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やっぱりエンジニアはオモシロイ!
技術未来人インタビュー
古い価値観、見えない「洗脳」からの脱出、
その先にエンジニアの明るい未来がある
米カリフォルニア大学
サンタバーバラ校材料物性工学部教授
中村修二氏
世界初高輝度青色発光ダイオードを発明、次期ノーベル賞候補として注目の中村修二氏。彼は今、沈滞ムード漂う日本のエンジニアの現状を憂慮する。現況を打破し、エンジニア人生を楽しむためにはどうすればよいのか、語ってもらった。
(総研スタッフ/関洋子) 作成日:03.03.26
[PROFILE]
●ナカムラシュウジ
1954年生まれ。79年、徳島大学工学部電子工学科修士卒。同年、日亜化学工業へ入社。93年に世界初の高輝度青色LED実用製品化に成功。95年、青色半導体レーザーの室温発光に成功。99年、日亜化学工業を退社。2000年2月より現職に付く。著書に『怒りのブレークスルー』『21世紀の絶対温度』『赤の発見青の発見』などがある。
政府による規制が不透明な時代になる原因となった
──「失われた10年」と世間ではいわれたりしています。この10年を修二さんなりに振り返ると、どんな10年だったでしょうか。
中村:そうですね。90年当時というと日本がバブルの頃ですね。多くの企業では研究開発も好景気で非常に盛り上がっていました。「Japan as No.1」といわれていたんですよね。89年4月、フロリダに留学していた私はそのことを身をもって体験しました。向こうの学生は私たちと比べると劣っているなって、それが実感でした。

──今、留学生にはアジアの人もたくさんいるようですが、当時はいかがでしたか。
中村:当時から現地の人は少なく、私のクラスはほとんど、韓国や中国から来た人で占められていましたよ。だからせっかくアメリカに行ったのに、ネイティブの英語を耳にしなかった。韓国訛、中国訛の英語だったから、英語に対してコンプレックスもなし(笑)。日本からきたのは私一人だったのだけど、日本はすごいねという感じでしたよ。当時、フロリダではホンダ車がいちばん、高い値で売買されていたんです。世界の中でも日本が技術でリードしていたんですよ、当時は。

──それからどんどん、失われた10年へと進んでいった?
中村:そう。その後の10年はどんどん不透明感が増した時代です。「Japan as No.1」が揺らぎ出した。その大きな原因を作ったのが、日本政府。官僚や政治家たちですよ。例えば米国では大統領がトップダウンでベンチャーを育成する仕組みを作ろうと思えばすぐできる。でも日本はなかなかできないでしょ。
 
 例えば信号機。私が開発した青色LEDを信号に採用していないのは、日本ぐらいですよ。欧米はもちろん、中国や韓国までも採用しているのに……。青色LEDを使えば、恒久的に信号機の交換が不必要になる。そうなると、困るわけです。今まで信号機の交換を仕事としていた人は、その仕事がなくなるから。このような会社に官僚や政治家たちが深く関わっている。

──最近では工業・家電製品や自動車など、さまざまな表示部分にLEDが採用されていますが……。
中村:民間企業は変わろうとしているんですよ。例えばJR東日本だって、信号機はLEDに変わっています。でも国が絡むとダメになる。
 
 ベンチャーが育たないのも、国に問題があります。日本でベンチャー企業を興そうとすると担保が必要で、失敗するとその個人に借金が残る。でもアメリカではベンチャー企業で失敗しても、投資家が損をするだけで個人の借金はゼロ。だから日本ではベンチャーがなかなか育たないんです。新しいことが起こらないから、新しい力が沸き上がってこない。日本が弱くなってきたといわれるんですよ。
古い観念に縛られた「洗脳」から解放せよ
──そうなると国から変わっていかないといけないのでしょうか。
中村:日本はまだまだ封建的な考えに縛られた国です。でもそのことに気づかない人が多い。学会に行っても会社の悪口をいう人がたくさんいます。「じゃ、辞めれば」というのだけど、辞められない。家族がいるからとか理由をつけるけれども、根底には今の会社を辞めて転職するのは、道徳に反するという気持ちがあるのです。かつての私自身もそうでしたよ。

 ではどうやってその洗脳から解き放つかというと、外から日本を客観的に見ることです。だからぜひ、海外に4、5年、留学や海外勤務することを勧めたい。そうすれば、日本の中にある古い価値観から解き放たれ、自由発想が身に付きます。
 
