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エンジニア給与 知っ得 WAVE! Vol.32 ”成果主義による給与”に残業代は必要か?

成果主義制度への満足度を左右する要因に、残業代に対する意識があるようだ。成果ではなく、残業代で高い給与をもらう人がいる一方で、どんなに長時間働いても残業代がもらえない人もいるからだ。その意識の違いはどこから起きるのだろうか。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき イラスト/kucci(クッチー) 撮影/加納拓也) 作成日:05.02.02
サービス残業の温床は「裁量労働制」なのか

 日本の労働基準法によれば、雇用主は現実に労働した時間に対して労働契約などで定められた賃金を支払わなければならない。所定労働時間をオーバーすれば、残業代を払うというのが基本である。だが、これらの仕組みは、現在の労働状況には必ずしもフィットしないという声が強い。労働の質を問われないため、所定時間内にきっちり仕事を仕上げて帰る「できる社員」ではなく、ただ職場に「残っているだけ」の人に対して、残業代という賃金が支払われているからだ。

 こうした背景があって、まず企業は職場における残業時間の管理や削減に力を注ぐようになった。さらに制度としての裁量労働制を導入する企業も増えている。この裁量労働制を成果主義人事制度の根幹にすえる企業も多いが、その場合でも本来は、こうした考え方を基礎にすべきなのだが、必ずしもうまくいくケースばかりではない。

 たしかに、仕事をてきぱきと片づければ残業しなくても、同じ給与額がもらえるという考え方も可能だが、実態はその逆で、みなし労働時間を超えた残業分をタダ働きしているケースのほうがはるかに多い。裁量労働制が、サービス残業の“温床”といわれるのはそのためである。

 ところが、短絡的に「労働は時間ではなく成果だ」というだけの成果主義が押しつけられるのでは、働くほうとしてはたまったものではない。成果主義の目的のひとつである生産性の向上は達成されないまま、残業代だけがカットされ、手取り賃金が減るだけの職場では、労働者のストレスは高まる一方である。
成果主義では残業代は減少・消滅傾向

 Tech総研が、ソフト・ネットワーク関連と電気・電子・機械関連のエンジニア1000人を対象に実施した給与に関する調査でも、成果主義と残業代の関係について尋ねている。

 それによれば、いわゆる成果主義が導入されている職場で、「残業手当は残業した分すべて支給される」のは32%であるのに対して、「基本的に残業手当が出ない」のが33%と拮抗している。残りは「みなし労働時間制で残業手当分が固定」または「一定時間を超えると残業代カット」の職場。後者の3つをたすと、成果主義が導入された職場では、残業代が少なくなるか、またはなくなる傾向が強い、という現状が浮かび上がる(※DATA1)

 もっとも、成果主義人事制度が導入されていない企業でも、「基本的に残業手当はつかない」人が30%もいる。この人たちの職場が労基法に違反しているか、その詳細まではわからない。ちなみに今回の調査では、調査対象者の役職を「課長クラス」「リーダー・主任クラス」「役職なし」に限定しているが、役職の有無や、年俸制などと残業代の支給とは、特に関連はないようだ。
DATA1
成果主義への満足度と残業代に、強い相関あり

 では、残業代とからめて分析してみるとどうなるだろう。まず成果主義が導入されている企業のエンジニアは、現在の給与に対し「非常に満足している」のは全体の3%程度ときわめて少ないが、「まあまあ満足」の32%と合わせた「満足」層35%は、「やや不満」+「かなり不満」の「不満」層38%とほぼ同率になる(※DATA2)。この満足傾向は「残業手当がフルに出る」職場で強く、「残業手当がつかない」職場で低いということもわかる(※DATA3)。つまり成果主義導入の有無にかかわらず、「給与に満足」の理由は、残業代の有無・額と相関関係が高いということが仮説としていえそうなのだ。当然ながらその不満には根強いものがあり、成果主義そのものへの批判もちらほら見られる。

 成果主義導入後の給与に「満足」または「普通」と答えた人の理由を拾うと、「残業代が支給されるから」という理由が相当多い。それが結果として成果主義制度への「肯定」ないしは「積極的な反対ではない」という意見へつながる。

 なかには、現状のシステムに一定の合理性を感じている人や、両手を挙げて成果主義に賛成の人もいる。しかし、実態としてはこうした残業代ナシで働く、プロフェッショナルな働き方に納得している人は少数派だ。
DATA2
DATA3
■根強いサービス残業への不満派が多数
・見なし労働として残業相当分が毎月支給される決まりになっているが、とても実態を反映した金額ではない (システム開発・37歳)
・成果主義といいつつも、サービス残業が増えているだけ (品質管理・34歳)
・みなし残業制、成果主義ともに、全体給与支払額の削減化に利用されており、結果として、給料が下がった人がほとんどである (サービスエンジニア・37歳)
■残業時間でなく成果での評価に満足派も
・「残業代はフルチャージで支給され、なおかつ入社して数年は給与制で、出世して立場が重要になるにつれて年俸制へ移行するシステムもバランスが取れていると感じる」 (ソフト系研究・31歳)
・「残業したからといって、きちんと仕事をしているとは限らない人も多いので、残業手当はないほうがいい。その代わり、成果に応じて給与の額がダイナミックに変わるのがいい」 (コンサルタント・38歳)
成果主義のもとでも、やっぱり残業代は欲しい

 成果主義の究極の理想からすれば、最後にみたプロフェッショナル派の意見が主流を占めるべきであるはずなのに、現実には「残業代がフルで出るから」「みなし労働制が実態に合っているから」「他社のように残業代ゼロのところと比べるとまだマシだから」、それゆえ「まあまあ満足」という人が多い現実。つまり、多くのエンジニアが、成果主義人事制度のもとにおいても残業手当・残業代の存在を前提にしているというのは、なかなか興味深い。

 労働時間主義の職場で、残業代の支給がないことや、上限がカットされることへの不満が高いのは、ある意味当然のことだ。しかし、成果主義という本来、労働時間主義とは趣を異にした制度の下でも、残業という概念が残り、根強い期待については、どう考えればよいのだろうか。

 おそらく、そのすべての理由を含んで、いま日本の成果主義の向かう方向はおおむね正しいとしても、その運用方法がいまだ“発展途上”にあるということなのだろう。エンジニアに限らず、人は今まで得られていた権利をあきらめ、新しい制度に従って報酬を得るという変化に対して積極的になりにくい。こうした混乱が整理されるまでには、まだしばらく時間がかかりそうである。
[ 調査概要 ]
■調査方法
インターネット調査会社のパネル会員のうち、以下の職種に該当する25〜39歳の社会人男女に対するインターネットアンケート調査
■対象職種
・ソフトウェア系職種
コンサルタント、SE(ソフトウェア関連)、ネットワーク関連
・ハードウェア系職種
■有効回答数
1000件
■調査期間
2004年11月3日〜6日
 
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  宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ  
宮みゆき(総研スタッフ)からメッセージ
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成果主義になったからといって、残業代が支給されなくなるわけではありませんが、残業代ゼロや、みなし分として支給される会社も多いようです。全員が満足できる評価制度が生まれ、浸透するまでにはまだまだ時間がかかりそうですが、エンジニアの声をこうしてレポートすることで、労働や成果に見合う給与制度への道につながるかもしれません。今後も残業代については、追っていきたいと思いますので、みなさんの意見をぜひお聞かせください。
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