会社にお金を残さず、社員に還元。
年3回のボーナスは、多い人で500万円。
給与・評価はすべて公開し、ノルマ・目標なし。
社長も任期制、上司拒否権あり。
ユニークな制度で話題の「メガネ21」
創業者の一人、平本氏に聞く。
社員にやさしい会社は、実は厳しい会社でもある
利益は残さず社員に還元。年3回のボーナスは、多い人で500万円。しかもノルマなし。これだけ聞くとずいぶん怪しい会社ですよね(笑)。うちに取材に来られる方は、大抵「日本一社員を大切にする会社ですね」なんておっしゃってくれるのですが、実際はいいことばかりではありません。私自身は、日本一厳しい会社だと思うくらいです。
確かに、儲かった分はすべて社員に還元します。通常の会社なら、「内部保留」という形で余剰金を貯えておきますが、当社の場合は、給与や年3回の賞与を通じて社員に配ってしまうのです。ただし、年収1000万円という上限がありますので、社員に配っても残る場合もあります。そのお金は、商品の値引きの原資として使います。つまり会社に残さず、お客様に還元してしまうのです。
しかし、これは儲かっている場合の話です。儲からなかったら、ボーナスはゼロです。厳しいですよね。社員に還元する金額も、その人が会社に貢献してくれた割合に応じて支給しています。つまり、売り上げをたくさん上げた人、新商品を開発した人などには多く配分しますが、目立った貢献がない人、社内の評価が低い人には、分配率が低くなります。しかも、社員の給与はすべて公開していますから、自分の実力が社内に知れ渡ってしまうわけです。当然、他人へのねたみもおきやすくなります。大抵、人は自分の実力を実際より上に思っていますからね。「自分は貢献しているほど、もらっていない」となりがちです。
もちろん不満があれば、意義申し立てできますが、それも社員全員が閲覧できるインターネットの掲示板に書き込む仕組みになっていて、すべてオープンですから、理論立てて不満の根拠を示せないと、恥をかくこともある。つまり、自分の実力と他人の実力の両方を客観的に見られる人じゃないと、うちの会社は向いていないということです。ね、やっぱり厳しいでしょう(笑)。
実は、もともとこれらの制度は、社員を喜ばすために作ったものではないんです。会社を存続させるための苦肉の策として、試行錯誤の末に出来上がったものなのです。
リクエストにひたすらこたえる、が仕事の基本
私がほかの創業メンバー3人と一緒に会社を立ち上げたのは、36歳の時でした。以前は、広島を中心にシェアを伸ばしていた大手メガネチェーンに18年間勤めていました。高校を卒業してすぐに入社したのですが、その会社を選んだのは、給料がダントツによかったからです。実家があまり裕福ではなかったため、お金の大切さが身に染みていたんです。
食えないのはしんどい。手に職をつけようと、入社した後も愚直に働きました。向上心も人一倍あったし、仕事の糧になると思えば、厭わずいろんな人に教えを乞いに行きました。そのかいあって、数年で検眼の技術や知識は誰にも負けないほどになった。その姿を見ていたんでしょう。21歳の時、先代の社長から、「東京店に行ってくれないか」と抜擢されます。実はそのとき、東京店は赤字続きで、手に負えない状態でした。私はそこで3年間がむしゃらに働き、最終的に店の売り上げを3倍にしたんです。
どうやって売り上げを3倍にしたかって? 簡単です。「お客様のリクエストにひたすらこたえ続けた」のです。売り上げがなかなか上がらない人というのは、概してお客様の気持ちより自分の欲望が先に立ってしまっている。要は、サービス精神が足りないのです。お客様の声に耳を傾けるくらいじゃ、まだ足りない。常にアンテナを4、5本立てて、お客様の言葉だけではなく行動も観察します。そこから相手がどんな気持ちでいるかを察して、先に気配りをしていきます。
特に20代のころは、お客様が自分に対して不安を感じやすいですから、まずは不安を取り除いてあげることに留意していきました。だって、ほとんどのお客様が自分より年上でしょう? 20代の若造がお客様の検眼をするわけですから、「この男に任せて大丈夫か?」と不安に思われて当然です。それを察して、先に行動で示していきます。少々大げさなデモンストレーションになってもいいから、まずは安心感を与えられるよう、言動を工夫していったんです。
また、「お客様には、家族のように接すること」も、私が心がけていたことの一つです。家族や友達と同じように思いやりを持ってメガネを選んでいれば、お客様にとって最善の選択ができます。大切なのは、本音を言うことです。似合わないなら、似合わないとはっきり言います。本音で接すれば、必ず信頼が生まれるものです。すると、お客さんは家族や知人を紹介してくれます。こうやって、どんどん顧客を増やしていったのです。
最大限の誠意の結果が、現在の給与システム
東京店での活躍が認められて、26歳で本店の副店長になりました。その後、商品部長や電算室長を歴任したのですが、36歳の時、会社を解雇されました。きっかけは、お家騒動でした。同族企業だったその会社の後継者問題に巻き込まれてしまったんです。解雇された私は、自宅を担保に入れて開業資金をねん出し、同じく退職した仲間と一緒に現在の会社を立ち上げました。
