プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 超小型人工衛星を売るためには、顧客のニーズを汲み取る力が必要です 中村友哉さん(株式会社アクセルスペース設立 代表取締役)
なかむら・ゆうや●1979年、三重県生まれ。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。在学中に超小型人工衛星の開発に携わる。2002年には、学生が作った世界初の超小型人工衛星「CubeSat」が完成し、2003年に打ち上げ成功。その後、研究室で3つの超小型人工衛星の打ち上げに携わる。卒業後は、大学発ベンチャー創成事業を経て、2008年アクセルスペース設立。
2012年12月5日

世界一の技術といわれる
超小型人工衛星を商品にした
宇宙ベンチャー「アクセルスペース」。
次世代有力企業として注目を集めている
同社の代表、中村氏に聞く。

宇宙に興味があったわけではない

もともと宇宙に興味があったわけではないんです。高校時代は化学が好きでしたので、その研究ができたらと思って理系に進みました。人工衛星と出会うきっかけとなったのは、大学2年生のときです。専門課程に進む際のオリエンテーションで、「私たちの研究室では、手作りの人工衛星を作っています」と変わったことを言う先生がいたんです。その話を聞いて自分も参加してみたくなって、その先生の研究室に入ることにしました。

学生が人工衛星を作るなんて、世界でも前例のないことでした。それだけに、すべてが手探り。毎日が試行錯誤の連続で。それから2年後、学生が作った世界初の超小型人工衛星「CubeSat」が完成し、2003年打ち上げに成功しました。

「CubeSat」は、わずか10センチ立方、1キログラム。偉い人たちからは「おもちゃ衛星」なんて揶揄されましたが、自分たちで作った人工衛星が打ち上がった時の感激は今でも忘れられません。人工衛星は小型であっても、完成までに2年かかります。しかもものすごく手間がかかるものなんです。計算上はうまくいくはずが、思い通りに動かなかったりして、何度も投げ出したい衝動に駆られます。それだけに打ち上がった時は感動するし、手の届かない所にいる衛星が私たちの指令にこたえてデータを送ってくれたときなんて、何事にも代えがたい喜びがありました。

そのときの感動がクセになったのかもしれません(笑)。もっとすごい衛星を作りたい。その思った私はそのまま研究室に残って、人工衛星づくりに没頭しました。結局、博士課程を出るまでに3つの人工衛星に携わったのですが、その最後の人工衛星が私の人生を変えたんです。

3つ目の衛星は、非常に高性能で、重さ8キログラムという小ささにもかかわらず、地上30メートルにあるものの形状を見分けることができる能力を持っていました。これは、70年代では数トン級の人工衛星でしかできなかったことです。それが、わずか数キログラムの小さな人工衛星で可能になった。その飛躍的な進歩を見ることで、「この技術を社会の役に立つものにしないといけない」と、自分の中に使命のようなものが生まれたんです。それが起業のきっかけとなりました。

当時、他に進路の選択肢がなかったわけではありません。それこそ、安定だけを考えれば、人工衛星を作っているJAXA(宇宙航空研究開発機構)や民間の大企業に入社し、大きな人工衛星の製作に携わるという手もありました。しかし、大きな人工衛星はできるまでに10年以上かかります。定年までに関わることができるのは、せいぜい1つか2つ。それでは面白くないでしょう。しかも、関わるエンジニアの数は数百人規模です。人工衛星の一部分しか携われない。超小型人工衛星ならば、エンジニアの数も数人ですから、全体に関われます。自分たちの意見も反映しやすいし、愛着も湧く。その方が何倍もやりがいがあることだと思ったわけです。

超小型人工衛星にこだわった理由はほかにもあります。実は、研究を続ける上で、専門家だけで物事が進んでいく宇宙業界に、閉塞感のようなものを感じていました。言ってみれば「宇宙村」のような感じです(笑)。それでは、宇宙は"特別な場所"になってしまう。宇宙産業を活性化するためには、宇宙をもっと開かれた場所にしなくてはなりません。そのためには民間の力が必要なんだと考えました。今まで宇宙をビジネスに利用することなんて考えたこともない人たちに、超小型人工衛星を自分たちのビジネスに活用してもらう。それこそ、超小型人工衛星はヘリコプター1機と同じ値段で買えますからね。可能性は無限大に広がっていくんです。私たちの役割は、宇宙村の門戸を開くこと、専門家と民間をつなぐ架け橋になることではないかと考えたのです。

「人工衛星、買ってくれませんか?」では誰も買ってくれない

会社は、大学発ベンチャーとして文部科学省から援助金をもらって創業しました。2008年のことです。創設メンバーは3人。経営者には自分から立候補しました。起業家になりたかったわけじゃありません。でも、ビジネスとして人工衛星を広げていきたいという思いが私には強くあったので、経営者という立場でやっていこうと思ったんです。経営のことなんか、全然知らなかったんですけどね(笑)。

実は大学院を卒業してから起業までに1年半かかっています。その間に超小型人工衛星を購入してくれる顧客探しをしていたのですが、なかなか見つからなくて。起業のめどが全くつきませんでした。一番苦しかったのは、このときですね。

飛び込みで営業をしようにも、人工衛星ですから(笑)。人工衛星を持っていきなり会社のドアを叩いて、「これ、買ってくれませんか」と言っても誰も買ってくれません。それでも何もしないわけにもいかないから、研究室のつてを頼りに、毎日いろんな会社を訪ねて話をして。最終的には、数十社回ったんじゃないでしょうか。

