プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 「心の奥にある本音を聞いて、まずは、やってみる。その先に幸せがある」久賀谷亮氏
(精神科医)
くがや・あきら ●医学博士。 イェール大学医学部精神神経科卒業。アメリカ神経精神医学会認定医。アメリカ精神医学会会員。日本で臨床および精神薬理の研究に取り組んだ後、イェール大学で先端脳科学研究に携わり、同大学で臨床医として8年間にわたり従事する。そのほか、ロングビーチ・メンタルクリニック常勤医、ハーバーUCLA非常勤医など。2010年、ロサンゼルスにて「TransHope Medical(くがやこころのクリニック)」を開業。
2017年2月15日

「マインドフルネス」とは、
瞑想などを通じた「脳の休息法」。
グーグル、フェイスブックなど、
数多くの先端企業が研修に取り入れたことで、
今、注目が集まっている。
なぜ、世界的エリートが
こぞって実践しているのか。
「マインドフルネス」認知療法に詳しい
精神科医の久賀谷氏に聞く。

脳は休めないと集中力がなくなる。その有効な手段が「瞑想」

何年か前のこと、患者さんにぜひ読んでみてほしいと、ある本を勧められたんです。それが少しスピリチュアル寄りの「マインドフルネス」の本でした。「マインドフルネス」とは、瞑想などを通じた「脳の休息法」の総称のこと。精神医学の領域にいますので、「マインドフルネス」という言葉は、頻繁に耳に入っていましたが、知識としては、ざっくりとした概念を知っている程度だったんです。しかし、スピリチュアルに深い関心を持つ患者さんが、強いうつ状態から回復していかれるのを見て、考えが変わりました。

われわれ精神科医は、脳内物質がどうこうといった、科学的な分析によって結論を導き出そうとします。しかし、それだけではなく、スピリチュアルな要素にも目を向けるべきなんです。スピリチュアルと精神医学というのは、実は深いつながりがある。だって、心に問題を抱えている人は、牧師や占い師のところに相談に行くことが多いですよね。スピリチュアルなことと精神医学の分野には、境界がないんです。患者さんと接することで、私はそのことに気づかされました。

患者さんの力になるためには、もっとスピリチュアルな部分について知らなければいけない。何より自分自身が成長する上でも必要性を感じ、その分野の研究を進めていきました。そして行き着いたのが、「マインドフルネス」です。

アメリカの精神医療は、日本とはずいぶん違います。例えば、精神疾患の患者さんに薬物治療をすることは、日本では一般的です。しかし、アメリカでは薬物治療を避ける傾向にある。それは、脳科学アプローチが発展したからです。例えば、TMS磁気治療。脳を1つの臓器として扱い、磁気を使って脳にダイレクトに働きかけ、治療する試みです。この技術は大変素晴らしく、薬などに頼らなくとも、心の不調を改善できるようになりつつあります。

カウンセリングの分野でも、マインドフルネス瞑想などを含んだ第3世代認知行動療法といった最新トレンドが積極的に取り入れられています。瞑想というとなんだか怪しいもののように思われがちですが、そんなことはありません。脳科学の分野では、マインドフルネス瞑想が脳にいい変化をもたらすことが実証的に確認されています。

現在、私は、アメリカ・ロサンゼルスにある自分のメンタルクリニックでも、TMS磁気治療とマインドフルネスを使った治療を取り入れています。特に、マインドフルネスは誰でも手軽にできる「脳の休息法」です。アップルの創業者の一人であるスティーブ・ジョブズをはじめ、多くのアメリカのビジネスパーソンがマインドフルネスを行っていますよね。それは、脳に休息が必要であることを知っているからです。

