プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 「自分に正直であること。そのためには、勉強をしなくてはいけません」出口治明さん(ライフネット生命保険 代表取締役会長兼CEO)
でぐち・はるあき●ライフネット生命保険株式会社代表取締役会長兼CEO。1948年三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、1972年に日本生命保険相互会社に入社、2006年にネットライフ企画株式会社設立。2008年に生命保険業免許を取得、ライフネット生命保険株式会社に社名を変更。2013年より現職。著書に『直球勝負の会社 日本初!ベンチャー生保の起業物語』(ダイヤモンド社)、『日本の未来を考えよう』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。
2015年11月11日

「透明性を高めた商品で、保険料を半分に」
ライフネット生命保険を立ち上げ、
生保業界に一石を投じた人物だ。
業界の風雲児とも言われる出口氏が、
仕事をする上で大切にしてきたこととは。

自分に素直であること。それが人間にとって一番大事

一番大切にしてきたことは、正直であることです。その場の雰囲気に合わせて言い方を変える人もいます。その場はうまく収まるでしょう。でも、あの人にはあんな言い方をした、この人にはこんな言い方をしたと、全部覚えておかねばならない。それは、すごくしんどいことだと思うのです。

ですから私はどんな人であっても、そのとき思ったことを言うようにしています。それは社外であっても社内であっても同じです。そうすれば誰に何を言ったかいちいち覚えておく必要がない。もしも自分の発言が間違っていたと知ったときは、「このデータを見て考えを変えました。あのときの意見は間違っていました」と正直に言えばいいのです。

上司がAと言ったから、Aと言わなくてはいけないだろうとか、上司が言ったから自分の意見を変えるのは弱虫ではないかとか、心の中の葛藤もない。自分の良心に恥じることもないし、非常に気が楽なのです。自分に素直であること。それが人間にとって一番大事な気がします。

このように思うようになったのは、30歳からでしょうか。大阪から東京に初めて来たときのこと、先輩が銀座に連れていってくれました。そこで素敵なお姉さんから「お若いですね。おいくつですか」と聞かれまして。つい「27歳です」とさばを読んでしまった。そしたら、「えとは何でしたっけ」と聞かれて言葉につまってしまって。そのとき、ウソをつくことは何てしんどいんだろう。調子に乗って人に合わせてはいけない、とつくづく思いました。それ以来、自分に素直に本当のことを言おうと誓いました。

自分を出すのがこわいと言う人もいるかもしれません。でも、取り繕っても見る人が見ればすぐにわかってしまいます。格好つけてもしょうがないのです。恋愛でもそうでしょう? 最初はいい格好をしていても、付き合ったら「あんたウソやんか」と言われてふられてしまう。だったら、最初から自分を出しといたほうがいい。私も自分を正直に出して恥ずかしい思いをしたこともたくさんあります。でも、だからこそ、一生懸命に勉強したのです。

もう「根拠なき精神論」は通用しない。“使える方”にいい仕事は振られる

僕はいつも講演などで言うのですが、日本のビジネスパーソンはもっと勉強したほうがいい。新卒は大学の成績順に採用したらいいと思っているくらいです。この前、大企業の役員の方とその話になりましてね。その人が「出口さんの言うことはわからなくはないけど、やっぱり人間力が大事ですよ。体育会で頑張ってきた人は違う」と言うので、問題を出したのです。「アメフトの主将をやっていて全国大会も出ているけど、パワーポイントもエクセルもできない。夜を徹して学びますから教えてください、という人と、体育会じゃないけれどよく勉強していて、パワーポイントもエクセルもできるという人、どっちに仕事を振るか」と。そうしたら、「自分はパワーポイントもエクセルも教えられないから、できる方に振るなあ」と。仕事とはそういうものなのです。それなのに日本では「根拠なき精神論」が根付いてしまっている。でも実際は使える方に仕事を振るものです。これはどんなマーケットでも同じです。

ある調査で、アメリカの学生は400冊本を読むが、日本の学生は100冊しか読まないという結果があります。どっちの学生を企業が採りたいと思うか。明確ですよね。勉強をしておいて損はないわけです。

学ぶということは、選択肢が増えるということでもあります。例えばスキーができない人はリフトを使って降りるしか選択肢がない。しかし、スキーができるようになったら、上から滑って降りてくることもできる。どちらを選ぶかはその人の自由です。でも、選択肢は多いほうが豊かな人生を歩めます。

私が営んでいる生命保険も同じです。私は「保険料を半額にしたい」「保険料の未払いをゼロにしたい」「保険商品の比較情報を発達させたい」これらのビジョンを叶えるため、日本初の独立系生命保険会社であるライフネット生命保険を立ち上げました。生命保険の選択肢を増やしたかったからです。

将来に不安を感じている人も多いと思います。それなら、たくさんの選択肢を持てる方がいいでしょう? だったら学ばないといけません。


『仕事に効く教養としての「世界史」』などの
ベストセラー本の著者としても
知られる出口氏。
「いい仕事をしたかったら、
勉強すること」と語るが、
いったい、何から始めたらいいのだろうか。

