プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 「創造力を開花させたいなら、万単位で考え続けること」道脇裕氏
(株式会社 NejiLaw 代表取締役社長)
みちわき・ひろし●1977年群馬県生まれ。 小学校を自主休学して社会に飛び込む。漁師やとび職、新聞配達等々様々な仕事を経験しながら、大学教授であった母親の大学研究室で多くの実験を行う。物心ついたころから日常化していた「発明」の中から、“緩まない”ねじを社会に送り出すためにNejiLawを設立。東京都ベンチャー技術大賞・大賞=東京都知事賞、GOOD DESIGN AWARD金賞=経産大臣賞、日本イノベーター大賞優秀賞ほかを受賞。次代を創る100人、世界に誇るべきニッポンの100人、日本を動かすベンチャー100にそれぞれ選出される。経産省より戦略的基盤技術高度化支援事業を受託。2014年に官民ファンドである産業革新機構等の増資を受け、現在に至る。
2016年2月17日

“緩まない”ねじを知っているだろうか。
2000年のねじの歴史を変えた
世紀の大発明をしたのは、
小学校を自主休学した、
“学歴ゼロ”の社長だ

小学校を自主休学し、働いて実験に明け暮れる

発明は2万件以上あります。どうしてたくさんの発明をできるのかよく聞かれますが、自分にとって発明は日常なんです。基本的には努力して発明しているものではなく、意識しなくても次々と出てくるんです。

僕は、独創性や創造力はある程度なら誰でも開花させ得ると思っています。すべての人は、知らない時代の知らない地で生まれます。つまり、それは、吸収力と分析力、理解力等の能力が先天的に一定以上のレベルで備わっていることを意味しています。ところが、大人になる過程で、自分で考えなくなることで様々な能力が閉じてしまうわけです。社会に出るまでに多くの人がクリエイティビティをどんどん失ってしまう。自分で考えなくてもいい社会であることに一因があるのですが、それは本当にもったいないことです。

小学生の時分、先生に「今のままの日本の教育ではダメだ」と訴えました。上の人の言うことを100%正確にこなす人がだけが求められるような画一的な教育では日本はダメになると。高度成長の時代にはそれが必要であった。でも、これからは独創性が求められる時代がやってくる。何をどうすべきか、自分で考え、行動する人が大量に必要な時代になってくる。そのためには個性やオリジナリティを認め、それを伸ばす教育でなくてはならない。そのように訴えましたが、もちろん、全く聞き入れてもらえませんでした。

もともと教科書をもらうと最初の一週間もあれば、授業中の時間だけで教科書の内容は独学してしまっていました。ですので、授業中はやることがなくて、ほかの生徒にちょっかいばかり出していました。先生は困ったでしょうね。ですが、ほかにやることがなく、授業もつまらない。次第に学校へ行くこと自体に疑問を持つようになり、小学校を自主休学しました。

それからは新聞配達やビラ配り、商店街の手伝いなどをして小遣いを稼いで、いろんな科学実験や電子工作をしたりしていました。回路設計をしてデジタル時計や無線機、特殊な電気分解の装置を作成したりもしました。

中学に上がっても変わらない日本の教育に辟易して、やはり自主休学してしまいました。集団教育に合っていなかったのでしょう。下田にある漁師の家に住み込ませてもらい、朝3時に起きて漁に出るという生活をしたり、とび職の職人として工事現場に出入りしたりしていました。がむしゃらに働いていたら現場のリーダーを任されるようになって。年齢的には中学生でしたけど(笑)。

物心ついたころから、世の中の常識に疑問を抱いていた

何でそんなに自立心があったのか。何ででしょうねえ(笑)。父は大手化学系企業の研究所長、母は物理学者で、二人ともとても忙しかったので会う機会も少なく、僕に対して何を言っても聞かないと思っていたんでしょうね。何かの記事に、「新しい形の英才教育だ」と書かれていたのですが、そんな格好イイものじゃないんです。単なる放任、いえ放愛です(笑)。

