なぜ叱ったのか、同じ目線でよく話してみる
僕の場合、既に21歳の頃から部下を持っていました。失敗したらお客様が不快に思われてしまう仕事なので、スタッフをすぐその場で叱らなければなりません。お客様の前で怒鳴るわけにいかず、時には足を蹴飛ばしたり、すぐ後ろに引っ張ってきて叱ったりしていました。ただし、そういう日は必ず後で酒でも飲みながら、同じテーブルに座って目線を同じ位置にし、なぜ怒ったのかを説明していました。
僕が若い頃から部下を叱ることができたのは、当時としては珍しく、フランスで3年間ワインを勉強してきたとか、目に見えてわかりやすいコンクールの結果があったから、一目置かれる存在だったという要素も幸いしていたかもしれません。ただ、常に一生懸命仕事に取り組んでいたし、今でもどの店舗やセクションに行っても、肩をたたいたり、声をかけたりしながら、必ずコミュニケーションをとるようにしています。
自分の店では総支配人以外、すべて全員を副支配人としています。立場の上下を明確にする肩書をつけてしまうと、お客様から見れば「なぜ肩書の低い者にサービスされるんだ」という不満になるし、部下がサービスする場合、上司に責任転嫁できると思ってしまう。すべてのスタッフが平等に、「お客様の店に対する信頼感は、すべて自分にかかっているんだ」という気持ちになってもらいたいわけです。
部下には親になったつもりで接する
部下を持つということは、家族が増えるようなものです。親子関係でいうと、子どもは親を尊敬しているから絶大な信頼感を持つのであって、親がだらしなく見えたら、信頼感をなくしてしまいます。礼儀作法を注意するなら、親も常日頃からきちんとしていなければならないし、それができて初めて親としての尊厳を維持できる。それは仕事においても全く一緒ではないでしょうか。
つまり、うまく叱れないというのは、叱り方やタイミングより、基本的には叱る側に問題があって、部下に信頼されていない可能性が大きいのだと思います。叱ることの最大の目的は、ある仕事を達成するためのマイナス点を、その人が叱ったことによってプラスに変えていくということにあるはず。信頼されていなければ、それはなし得ません。
叱るのが下手な人は、いい仕事ができていないから、自分も叱られることが多い。部下にも信頼されなくなってしまう。なので叱る以前に、誰よりもよく働き、自分の仕事に自信を持って、部下からの信頼感を得ることが必要だと思います。それができれば、どんな場面でも部下に助言をすることができるようになるはずです。