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いまだリストラ終息せず 怯える高給与30代「次の一手」
多くの企業でリストラが一段落し、業績の改善や利益の向上が報じられている。本当にリストラは終息したのか? 次の標的とうわさされていた、30代半ばのバブル期入社組は安泰なのか? 調べてみると、どうも違うようだ。特に高年収の人ほど危ないという。その背景と「次の一手」を研究した。
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ 撮影/栗原克己) 作成日:03.08.27

チェスphoto
写真協力:日本チェス協会
THANKS! リストラ対象者が50代から40代に移り、「次は私たちの番ではないか」と怯える30代エンジニアの方が多くいます。「リストラ終息」といわれる現在でも、そんな方が減る様子はありません。今回はその実態を探るべく、30代のリストラ事情を明らかにしていきます。
Part1
金子勝が吼える! リストラがこのまま終わるはずがない
 リストラによる人件費削減が成功して、多くの企業が業績向上を発表。平均株価の上昇も重なり、日本経済に先行きの期待感が膨らんでいる。この現状を経済学者はどう見るのか。慶應義塾大学教授の金子勝氏の話は、そんな浮かれ気分を吹き飛ばす内容だった。
金子さんphoto
 
慶應義塾大学経済学部教授
 
 
金子 勝 氏
1952年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。専門は財政学、地方財政論。「朝まで生テレビ」(テレビ朝日)などでの辛口の経済学者として知られる。『ダマされるな!―目からウロコの政治経済学』(ダイヤモンド社)、『長期停滞』(筑摩書房)など著書多数。
リストラ終息も景気回復もウソっぱちだ
 リストラはなくなりません。また、景気がよくなったというのはウソです。平均株価の上昇にしても、政府が秋の総裁選をにらんで株価をつり上げているだけの話です。「景気回復」という楽観論に、われわれは10年間だまされ続けてきたじゃないですか。

 アメリカを例にしましょう。IT不況で主にインドへのアウトソーシングが進み、ハイテク業界の従業員の約1割がリストラされた。加えて、「グローバル・スタンダード」という名の会計基準により、企業は現金収支を絶えず黒字にする義務が生じた。その最も有効な手段が雇用の削減です。ただし、その数は常に変動するので、臨時雇用を多くした。これで、好きなだけリストラができます。インドを中国に置き換えれば、日本と同じになりませんか。
査定のあいまいさがリストラを加速させる
 日本のリストラの特徴は、パワーハラスメント、成果主義、あいまいな査定の3つです。パワーハラスメントとは、権力を使ったいじめ。日本はチーム行動が基本なので、おとなしい人、協調性のない人、上司に盾突く人が狙われます。
 成果主義の導入がリストラの理由をつくります。無能な経営者が基準もなくクビを切って、人件費を削減して、利益が出たと喜べる制度です。しかし、なぜ「基準もなく」なのでしょうか。

 アメリカは多民族国家ですから、人種による雇用差別に敏感です。そのため、多くの企業では査定結果を従業員に知らせて、署名を求めます。同意がなくても、査定を見たという署名はさせる。なぜなら、裁判になった場合、雇用差別がなかったという挙証責任は会社側にあるからです。署名がないと敗訴の確率が高まるわけです。

 しかし、日本にはその習慣が全くない。裁判所にさえ査定の書類は出さない。査定結果の通知がないから、評価基準もあいまいです。特にエンジニアは、結果が明確な数字で出ることが少なく、成果までのスパンも長いので、余計に不利益を被ります。

30代の「セコイ個人主義」が事態をより悲惨に
 これから大変なのは、30代の過剰雇用世代です。本格的なリストラが始まるでしょう。生き残り競争が始まったら、悲惨な事態になります。賃金だけを見ても、リストラをされた人と社内に残った人との格差が、異様に大きくなっています。