当時、自分が変わっているとは思っていませんでした。自分ではなく、周りが変わっていると思っていたんですよ。考えていることが自分とあまりに違うなぁと。僕は物心ついたときから、大人から言われたことになかなか納得できなかった。世の中の共通観念や常識に対していつもどうしてなんだろう、と疑問を抱いていたんです。例えば、風呂に入って全身きれいに洗ったのに、なんで素足でテーブルに上がってはいけないんだろう、とか。疑問に思ったことは、なぜなんだろう、なぜなんだろうと1つ1つ深く掘り下げて分析し続けてきました。まあ、ほとんどの疑問は考えても答えが出ませんでしたけど。それでも、ずっと考え続けていましたね。

自分は何のために存在しているのか。答えを求め様々な道を歩む

その中でも、いちばん考えたことが「この世とは何なのか?」という疑問です。自然界とは何か? 宇宙とは何か? 生命とは? 人間とは何か? 社会とは? そして、自分とは一体何なのか。何の説明もなくいきなりこの世に産み出されて、いったい自分は「何のために存在しているのか?」と。このことについて小さいころから疑問に感じていたのですが、誰もわかっている人がいない。それなのに、社会から強制的に歩け、進め、と言われているわけです。目的も目標も向かっている方向さえもわからないのに。社会に方向を示されてもそれが合っているかもわからない。だから、その答えを探すために小学校も中学校も休学して、高校もほとんど行かずに心の旅をして、いろんな実験、検証を次々としていったんです。様々な仕事もその答えを出すためにやっていたわけです。

そして、自分のバカさを知るに至ったのです。人様が何を言っているのか解らない。自分が言いたいことも分からない。どう生きるべきかもわからないと・・・。そこで、バカは克服しなければならないと考えたのです。そして、バカ克服のための方法論を考えて出てきたものは非常に単純なものでした。それは、徹底的に勉強する、というものでした。何を勉強すべきか検討してまとめてみると、意外な結論に達したのです。それは、社会が定めている教育カリキュラムと極めて似たモノだったのです。僕はハッとしました。その後、大検を受けてアメリカに留学するんですが、やはり物足りなくて半年足らずで帰国します。十余年に渡る心の旅の果てに「世の中全体の中の自分のポジション」を知り、自分の生きる道を見つけたのが19歳の時でした。

自分のポジション、生きる道について、少しお話しますと、先ず、宇宙の歴史がありますよね。その中に銀河系の歴史があります。さらにその中に地球の歴史があって、生命の歴史があって、人類の歴史、世界の歴史があって、日本の歴史がある。そして、自分の一族の歴史があって…。そうやって広い範囲から狭い範囲に落とし込んで自分の置かれている立ち位置を考えていったら、自分を客観的に見ることができます。空間的な位置づけと時間的な位置づけ、この2つから推定して、自分が今いる位置がわかるというわけです。僕はそうしてきました。その結果、自分が今、何をしなくてはならないのかを知ることができるのです。

それが「自分は何のために存在するのか」という疑問に対する答えを照らし出すのです。これから日本社会は、ますます安定した時期から不安定な時期に入っていくだろう。不確実性の社会がきたときに、社会の助けになれるよう準備をしておこう。当時、それが自分の使命ではないかと考えたのです。人は目に見えるものしか信じません。ですので、科学や技術などを通じていろんなものを作っていこうと。今もそれがより多くの発明をカタチにする動機につながっています。

“緩まない”ねじは19歳の時に考え出したものです。たまたま車に乗っていて、ハンドルを取られたんです。どうしたのかと思ったらタイヤが猛スピードで転がって行った。タイヤのねじが緩んでボルトが折れたんですね。これは危ないなと。これを機に“緩まない”ねじの構造を考え出したのです。その10年後、いろいろな人の支援があって会社組織にする際に、それまで考え出していた発明を少し書き出してリストを作りました。200件程の発明リストです。その中にあった“緩まない”ねじが面白いということになり、それを事業として進めるための会社を設立しました。それが現在の(株)NejiLawです。


