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電子政府本格化をどう生かす?Linux-J2EEで広げるライバルとの市場価値
電子政府本格化時代を迎えるにあたり、政府は昨年度末にオープンソースを支援する考えを示した。オープンソースの有力技術「Linux-J2EE」はITエンジニアの価値をどう変えていくのか。どのようなレベルまで掘り下げれば価値は高まるのだろうか。
(総研スタッフ/関洋子) 作成日:03.06.11

THANKS! 「LinuxやJ2EEが最近、注目されているけど、転職市場での価値はどうなのか」「政府が支援するインパクトといってもしょせん一部のものなのでは?」──。多くの読者の方からいただいたこのような疑問に今回は答えてみました。
Survey1 || バカにできない?政府のオープンソース支援
Survey2 || 求人市場におけるLinux、J2EEの価値トレンド
Survey3 || ライバルとの差はココでつける
Survey1 バカにできない?政府のオープンソース支援

電子政府は3兆円市場を生み出すITビジネスの起爆剤

 昨年度に一部、稼働が始まった住民基本台帳ネットワーク。また電子入札や電子申請システムや認証基盤の構築、総合行政ネットワークの市区町村、霞ヶ関WANとの連携など、電子政府実現に向けた取り組みが着実に進められている。ある大手ITベンダーによると電子政府のインパクトは官需で1兆円、それに伴う民需は3兆円を超す市場を創出すると試算しているほどだ。

 このような電子政府本格化時代を迎え、オープンソース技術に注目が集まっている。昨年末に行われたOSDNジャパン主催のオープンソース推進のためのカンファレンス「オープンソースウェイ」で経済産業省・IT産業室長の福田秀敬氏は「政府としてオープンソースソフトの開発を支援する」という趣旨の講演を行った。これから本格化する電子政府関連の開発においても、オープンソースソフトが採択される可能性を示唆した。実際、経済産業省は今年、「オープンソフトウェア活用基盤整備事業」に10億円という予算を計上している。それに呼応するように、多くのITベンダーがオープンソース・プラットフォームへの対応にシフトしている。そしてそのオープンソース技術の候補としてまず、挙げられるのがLinuxでありJAVAであることは間違いないだろう。


■2004年までの電子政府化のロードマップ

電子政府化のロードマップ

ワールドワイドで進む電子政府へのLinux採用

 現在、Web系システムの開発においては、JAVA、特にJ2EEを使った開発が盛んに行われている。電子政府もWebとの親和性が不可欠であることから考えても、J2EEの普及はさらに加速度が増しそうだ。

 一方、Linuxはまだまだエンタープライズシステムで使われることは少ない。しかし下記表を見ればわかるとおり、ワールドワイドな電子政府関連の案件で、着実にLinuxが採用されているのだ。またそれを後押しするように、日本IBMや富士通、NEC、日立などのメインフレームメーカー、SAP、日本オラクルなどのパッケージベンダーがLinuxに対応した製品の発表を続々と行っている。

 表以外の国々でも、電子政府関連のシステム開発において、オープンソース技術の検討を進めているのだ。もちろん「オープンソース=Linux」というわけではない。しかしそれを割り引いたとしても、電子政府の本格化によって、Linuxが急速に普及するのは間違いなさそうだ。

 Linux、J2EEの普及を妨げる要因があるとすれば、それらの技術にたけたITエンジニアが少ないことが挙げられる。では、現在これらの技術を身につけているエンジニアの市場価値と求人ニーズについて、識者への取材をもとに検証していく。


■世界各国のLinuxへの主な取り組み

日本 東京都目黒区役所がLinuxを採用したイントラネットシステムを構築 2003.5
イギリス 政府調達庁(OGC)が新しく構築するオンライン調達システムにLinuxを採用 2003.4
米国 eGovOS会議で、NSAと国防総省はオープンソースの利用促進の継続を発表。またSecurity Enhanced Linux (SE Linux)の開発も継続し、フリーソフトとして提供する。 2003.3
ドイツ 地方都市シュヴェービッシュ・ハルの役所のコンピュータ、サーバーがSuSE Linuxで置き換えられた 2003.3
ドイツ 政府などの公共機関におけるLinux導入のためのパイロットプログラム終了 2003.3
中国 中国政府が支援するChine-IBM Linux センタが北京で発足 2003.3
アジア タイでサーバー向けオープンソース・システムを開発するワーキンググループが発足。Linuxのアジア太平洋バージョンの開発、ビジネス普及を目指す 2003.3
インド 西ベンガル州政府は、稼働中のLinuxベースのG2C(政府-市民)ポータルに続き、 G2G(政府-政府)ポータルの開発を計画 2003.1
日本 IT戦略会議で OSのオープンソース化の進展に対応した政策・戦略が必要と提言 2002.12
EU 既存システムから Linux への円滑な移行を討議するため、コンサル会社と契約 2002.10
韓国 韓国政府がLinuxを本格導入 2002.1

