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止まらない 技術者人性の法則
「理科少年には3つのタイプがある」
の法則
うまくいけば経営者のおかげ、失敗すれば技術者のせい。なぜか世の中は技術者に冷たい。それでも技術者でいることはやめられないし、技術者の本能は止まらない。とどめようのない法則の中に、エンジニアの優れた部分は潜んでいる。
(文/出川通 総研スタッフ/根村かやの) 作成日:03.03.26

(イラスト/工藤六助)
THANKS! 「勝った」「ほめられた」より、「できた」「わかった」がうれしい。250よりも256を「ぴったりの数字」と思う……。専攻・職種・業種を問わず「技術者」に共通する法則とは何か。みなさんとともにこの課題に取り組みたいと思います。
「技術者を楽しむ」ために
 私は「技術・技術者の仕事は面白い」といつも思っています。ただ、「どこがどう面白いんだ?」と聞かれると、「面白いから、面白い」「だって面白いから」となって、なかなか説明が難しい。新しいことがわかったとき、プロジェクトを立ち上げたとき、製品がきちんとできたとき、などの例を挙げることはできますが、では、それ以外の日常は面白くないかというと、やはり「面白い」のです。これはいったいどういうことか。
 もしかしたら、理科少年時代に時間を忘れて遊んでいたそのままが、技術者の仕事とよく似ているということかもしれない。そう思いつきました。
 そこで原点に立ち戻って、理科少年は何を面白いと感じるのかをあらためて考えてみましょう。そして、技術者を「理科少年の成長したひとつの形」であると推定し、技術者の仕事と理科少年の遊びの「こころ」のアナロジーを検証してみましょう。

 
理科と文科の本質的違いとは?
 理科は「少年」、文学は「少女」。組み合わせがこう決まっているのは、不思議といえば不思議です。もっとも、文学「青年」という名称もあるので、さらにややこしい。表1にその傾向をまとめてみました。

■表1. 理科(少年)と文学(少女、青年)の特徴
特 徴 その他
理科 (少年) ・外界(自然現象)に興味
・論理的、計算好き
・人工物、仕組みに興味
・答えはひとつ(断定型)
・こわれたものは直せる
・思考、行動が外向き
 (外界に働きかける方向、行動的に見える)
・自然界からの事象を論理的に構築
文学   (少女)
(青年)
・人間(の内面)に興味
・情緒的、計算嫌い
・芸術に興味(音楽、絵画)
・答えは多様(断定できない)
・死人は生き返らない
・思考、行動が 内向き
 (内面に働きかける方向、受動的に見える)
・精神・心などの抽象的世界の構築
 この表を見ていると、「理科」というのは、なんとなく男(少年)のほうが適しているように、私には思えます。活動的ではあるが、実は内面的発達が遅れていて単純なところです。
 企業では、新卒採用のときには「技術系(理系)」「事務系(文系)」と分けることが多いようですが、上級マネジメントまで進んでいくと、「技術」「事務」などというものはほとんど関係がなくなります。では、本質的な違いはどこにあるのか?
 私は、人間の内面よりも自然界のような外界に興味が向いているのが「理科少年」かもしれないと思います(図1)。会社でも、事務系は「人間(内界)」を対象にしているようなイメージがあります。
■図1. 理科型と文科型の関心の持ち方の違い
理科少年の3つのタイプ、あなたは何型?
 ここでは、理科少年のタイプを「工作型」「博物型」「計算型」の3つとしました。それぞれのタイプをさらに「スキル系」と「創造系」に分けて考えてみます(表2)。

■表2. 理科少年の3つのタイプのイメ−ジ
(1)工作型 (2)博物型 (3)計算型
スキル系 ・プラモデル作製
・ラジオキット組み立て
・模型組み立て
・昆虫・植物採集
・天体観察大好き
・鉱物標本
・暗算得意
・そろばん名人
創造系 ・身の回りの品の工夫
 (発明)
・既製品以外の自由な
 組み立て(砂遊び)
・設計・製図など
・独自の分類実施
・新種発見
・仮説提案
・自然界の形状に興味
 (魚・鉱物・植物など)
・応用問題自作
・独自の計算方法
・法則の発見
・幾何大好き人間
1)タイプ1=「工作型」
 小学校の科目でいえば、図工の時間に輝くタイプです。成績が「5」とは限りませんが。
 プラモデルやラジオキット、各種の模型など、既存の部品を用いた組み立てが得意で、手先がよく動き、作業は効率的なら「スキル系」。紙や木材などの素材に独自の工夫を凝らしてものを作り出す「創造系」グループも存在します。
 また、具体的にモノをつくるだけでなく、紙の上での創作活動として、建物の図面とかロボット設計図とか空想地図とかを創作していくのも、発想としては同一なので、発展形として「工作・製図型」と呼ぶこともできそうです。
2)タイプ2=「博物型」
 動植物、鉱物の名前などをよく知っていて、収集したり、標本を作ったりして、体系的に分類することが得意な理科少年です。「博物・分類型」とも呼べます。
 タイプ1と比べていうと、理科の時間に活躍するタイプです。しかし、友だちに「××博士」と呼ばれるほど詳しいテーマがあるのに、それ以外にはまるで興味を示さないケースもあり、理科を得意科目にしているとは限りません。
 このタイプの「創造系」は、単にサンプルを図鑑片手に見ていくだけでなく、独自の分類に発展させたり、新種発見や仮説提案などへ展開する一群です。このグループは、理科実験のデータをうまくまとめて分類したり、さらに分析したりして、タイプ1の「工作・製図型」とともに、学校の理科展などでいつも上位に入賞する一団でもあります。
3)タイプ3=「計算型」
 言うまでもなく「算数の成績が5」のタイプです。
 文字どおり、やたら暗算ができたり、計算が速かったり、そろばんがうまかったりするわけです。公式を使う問題を解かせれば決して間違うことのない「スキル系」だけでなく、授業で教わらない独自の計算法を考案してみんなをあっと言わせたり、幾何的な図形問題を独創的に解決したり、自分で問題を作ったりする「創造系」グループもいます。
 非常に論理的にものごとを考えたり、解決したりすることが得意という意味で、「計算・論理型」と呼びましょう。

