労働時間が多ければほかの職種に比べていい年収を得られるかというと、必ずしもそうでもないのが現実社会の厳しいところ。あるいは、収入のためにプライベートを犠牲にしてまで働くのが幸せかどうかは、個人の価値観によっても違うだろう。

　エンジニアが、収入と労働時間の関係について考えるとき、ひとつの大きな指標となるのが時給だ。今回は、リクルートが集計したデータ（＊）を基に、エンジニアの職種別に時給と年収、そして労働時間の関係について考察してみたい。

　右の2つの表は、正社員のエンジニアに限定し、職種別に年収と時給の高い順に20位までを集計したもの。下の散布図は、職種ごとに時給と労働時間の相関関係を示したものである。データはいずれも職種ごとの単純な平均値で、会社の規模や経験年数、年齢などは考慮していない。したがって、これをもって一概に語るのはやや強引な観も否めない。あくまで、大まかな傾向のひとつとして、あえて取り上げたことをお断りしておきたい。

学習院大学
経済学部教授
今野浩一郎氏

　現在活況を呈している、いわゆる花形の職種で、おもに大手企業が手がけている職種ですね。しっかりとした年功序列賃金に守られていて、年齢を重ねていくごとに収入も増えていきます。初級、中級、上級といったエンジニアの能力レベルに基づく市場格差の影響は、小さな企業に比べると小さいはずです。

　パッケージソフトやミドルウェアは優れた国産製品の開発が求められており、将来性の高い職種でもあります。技術力をもった営業職は市場価値が高く、セールスエンジニアやFAEも有望。とにかく稼ぎたい、という人はこのグループが狙い目でしょう。いずれにしても、高い技術力を磨くのが時給アップの近道です。

　やはり大企業に多い職種で、それなりに時給もよく、年収も標準並みというのがこのグループ。ただし、社内情報システムやシステム開発（汎用機系）などは市場が縮小傾向にあり、将来性があるとは言い切れません。SEであれば、スキルを磨き、ITコンサルタントを目指すのがより高い収入を得る最善策でしょう。

　現在の日本の賃金体系を前提としていえば、同じ分野でマネジャー型のエンジニアを目指すのが時給アップの近道です。ただ、しっかりとした技術力が売りものにできるのもこの職種の特徴で、生涯、エンジニアとして第一線で活躍して道を究めれば、定年後も再就職も有利。長い目で見れば、そちらのほうが幸福かもしれません。

　ネットワーク関連やシステム開発は、かなり勉強が大変かもしれませんがスキルを磨き、通信インフラ設計などへの転職を目指すのが理想。あるいは、やはりコンサルタント系を目指すべきでしょう。生産技術や生産管理などはマネジャーとして工場を動かすキーパースンになるのが時給増の方法です。

　化粧品や食品などは、おそらく小規模の企業が多いためにこうした結果として表れたのでしょう。運用、監視などの業務は、労働時間がきっちりと限られているため収入が上がりにくいかもしれません。より多く稼ぐことだけを考えるなら、時間を有効に使って勉強をし、ソフト開発系の職種に転進するのが早道だと思います。