新しく社長に就いた人とは全くそりが合いませんでしたから、解雇された私たちが、同じ広島でメガネ店を創業することを快く思うわけはありません。当然潰しにかかってくる。それが分かっていただけに、私たちは必死でした。3年経って経営が軌道に乗っても、安心はできません。なかにはその会社を恐れて、私たちの会社を辞めていく人もいました。その人たちに支払う出資金で会社の経営は、窮地に立たされたこともあります。でも、そんな状態でも残って一緒に戦ってくれた人、厳しい状況の中で会社に出資をしてくれた人には、最大限の誠意をもってお返ししたかった。こうやって生まれたのが、会社に多く貢献してくれる人に多く利益を分配する、今の給与システムだったんです。
「誠意は先に示す」。
「メガネ21」を支えてきた根本精神だ。
この考え方で働けば、
大抵のことはうまくいくと、
平本氏は語る。
会社に不満があったら、貢献できることを先に考える
創業当時、小さな会社が生き残っていくにはどうしたらいいか、必死で考えました。それで思いついたのが、価格競争です。一般的には、価格を下げるのはスケールメリットのある大手企業のほうが有利だと思われています。でも、本気で勝負したら、小さい会社のほうが断然有利なんです。原価割れするくらいの思い切った価格でお客様に商品を提供できるのは、一日の販売数が少ない方です。要は、身銭を切ってサービスをするわけですから、その規模が大きいと思い切った施策が打てなくなる、というわけです。
私たちは、4割引という業界では破格の値段設定をして、顧客を確保していきました。ただ単に「買ってください」では、誰も買ってはくれません。最初に本気のサービスをして満足していただく。まずは、こちらから誠意を示すことが大切なんです。それで気に入っていただけたら、「どうか、ご家族やご友人を紹介していただけませんか」とお願いしてきます。
「先に誠意を示す」ということは、仕事の基本です。会社や上司に不満を持っている若い人が多いと聞きますが、会社や上司に何かしてほしかったら、まず先に自分に何ができるか、どんなことが貢献できるか、精一杯考えてみる。こちらから誠意を示してから、相手に求めるんです。
この順番を間違えていると、仕事はうまくいかないものです。だって、恋愛でもそうでしょう? 好きな人に振り向いてもらいたいと思ったら、先にプレゼントをしますよね。その人が喜びそうなことを一生懸命考えて、誠心誠意、尽くします。仕事も恋愛と同じです。会社や顧客が求めていることを、先回りして考えて貢献していく。そうすれば、自然と求められる人になっていくんです。
一生食べていける仕事なんてない
もうひとつ、若い人に言いたいのは、「変化を恐れないこと」です。一生食べていける仕事に就きたい、なんて言う若い人が多いですが、そんな仕事はありません。時代とともに、環境も需要も変化していきます。人だって心変わりするし、メガネだってなくなる日がくるかもしれません。目薬をさすだけで近眼が治る、なんて日が来たっておかしくないわけです。私はむしろそういう日が来れば、万々歳だと思っています。多くの人が幸せになるんですから。
私は、よく「100万円をもらうのと、誰かに100万円あげるのとどっちがいいか」という話をします。ある程度仕事で実績を残している人ならば、必ず100万円をあげた方がいい、と言うでしょう。理由は簡単。その方が気分がいいからです。
情けは人のためにならず、と言いますが、他人のためにしたことも、必ず自分に返ってきます。仕事は他人のためにやる。誰かを幸せにするためにやる。この基本が分かっていれば、いつでもモチベーションを高く保って、楽しく仕事をしていけます。
そして、いつも「どうしたら他人のリクエストにこたえられるか」を必死で考えていれば、問題解決能力も、発想力も、企画力も身に付きます。時代に合った商品の開発をどんどんしていけるわけです。私もいくつかヒット商品を開発し特許を持っていますが、それもお客様から聞いた課題を解決したいと、休む間もなく必死で考え続けた結果、やっと生まれたものなんです。たまに「平本さんは特別だ。ひらめきの才能があったんだ」なんて言ってくださる方がいらっしゃいますが、全くそんなことはありません。いい解決策が浮かばないときは、会社の隅っこで頭を抱えて、うんうんうなっていますから(笑)。
でも、どんな難問でも、多方面から物事をとらえ、客観的に問題点を分析していけば、必ず解決策は見つかるものです。これを繰り返していると、どれだけ大きな変化がきても怖くなくなります。どんな問題にも対応できるからです。それこそ、一生食べていける力を身につけることができるんですよ。
平本 清著
儲けはすべて社員で山分け。内部保留ゼロを目指す革新的経営の経緯と仕組みが明らかに。「仕事とプライベートを別にできるのは、仕事が抜群にできる人だけ」「責任者は、決してえらいわけじゃない」「ウマの合わない人と無理に仲良くなることなど、会社は求めていない」「採用の条件は、異性にもてること」など、斬新な経営方針は一読の価値あり。
大和書房刊。
- EDIT/WRITING
- 高嶋ちほ子
- DESIGN
- マグスター
- PHOTO
- 栗原克己
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