プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 「人生80年を費やすだけの意義ある仕事か。その問いに天職は隠れている」中村俊裕さん(米国NPOコペルニク 共同創設者兼CEO)
なかむら・としひろ●高校時代、国連機関のトップそして活躍する緒方貞子氏や明石康氏を知り、国連で働くことに憧れを持つ。京都大学法学部卒業。英国ロンドン経済政治学院で比較政治学修士号取得。国連研究機関でのインターン、マッキンゼー東京支社でのマネジメントコンサルタントを経て、国連開発計画(UNDP)に勤務。東ティモールやシエラレオネなど途上国の開発支援に従事した。2009年、国連在職中に米国でNPO法人コペルニクを創業。貧困層の経済的自立を支援している。
2014年3月19日

「ローテク」なテクノロジーを途上国に
届けることで、貧困問題を解決する
NPO法人コペルニク。
創業から5年で17万人以上の生活を
改善してきた。
しかし、その仕事は壁の連続だという。
代表の中村氏は、なぜ、
起業に踏み切ったのだろうか。

シンプルなテクノロジーを、人々に直接届ける仕組みを作りたい

僕が代表を務めるコペルニクのミッションは、テクノロジーを途上国に届けることで貧困問題を解決する、というものです。テクノロジーの例を挙げるなら、子どもの力でも50リットルの水を運べるタンクや、太陽光とLEDを組合わせた小さなライト。どれも安価でシンプルな、いわゆる「ローテク」です。でも人々の生活に与えるインパクトが大きい。

それまで高価な灯油ランプしかなかった村にソーラーライトを導入したら、灯油代に使っていたお金を食費や教育、貯蓄に回すことができます。煙が出ないし、明るいので、子どもたちは「勉強に集中できる」と喜ぶし、親たちは夜の時間をつかって内職をして、可処分所得はさらに増えることにもつながります。

そんなローテクを途上国に届けられたら、世界の貧困問題は劇的に改善できる。そう思って、コペルニクを創業したんです。

僕は、国連職員として約10年働いてきました。ミッションはいまと同じ、途上国の貧困削減。でも、ジレンマがあったんです。自分がやっている仕事と、普通の人々の暮らしに距離があるんじゃないかと。国連の仕事は、基本的に政府を相手にしています。長い時間をかけて、国の仕組みをつくる、制度をつくる、インフラをつくる。もちろんそれはそれで大事な仕事なんですが、一方で、現実に人々の暮らしにまで支援が行き届くかというと、難しい。要は、きめの細かい支援ができないんです。

2007年、僕は「世界一貧しい国」といわれる西アフリカのシエラレオネで働いていました。毎日、政府のトップたちと国の開発計画や政府改革、民主化支援について議論をしていたわけです。

でも、その仕事は目の前にいる普通の人たちに届いていませんでした。首都ですら電気が通っていない。ポンプを動かせないから水もない。村役場にいくと、コンピュータはおろか、机も椅子も、電話もない。町に出れば仕事のない若者であふれている。よく顔を合わせていた「ママジー」という名の女性は、大きな石を砕いて小さな石を売るという仕事でわずかな収入を得ていました。

僕たちが仕事をしても、普通の人々にはなかなか届かない。必要なのは、国連とは違う、もっとダイレクトなアプローチではないかと思いました。その答えを探して、たどり着いたのがコペルニクのビジネスモデルなんです。水やエネルギー、教育といった、人間の暮らしに必要不可欠なニーズを満たすテクノロジーを、現地に直接届ける。国連在籍中の2009年にコペルニクを設立して、2012年に国連を退職、今はコペルニク1本。設立以来、17万人以上にテクノロジーを届けています。

「数打てば当たる」は真実。続けることで形になっていく

まだまだ成功と言える段階ではありませんが、我々が扱うシンプルなテクノロジーが途上国で求められている、それは確信しているんです。とはいっても、試行錯誤続きですよ。政情が不安定でテクノロジーが税関を通らない国もありますし、お金がなくて潰れそうになったことは3度。その3度めは、ついこの前の2012年です。

何をするにもスムーズにはいきません。途上国支援という意味では国連もコペルニクも同じだけど、こちらは大きな看板がない。昔は「国連です」といえば誰でも話を聞いてくれましたが、今は「コペ…なんですって?」という感じ。全くオーソリティ(権威)がないわけですね。テクノロジーを開発してくれる企業や現地のパートナーを見つけるにも、私たちはこういう者です、という説明をイチからやっていかないといけない。これは手間がかかりますよ。

話を聞いてもらうコツですか? 数打ちゃ当たるというところ(笑)。とにかくやり続けることです。冗談はなくて、大事なこと。我々のミッションやメッセージを伝わりやすいものに改善するのは当然。その上で、数をこなしていくんです。

想像していたことが形になっていくプロセスは楽しいですよ。「できるかな?」から始まって、ちょこちょこ試してみるうちに、これはいける、これは難しいけどこうしたらどうだとやっているうちに「できそうやん!」に変わる。営業がうまくいけば「よっしゃ!」と思いますし、事業が一歩一歩改善されていくのも、嬉しい。

