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車の全方位衝突、6面吸収体電波暗室 エンジニアを惹きつける先端実験設備
モノづくりの基本に位置する「実験」。計測し、確かめ、評価する――その基本を極めてこそ、優れた技術は生まれる。日々進歩する成果を生み出す実験設備そのものが、日進月歩の存在なのだ。そんな「自慢の設備」を紹介したい。
(文/川畑英毅 総研スタッフ/根村かやの) 作成日:04.04.14
エンジニアの基礎は「実験」にあり
   エンジニアの仕事は「モノづくり」というけれど、その「モノ」の機能とは、すなわち物理現象! いかに求める機能を作り上げるか、あるいは、作り上げたものの機能をどう評価するか――そこに欠かせないのが実験設備である。
「考える」のもエンジニアの仕事のうちではあるが、実際に対象に触れ、「手を動かす」ことを通じて、新しいデータを導く。そこから、また新しい道も切り拓かれていく。
 それだけに、エンジニアにとって、またメーカーにとっても要といえる実験設備。「ウチの会社のこれが自慢!」という設備のいくつかを訪ねてみた。
 
「モノを評価する」技術を大切に 6面吸収体電波暗室ほか〔電波暗室棟〕 (太陽誘電株式会社) http://www.ty-top.com
「電磁波」がますます技術の焦点に
   PCや携帯電話、家電製品や車……。あらゆる分野で進むデジタル化。そうした電子機器から必ず出るのが、電磁波。しかし、これら電磁波はほかの電子機器に“悪さ”をすることもあり、国際的な基準で規制の対象にもなっている。

「電子機器からは、必ず電磁波は出てしまうものなんです。一般に電気的ノイズといわれるけれど、単にこれを『出さないようにする』のでは、求める機能まで抑え込むことになりかねない。ではいかに本来の機能とのバランスを取りつつ、電磁波を低減するか。そこが問題なんです」(太陽誘電株式会社 EMCセンター長 井狩英孝氏)
 
6面吸収体暗室
特にアンテナの評価に使われる、800MHzから110GHzの高周波に対応した6面吸収体電波暗室。吸収体の形状や構造にも工夫が凝らされ、測定エリアに直径約2mの、電波の反射が極限まで押さえ込まれた空間を生み出す。
   ここで大切なのが、そもそも機器からどれくらいの電磁波が出ているのか、さらに対策を講じたときに、どれだけ低減されているかを正確に測定し、評価すること。そんな時に力を発揮する実験設備が「電波暗室」だ。
「特に近年は無線LANや、あるいはBluetoothに代表されるPAN(Personal Area Network)など、意図的に電磁波を活用する機器も増えてきた。ますます電磁干渉問題がクローズアップされ、一方で、高い周波数帯を活用することが多くなってきたために、測定の必要性と難易度が上がってきているんです」(井狩氏)
「測る」のではなく「評価する」
 こうしたニーズにこたえるために作られたのが、太陽誘電自慢の世界トップレベルの施設、同社R&Dセンター内の「電波暗室棟」(2003年5月稼働開始)。

「10m法電波暗室」(国際規格に則り、被測定装置から10mの距離にあるアンテナで、機器からの電磁波を測定する)は、測定器を地下ピットに収めてケーブルロスを極力抑えるなど、精度を上げる工夫を凝らし、40GHzまでの測定が可能。
 また、「6面吸収体電波暗室」はアンテナの特性などを評価するためのもので、床面を含めたすべての面を電波吸収体で覆い、800MHz〜110GHzという高周波領域に対応している。
井狩英孝氏
太陽誘電株式会社EMCセンター長、井狩英孝氏。向かっている装置は、8年間の研究開発によって生み出された、近傍電磁界分布測定装置。現時点で1mmの高解像度で、3GHzの高周波まで、位相分布とともに解析が可能。
「電子部品を供給する太陽誘電という会社の中にあって、さまざまなものを『評価する』のがここでの仕事。『評価する』とは、単に『測定する=物理的数値を確かめる』のではなく、『そのものの価値を明確にする』ということです。本当に価値ある商品に仕上がっているのかを確かめ、お客さんのカユいところに手が届く性能をもっていることをアピールする。そのために、『評価』のための最高の実験設備が必要なんです」(井狩氏)
世界トップレベルのさまざまな「評価技術」
 このほか、電波暗室棟には、アンテナ特性を立体的に可視化表示できる「アンテナ指向性可視化システム」や、8年間の研究開発によって実現した、デジタル基板や半導体上の電界・磁界を世界最高レベルの高解像度で、位相も含めて視覚化できる「近傍電磁界分布測定装置」なども設置。
 さらに、世界で5番目、日本・アジア地域で初めて認定を取得した、Bluetoothロゴ認証用測定施設も併設している。