 日本の教育制度はまだまだ画一的で、そして親も子供が小中学生のころから、「有名大学にいきなさい」という人が多い。そうやって育った彼らは有名大学に合格することが夢になる。そして学歴でまた就職先が決まる。つまり自分のやりたいことで就職先を選んでいる人は、諸外国に比べ非常に少ないんです。少し大げさかもしれませんが、自らの決定に自信が持てないロボット人間をいくら輩出しても、面白いことは生まれてこない。

──ソニーの開発者の中に、面白いことは上司に内緒でやらないとだめだという人がいますが、そのように内緒でやりたいことをする意思とそれを許す環境の中から次の面白いことが生まれてくるんでしょうか。
中村:そうですね。だから現在のような主従関係のしがらみを壊さないとダメなんです。そのためにはエンジニアもFA宣言すること。4、5年おきに職を変えることです。エンジニアは本来、やりたいことを正直にやっていたい人種なんです。そしてそれを実現できる能力を備えている人も多いはず。それなのにいやだと思っていることをやるから、突き詰めて考えることがなくスキルも中途半端になってしまう。だいたい5年も同じことをしていたら、飽きるでしょ。
 
 またもう一つ、日本がまだまだ遅れているなと思うのは、エンジニアの評価を画一的に行っていることです。
エンジニアなら世界を舞台に行動しよう
──読者の声でも評価に対する不満は、かなり多いです。修二さんはどういう評価がよいとお考えですか。
中村:確かに今では、実力主義が取り入れられているようです。しかし、間違った実力主義も多いですね。例えば上司に価値になることが実力と評価されることもある。またエンジニアは研究をチームワークで行っていることが多く、そのチームが新しい発見を得られればそのチーム全員が評価されることになります。その中の一人が大きな発見を見つけたとしても、それは「お前一人の実力じゃない、チーム全員の力だ」といわれることがほとんどです。しかしこれは正しい実力主義ではない。
 
 なぜなら、それはプロスポーツの世界を見れば分かります。野球はもちろんチームワークが必要なスポーツですが、松井やイチローをはじめ、他のチームメートも全員、年俸は一律ではない。これは当たり前のものとして定着しています。本来、エンジニアもプロスポーツ選手と状況は変わらないはずです。だからエンジニアにとって今の評価制度は最悪だと思いますよ。本当に実力のある人は報われないシステムなんです。
 
 そして流動化を加速化させるためにも、雇用の際の契約書制度をしっかり整えることです。技術者がなかなか流動化できない理由の一つには、企業秘密を握っていることがあります。それが足かせとなるから、転職しづらい。しかしそれも米国のように契約書で決められていれば、エンジニアと会社は対等な関係になれます。日本は契約書というより、暗黙の理解で済まされているところが多いですから。

──修二さんにとって仕事とは何でしょうか。
中村:仕事は「メシを食っていくため」。自分の好きなこと、趣味に合うことでメシが食っていければ、それは人生の成功者ですね。私は小さい頃、理論物理をやりたかった。宇宙現象や人間の心などあらゆる事象を解決する「式」を見つけたかったのです。それが工学に進んでしまったんですけどね……。
 
 日本のエンジニアのみなさんには、本当に好きなことをだけをやって欲しい。私自身、青色LEDを発明できたのは、考えることが好きだったからです。だからこそ、時間のある限りどん底まで突き詰めて考え尽くしたんです。その結果、ブレークスルーできた。つまり本当に好きなことであれば、どんな苦労もいとわないはずです。

 そしてこれからは世界を舞台に行動することです。日本の中だけに閉じこもらない。そうすれば日本のエンジニアの未来は明るいですよ。
インタビューを終えて
たった2日間の来日の間隙を縫って、中村修二さんはインタビューに時間を割いてくださいました。取材開始は午前9時。しかし、開始早々からハイテンション。特に後半、熱を帯びてくると大きな手振りを交えて、日本の規制に関して怒り心頭ワードが次々と出てくる、出てくる……。技術用語以外にカタカナ英語が全くなかったのも印象的。まだまだ聞きたいことがありますが、それはまたいつか、違う特集で是非、レポートしたいと思います。みなさんはどう思われましたか?(研究スタッフ/関洋子)

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