部下になると部下の気持ちがわかるようになる
僕は山に登ると、いろんな山小屋のおじさんたちに会うけれど、彼らも自営業で、小さな世界ながらも社長なんだよね。でも、会社の中でもまれながら役職に就いていくような経験がないまま、若いころからオーナーになっているので、周囲を冷静に見られなかったり、客に威張ってみたり、横柄なお山の大将になっている人もけっこういるんですよ。
そんなふうにならないように、実家の自営に関係している仕事で就職をすれば、あなたが社長になった時、社員の気持ちもわかるようになるよね。アルバイトよりも責任感だって必要になってくる。だけどたとえアルバイトでも、単純に仕事をこなすだけじゃなくて、そこから自分が何かを得ようと真剣に取り組めば、ものすごくいい経験ができるし、意味を持つものになると思うんですよ。
僕は学生のころ、4年間、AD(アシスタントディレクター)のアルバイトをしてたんです。野球ニュースのテレビカメラマンって、一球一球に集中して神経をピリピリさせているから、ものすごくストレスがたまるんですね。それで、ADを「この野郎!」ってバシッと叩くと、スッキリしてまた集中できる。最初はなぜ叩かれるのかわからなくて「くそっ」て思ってたけど、「そうか、叩かれるのは、彼が仕事に集中するための俺の仕事なんだ」と思えるようになってから、気持ちが楽になって、前向きになれたんです。
周囲のADがどんどん辞めていく中で、そうやって葛藤しながら4年間続けたことが、今でもすごく役に立ってるんですよ。今、ヒマラヤにロケに行っても、若いADの気持ちがよくわかるしね。周りの人たちにADが馬鹿にされて落ち込んじゃうと、番組も暗くなっちゃうから「一緒に風呂入ろう」って励ましたりね。ヒマラヤで荷物を持ってサポートしてくれる現地人のシェルパに対して、登山隊は乱暴に扱うんだけど、そういう人たちこそちゃんと大切にしなきゃって、すごく思うわけです。そんなふうに、アルバイト経験からでも、社員や部下の気持ちがわかるようになりますよね。
社長になるまでの5カ年、10カ年計画を立てよう
あとは5年後、10年後に社長になると期限を決めて、それまでに自分が何をするか、逆算してやることを考えてみるんだね。僕は富士山の清掃活動を7年やっているけど、やっと年間5000人くらい集まるようになって、かなりきれいになってきたんですよ。登山も清掃もすごく地味でしょ。最初はゴミだらけで、何度もやめようと思ったんですが、とにかくまずは5年やろうと決めて、その次は10年と決めてます。10年やると、ひとつの形になるんですよね。
でも、形になった部分だけを見て「自分もすごいことをやって大物になりたい」って言って来る若い人がいるんだけど、ずっと地道なプロセスがあったからこそ形になるんですからね。だから、アルバイトか就職かということよりも、きちんと取り組もうとする自分の気持ち次第。社長になろうと決めているなら、「こういう社長になろう」という5カ年計画なんかを立てて、「何月何日までにこれをやる」って締め切りを書いて実行していけばいいと思うよ。