 今後は、皆が長期で働ける仕組みを作るべきです。例えば、正規雇用も臨時雇用も同じ待遇となる、年金と社会保険の一元化。これら社会制度を整えながら、雇用のルールをフェアにして、かつそれをチェックする仕組みが必要です。
 ただ、この世代以下の人には「セコイ個人主義者」が多くいる。皆でまとまって同じルールを共有するという広い社会的視野があって、はじめて個人の自由が確保できるのに、そこに目が行きません。
 この仕組みづくりが進まないと、非常に貧しい後半人生が待っているかもしれません。
Part2
300人調査でわかった30代エンジニアのリストラ実感
 30代のエンジニアにリストラに関するアンケート調査を行い、彼らが社内で感じているリストラの現状、その対象者、今後の予測などを尋ねた。現場の声は、リストラ終焉とはほど遠いものだった。
全国のエンジニアにメールでアンケートを実施(7月16〜18日)。有効回答者数は300人。年齢は30〜34歳が162人(54%)、35〜39歳が138人(46%)。
調査におけるリストラの定義は、「不本意な部署への強制的な異動、出向、転籍など」。
「リストラ進行中」と「自分が標的」がともに6割
 回答者の6割の会社でリストラがあり、現在もほとんどが継続中。しかも、5人に1人は、リストラは今後も「加速しそう」、あるいは「一生続きそう」と答えている。
 また、6割弱の人が、自分自身が対象者になる可能性を感じている。「すげーやばい」と危機感を持つ人の、理由の一部を紹介する。
「会社の立場で合理的に見ると、30代従業員が最もコストパフォーマンスが低い」(SE)、「プライドを持ちすぎている。上司から見たら使いづらいだろう」(サービスエンジニア)、「1人減らせば1.5人分の人件費削減。私の技術レベルはほどほどです」(SE)。

 逆に、「絶対ない」と答えた人は、以下の理由による。
「まだまだ中核で信頼されているから」(コンサルタント)、「上層部から信頼を得ている」(ネットワークエンジニア)、「技術レベルが高いと思っている」(SE)、「賃金が安いから」(SE)。
 このように、危機感の高い人ほど「会社の論理」でリストラを考え、低い人ほど「個人の論理」で理由付けをしていることが多かった。
Q1.Q2.グラフ
高い給与のエンジニアが狙われる理由
 今後のリストラ対象者については、「高年収層」が約1.5倍増加している。なぜ、給与の高いエンジニアなのだろう。
「30代後半以上の人に、年収とスキルの見合わない人が多い」(SE)、「後輩から見てもバブル期の人員は、口だけ達者で何もしない」(研究開発)、「割といい加減に勉強して高い給与をもらっている人。同じ仕事なら使いやすく、給与が安い若年層にシフトされると思う」(SE)など、かなり手厳しい意見が多い。
 30代エンジニアの多くは、まだまだリストラに怯え、高年収層が次の標的になると実感している。問題は、スキルに見合った高年収者とそうでない高年収者がいることだろう。その査定をするのは企業だが、下の中森氏の例もある。「仕事ができるから」と、安心はできない。
Q3.Q4グラフ
  30代の相談が急増中 - 日本労働弁護団  
「リストラ110番」などを設置している日本労働弁護団によると、解雇や退職勧奨などを訴える相談者に、30代が急増しているという。
 昨年の相談件数は、前年比141件増の2386件(常設の相談電話と年2回の全国一斉相談)。このうち30代は500件で、50代の585件に次ぐ高さ。また、今年の5月までの相談件数では、30代が最も多い。
   
エンジニアのリストラとはどのようなものか。どんな「告知」があり、どのような「仕打ち」を受けるのか。ここに、リストラに500日間抵抗して、元の肩書を勝ち取ったSEがいる。生々しい実体験を語ってもらった。
中森さんphoto
システムエンジニア
中森 勇人 氏
1964年生まれ。大学工学部卒業後、機械メーカーを経て大手金属メーカーの子会社へ転職。入社10年目にリストラを受けるが、500日に及ぶ抵抗で撤回させる。現在もその企業に勤務の傍ら、リストラ評論家として活躍中。
入社10年目に受けた突然のリストラ勧告
 中森氏がリストラにあったのは、転職して10年を経た35歳のとき。会議室にいきなり呼ばれて、「君にやってもらう仕事はない」。そして、「身の処し方を考えてくれ」。
「私が集めたリストラの事例や情報によると、対象者に選ばれる原因の7、8割は、上司との確執です。人事・査定権を持つ上司。私がまさにそうでした」
 数日考えて退職を断ると、一般職への配置転換が提案された。「エンジニアという専門職だけは譲れない」と拒否したその日から、会社との闘争が始まった。

プライドを傷つけるとエンジニアは辞める
「泣き落としがあり、脅迫があり、その仕打ちはさまざまです。リストラ部屋へも3カ月入れられました。仕事は、未経験者にもできる装置の試験など。私もそうですが、エンジニアはプライドが高い。会社も承知しているので、そこを突くんです」
 そして、いじめが始まった。
「帰社してホワイトボードを見ると、私の名前が『変人』になっている。誰も消さない。社食でメシを食う仲間もいない。また、会社の同僚を送っていったとき、仕事の話は普通にするんです。ただ、私のリストラの話になると、ひと言もしゃべらない。あいづちも打たない。私と話したことが後で公になるのが怖かったんでしょうね。一緒に徹夜で開発をしたエンジニア仲間ですよ。その後、一人で泣きました」

