プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。

社会的に意味がある。そう思えると、死にものぐるいになれるんです

小菅正夫さん(旭山動物園 園長)
こすげ・まさお●1948年、北海道札幌市生まれ。73年、北海道大学獣医学部卒業後、獣医師・飼育係として旭川市旭山動物園に入る。95年、園長に就任。飼育係が担当の動物について解説する「ワンポイントガイド」、夜行性の動物の行動を見ることができる「夜の動物園」をはじめ、水中トンネルでペンギンの遊泳を見せる「ぺんぎん館」、綱を渡って餌をとりに行く「オランウータン空中運動場」、大迫力のダイビングが目の前で見られる「ほっきょくぐま館」など、新しい斬新なアイディアで動物園のイメージを一新。閉園もささやかれた動物園を復活させる。著書に『生きる意味ってなんだろう?』『「旭山動物園」革命』ほか。
2009年2月11日

閉園の危機にあった動物園が、
月間入場者数で日本一に。
日本最北の旭山動物園の復活は、
多くのメディアが取り上げた。
その再建に力をふるったのが、小菅氏だ。

3回目の受験で大学に合格

最初から動物園で働こうと思っていたわけではないんです。もともと生き物をつかまえて飼うのが好きで、子どものころはどのくらい長生きさせられるか、いつも挑戦していました。生き物好きはその後も続いて、大学に入っても寮でハムスターやインコ、魚を飼っていたくらいなんです。

大学では獣医学部を選びましたが、そもそも大学に行ったのは、柔道がしたかったからなんですね。高校のころ、北海道大学の柔道部の練習を見に行って感激して、「ここで柔道をやってみたい」と思ったんです。でも、柔道ばっかりやっていて、進学の準備なんてしてないでしょ。先生からは、「えっ、進学するの?」なんて驚かれて、「入りたいと思っても、入れてもらえないよ」と言われる始末。実際、受けてみたけど、やっぱり入れてもらえなかった(笑)。

でも、僕は昔からあきらめが悪いんです。次の年も受験に失敗したけれど、こんなに勉強したことはないというくらい勉強して、3回目で合格通知をもらった。入学式を待たずに、柔道場に行っちゃいましたけどね(笑)。

腕が太すぎて、臨床医を断念

当時、北大にはいい制度があって、学部は2年生になってから決めればよかった。動物好きですから、動物に関連する学部を見に行って。それで獣医学部で見たのが、立ったまま馬の手術をする外科教授。これだ、と思った。大動物の臨床医になりたいと。

ところが、繁殖学実習で牛の直腸に手を入れて検査をしようとしたら、腕が途中までしか入らなかった。柔道で鍛えた腕が太くなり過ぎていたんです。その瞬間に臨床医の夢はなくなってしまった。

卒業が決まり、大学に張り出された求人票を見ても、惹かれるところはない。意に沿わないところに行っても、会社に迷惑がかかるでしょう。それなら1年間アルバイトをして暮らし、翌年もう一度就職活動をしようと。

その決断からしばらく経って、偶然、大学で新しい求人票を見つけたんです。それが、旭山動物園の獣医でした。やっぱり直感で、これだ、と思って、指導教官に相談すると、牛はダメだったかもしれないが、ゾウの肛門はでかいから大丈夫だろう、と言われて(笑)。一度は就職をあきらめたからこそ、この募集に出会えた。そういうこともあるんですね。

実際に動物園に入ってみると想像以上に面白かった。動物を飼うのは大好きでしたから。しかも何をやっても、よせとは言われない職場。厳しさもありましたよ。先輩から、見たこともない卵を見せられて、「これは何の卵かわかるか」なんて、試されたりね。真っ白な羽を見せられて、「何の羽だ」とか。白だからハクチョウかと思ったら、ハクチョウでも何種類もある。答えられないのが悔しくてね。もう、これまでの人生でこんなに勉強したことはないくらい机に向かいましたよ。大学受験より、獣医師の国家試験のときより勉強した。先輩に追いつくには、仕事以外の時間で頑張るしかなかったんです。それでだんだん認めてもらって。

医大に通って染色体の研究をして、世界初のオオコノハズクの繁殖を成功させたこともありました。好きな動物と接することができて、研究もできる。こんな楽しい仕事はないと思いました。

僕は2年目のころには、いずれは飼育係長や園長をやるんだと思っていたんです。そして実際に13年目に飼育係長になった。そのとき本庁に呼ばれて、初めて動物園の危機を知るんです。