 
算数・数学ができれば理科系なのか
 「計算型」という分類を挙げたばかりですが、算数が好きな(できる)生徒は本当に「理科系」なのでしょうか?
 計算力は理科系の必要かつ重要な手段・方法のひとつではありますが、すべての技術者に高度な計算力が要求されるわけではありません(技術者自身がよく知っているとおり)。計算そのものはパソコンがやってくれる。となれば、データの解析にせよ設計シミュレーションにせよ、重要なのは計算にいたる前の「考え方」「論理構築」です。この論理構築作業には、計算機を使わない「概算」が大切です。これができると技術の大筋をつかむことができるので、「計算力」より「概算力」が、技術者の本質的な能力といえるかもしれません。
 ときどき「いくら計算ができるといっても、技術者としてこれでよいのか」という人を見かけるのは、計算力だけで理科少年と勘違いした(された)人が成長した姿ではないでしょうか。
 例えば、本当に必要な計算の範囲を認識せずに「腕力」にまかせてどんどん無駄な計算をする人。逆に、個々の計算はできるがキャパが決定的に足りず、すぐにオーバーフローして思考停止状態になるパターン。
 よい技術屋というものがあるとしたら、図2に示すように、工作・製図型+博物・分類型、そして計算・論理型の要素も“できれば”兼ね備えていれば、理想的であるということです。
■図2. 理想的な技術者の基本的資質とは?
「理科少年の3タイプ」は「技術者の仕事の3分類」へ
 技術者にとってのいちばんの理想は、理科少年のころの楽しみの内容が仕事そのものになることのようです。少年の心と技術者の仕事が一致したとき、もう「止まらな」くなるのです。
 タイプ1の工作型は、設計や製造現場での改良や、実験をすると、その器用さで人一倍うまくこなすことができる技術者でしょう。タイプ2の博物型は、データの整理、分類、技術的課題の発見などをきちんとこなすことができる技術者。タイプ3の計算型は、シミュレーションや構造解析系、制御回路計算などの数学を多用する技術分野で大きな力を発揮する技術者です。
 ここで、表2を改良して、「技術オトナ」の業務内容の分類を付け加えてみました(表3)。また、パソコン世代の新・理科少年の分類も追加してみました。

■表3. 技術者の仕事と理科少年の遊びのアナロジー
(1)工作・製図型 (2)博物・分類型 (3)計算・論理型



スキル系 ・プラモデル作製
・ラジオキット組み立て
・模型組み立て
・昆虫・植物採集
・天体観察大好き
・鉱物標本
・暗算得意
・そろばん名人
創造系 ・身の回りの品の工夫(発明)
・既製品以外の自由な
 組み立て(砂遊び)
・設計・製図など
・独自の分類実施
・新種発見
・仮説提案
・自然界の形状に興味
 (魚・鉱物・植物など)
・応用問題自作
・独自の計算方法
・法則の発見
・幾何大好き人間
技術者の仕事の分類例 ・研究開発(企画、実験)
 基本設計、応用設計、
 プロトタイプ試作、
 生産技術(製造)
・メンテナンスエンジニア
・研究開発
 (データ解析、論文執筆、
 報告書作成)
・生産技術(課題解決)
・品質保証、事故対策、
 報告書作成
・シミュレーションによる予測、
 設計支援
・各種解析(CAE)による
 データ分析
・基本技術企画
パソコン世代の特徴(参考) ・RPG
・イラスト(ペイント)
・グラフィックゲームソフト創造
・パソコンハード、ソフトに詳しい
・インターネットで情報検索し、
 整理・分類
・既存計算ソフトによる各種計算
・計算ソフトを組み立てる

 このアナロジーを自分で理解できることが、技術者を楽しむための方法論として、とても有効だと思います。何が得意なのか、いま一度原点にさかのぼってみませんか。
 あなたはどんな技術者でしょうか? 少年の「こころ」と何が変わっているのでしょうか? 仕事は面白いでしょうか? 面白くしているでしょうか?
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根村かやの(総研スタッフ)からのお願い
 当レポートは、「技術者人性=技術者とはどんな人か?」についての法則体系を構築すべく、研究を開始したものです。今回発見した法則「理科少年には3つのタイプがある」を検証するため、あなたが何型理科少年(技術者)かをぜひ教えてください。
 また、次回以降のレポートで検証したい法則もお寄せください。現場まじめ系「政治家のうそは許せても、実験データの捏造を見すごすことはできない」から、日常生活しみじみ系「石焼きビビンバを注文したあと、『熱容量』の解説をし始めたら止まらない」まで、技術者の共感を呼ぶ法則をお待ちしています。

このレポートの連載バックナンバー

技術者人性の法則

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