プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。 いい仕事をするには、自信が必要です。そのためには教養を身につけるといい 藤原正彦さん(数学者、作家、お茶の水女子大学名誉教授)
ふじわら・まさひこ●1943年、旧満州新京生まれ。東京大学理学部数学科大学院修士課程修了。数論を専門とする数学者として研究に従事する一方、2009年までお茶の水女子大学教授として教鞭をとった。現在はお茶の水女子大学名誉教授。78年に『若き数学者のアメリカ』で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。著書はほかに、87年より1年間、ケンブリッジ大学の研究員だった経験をつづった『遥かなるケンブリッジ』、270万部の大ベストセラーとなった『国家の品格』など多数。現在「日本人の誇り」が30万部を越すベストセラーに。父は作家の新田次郎氏。母は同じく作家の藤原てい氏。
2011年8月24日

数学者としてだけでなく、
随筆家としても人気が高い。
2005年に出版された『国家の品格』は、270万部の大ベストセラーとなった。
そして今年、続編とも言える『日本人の誇り』を
上梓した藤原氏が、若い人に伝えたいこととは。

日本はかつて世界中から称賛されていた

今、日本は大変な状況にあります。政治も経済も不安定で、このままだと日本はどうなってしまうのか、不安に思っている人も多いでしょう。しかし、若い人にぜひ知っておいてもらいたいのは、かつて日本は、世界中から素晴らしいと称賛される国であったということです。

書簡をひも解くと、幕末から明治にかけて訪日した多くの外国人が、日本を称賛する言葉を残しています。その言葉にほぼ共通されることが、「人々は貧しい。しかし幸せそうだ」ということです。

当時、ほとんどの欧米諸国では、「お金持ちであることは威張れることであり、お金があることが幸せなこと。貧しいことは惨めであり、お金がないことは不幸なこと」という考え方がまかり通っていました。しかし日本に来てみると、みんな貧乏なのになぜか楽しそう。冗談を言い合って笑っている。しかも、支配階級である武士がいちばん貧乏で、お金持ちの商人から尊敬されている。どうして支配階級が富を独占しないのか。貧乏なのに、武士が尊敬されるのはなぜなのかと。そんな姿を見て、欧米人は大変驚くとともに、日本はすごい国だと尊敬するようになったのです。

誇れることはまだあります。かつての日本人は美しい自然を大切にしていました。特に自然の繊細な美しさを感じ取れる美的感受性は、素晴らしい日本文学をたくさん生み、そのことも世界中の人が称賛していたのです。

私はかつて、天才がどんなところから生まれるのかを調べたことがあります。天才といわれる数学者やノーベル賞を受賞した物理学者たちがどんな所で生まれ育ったのか、実際に足を運んで調べてみたのです。その結果、天才はある一定の条件がないと生まれないことがわかりました。一つ目は「天才は美しい場所で生まれる」ということ。面白いことに、人口に比例して天才が生まれるわけではないのです。経済的に豊かだからたくさん天才が育つわけでもない。

インド出身の数学者にラマヌジャンという天才がいます。彼は高等教育を受けていないのですが、「なぜそんなことを思いつくのか想像もつかない」といったタイプの大天才です。私は彼の故郷に足を運んだのですが、その景色を見てとても驚きました。マドラスから南へ二百数十キロ、クンバコナムという田舎町なのですが、そこはかつてチョーラ王朝という裕福な王朝が栄えた地で、美しい寺院がたくさん建てられていたのです。ラマヌジャンだけではありません。クンバコナムの半径30キロの円内からは、ほかにもノーベル賞物理学者のチャンドラセカールや、ラマンといった天才が輩出されています。

美しい自然に囲まれていたり、素晴らしい寺院がたくさんあったりと、美しいものに囲まれている場所にたくさんの天才が生まれている。自然、音楽、芸術など美しいものを、自分のそばに置いておくことがいかに大切か、ということです。

二つ目は「ひざまずく心」です。日本もかつて神や仏、自然にひざまずいて暮らしていました。例えば数多くのノーベル賞学者を輩出しているイギリスは、伝統にひざまずいています。私がかつて研究員として赴任していたケンブリッジ大学では、伝統にのっとり黒いマントを着て食事をしていました。350年前にタイムスリップしたような光景です。そのくらい伝統を大切にしているというわけです。

そして最後の条件は、「精神性を尊ぶ風土」です。これもイギリスの例ですが、イギリス紳士は金銭より精神性を重視します。たたき上げで金持ちになっている人もたくさんいますが、それだけでは尊敬されません。ノーベル賞をもらっていても、年収は日本の大学教授の半分ほどです。教員の収入も日本に比べると約半分。それでも誰もパニックを起こしません。お金がなくても常にどんと構えているのです。