JAVAエンジニアの争奪戦が全国で始まる?
 今、地方自治体はJavaエンジニアの育成に取り組んでいる。その一例が岐阜県大垣市に開設された「ソフトピア・ジャパン・オープンネットワーク・イノベーションセンター」だ。学卒者などを対象に年間180人のJavaエンジニア育成、電子自治体システム構築などを受注し、県内の雇用促進を図るという。そのほか、宮城、福岡、札幌などでも積極的にJAVAエンジニアを養成するコースを開催しているという。
Survey2 求人市場におけるLinux、J2EEの価値

 「Linux」「J2EE」はITベンダーやITエンジニア個人にとって、どういう位置付けを担う技術となっているのだろうか。
「現在、弊社に寄せられている首都圏を勤務地とするITエンジニアの求人件数は約2000件。このうち「Java」もしくは「Linux」という条件がついている件数は約500件。実に求人件数の25%を占めています」
 とリクルートエイブリックの鹿児島氏は話す。では各技術について詳細なエンジニアニーズを見ていこう。


Linux

資格取得者、セミナー受講者とも倍増

 「データーベースやWebサーバー、メールはもちろん、CAD、レンダリング用など、今、アプリケーションソフトの数が増加しているサーバー系OSはLinuxです。OSとしてシェアが急速に伸びています」と語るのは、ワールドワイドにLinux技術者の資格認定を中立の立場で行うNPO、LPI-Japanの成井氏。

株式会社リクルートエイブリック

キャリアプロモーション一部
ITCAグループ
キャリアアドバイザー
鹿児島淳氏

 「現在、1カ月に受験する人は650人にも上っている。これは昨年度の倍です。特に大手ハードメーカーやソフト開発会社の技術者が資格取得に積極的に取り組んでいる。レベル1の認定者でも市場ではかなりの差別化要因になりますよ」(成井氏)

 「Linuxのコースは今、非常に人気が高いです」と語るのはグローバル ナレッジ ネットワークの佐渡氏。特に企業に出向いて行われるトレーニングは「昨年度の倍の勢いで増えている」と言う。トレーニングを受講しているのは運用、サポートエンジニア。従来のサーバーをLinuxへ置き換えが進んでいるためだ。
 「家電メーカーでも、ネット家電のサポート体制を整えるため、Linuxエンジニアの育成が盛んに行われています」(佐渡氏)

LPI-Japan

理事長
成井 弦氏

Linuxエンジニアのニーズはまだ顕在化していない

 では、Linuxエンジニアは転職市場で求められているのだろうか。
 「Linuxはまだ、求人市場では“尚可条件”なんですよ」 と前出の鹿児島氏は語るように、現在、Linuxは転職時の応募条件における絶対的な必須条件とはいえないようだ。つまり、そのプラットホーム上での開発や運用、サポートの経験は、書類・面接上の有利な条件になるほどまでにはなっていないということ。

 グローバル ナレッジ ネットワークでは、Linuxの教育機会は昨年度より倍近くの伸びを示しているという。この事実から考えても、ITベンダーはLinuxエンジニアを求めているはずなのだが……。

 「その理由は3つあります。Linuxでの開発案件がまだまだ少ないこと、Linuxの専門家が少ないと認知されていること、そしてまだサーバーOSとしてのシェアが低い(IDCジャパンの予測によると、2004年に25.4%)ことが挙げられます」(鹿児島氏)

 今はまだ採用ニーズが顕在化していないが、Linuxに焦点を合わせたビジネスを展開している企業も増えており、年々、サーバーOSとしてのシェアも伸ばしている。電子政府への取り組みを考えても、Linuxエンジニアのニーズが顕在化するのは、これからといえそうだ。

グローバル ナレッジ ネットワーク株式会社

ラーニングソリューション本部
IT教育エンジニア
Linux/UNIX/Java/Oracle
佐渡智志氏

J2EE

サーバーサイドJava関連知識の習得に高い意欲を示す

「昨年の10月から開始したサーバーサイドJavaやサーブレットの知識を問う『SJC-WC』資格の受講者は、毎月、倍近いスピードで伸びています」と語るのはサン・マイクロシステムズの寺島氏。同社で開催されているトレーニングコースの受講者数も順調に推移しているという。

 グローバル ナレッジ ネットワークの遠藤氏も「サーブレット、JSP関連のセミナーは非常に人気が高い」と語る。ITエンジニア、ITベンダー共にサーバーサイドJavaの習得に注力しているようだ。


Javaエンジニアのニーズは好調に推移

 転職市場においても同様の傾向が見られる。鹿児島氏は「Javaエンジニアのニーズはエンタープライズ、組み込み系とも、非常に高いです。しかも1〜2年の経験でも十分というぐらい、まだ敷居が低い。Javaを提唱している人たちは若いので、たとえ業務経験はなくてもプライベートでJavaをやっていましたという人でも採用される可能性があります」と語る。

