プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 「1つの役を多角的に考え抜く。『半沢直樹』で発揮したその姿勢を、これからの舞台でも活かしたい」石丸幹二さん(俳優・歌手)
いしまる・かんじ●1965年 愛媛県出身。 幼少のころから高校入学までに、ピアノ 、スネアドラム、トロンボーン、サクソフォーン等に触れる。 幕張西高校普通科音楽コースにてチェロを学ぶ。 東京音楽大学音楽学部器楽科にてサックスを専攻するが、3 年の時に中退。87年、東京藝術大学音楽学部声楽科に入学。在学中の90年、劇団四季『オペラ座の怪人』ラウル役でデビュー。2007年12月劇団四季を退団。2009年より俳優活動を再開。映像分野にも幅を広げる。2010年には、ソロアルバム、ソロコンサートを開催するなど、音楽活動も本格的にスタートした。
2013年11月20日

大学在学中に劇団四季に入団。
17年間、舞台俳優として活躍後、
映像の分野に進出。
40%を超える視聴率を記録した
ドラマ『半沢直樹』では、
主人公の敵役、浅野支店長を熱演。
今、大注目の人気俳優が
乗り越えてきた壁とは?

俳優人生は、ロッククライミング。危うい足場を登っていくようなもの

大学在学中に劇団四季のオーディションに合格し、劇団員になったんですが、入った瞬間から壁が立ちはだかっていたようなもの(笑)。それから退団するまで、その壁とともに過ごした17年間でした。

目の前に垂直に近い壁があって、前には多くの先輩たちがいる。そこをひたすら登り続けるんです。「俳優人生は、ロッククライミングだ」なんて言っていた人もいましたね。先輩からは、「後ろを振り向くな」とアドバイスされました。後ろには、大変な数の後輩が並んでいる。見ないほうがいい。前だけを見て登れと(笑)。調子が悪ければ、舞台の最中でも役から降ろされるすさまじい競争社会。疲れたから降りて休憩したい、なんて考える余裕はありません。「降りる時は、落ちる時だ」と。

いくら稽古を重ねても、成果が全く出なくて苦しんだこともありました。頭のすぐ上に天井があるような感覚になって、もうだめなんじゃないかと思ってしまう。でも、そこであきらめてはダメなんです。辛くても稽古を続けていくと、ある日、ぱっと天井が消えてなくなる。いきなり霧が晴れてくるんです。

例えば、芝居でどうもしっくりこないセリフがあるとします。何度も何度もそのセリフの読み込みをしていると、突然、「こういうことだったのか」と理解できるようになる。

セリフを読み込んだから、大切なことに気づくことができたのかというと、実はそれだけではありません。読み込むと同時に、脚本の原作や同じ脚本家が書いたほかの戯曲、その時代を説明した歴史の本などさまざまな知識を吸収し、多角的に考えているうちに、ある日、セリフがすっと心に入ってくるんです。役者は、役という人間に問いを発し続け、答えを求めていく努力をしなくてはならないということです。

だから、私が俳優を続ける上で一番大切にしているものをひとつ挙げるとしたら「好奇心」です。人が何かを理解できる容量って、実はすごく小さいものだと思うんです。だから、それを補足するために、いつも新しい知識や経験を積んでいかなくちゃならない。とはいっても、何でもやみくもに自分の中に入れればいいわけでもない。「超」がつくほどの一流の人たちの解釈を自分の中に取り入れることで、これまで知り得なかった深い気づきを得ることができるのだと思っています。

半沢直樹に強いられた土下座は、地面から数ミリ頭を上げていた

ドラマ『半沢直樹』では、主人公の敵役の浅野支店長役を演じました。その役を演じるにあたっては、エリート街道から脱落していく人物を、自分なりにいろんな角度から検証したんです。

半沢に追い詰められ、思わず吐いたセリフの後に、彼なりの苦悩や葛藤が感じられるように、わざと余韻を残したり。その余韻に、ちっぽけな一人の男、本当は家族思いのやさしい男が表現できたらと。

