戸内会場、長久手会場間では、燃料電池をエネルギー源とするハイブリッドバスが運行される。万博は海外VIPの視察が恒例だが、VIP車両を先導するのはトヨタとダイムラー・クライスラーの燃料電池電気自動車だ。

 自動車以外の燃料電池も数多く出展される。大同メタル工業製の燃料電池搭載プラモデル車が販売される見通し。日立パビリオンに500台備えられる携帯情報端末「Nature Viewer」も燃料電池駆動だ。 また、技術ではないが、アメリカ館とイギリス館では生命循環系や地球科学について充実した展示がなされるという。

 愛知万博に足を運び、先端技術に触れるとともに、技術者としての夢を描いて見る機会にしてみてはどうだろうか。
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  関洋子(総研スタッフ)からメッセージ  
関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ
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いよいよ、愛知万博が始まります。この企画を立案した時点から、「絶対行くぞ」と心に決めています。私の注目は最新テクノロジーもですが、「中部千年共生村」のようなローテクと先端技術の融合展示。みなさんはどんなパビリオンや技術に注目していますか? 始まったら早々に、今回の記事で紹介した技術を、自分の目で確かめてきたいと思っています。
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