どうして脳に休息が必要なのかというと、実は脳のなかにデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)という回路があるのですが、これは、自動車のアイドリングのように、脳が意識的な活動をしていないときにも働きます。ぼーっとしていても疲れが取れないのはそのせいです。本人はぼーっと休んでいるつもりでも、脳は延々と活動を続けているわけですから、どんどん疲労がたまっていきます。これではいざ仕事にとりかかろうとしても集中力は上がりませんし、パフォーマンスを上げることもできません。そこで、効率的に脳を休めるために有効なのが、マインドフルネスなんです。

過去ではなく、未来でもなく、今、ここに自分がいることに意識を向ける

「マインドフルネス」の詳しいやり方は、昨年上梓した『世界のエリートがやっている 最高の休息法 「脳科学×瞑想」で集中力が高まる』という本のなかに書いてあるので、ここでは基本的なものを1つご紹介いたします。それは呼吸法です。

「マインドフルネス」呼吸法

1、椅子に座って、お腹をゆったり、手は太ももの上に乗せる
2、身体の感覚に意識を向ける
3、呼吸に意識を向ける
4、雑念が浮かんだら、注意を呼吸に戻す

コツは、「今、ここ」を意識すること。今呼吸をしている自分を意識する。過去に起きたことではなく、未来に起こることではなく、今、ここに自分がいることに意識を向けます。山の頂上を見るのではなくて、登っている途中の景色を楽しむような感覚です。

この呼吸法を、1日10分、好きな時間にやってみてください。最初は1分も続かないかもしれません。でも、できない自分を責めずに、無理をせず、少しずつ少しずつやってみてください。続けていると、心が落ち着き、身体の調子が良くなってくるはずです。


日本とアメリカ、両方で臨床経験がある
久賀谷氏。日本人は、自分にプレッシャーを
かけ過ぎの人が多いという。
では、心地よく仕事をするためには、
どうすればいいのか。

まず、周りの人から承認されようとする意識を外す

向上心があるのはいいことだと思うのですが、日本人は無意識に自分にプレッシャーをかけている人が多いような気がします。仕事のパフォーマンスを上げようなんて思わないほうがいい。常に最高のパフォーマンスで仕事をするなんて、そもそも無理なんですから。

日本人は人生における仕事の比重が、アメリカ人より多いように感じます。確かに20代というのは、がむしゃらに仕事をし、いろんな経験を積んで学んでいく時期ではあります。でも、根幹の考え方は知っておいたほうがいい。人生は、仕事や競争で埋めるものではない。仕事の比重が大きい生活を続けていては、幸せになれないということです。

どうしてそんなに頑張ってしまうのか。根底にあるのは、自己肯定感の低さだと思うんです。自己肯定感というのは、自分は世の中に必要だと思うことです。自己肯定感は、子どものころから親がほめて育てていれば高くなります。しかし、日本人はほめて育てられた人が比較的少ない。だから承認欲求が強くなってしまうのではないでしょうか。

そういう人は、まず、周りの人から承認されようとする意識を外したほうがいいと思います。他者評価ではなくて自己評価にする。他人に認めてもらうことがゴールではなく、「自分で満足できたから、いいんじゃない?」とか「今の仕事で食べていけるんだから、いいんじゃない?」と、気楽に考えてみる。

アメリカ人は、一般的に自己評価が高い傾向にあります。自分を誇大に見せるという習慣が子どもの時分から身についている。内面は結構自信がないのかもしれないけれど、それでもとりあえず自分を大きく見せるんですよ。日本人もハッタリでいいから、思いっきり自分を「すごい!」と言ってみたらいいんですよ。

あとは、自分がやりたくないことは「ノー」と言うこと。褒められたら「いえ、いえ」ではなく、きちんと「サンキュー」と言う。そうやって自分をケアしていくといいでしょう。

過度な承認欲求や、自己肯定感の低さというのは、自分に対する愛情とか、信頼度が低いことからきているのだと思います。自分を愛おしいと思うことは、すごく大事です。そして、人が何と言おうと、自分はこうだと言う。そうすることで、自分への信頼が生まれます。自分をケアするということも、何ら難しいことではありません。気に入った服を着るとか、爪をきれいに揃えるとか、何でも良いんですよ。自分をより好ましい形になるよう、ケアしてあげるんです。もっと自分にやさしくなってあげる。自分に厳しく、まだまだ足りないっていうのは、「なし」にする。そうすると、自分を愛おしく思えてくるはずです。