そんなふうに続けていると、後からついてくるものがたくさんあります。我々がやってることなんて、10年前なら「それが仕事なの?」みたいなことじゃないですか。でも、続けるうちに形になる。だから、やり続けることが大切なんです。


中村氏は元国連職員。
高校時代からの憧れだった仕事を
投げうち、コペルニクに打ち込む理由は何か。

本気の思いがそこにあるなら、仕事の軸もブレない。

新しいことにチャレンジするのが好きだとか、特にそういうタイプでもないんですけどね。高校時代から憧れていた国連に入って、仕事も充実していて、だからずっと国連にいるんだろうと思っていました。退職するときは不安もありましたよ。本当に今辞めてもいいのか?と。経済的には不安定になるだろうと思っていたし、実際に不安定になったし(笑)。

でも、やっぱりコペルニクが楽しかったから。国連にいるよりダイレクトに途上国の人々の暮らしを変えられる。世界の貧困問題を解決するという我々のミッションには意義があると実感できる。そういうシンプルなところです。

小さいころから、僕の原動力はシンプルなんです。せっかく80年という長い人生を費やすのなら、意義があると思えることに使いたい。僕の答えは、人類の将来を左右するような大きな問題を解決することであり、特に貧困問題でした。緒方貞子さんや明石康さんをみて国連に憧れたのも、コペルニクを創業したのも、元を辿れば「世界の貧困問題を解決する」という同じ動機だということです。お金を儲けたいとか、安定した生活をしたいとかじゃない。

父が裁判官や弁護士の仕事をしていたことも、影響しているのかもしれません。世の中にはたくさんの社会課題があり、その課題を解決する仕事がある。僕もそんな仕事をするんだと、自然に考えるようになっていました。

仕事の舞台は国連からコペルニクに変わりましたが、それは課題を解決するために有効だと思う手段が変わったというだけ。僕の根幹にある気持ちはブレていません。自分たちの事業には意義があると本気で思っていれば、ブレないはずなんです。

それでも「ほかの分野にも進出すれば、儲かるよ」とアドバイスをもらうこともありますし、日々たくさんのプロジェクトを回していれば、何のための仕事なのか、見失う危険だってあります。だから四半期ごとの「振り返り」を欠かさない。我々のミッションにふさわしいプロジェクトか、正しくアクションをしたのか、現地で暮らしている普通のおじちゃん、おばちゃんの生活は良くなったのか。それだけが大切なことですから。

途中でやめたくなるのは、「向いていないから」

国際的な仕事をしようと思ったら、フットワークを軽くすることだと思います。国際的な仕事とは、要するに、いろんな場所にいって、いろんな人に会うということ。そういう、不慣れな環境に飛び込んでいける人間であることが大前提です。

僕はもともと、そんなこと向いていないと思っていました。帰国子女でもない、ドメスティックな家庭で育っていますからね。でも、国連で働きたいと思ったらそんなこといっていられないから、あるとき飛び込んだわけです。

大学を卒業してロンドンに留学したときは、言葉がさっぱりわからなかった。日本で学んだ受験英語とはまるで違う、イギリスなまり、インドなまり、シンガポールなまり、韓国なまりの英語が飛び交うと、全くディベートについていけない。完全に自信を失いましたよ。1つだけ心がけるようにしたのは、授業の最初に発言すること。議論の流れを自分で作れば、その後の話題もなんとなくわかる。「またアイツか」なんてクラスでも認められて、自信がついて。そのうちに言葉も聞き取れるようになりました。

今だって言葉には苦労しています。言葉がわかっても、共通の話題がないと話が続きません。みんなが日本のアニメで盛り上がれたらいいんだけど、それはアジアでしか通じないものかもしれない。これも結局、いろんな場所、いろんな人のところに飛び込み続けるしかないんです。そのうちに、こういうバックグラウンドの人にはこういう話題がつかみになるなと、知恵がついていきました。

まあ、それが今できているということは、私も飛び込むのが向いていた、という結論になるのかもしれない。だって、向いていないことは、続きません。どんなことでも諦めずに続けることが大事だとは思わないです。向いていないなら、無理せずほかの道を探したほうがいい。

逆にいえば、途中でやめたくなるのは、向いていないか、心からやりたいとは思っていないか、どちらか。僕はそう思います。本当にやりたいことなら、続けられる。ゴルフだって、好きな人は喜んで朝4時に起きるじゃないですか。それを苦労だとかストレスとか思いませんよね。仕事だって同じで、そんなふうに無理なく、没頭できることがあるはず。自分が自然に没頭できることは何か、自分が一番苦労なく続けられるものは何か、そんなところに、天職のヒントがあるんじゃないかな。

information
『世界を巻き込む。誰も思いつかなかった「しくみ」で問題を解決するコペルニクの挑戦』
中村俊裕著

革新的なテクノロジーを、途上国に届けるコペルニク。それを可能とするのは、企業、大学、NPO、寄付者、そして現地で暮らす人々をつなげる「しくみ」だ。国連時代に「本当に必要なものが必要な場所に届いていない」というジレンマを感じた中村は、どのように独自のビジネスモデルを生み出したのか。そこに込められたロジック、エモーションを語り尽くした一冊。
ダイヤモンド社刊

EDIT
高嶋ちほ子
WRITING
東雄介
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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