好きなことから始めて、それを極める。どんなことでも突き詰めると深い

好きなことから始めたらいいと思います。嫌いなことを勉強しようと思っても続かない。好きこそものの上手なれ、ですから、何でもいいから好きなことを勉強して、極めればいい。どんなことでも突き詰めていったら深いのです。極めると、関連する事項が次々と出てきますから、自然といろいろなことに興味が湧いてくる。

後は「ご縁」を大事にすることですね。誰かに勧められたとか、そういうものがあったら、まず読んでみる。食わず嫌いはやめることです。ひと口食べてみてまずかったら食べなきゃいいのです。私も勧められた本は読むようにしています。ただ10ページほど読んで、自分には合わないと思ったら社内の図書館に寄付しますけど(笑)。

私から一冊勧めるとしたら、「社会心理学講義」(小坂井敏晶著)でしょうか。人間がどういう動物で、社会とはどういうものかがわかります。消費者心理をつかむうえでも非常に役に立つ本です。これもご縁ですから、ぜひ読んでみたらいかがでしょう。

面白い人と仕事をする。何でも直感で決める

勉強するともうひとつ、いいことがあります。それは、物事を自分で考えられるようになることです。そうすると自分の意見を言えるようになれます。そういう人物は面白い。私が一緒に仕事をしたい人です。

私は仕事をする相手は面白いかどうかで選びます。直感ですね。ライフネット生命を始めたときもそうでした。友人からあすかアセットマネジメントリミテッド社長の谷家衛さんを紹介されました。ホテルのラウンジで初めてお会いして、保険業界が抱える問題点を少しお話しした後、谷家さんから「一緒に保険会社を作りましょう」と言われたのです。私は直感で「いいですよ」とお答えしました。全部で1時間ほどの打ち合わせだったと思います。そのときに私から谷家さんに出した要望は、「若くて生命保険を知らない人をパートナーにしてください」ということ。今までにない生命保険を作りたかったからです。谷家さんは「ちょうどいい人を採用しています」と。それが岩瀬君(現・ライフネット生命保険の社長、岩瀬大輔氏)でした。私はいつもこんな風に直感で物事を決めるのです。

直感は「過去の蓄積」そのものです。私はよく「本・人・旅」という言い方をしていますが、物事を直感で決められるようになれるかは、どれだけ経験や知識があるかにかかっています。それは教養につながります。そして「この人と仕事をすると面白そうだ」と思ってもらえる、「面白い」のもととなるものも、やはり教養なのです。

考えなくても生きていける時代から、自分で考えないと生きていけない時代に

私は歴史オタクですから、歴史書はかなりの数読んでいます。今の時代を過去の時代に例えると、「室町時代の初期」に似ていると思います。既存の価値観が緩んで、新しいことを模索した時代です。あまり知られていないかもしれませんが、室町時代は、新しい文化がたくさん生まれた時代なのです。鈴木大拙という仏教学者がいます。その方の『日本的霊性』という本の中に、禅と浄土宗が日本的霊性のベースとなっていると書かれている。この2つは鎌倉から室町時代の間に日本に入ってきたものです。能や狂言、お茶も室町時代に生まれています。室町時代という面白い時代から価値観の変化を学べます。どのように時代が変わっていくのか、その構造の枠組みを学ぶと今が見えてきます。

これまでの日本の構造は、冷戦構造を前提に、「先進国に追いつけ追い越せ」というキャッチアップモデルがありました。国はアメリカのGEやGMのような電気・電子産業や自動車産業を日本でも育てようと考えたわけです。「ルートの見えている登山」ですから、考えなくとも前の人についていけば、歩いて行けるわけです。働く側も大企業に従っていればそれで安泰でした。極論を言えば、自分で考える人は国や企業にとってみれば邪魔な存在でした。むしろ黙って働いてくれる人の方が高度成長期には都合がよかったわけです。しかし、今は違う。グローバル社会における日本は、諸外国と伍して戦っていかねばならなくなりました。そのためには、自分で考えて自分の意見を言えることが大事になってきます。

日本人は考えることが苦手だと思われていますが、そんなことはない。ノーベル物理学賞受賞者がアメリカに次いでいることをみても明らかです。もともとは考えることが得意な国民なのです。ただ、これまでの社会が考えないことをよしとする社会だっただけです。

でもこれからは違います。日本の将来は、自分で考えることができる人がどれだけ生まれるかにかかっています。他人の言葉に翻弄されてしまうか、自分の頭で考え、自分の意志で行動するか。どちらを選ぶかは自由ですが、自分の考えで動ける人が日本にどんどん増えるといいと、私は思っています。

information
『人生を面白くする 本物の教養』
出口治明著

「新しい分野を勉強するときは分厚い本から入る」「自分の頭で考えることが教養」「広く浅くではなく、広く、ある程度深い素養が必要」「物事はタテとヨコで考える」「てにをはを正しく書けない人は筋の通った思考ができない」など、教養はなぜ必要か。そしてどのようにして身につければいいのかが具体的に書かれている。自分の頭で考える生き方の指南書だ。時代のとらえ方を知りたい人、将来に不安がある人、世界に通用する仕事をしたい人にお勧めしたい一冊だ。幻冬舎新書

EDIT/WRITING
高嶋ちほ子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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