親には親の、子には子の人生がある
「父を超えたい」という気持ちは、すごくよくわかります。親子関係は一生付いてくることだし、「あの人の息子だ」という周囲の先入観との闘いもあるので、大きな問題ですよね。ただ、「父親を超えること」と「事業を立ち上げること」は、分けて考えたほうがいいのではないでしょうか。どちらがあなたの目標なのか、自分が将来どうなりたいのか、もう一度整理してみる必要がある気がするんです。
もし、「父親を超えること」を目標として同じレールを歩こうとすると、人望が厚い父親の人脈や能力以上のレールを自分でつくっていくのは、ものすごく難しいことですよね。僕の経験からだと、父親以上のことをしようと、強く意識すればするほど、結局はできないんです。だから、僕は親父には親父の人生があって、息子には息子の違う人生があるんだから、と考え直して、偉大すぎる父親を超えることは、全くあきらめたんですよ。
原点は「自分が何に幸せを感じるか」
あなたもきっと、「親父に認められたい」とか「親父がすごく好きだ」という気持ちを強く持っているのですよね。でも、親父を喜ばせたり、認めさせるという行為と、自分のやりたいことをやって幸せをつかむという行為は、なかなか一致しないものだと思うんです。親子でも考え方や価値観は違いますよね。まずは、そこを認めて、自分がどんな仕事をどうやっていけば幸せだと感じるかという原点に戻ってみてはどうですか。その結果、もしかしたらなんだけど、何十年もかかって「親父を超えた」と思えるときがあるかもしれませんよね。
だから、もうひとつの「事業を立ち上げること」があなたの目標か、本当にそれで幸せなのか、事業の才能があるのか、もっとほかに才能ややりたいことがあるんじゃないか、それらを原点に立って、よく考えてみることをお勧めします。僕も野球を辞めたのが、ちょうどあなたと同じ30歳のとき。右も左もわからない世界で、自分が本当にこれをやってみたいのかと、自問自答しながらここまできた、という感じなんです。
僕は最近、自分で映画の指揮を執って主演もしたんですが、映画ひとつとっても、やりたいことを全部できるわけではないし、どんな世界でも上を見たらきりがないと感じてます。最初のきっかけは、「これ、やってみたい」という衝動から始まって、「それを本当にやりたいのか」って、問いかける作業を続けながら、消えなかったものが残っていくんですね。それが、自分にしかできないオンリーワンになればベストだし、最終的に自分で認められる人生であればいいと思うんです。他人や親父に認められることじゃないはずです。