私の子どものころは、今よりもっと貧しかったけれど、家族の誰もが笑って暮らしていました。ごはんにお味噌汁、焼き魚だけの質素な暮らしでも、みんな幸せを感じていた。日本も少し前まではそんな時代だったのです。今は不景気で給与が下がるとみんな大騒ぎしますよね。でも、そんなものは平然と受け止めていればいい。気持ち次第で、いくらだって楽しく過ごせるし、こんな状況でも笑い合っていたら、やっぱり日本はすごい国だって、世界中から称賛されますよ。


世界中の著名な数学者や物理学者と
親交の深い藤原氏。
楽観的になることは、いい仕事をするための
条件でもあるという。

ノーベル賞を取れるかどうかは、楽観的か否かで決まる

仕事で大きな成果を残している人は、総じて楽観的です。楽観的でないと、挫折から這い上がることができません。今これを読んでいるあなたも、数学の大天才も、どんな人でも嫌というほどたくさんの挫折を味わいます。これは一生涯続きます。私だって、苦しんで寝られない日が何日も続いたこともあります。これからだってくるでしょう。みんなギリギリのところまで追い詰められて、瀬戸際でなんとか答えを出して、を繰り返しているんです。

これは学者に限った事ではありません。優秀な経営者は、物事を前向きにとらえる人が好きです。松下幸之助は入社の面接で「あなたはこれまで運がいい人生でしたか」と尋ね、「運がよかった」と答えた人だけ採用したといいます。自分で運が悪いと思っている人は、悲惨な人生から抜け出せないのです。人生を悲観していてもいいことは何一つない。それなのに、自分はろくな才能を持ってない、与えられた環境が悪い、と自分で自分を沈めてしまう人がいかに多いか。非常に残念なことです。

ポール・コーエンというフィールズ賞(数学の世界で最高の賞)をとった世界的な数学の天才がいるのですが、その人は数学の問題を出されると、すぐに「Oh! It’s so easy!」(こりゃ、簡単だ!)と言うそうです。こういって解けないことも多いそうですが(笑)。でも、それでいい。コーエンほどの大天才でも、自分を鼓舞しないと能力が全開にならないということです。それだけ楽観的になることは重要なのです。

教養を身につけると、揺るぎない自信がつく

いい仕事をするためには、もうひとつ大切なことがあります。それは自信を持つこと。自信を持っていない人は、どこに行っても成果を出すことはできません。そのためには中身が必要です。中身がなくては、他人は認めてくれませんから。やはり自分の中に何か光るものを蓄えていること、それが大事なのです。

教養こそ、その人の重みなのです。教養があれば、自然と自信が湧いてきます。それは、教養を身につけると、ものの見方が大きくなるからなのです。大局観が身につくといってもいい。

どんな視点でものを見ているかは、少し話しをするとすぐにわかってしまいます。そして教養に裏付けされた自信は、人を圧倒します。会社でも、少し上の役割になると、大局観が必要になってきます。ほんの少しでいいからほかの人より広い視野で物事を見られるようになると、部下からも信用されるし、組織を引っ張っていけるような人材にもなれる。ひいては、大きな成果を残せるようになるんです。

教養は本を読む以外には身に付かない、と私は考えています。テレビやインターネットでは多くの情報を簡単に得られますが、深い教養は身につきません。どんなジャンルから始めてもいいですが、特に興味を持つ分野がなければ、歴史や文学の本を読んで教養を身につけるといい。一つの分野で本を30冊ほど読めば、教養は身に付きます。本は安いし、今の時代は特に本を読む人が少ないから目立ちます。話が面白いと女の子にももてますしね(笑)。本を読むことはいいことだらけなのですよ。

information
日本人の誇り
藤原正彦著

「日本人のモラルはなぜ崩壊したか」「なぜ若者は日本を恥ずかしい国だというのか」「日本を日本たらしめる価値観とは」など、苦境にあえぐ日本が立ち直るためのヒントが 多く書かれている。「日本が立ち直るためには日本人としての誇りと自信が必要である。そのためには『日本は侵略戦争ばかりした恥ずかしい国』という史観を 問い直さなければならない」と藤原氏は語る。この本を読むと学校で教えてくれなかった近現代史がわかり、誇りと自信が沸いてくる。日本のビジネスパーソン はもとより、日本に関わるすべての人、必読の書だ。
文春新書

EDIT/WRITING
高嶋ちほ子
DESIGN
マグスター
PHOTO
阪巻正志

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