30代高年収層のリストラは始まっている

 現在では多様な人脈を持ち、評論家としても活躍する中森氏は、リストラはまだ終わらないと語る。
「今のターゲットはバブル期に入社した30代。給与の高い層は既に始まっていて、主な手法は転籍です。これで給与を3割くらい落とす。組合も合意しているので文句はいえない。企業も訴訟などで痛い目に遭ってきたので、賃金を下げる『広く浅いリストラ』が始まっています。また、大手企業であれば、分社化して、その内の1社にリストラ要員を集めて、会社をつぶすなど。それでも十分に採算が取れますから」
 中森氏は、1回目のリストラ勧告を受けて、それを突っぱねられれば、ほとんどの人は再度勧告を受けないという。基本的な対応策は、「辞めません」と言い続けることだそうだ。
リストラ評論家の中森氏が教える
自己都合退職に追い込む手法
1. 仕事をさせない
プライドを傷つけると同時に、目標達成度を落として勤務評定を下げる。
2. 社内いじめ
孤立感を高め、精神的にも物理的にも業務に支障を来すようにする。
3. リストラ部屋
独房と同じ効用。精神的なダメージを与えて「辞める」と言わせる。
リストラ部屋photo
中森氏が入った「リストラ部屋」(現在は廃止)
Part3
リストラに立ち向かう30代の「次の一手」とは
 日本経済の本格的な回復も現状では断言できない。実際に30代エンジニアたちもリストラの波が去ったとは感じていない。高年収の人ほど狙われそう。ならば、それを避けるための「次の一手」とは何だろうか。
 
目立ってきたビジネススキルの資格・勉強
 アンケートでは、「リストラおよび将来に向けた努力」も尋ねている。その1位が「資格取得」(複数回答で29%)。根強い人気があるようだが、新しい動きも出てきている。
「経営に必須の簿記会計の資格取得を目指している」(SE)、「経営が面白くなってきたので、手元の情報をもとに科学的な経済予測を行い、数週間、数カ月後に結果を検分している」(SE)。
 ほかにも、心理学、環境学、語学など幅広い回答があった。もちろん、このような資格取得だけで、高年収者のリストラが回避できるとは、多くのエンジニアは思っていないだろう。
社外での広い人脈づくりがリストラを救う
 一方では、「人脈づくり」(3位:21.7%)に励む人も多い。
「資格はだれでも考えること。取得者が増えると結局値崩れするので、社外人脈づくりに取り組んでいる」(回路設計)、「同業他社の社員と協力し、ギブアンドテイクで情報を集めている」(SE)、「特殊な業界なので他業種との交流を深めている。『この仕事しかできない』人にならないためにも、興味を広く持ちたい」(機械設計)。
 そのほか、「転職したい企業があり、入社に必要なスキルの習得を行っている」(SE)、「大学時代の友人を頼って、ヘッドハンティング会社を紹介してもらった」(ソフトウェア研究)など、「転職先探し」(4位:18.3%)をする人もいる。

一方、約3割のエンジニアは「一手」を思案中
 このように、だれもが「次の一手」を用意している、と思いきや、実はアンケートの2位は「特になし」(27.3%)。その理由は、「スキルに自信あり」「上司とうまくいってるから」「まだ給与が高くない」「ほかに人がいない」など。日々必要なスキルの向上には努めているにしても、根拠が希薄なコメントが並んだ。
 雇用調整の手段としてリストラが利用されることは、残念ながら避けられそうにない。高いスキルを持つ人、給与の高い人も、例外ではなくなっている。ならば、次の一手は、将来の危機を想定した、行動の準備だろう。まずは、会社と距離感を持つことが必要。
 中森氏のような徹底抗戦も、金子氏が提言する社会体制への協力も、この距離感がなければ十分にできないこと。エンジニアがなめられてリストラされる社会など、存在してよいはずがない。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
高橋イメージイラスト  リストラの話でいつも感じるのは、対象となる人は「多くの人が納得する客観的な基準で選ばれた人か」ということです。「多くの人の納得」は結果論でもOKですから魔女狩り、つまり、いじめと戦略でつじつま合わせができます。「客観的な基準」は本当にあるのでしょうか。
 あなたはどう思いますか? また、アンケートで300人中171人が、現在リストラ中と答えました。あなたの会社ではどうですか? ぜひ、ご意見を聞かせてください。

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