 このように増加する案件に対してまだまだJavaエンジニアが少ないということ。特に今後、電子政府をはじめエンタープライズ系の市場が拡大することを考えると、転職市場においてJ2EEエンジニアは高値を呼ぶことは間違いなさそうだ。

サン・マイクロシステムズ株式会社

フィールドマーケティング本部
インフラストラクチャ・ソリューション・マーケティング部 部長
寺島義人氏


グローバル ナレッジ ネットワーク株式会社

ラーニングソリューション本部
IT教育エンジニア
Java/オブジェクト指向
遠藤正隆氏

■Linux&Javaの資格紹介

Linux技術者認定試験LPIC
LPICはワールドワイドで通用するLinux技術者認定資格。試験は3段階のレベルに分かれ、現在、日本語で実施しているのはレベル1、レベル2。試験はオンライン施設を利用して行われる。
詳細→http://www.lpi.or.jp
JAVAテクノロジー認定資格
サン・マイクロシステムズが提供する認定資格はSJC-P(Sun認定JAVAプログラマー)、SJC-D(Sun認定JAVAディベロッパー)、SJC-WC(Sun認定Web Componentディベロッパー)、SJC-EA(Sun認定Jエンタープライズアーキテクト)の4種。SJC-EAは英語で行われる。
詳細→http://suned.sun.co.jp/JPN/certification/
Survey3 ライバルとの差はココでつける

 これまで見てきたように、Linux、J2EEエンジニアの双方の市場価値は今、確かに高い。電子政府の案件が増えれば、さらに市場価値は高騰する可能性もある。しかし5年後、10年後を考えれば、その価値は盤石ではない。なぜなら「Linux、J2EE双方ともエンジニアが少ない」にもかかわらず、「市場が求めている」、つまり人材供給よりも需要が大きいので、必然的に価値が高まっているにすぎないからだ。トレーニング受講者、資格取得者も急増しており、だれもが「技術」を身につければその価値は下がってしまうという不安もある。
 ではどうすればライバルに差を付けられるのか、そのポイントを考察しよう。


(1) OSの中味を理解する
 「これからはOSをアプリケーションに合わせて、どうモディファイするかで差別化を図る時代になる。OSの理解こそがITエンジニア差別化の条件。LinuxはOSの中身が公開され、組み込み型のアプリから大型のサーバまで使用されていますので、幅広い分野で活躍できます。ただ単に言語系のソフト開発を行う体力勝負の世界から脱却するためには不可欠な知識です」(成井氏)
(2) 最適な設計力を身につける
 「能力の高いプログラマーはしょせん、倍の生産性を挙げることしかできません。しかし設計力の違いによっては、システムのスループット、パフォーマンスを100倍向上するシステムを作る可能性もあります。J2EEはコンポーネントの使い方一つによってそういう貢献ができる技術。よい設計ができるかどうかが、市場価値の差となって表れるでしょうね。トレーニングをそのようなスキル向上の場として生かして欲しい」(寺島氏)
(3) オープンソースマインドを身に付ける
 「Linuxは多くの技術者の貢献により開発されたOS。これからは、自ら積極的に多くのことに貢献しようとする姿勢が、技術者に問われる時代になるでしょう。どんな業務においてもセルフスターター(いわれてやるのではなく、自ら進んで取り組める人)となることが重要です」(成井氏)
「オープンソースの世界で切磋琢磨することは、自らのスキルを磨き、価値を高めることにほかなりません」(鹿児島氏)
(4) オブジェクト指向に合った開発プロセスを習得する
「J2EEはエンタープライズWebアプリケーション開発環境として定着しましたが、いまだに開発プロセスはウォータフォール型のままという事例が少なくありません。システムの高機能化、短納期化、変化への柔軟性に対応するためには、UPやアジャイルといった反復型プロセスへの転換は不可欠ですが、これはシステム開発に関わるすべてのエンジニアおよび組織に影響を与えます。このような変化に対応するための基礎知識・技術を習得することが市場価値アップにつながるでしょう」(佐渡氏)

 これらの4つのポイントを総括すると「Linux-J2EE」の合わせ技を身に付けることこそが、ライバルに差を付けるポイントといえるのではないだろうか。

 トレンドとなる技術の理解はITエンジニアとして最低限の条件ともいえる。その技術をいかにうまく使い、新しいビジネス、サービスに結びつけるかを思考すること──。Linux-J2EEを掘り下げて理解することは、このような姿勢が身につくきっかけとなるはずだ。


 
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関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ
 「得意なモノを作って貢献することを尊ぶ世界」──。これこそがオープンソースマインド。Linuxのカーネル開発では採用されると映画のエンディングロールのようにクレジットが入るそうです。オープンソースの採用は、IT業界における評価と報酬さえも変えるそんな可能性を秘めているかもしれません。
 みなさんの中で今、気になっている「スキル」はありませんか。技術動向は知っているけれども、転職市場での価値を知りたいということがあれば、ぜひ、提案してください。即、調査したいと思います。

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