プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。

夢なんて、百害あって一利なし。持ってなくとも面白く生きられますよ

玉村豊男さん(エッセイスト)
たまむら・とよお●1945年、東京都生まれ。都立西高等学校を卒業後、東京大学仏文科に進学する。在学中にパリ大学言語学研究所に留学。大学卒業後は、旅行の通訳、翻訳業を経てエッセイストに。以後『パリ 旅の雑学ノート』をはじめとして、精力的に執筆活動を続ける。38歳の時、軽井沢に移住。6年前には、長野県東御市に『ヴィラデスト・ガーデンファーム・アンド・ワイナリー』を開設した。現在はエッセイスト、ワイナリー経営者、画家と3つの顔を持つ。近著に『里山ビジネス』『100本のボルドーワインのための100皿の料理』『オジサンにも言わせろNPO 』など。
2009年7月22日

38歳の時、軽井沢に移住。
その後、農地を購入し、執筆活動の傍ら、
ワイナリーの経営者となった。
田園生活を実践してきた玉村氏に、
不況時代を豊かに生きる術を聞いた。

将来ではなく、今の生活に目を向けよ

昨年秋ごろから経済状況が一変し、未曾有の不景気と言われる事態になりました。そのせいで仕事が減り困っていらっしゃる方も多いかもしれません。でも私は、方向転換するのにちょうどいいタイミングになったと思うんです。少し前までは投資だなんだと、将来のことばかりに目がいっていましたよね。でも、それが不確かなものだとわかったところで、そろそろ毎日の生活を充実させることに目を向けてみてはどうでしょうか。

以前、ポルトガルを旅行した時に、ある青年から「今日よりよい明日はない」という言葉を教わりました。今日よりいい明日を求めるから、人は思い煩う。明日がないと思って、今日を楽しんで生きることに集中すれば、最高の一日を送ることができるという意味です。成熟社会である日本に必要なのは、まさにこの考え方ではないでしょうか。他人が持っているものを何でも欲しがって、際限のない欲望に苦しむより、自分のスタイルを確立し、足ることを知り、現状に満足する。いろんな経験を積んだ大人ならば、そういう暮らしがきっとできるはずです。

金メダルを取ったすぐ後に、次の夢を聞かれる

物があふれているのに、渇望感がある。満たされない。そんな人が多いのは、夢を持たなければならないと思い込んでいるからではないでしょうか。

昨年の夏、テレビで北京オリンピックを見ていたら、金メダルを取ったばかりの選手に「次の夢は何ですか」と記者が質問していました。何年間もさんざん練習してきてやっと夢がかなったのに、その数分後にもう次の夢を聞かれるのですから、選手も大変です。

その2カ月後、ノーベル賞を受賞した下村博士へのインタビューでも、やはり記者が「夢を聞かせていただけますか」と質問をしていました。受賞の知らせを聞いて心底驚いている80歳の老博士に夢を聞くとは、あまりに大胆な質問ですよね。

なぜ、そんなに夢を聞きたがるのでしょうか。夢を持っていないといけないような昨今の風潮には、疑問を感じざるを得ません。

確かに、誰もが貧しかった高度成長期には、物の代わりに夢が必要だったのかもしれません。でも、今のように物があふれた成熟社会に果たして夢が必要でしょうか。夢を追い求めるより、現実を直視し今を肯定して生きていくほうが、ずっと楽しく生きられる。豊かな生活につながっていくんです。

夢があると、現実を見られなくなる

成熟社会にとって、夢は百害あって一利なし、です。夢があると現実を見なくなりますからね。例えば、バレリーナになりたい女の子がいたとします。その子に「あなたには資質がないので、プロにはなれません」と言ったらどうでしょう。日本では、「そんなこと言ったらかわいそうだ」とみんな言いますよね。でも、フランスやロシアでは違います。「あなたは体が硬いからトップにはなれません。やるなら趣味でやりなさい」とはっきりコーチが言う。これは、無駄な時間を過ごさせないためのやさしいアドバイスなんです。でも、日本だったら「夢なんだから、やらせてあげればいいのに」となる。みんな夢に寛容です。そうやって、「夢だから」という言葉のもとで、現実を見ることなく生きてしまう。夢がかなわない焦燥感を持ちながら、満たされない毎日を過ごしていくんです。

