ベストセラーとなった著書『がんばらない』。
その鎌田氏の最新刊が、『空気は読まない』だ。
空気を気にし過ぎて、
周りに流されてしまう若者に対し、
警鐘を鳴らしている。
暗くよどんだ空気に感染してしまっている
今、日本には暗い空気が漂っていますよね。そのよどんだ空気に感染して、みんながうつうつとしてしまっている。こういうときこそ、ラテンのノリで元気を出していかないと、不況からは抜け出せないんです。
不況の原因の半分は経済構造にあるけど、残りの半分は空気が決めている。2008年にリーマンショックが起こって、世界経済は大きな打撃を受けました。そこから1年半経っているのに、日本の被害はどんどん拡大している。それは日本が暗い空気に負けているからじゃないかと思うんです。
周りの空気に染まらない生き方をする。よどんだ空気をどんどんかき回していく。日本が復活するためには、「空気を読まない」人たちが増えることが必要なんですよ。
外に目を向ければ、面白いビジネスはたくさん見つかる
今は、ものが売れない時代だって言うけれど、こんな時代でも需要はたくさんあります。ヒントとしては、フロンティアを探すといい。
そもそも資本主義というものは、フロンティアを開拓することで発展してきました。その昔、イギリスは東インド会社を作ってアジアに進出したし、アメリカは、東から西に向かって大陸を開拓していきましたよね。
では今の時代のフロンティアはどこか。それが「ボトム・オブ・ピラミッド」という低所得者層なんです。世界の人口の70パーセントにあたる約40億の人たちがものすごく低い収入で生活しているといわれています。その人たちが、面白い需要をたくさん生み出しているんです。
外国には低所得者層向けのビジネスがいっぱいありますよ。整髪剤をボトルで買えない人たちのために1回分ずつ売っていたり、まとめて蚊取り線香が買えない人のために1つずつ売られていたりね。スラムの青年の夢なの。日本の整髪剤を使うことが。夢を持った青年がいつかボトルの整髪剤を買えるようになる。貧しい国がいい刺激で元気になっていく。これが僕の言う温かでウエットな資本主義です。
少し外に目を向ければ、いろんなところに面白い話は転がっている。それなのに、不況だ、不況だと言って、周りに流されて暗くなってしまったら何も見つけられないってことなんです。
いい回転をさせると、商品は売れる
もうひとつビジネスのヒントを言うと、「回転」なんです。資本主義社会というのは、お金を回していくことで動いていく。だけど、お金だけを回すとどうしてもギスギスしてしまうから、元気と暖かさも一緒に回していくことがとても大事。
先日、イラクの白血病の子どもたちを救いたくて、バレンタインデーに向けてチョコレートを販売しました。六花亭のチョコレート缶に、イラクの白血病の女の子が描いたイラストをプリントした商品で、収益はイラクの子どもたちの薬代になります。それが完売して、10万個売れたんです。
バレンタインデーにチョコレートを贈るとき、3000円の高級ブランドのチョコレートよりも、500円のこのチョコレートのほうが哲学がある。チョコレートと一緒に、プレゼントする側のポリシーも渡せる。チョコレートを買った人も、もらった人もいいことをした気分になるでしょ。お金とともに元気と暖かさを一緒に回すことができるんです。
こんな風にいい回転をする商品を作ると売れるんですね。それなのに「ものが売れない」という空気にのまれてしまって最初からあきらめていたんじゃ、いい発想はできない。特にここぞというときは、空気を読まずに信念を貫いて勝負することが大切なんですよ。
名誉院長を務めている諏訪中央病院は、
「地域医療のモデル病院」として
全国から大勢の人が視察に訪れる。
しかし就職した当時は、
累積赤字4億円の小さな病院だった。
大企業に行けなくても、面白い人生は送れる
僕が就職した時も、やっぱり空気を読みませんでした。当時は医学部を出たら大学病院に進むのが当たり前の時代だったのに、地方の小さな病院を選んだんです。
みんなからは「都落ちするな」って反対されてね。大学病院に残らないと面白いことはできないぞってずいぶん言われた。そのときの諏訪中央病院は累積赤字4億円のおんぼろ病院だったから、特に心配する人は多かったんです。
実際、病院に赴任してみたら、施設が古いだけじゃなくて患者さんもほとんどこなかった。でも僕はあまのじゃくだから、「これ以上悪いことは起きない」と思ったのね。
とにかくできることをやってみようと、ボランティアで地域の人たちに健康づくりの生活指導を始めた。とても感謝されました。どん底の病院に行けば、ささいなことでもすごく喜ばれるんです(笑)。結局、年間80回ほどやったかなあ。その活動がきっかけで、病院に少しずつ地元の人が来てくれるようになり、経営も黒字になりました。
おんぼろ病院を大きな病院に成長させたことで、僕は経営者に向いていると言われるけど、それも大学病院にいたらわからなかったと思う。大企業に行くことが悪いわけじゃないし、大企業に行けるならそれでもいいと思うけど、行けなくても面白い人生はいくらでも送れるってこと。何でも気の持ちようなんですから。
下がっているものはいつかは上がる。それを信じることが大事
どんなことでも波があるんです。僕は医者という仕事を通じていろんな人を見てきたけど、健康も人生も幸せも、必ず波がある。今うつ病で苦しんでいても、いつか抜け出す時がくる。逆にものすごくいい仕事をした後に、大きな病気をしたりする。下がっているものはいつかは上がる。それを信じられるかどうかが大事なんです。
経済もそうですよ。今、不況だっていうけど、それは「これから上がる」ってこと。だから自分はものすごいチャンスの時期にいる、ラッキーだと思えばいい。そう考えて行動すると、いろんなことがよくなってきます。運がいいと言っていると、運は寄ってくるものなんですよ。
回転と波。この2つのキーワードで仕事を探していくと、きっと面白い仕事に出合えるんじゃないかな。お金だけじゃなくて、元気と暖かみを伴ったいい回転をさせられる仕事に就くといいですね。
僕の場合、99%は自分と家族のために生きているんだけど、残りの1%は知らない人のために使うことにしているんです。でも、結局それは自分のためなんですよ。医療支援のためにチェルノブイリの放射線汚染地域に訪れるのも、楽しいから行っているんです。子どももお年寄りもみんな喜んでくれますから。こっちまでうれしくなる。
人のためになることをすると自分も元気になるんです。生きるのが楽しくなる。そういう醍醐味は、やっぱり仕事じゃないと味わえない。だから仕事って、本当にすごいと思うんですよ。
鎌田實著
日本が不況から立ち直れないのは、みんなが「空気を読み過ぎる」せいではないか。空気は読まずに、作っていったほうが面白いと鎌田氏は語る。子どもたちに家族の大切さを知ってほしいと周りから反対されても、「弁当の日」を実施した小学校校長、医療機関から見放されたがん難民の相談に乗り、医療界に一石を投じる「がん難民コーディネーター」など、この本には「空気を読まない」で信念を貫く人たちが登場する。日本にもよどんだ空気をどんどん変えていくすごい人たちがいる。暗い時代に疲れている人、これからどう生きたらいいのか分からない人、周りに流されて自分を見失ってしまいがちな人、必見の書だ。(集英社刊)
- EDIT/WRITING
- 高嶋千帆子
- DESIGN
- マグスター
- PHOTO
- 栗原克己
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