自分の本音に気づけない人は、自分で「選択」する習慣をつける

もうひとつ大事なのは、自分の情熱に気づくことです。そして、その情熱に向かうこと。英語に「ガットフィーリング(Gut Feeling)」という表現があります。「Gut」は「胃」。そこから出てくる本当の声。「本音」みたいなものでしょうか。それに気づくことが大事なんです。自分の本音に耳をすませ、とにかくやってみる。仕事をしていて何か違うなと感じるのは、承認欲求とか世間からの軋轢が無意識のプレッシャーとなって、ガットフィーリングではないことをやっているからじゃないでしょうか。だから、それを修正してみるといい。

自分のガットフィーリングに気づけない人は、自分で選択していく習慣を持つことから始めましょう。すぐにはわからなくとも、自分に選択する許可を与えていれば、少しずつやりたいことが見つかると思います。私自身、すぐにガットフィーリングがわからないこともありますよ。例えば、この前まであるスポーツをしていて大きな怪我をしたのですが、今後は違うスポーツに切り替えようとしても、次に何をしたいかなんて、すぐにはわからない。でも、自分に選択する許可を与えて、探し続けていれば、いずれ見つかると思っています。日本人は何でもまじめに捉えがちだけど、探そう探そうとするんじゃなくて、そのプロセスを楽しんでいれば、そのうち見つかりますよ。

仕事は「直感」で選ぶ。そして、とにかくやってみる

ガットフィーリングを見つけるときに大事なのが直感です。実は、私が精神科医になったのも、直感なんです。どうして精神科医になったのかと聞かれると、「文系、理系、どちらか選べと言われたときに、両方興味があったから、中間にあるものが医学であった。脳と心の接点や、哲学と科学の接点に興味があった。そしてこのふたつの交差点にあるものが、精神医学だった」と答えています。でも、今思うとこれは後づけ。選んでいた当時は、やはり直感だったと思います。

直感で仕事を選んで、とりあえずやってみて、経験を積んで、何とか形にしていく。そうすると、「自分の居場所」が見つかります。そしたら頑張らなくとも、心地よく仕事ができるようになりますよ。

失敗することを恐れて、新しいことに踏み出せない人が多いと聞きます。失敗することを恐れるのは、人からどう思われるかを気にして、傷つきたくないからでしょう。でも、何かを作り上げたり、ユニークに何かを極めている人は、失敗に対する考え方が違います。失敗は経験だと思っている。そこにどんな違いがあるのかというと、きっと自意識の強さの違いでしょうね。失敗がこわい人は自己肯定感が低い。自分にやさしくない。私はスランプとか、そういうことを感じたことないですよ。それも自己愛が強いからかもしれませんね(笑)

information
『世界のエリートがやっている 最高の休息法 「脳科学×瞑想」で集中力が高まる』
久賀谷亮著

「とにかく脳が疲れているとき」「気づくと考えごとをしているとき」「ストレスで体調がすぐれないとき」「思考のループから脱したいとき」「怒りや衝動に流されそうなとき」「他人へのマイナス感情があるとき」「身体に違和感・痛みがあるとき」に役立つ、7つのマインドフルネス(脳の休息法)の方法が具体的に書かれている。それだけでなく本書では、アメリカ・イェール大学を舞台に、脳疲労を抱えた様々な人物が、「最高の休息法」を手に入れるまでの物語が小説風に描かれている。集中力を高めたい人、効率よく仕事をしたい人、日々の仕事に閉塞感を感じている人、とにかく仕事に疲れている人にお勧めの本。ダイヤモンド社刊。

EDIT/WRITING
高嶋ちほ子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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