責任感が招く危険な状態
危ないなあ。休むべきですよ。これは贅沢な悩みなんかじゃあない。あなたは疲れちゃったんだよ。このままでは、うつ病になる可能性がありますよ。情熱を失うというのは、あなたの責任感からきているんです。
好きなことなら徹夜もいいだろうけど、やはり人間には限界ってものがある。責任感の強い人は、追求することを続けてしまうから、「限界がないんじゃないか」って気になるんです。しかも好きな仕事だから、あれこれ工夫しようと考えるんだな。いい加減にできずに精一杯やるもんだから、参ってしまうんです。
あなたの心理的状況を周囲の人が気づかないで、才能がある人だと思われちゃうと、そのことでまた、責任感を感じてしまうわけだ。本来なら、会社から3カ月くらい休暇をもらって、ぼーっとすればいいんです。でも、あなたみたいな人は、それができないんだ。
問題なのは、このうつ病の一歩手前の症状が、怠けてるとか、力が足りないとかって、 社会的に理解されない場合が多いことです。うつの人には「頑張ってね」なんて言葉は、 一番言っちゃあいけないらしいけどね。ただ相づちを打って、話を聞いていればいいらしいけど、知らなきゃできないからねえ。まあ、それくらい今の社会機構が複雑化しているんですよ。
私も落語だけやっていればいいものを、すべて1人で抱えると、やるべきことが多すぎて、秘書が2人くらいいないと、とても無理。生きて行くには、税金も納めなきゃなんないし、身体が不快になれば、文明の力に任せなきゃなんない。私は癌になったもんで、医者に任せて手術したわけです。ある程度文明の知識をもって、自分の頭の中で考えなきゃならない。そうなると、すべてにきりがなくなってしまう。
「生産すること」から離れてみる
まず、あなたに大事なことは「危なさに気づくこと」。それをまた、気づいたことがいけないんじゃないかと、責任感を感じちゃうかもしれないけど、このまま本当にうつ病になっちまったら、リストラされて、次の仕事も何もできなくなりますからね。医者にうつ病の初期症状だという診断書を書いてもらうことです。そして、会社に理解してもらって、しっかり休みを取る。
俺の落語を聞きに来るのもいいんだがなあ(笑)。落語は、いいも悪いも、怠け者も 働き者もさ、人間そのものをすべて肯定するでしょ。逆に働き者を笑ったりする。今の世の中、怠け者が多いから、落語家が働かなきゃならなくなっちまったけどね。
「ねえ、おじさん、家の父さんに親孝行しなきゃなんないかな。ひどい父さんなんだけど」「そりゃあ、お前の親なんだからしょうがないさ」ってのが、世間一般の常識を背負った言葉でしょ。それが、落語になると「そんな親は張り倒しちまえ」「いや、張り倒してません。蹴っ飛ばしてるだけです」ってなことになるわけだ(笑)。
長期の休みを取れたら、落語を聞くも良し、散歩でも良し、銭湯行くも良し。少なくとも、「生産すること」とは、全く関係ないことをして過ごすんです。たとえばさ、「お前、何もしてねえじゃねえか」「してますよ、星を見てるんですよ」「それを何もしてねえって言うんだよ」ってな感じでね。それでもこの星を見てる人は、心が豊かになってるわけですよ。