「電子機器の小型化、高性能化が進む中で、それを正確に測り、評価する技術は、どんな企業にとってもますます重みを増しています。もちろん、ただ設備をもつだけではなくて、それに関係する人材教育も大切になってくる。
10m法電波暗室
40GHzまでの測定を可能にした10m法電波暗室。従来、大型の10m法暗室で問題となっていたケーブルによる高周波のロスを、測定器を地下ピットに埋め込む工夫で解決。
   われわれの場合、将来ニーズに対応することも考えて、非常にいいタイミングで、こういう施設を建てることができた。今、まさにその成果が花開きつつあるところかな、と思っています」(井狩氏)
現場のニーズで世界初の施設を設備 屋内型全方位衝突施設(株式会社本田技術研究所)http://www.honda.co.jp
「リアルワールド」の安全を追求するために
「屋内型全方位衝突実験施設」は、Hondaの四輪開発の本拠地ともいえる、栃木工場の敷地内に建てられている。世界に先駆けてつくられたこの施設、延べ面積4万1000m2という大がかりな、まるでコンサートホールのような建物の中に扇状にコースが設けられ、15度刻みで全方位の衝突実験が行えるようになっている。

 最近のコンピュータシミュレーション技術の進歩は目覚しいものがある、というのが一般的な認識だろう。しかしHondaでは、それらの技術と、このリアルワールド再現の設備を用いて、最高の安全を提供することを考えている。
 
屋内型全方位衝突実験施設
クルマ同士を、15度刻みで角度を変えて衝突させることができる、世界初の屋内型全方位衝突実験施設。8本のコースはそれぞれ130m、最大牽引速度時速80km(2台同時走行時)で衝突させることができる。
「リアルワールドでの安全を追求するためには、クルマ同士、二輪車、歩行者などさまざまな対象を、いろいろな角度で、衝突させ、現象を把握しなければならない。
 私自身、転職して本田技術研究所に入りましたが、こうした施設は、トップダウンではなく、現場のわれわれエンジニアが、どうしても必要!と上を説得して作り上げていく。そういう風土、思想がHondaにはあるように思います」(株式会社本田技術研究所 栃木研究所開発ブロック 齋藤健一氏)
従来得られなかったデータが、飛躍を生む
 そんなHondaの風土や思想の象徴が、この「衝突実験施設」というわけだが、規模の大小こそあれ、同じ風土から実験施設が生まれていく光景が、社内では数多くみられるという。

「転職間もない頃、エアバッグの開発を担当していたのですが、そのための施設の増築と装置の導入を担当しました。本当に大変でしたが、ほとんど思いどおりにさせてもらえました。
 転職後よく耳にした、『Hondaでは、必要な人が、必要なものを、自分で調達するのだよ。』の意味を、実感する出来事でした」(齋藤氏)
齋藤健一氏
全方位衝突実験施設前にて、株式会社本田技術研究所、栃木研究所開発ブロック、齋藤健一氏。エアバッグ、シートベルト、シートなど、安全にかかわるデバイスの開発を担当。
 
 技術の仕事の中では、手近にあるものを、不便でも工夫して使うことが必要な場面も確かにあるが、それだけでは通らない。実験施設も、また同様である。実現象をより細かく知ること、それまで得られなかったデータが得られることで初めて、それが新しい技術となって生かせるものがある。

「この衝突実験施設にしても、以前は、社外の施設を利用して実験を行っていましたが、それでは、精度の面でも、内容の面でも、『具体的な設計に使える』データにしていくことはなかなか難しい。やはり『手持ち』の施設は必要なんです。
 数々の壁を越えてモノづくりを飛躍させるためには、『道具』って、重要なんですよ」(齋藤氏)
エンジニアが集う場所
 衝突実験は、さまざまな要素技術が最終的にひとつの「クルマ」として出来上がった段階で迎える、いわば「最終関門」のようなもの。それだけに、さまざまな条件で実験を行わなければならない一方で、係わったあらゆるエンジニアにとって、自らの設計・開発が最後に試される場でもある。

「クルマは、さまざまな部品の集合体であり、それを設計したエンジニアの思い入れが集まったものです。衝突実験施設のようなクルマ全体の評価を行う施設は、いろいろなエンジニアの思いが集う場所といえるかもしれません。
 これまでにない機能を盛り込んで、これだけ大がかりに実験施設をつくるとなると、手間もお金も掛かるんですけれど、『必要だ!』が通る――そんな環境があってこそ、『次の進歩』があると思います」(齋藤氏)
全方位衝突実験施設外観(CG)
全方位衝突実験施設外観(CG)。延べ面積は4万1000m2。手前の「扇」部分に0度から90度までの7本のコース、左奥に延びた扇の「柄」の部分に180度のコースが設けられている。
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根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ
 文字どおりの意味で、設備や機器を使って実験をするのは、エンジニアの中でも一部の人たちかもしれません。けれども、実験したい人が納得いくまで実験できる環境は、実験しないエンジニアにとっても「いい職場」の条件なのではないでしょうか。
 実験の現場は、エンジニアがもっともエンジニアらしく輝く場所のひとつだと思います。エンジニアの皆さんを、そんな現場に訪ねる機会がもっとあれば、といつも思っています。

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