私には、夢がありません。小さいころはともかく、大人になってからは夢を持たずに生きてきました。現実だけを見て、そこに解決しなくてはならない問題があったら、その都度、攻略法を考えて乗り越えてきました。私は目標に向かって努力するのが嫌いなんですよ。行き当たりばったりでここまできたんです。


はじめから文筆業を
目指していたわけではないという。
では、何がきっかけで、
天職と巡り合ったのだろうか。

安定と引き換えに自分を殺すのが嫌だった

高校のころまでは、絵ばっかり描いていました。でも、美大に進むほどの情熱はなく、学校が進学校だったこともあってなんとなく大学に進みました。仏文科を選んだのは、一番役に立たなそうな学問だったからです。その後、フランスに留学しますが、これも計画していたわけではなく、友人がスカラシップを受けに行くというので、「あいつが受かるならオレもいけるだろう」と、軽い気持ちで申し込んだんです。実は、ちょうどそのとき失恋していて、日本にいてもしょうがないと思っていたこともありました。

フランス留学を終え、日本に帰ってきたのはいいものの、大学に残る気もないし、就職する気もない。とはいえ、何かしなくてはなりませんから、留学のスカラシップ事務局の紹介で、スポンサーであるテレビ局の面接を受けにいきました。有難いことに内定をもらえたのですが、採用内定者の合宿に参加したら、自分は会社員には向かないことがわかった。非常に身勝手ながら、内定辞退を申し出ました。安定と引き換えに自分を殺すのが嫌だったんですね。

ちょうど大阪万博の年でしたから、しばらくは旅行ガイドの仕事で食いつないでいました。その後は、旅行会社のツアーコンダクターの仕事をやってみたんですが、一生続けられる仕事だとは思わなかった。本の翻訳の仕事を請け負ったりもしましたが、大したお金にならなかった。そこで翻訳会社を設立したんですが、他人の文章を直したい衝動に駆られて、これはいかんと、自分で文章を書くことにしたんです。

とはいえ、いきなり仕事があるわけじゃありませんから、公募情報が載っている雑誌を見て、片っ端から応募しましてね。そしたら、クロスワードパズルを作るコンテストに入賞して、タウン誌のライターにならないかと声をかけてもらったんです。そこから文筆業への道が開けていきました。

仕事は制限があるからこそ、面白い

自分に向いていることは必ずあるんです。学生のうちからそれがわかっている人は、とても幸せだと思います。でも、私を含めて大半の人はそうじゃない。実際にやってみないと、何が向いているかなんてわからないわけです。だから、とにかく何かやってみるしかない。誰にでもやらねばならないことは、いくつかありますよね。目の前のことを一生懸命やることで、次の課題を発見していく。その繰り返しで、自分にしかできない仕事、他人には任せたくないと思う仕事を見つけていくしかないんです。

私はよくチャンスを流木に例えます。普段からフットワークを軽くしておいて、イメージに近い木が流れてきたら、すかさずつかむ。それが、小さなものであっても、離さない。その後、もっといい木が流れてきたら替えればいいんですから。そのためにも、どんな流木がいいのか、普段から頭の中にイメージを描いておくといい。私は買い物するときも迷いません。どんなものが欲しいか、買い物に行く前からイメージができているからです。

大事なのは、つかんだ流木を自分の意思で選び直すこと。そしてそれがどんなものであっても最高の流木だと思うこと。完璧ではないかもしれないけど、それでもいいんです。仕事は制限があるからこそ、面白いんですから。厳しい条件の中で工夫をすることで、仕事は楽しくなってくるし、仕事の腕も上がっていくんですよ。

information
『今日よりよい明日はない』
玉村豊男著

貧しかった高度成長期には夢が必要だった。しかし、今のように成熟した時代には、夢はいらない。夢ばかり追い続けて満たされない日々を過ごすよりも、今を楽しんだほうがいい。過剰な消費社会の一員となり、足ることを知らない日本人に対し、田園生活を実践する玉村氏が、豊かに生きる知恵を伝授する。モノやカネがそれほど動かなくとも、今の生き方を肯定し、自分のスタイルを持っていれば、生活の質を保つ方法はあるのだ。将来に不安がある人、今の生活に閉塞感を覚えている人にぜひ読んでほしい一冊だ。集英社新書。

EDIT/WRITING
高嶋千帆子
DESIGN
マグスター
PHOTO
サギサワケン

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