次々と発明を生み出す道脇氏を
世に出そうという人が集まり、
「株式会社 NejiLaw」が誕生。
“緩まない”ねじ以外にも、
「超大規模淡水化システム」のような
資源・エネルギー等環境技術から
「握力ゼロでペットボトルを
あけられる器具」など役立つモノが
数多く誕生している

考え続ければ、クリエイティビティは取り戻せる

先ほど、独創性や創造力は誰でも開花させ得ると言いましたが、それこそいくつになっても取り戻すことは可能です。そのためには、考え続けることが大事なんです。大半の人が、親や先生、社会が言っていることを聞いて、自分で考えずに行動していることが少なくないのではないでしょうか? 考えるチャンスを逃しながら過ごして大人になっていないであろうか?自分の道を見つけて、自分を活かすには、より多く考えること、より深く考えること、普段から考える習慣をつけることが必要です。なぜだろう、なぜだろうと。一日の中で何度も、毎日毎日、疑問に思うことが大事です。訓練を積めば、それなりのレベルにはなれます。目安は万単位です。何かを習得するには、万単位の経験が必要なのです。いきなりできるようになるウルトラCなんてないのです。

僕は、失敗することが全くありません。それは、「こうすると、こうなる」という新たな知見の獲得なのだから、失敗という観念そのものが無いのです。そして、できるまでやり続けるんです。必要なことはすべてやります。それこそ、何千万通りも結果に通じるアプローチを検討して、それらのすべてをつぶしていくのです。いつも壁ばかりなのです。誤解を恐れずに表現すれば、この世は壁で出来ている。壁ばかりだから楽しいんです。壁を乗り越えていくうちに、いろんなことが起きるでしょう。助けてくれる人が現れるかもしれないし、向こうから堀り込んでくる人と出会うかもしれない。穴を掘ったら、面白いものを見つけるかもしれない。そんな風に壁を楽しめるようになると、違った景色が見えてきます。数々、掘ったり越えたりしているうちに、いつしか勘も働くようになるんですよ。より合理的なアプローチを、より速く、より確実に見出せるようになるのです。

意志が大事。脳を働かせるにも、壁を超えるにも

最も大事なのは意志です。脳を働かせるためには意志が必要であり、壁を超えるのも意志が要る。意志とは周りに押しつけられるものではなく、自分の中から湧き出てくるものです。

意志を持つためには、やはり「何のために存在するのか」を考えてみるといいと思います。わからない人は、内と外、両方を意識してみてください。内は自分自身、自らの内なるモノで、外は世界や自分を取り巻くすべてのことです。内を意識するとは、自分をあらゆる角度から時間をかけてじっくりと見つめること。外を意識するとは、世界や自分を取り巻くあらゆることについて知る努力をすること。

そして、どんな世界になって欲しいか、理想の世界を想定するんです。その理想の世界にするために、自分は何をすべきなのか。そういった視点で考えてみる。そうすることで生きる道が見えてきます。

生きる道が見えれば、そこに意志が生まれます。それがその人の歩む道であり、適職につながってゆくことでしょう。そうすることで、自分を最大限に活かすことができて、なりたい自分になれる感覚も生まれる。自己実現にも近くなるんだと思います。

大事なのは、自分で考えることです。そのうちに、考えずとも内側から湧き出してくることでしょう。他人から言われたことでは、力は沸きません。自分が好きでやりたいことじゃないと、何度も壁を乗り越えていけるような強い意志は生まれてこないんですよ。

information
「L/Rネジ」

L/Rネジは、NASの耐久試験も合格した“緩まない”ねじだ。従来のねじは、螺旋の構造でできているが、このねじは螺旋構造ではない。右螺旋と左螺旋の役割を果たす構造が同時に刻まれることで、従来の螺旋を打ち破った構造になっている。このことにより、従来ねじの緩み止め原理である圧接摩擦力に全く依存せず、機械構造的に緩まない状態を作出することを可能にした。

EDIT/WRITING
高嶋ちほ子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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