「夢があっていいですね」なんて、訪問先からよく言われました。それでも毎日毎日、興味のありそうな企業に足を運んで、気づいたら数カ月経っていました。でも、どうやったら超小型人工衛星がビジネスに使えるのか、答えは全く出ませんでした。この先、起業できるのか。毎日が不安との戦いでした。

そんなとき、株式会社ウェザーニューズの技術者の方と出会いました。最初はやはりどんなふうに人工衛星を使ってもらったらいいのか、全然見当がつきません。でも、先方の技術者の方が研究室の先生の先輩だったこともあり、こちらにとても協力的で。1週間毎日お会いして、いろんなことをざっくばらんに語り合ったんです。そうしたら、ちょうど貨物船が安全に通るため、北極海の氷塊の情報を船会社に提供したいと考えていることを知りました。その話を聞いてはじめて、人工衛星の活用方法を具体的に描くことができました。はじめて有意義な提案ができたんです。その事業は「北極海航路支援用超小型衛星WNISAT-1プロジェクト」という形で、現在進行中です。

このウェザーニューズさんとのことがあって、営業の仕方をやっとつかむことができました。顧客に「何か役に立つことはありませんか?」と聞いてもダメ。顧客の「人工衛星って、何に使えるんですか?」という疑問に答えてもダメ。最初はただひたすら顧客に話を聞いて、抱える「課題」を引き出していく。そしてニーズを探っていかなくてはならないんです。そしてニーズがわかったところで、今度はこちらから超小型人工衛星の強みを生かした提案をしていけばいい。

1年近く「超小型人工衛星は、どうやったら人の役に立つんだろう」と四六時中考えていたんですが、なかなか答えが出なかった。でも、そのはずです。答えは自分たちの中にはなくて、お客さんの中にあったんですから。

結局、商品を提供する側が考える範囲の提案なんて、独りよがりのものにすぎない。それでは本当のニーズは出てこないんです。つまり、いくらいい技術でも、使う人がいなくては意味がないということ。これは技術者が陥りやすい視点なんです。

このことを起業前に知ることができて、本当にラッキーだったと思います。今、ベンチャーキャピタルを使わずに黒字経営ができているのも、この時の気づきがあったからだと思っています。


こうして起業のめどがついた中村氏は、
2008年に創業する。
そこから4年、経営者と技術者、
2足のわらじを履いて
奮闘する日々が続くが、
彼を支えているものはいったい何なのか。

勇気のある"一匹目のペンギン"になれ!

ウェザーニューズさんとは、もうひとつ忘れられない出会いがありました。創業者の故・石橋博良会長(当時)です。アクセルスペースを設立してすぐ、ご自宅にあいさつにいったのですが、そのとき、石橋さんから「他人がやらなくても自分がやってみる。"一匹目のペンギンになれ"」と言われました。ペンギンは魚を捕るために海に飛び込まなくてはならないのですが、こわくてどのペンギンも飛び込めない。そんなとき、勇気のあるペンギンが先陣を切って飛びこむんだそうです。

一匹目のペンギンになれ、というのは石橋さんの座右の銘でもあり、ウェザーニューズの社内ではよく使われている言葉でもあったようです。石橋さんは「私たちは気象革命を起こすから、君たちは宇宙革命を起こしてくれ。君たちは同志だ」といってくださった。石橋さんが起業したのは、官ではなく民間の会社で、顧客のニーズに沿ったサービスをしていきたいと考えたから。実は、商社で木材の担当をしていた石橋さんが運航指示していた船が天候の激変によって沈没し、15名の乗組員の尊い命が奪われるという悲しい事件があったのだそうです。そこで石橋さんは、船乗りの命を守るための気象情報を提供したいという想いで、気象の世界に飛び込まれたとか。

石橋さんの力強い話を聞いているうちに、民間の会社ってこういうところなんだ、こういう気概があるから、新しいものを次々と生み出していけるんだ、自分たちもそうなりたい、と心が熱くなりました。やはり"宇宙村"のなかだけでは、世の中の役に立つものは生まれない。宇宙村の外にいる民間の人たちが村の中に入ってくる仕組みを作ることが自分たちの使命なんだと確信したんです。

フロンティアになれるチャンスは誰にでもある

「情熱を傾けられる仕事につけていいですね」といわれますが、誰にでもそういう仕事を持てるチャンスはあると思います。私も人工衛星との出会いは、「なんだか面白そう」と思ったことですから。

ただ、自分が全く関わったことのない分野で、フロンティアになることはなかなか難しいと思うんです。これまで自分が関わってきたことの中から、まだ事業化していないことを探す、それしかないと思います。あとひとつ重要なことは、それが好きなことであること。草創期って本当に面白いのですが、誰も答えを知らない中、なんでも手探りで進めていかないとなりません。これが思った以上に大変で(笑)。結局、好きっていうモチベーションがないと続かないんです。

人工衛星を作っていた学生のころは、人の役に立ちたい、社会貢献したい、なんて全く考えていませんでした。それが、無我夢中でやっていくうちに、自分ができることが見えてきた。そしてさらに突き詰めていったら「これならいける」という確信めいたものが生まれたんです。「うまくいかない気がしなかった」、そう思えたから起業できました。実際にやり始めたら、うまくいかなくて大変だったんですけどね。それでも、"一匹目のペンギン"になれる人は、自分の中に何らかの確信があるんだと思います。それが自信となり自分を支えていく。他人から見たら、根拠のない自信なんですけどね(笑)。

WRITING / EDIT
高嶋ちほ子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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