浅野支店長が半沢に土下座させられたときもそうです。実は、頭を地面にこすりつけてはいないんです。それが、長年、銀行でエリートとして働いてきた男の誇りじゃないかと。「西大阪スチールの件では半沢に負けたけれども、銀行員としての俺自身はお前に負けていない」。そんな風に解釈して演じました。ここで「浅野支店長」という役が自分のものになったという確信が持てましたし、彼のことを好きになりましたね。

人生は複雑です。どんな人にもそれぞれが歩んできた歴史と信条がある。特にあのドラマの場合は、半沢自身がとても複雑な人生を歩んでいた。だからこそ、敵役も複雑であった方が面白いだろうと。そのためには、演じる側もいろんな引き出しを持っていなくてはならないということですよね。


2013年12月には
ミュージカル『モンテ・クリスト伯』で、
主人公を演じる。
今回は、『半沢直樹』とは真逆。
罠にはめられた男に
「倍返し」の復讐をする側だ。

成長したければ、赦し難い人を、赦してみるといい

たまたま復讐劇が続くんですけれど、復讐する側、される側、両方の立場を演じられることは非常に勉強になりますね。

単に復讐という事象を演じるだけではなく、それを通して「成長」を描きたいと思ってます。復讐する側もされる側も、自分たちを見ている周りの目に、気づき、学んでいくんだ、と。

その裏には、「赦(ゆる)し」がキーワードになっていると思います。『モンテ・クリスト伯』では、主人公のエドモン・ダンテスが、復讐を経て、人を愛することの大切さに気づきます。獄中にいた間に、愛していた人が別の男と結婚し、息子までもうけている。復讐の鬼と化していた彼に、息子のフィアンセが「あなたは昔を忘れてしまったの」と言うんです。そのひと言で、彼は昔を思い出し、すべてを赦そうという気持ちになる。「赦す」という行為は、苦しみを乗り越えさせてくれることがある。ひいてはそれが、人間の魅力につながっていくのだと思います。

と言ってはいますが、実際に行うとなると、自分の信念や地位を一度壊すことが必要になったりする。それは痛みを伴いますよね。でも、自分を支えてくれる人や仕事があれば、何度でも立ち直れるし、そうすることで人としての器が広がっていくのではないかなと。

42歳の再出発。自分の仕事に信念があるから立ち向かえる

年齢にかかわらず、チャレンジしてみることは、すごく重要だと思うんです。自分を大きくするという意味では、転職もいいんじゃないかな。心機一転、新しい人に出会って新しい考え方を入れるっていうことは、自分自身を拡げることですから。そして、次の段階として自分の核となるものを定めて、それを磨き伸ばしていく。

私の場合、42歳で劇団四季を退団して再出発してからは、自ら「今までに経験したことがないことをやりたい」と宣言し、あえて新たな現場に立つようにしました。それがテレビドラマだったり、歌手としてのソロ活動だったりしたんです。正直、新しいことずくめで大変でした。6年経ちますが、今でも、「辛いな」と感じることもあります。でも、これまでに培った精神力と、「自分の選んだ仕事は間違っていない」という信念があるから、立ち向かえるんですね。

information
ミュージカル『モンテ・クリスト伯』

無実の罪で牢獄に入れられた男の復讐劇を描いた、アレクサンドル・デュマの名作『モンテ・クリスト伯』。石丸幹二主演のミュージカルとして上演される。幸せの絶頂にいたエドモン・ダンデス。彼を憎む3人の男から罠にはめられ、無実の罪で投獄される。脱獄したエドモンは憎き男たちに復讐をしていく。

公演日程:
2013年12月7日(土)〜12月29日(日) 東京・日生劇場
2014年1月3日(金)〜1月5日(日)大阪・梅田芸術劇場メインホール
2014年1月11日(土)〜1月12日(日)愛知県芸術劇場大ホール
2014年1月18日(土)〜1月19日(日)福岡・キャナルシティ劇場

出演: 石丸幹二、花總まり、岡本健一、石川禅、坂元健児、濱田めぐみ(Wキャスト)、彩吹真央 (Wキャスト)、村井國夫 脚本・歌詞:ジャック・マーフィ 音楽:フランク・ワイルドホーン
演出:山田和也
http://www.tohostage.com/montecristo/

EDIT/WRITING
高嶋ちほ子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己
Hair&Make
新井克英
Styling
Shinichi Mikawa

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