斬新なアイディアで動物園を再建した
感動のストーリーは、
『旭山動物園物語〜ペンギンが空をとぶ』
という映画にもなった。

山に登るのは、どんな方法だっていい

飼育係長になって、「入場客が減っていてこのままでは閉鎖もありうる」と聞いて驚いてね。そのときみんなで真っ先に考えたのは、「本来、動物園は何のためにあるのか」ということでした。それがわかれば、動物園を多くの人に認めてもらえるんじゃないかと。よく考えたら私は来てくださるお客さんの側から考えたことがなかったんですね。でも、「何々のために」という大義がなければ、プロにはなれないんですよ。われわれの場合、それは何なのか。動物を多くの人に見せて、紹介することだろうと。

僕らは動物と接することが楽しくて仕方なかったわけです。繁殖の世話をして、感動の瞬間を味わうこともあった。でも、お客さんは、そういう醍醐味を味わえないわけです。

僕らに「お客さんに見せる」というプロ意識がなかったから、動物の素晴らしさを伝えられなかった。実際、初めてお客さんの側から動物を見て、本当に驚きました。ちょうど子どもや車椅子の方が動物を見る高さに、柵があって見えなかった。ゾウはずっとお客さんにお尻を向けていた。なぜかというと、餌をくれる飼育係がいつもゾウ舎の中にいたからです。だったら、飼育係が出てきたらどうか。そこから「ワンポイントガイド」が生まれました。

シカの角切りも、以前はお客さんに見えないところでやっていた。でも外でやってみると人だかりができたんです。角を切り終わると拍手まで起きて。意識を変えるだけで、自然と行動が変わっていきました。

そして動物を紹介する過程で、「実は、彼らが生きてきた環境が今、危険なんです」と話をする。環境問題や森林保全の話に自然につなげていける。社会的に意味があることをやっていると思えば、死にものぐるいで仕事をするんです。思い込みや独りよがりかもしれない。でも、そういう信念を共有できると、組織は変われるんです。野生動物の素晴らしさを知ってほしい。野生動物がいるおかげで、僕たちも快く過ごせていることを教えたい。そして地球を守ることの大事さも伝えたい。ただのクソ拾いじゃない。仕事の一つひとつに意味があるんだ、って。

ここ数年は、旭山動物園が地球を救うんだ、と言ってきた。そうすると、若い人は意気を感じてくれる。思い込みかもしれない。でも、みんな努力してくれる。もうびっくりするくらいに。大事なのは集団としてプロになることです。個人個人がプロであることは当たり前。目指すものが一致できれば、集団としてプロになれるんです。

そして僕は、集団にはいろんな個性が必要だと思ってきました。集客のアイディアがすぐ浮かぶ人がいる。動物を長生きさせる技術を持つ人がいる。かたよっていてはダメです。いろんな人が組織にいることが重要なんです。個人はむしろバラバラのほうがいい。全体がひとつになっていればいい。そうすれば、「お前がいたから、これができた」という言葉がたくさん生まれるようになる。

山の登り方はどんな方法でもいいんです。ロケットで行ってもいい。迷いながら泥まみれで上がってもいい。一番いけないのは、止まってしまうこと。考え込んでしまうこと。それでは上には進めない。人それぞれのやり方でいいから、常に登り続けること。それが大事なんですよ。

information
『旭山動物園物語〜ペンギンが空をとぶ〜』

一時は閉園の危機に追い込まれた旭山動物園が見事復活を遂げた。実話をもとに描いた奇跡と感動の物語。旭山動物園はもちろん、全国の動物園から協力を得ての撮影は、イキイキとした動物の姿をとらえることに成功。「映画の中で見てほしいものは、やっぱり動物です。サーカスでもプロダクションの動物でもない。なのに、監督が演技指導をしたかのように行動しているんですね」(小菅氏)。クロヒョウがネットまで駆け上がるシーンは、一日がかり。監督がずっと待っていると、園長ですら見たことがないような駆け上がり方をしたという。このくらいはやる、という監督の思い込みがあったからこそ撮れた映像だ。

監督/マキノ雅彦 出演/西田敏行、中村靖日 、前田愛 、堀内敬子 、長門裕之 、六平直政 、塩見三省 、岸部一徳 、柄本明 、笹野高史 
原案/小菅正夫 
配給/角川映画株式会社 2月7日(土)より全国ロードショー

©2009『旭山動物園物語』製作委員会

EDIT
高嶋千帆子
WRITING
上阪徹
DESIGN
マグスター
PHOTO
刑部友康

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