プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。

不遇な時期をどう過ごしていたかで人生は決まるんです

橋田壽賀子さん(脚本家)
はしだ・すがこ●1925年、京城(現ソウル)生まれ。大阪市堺市出身。日本女子大学文学部国文学科卒業、早稲田大学文学部芸術科中退。早稲田大学在学中に松竹に入社。脚本部に所属となる。34歳のときに独立。41歳で、TBSプロデューサーだった岩崎嘉一氏と結婚。92年より橋田文化財団設立、理事に就任。代表作に『愛と死をみつめて』(TBS東芝日曜劇場)『おんな太閤記』(NHK大河ドラマ)『おしん』(NHK朝の連続テレビ小説)『春日局』(NHK大河ドラマ)『おんなは度胸』(NHK朝の連続テレビ小説)など。なかでも現在も放映中の『渡る世間は鬼ばかり』(TBS 木曜日夜9時〜)は、18年にわたる長寿ドラマとなった。
2008年9月29日

『おしん』『渡る世間は鬼ばかり』と、
ヒットしたドラマは数知れず。
人気脚本家の橋田氏に、
いい仕事をする秘訣を問うたら、
「結婚することよ」と、
意外な言葉が返ってきた。

結婚したのは、主人の月給が欲しかったから

主人とは結婚したときに約束があったんです。脚本の仕事を続けてもいいけど、主婦が第一。だから、自分の前で原稿用紙を広げるなと。その代わり、金はちゃんと持ってくるって(笑)。

私ね、はっきりいって主人の月給が欲しくて結婚したんです。主人はTBSのプロデューサー。当時テレビ局の給料はすごかった。ボーナスなんて、入れた袋が机に立つくらいだったのですから。それにくらっときてしまったのね(笑)。

私はそのときすでに40歳を過ぎていて、生活に不安があった。脚本家としてちゃんと一人で食べていけるようだったら、結婚はしていなかったでしょうね。

主人は理屈っぽくて、頑固。考えを曲げない人でしたから、私はずいぶん辛抱をしました。でも、私には「嫁にしてもらった」という意識がずっとありました。だから、飲んで午前様の主人のために晩ご飯の支度をして待っていたし、主人が掃除のことで小姑のように文句を言ってきても、気にしないでいられたんです。それどころか、脚本の仕事を続けさせてくれる主人に、いつも感謝をしていました。

主人の前では仕事をしない約束でしたから、脚本を書けるのは、主人が出かけているときだけ。しかも家事の合間をぬってのことですから、いつも時間との闘いで。でも実は、これが思わぬいい結果を生んだんです。

主人はいつ帰ってくるか分からない。明日は書けないかもしれない。書くのは今しかない。この緊張感がよかった。「明日がない」という危機感が集中を生み、私にいい仕事をさせてくれたんです。

実際、『おしん』『おんな太閤記』『渡る世間は鬼ばかり』など、私の代表作となった作品は、結婚後に書いたものがほとんどなんですよ。

結婚が仕事に役立ったことは、ほかにもあります。それは、仕事仲間とケンカができること。主人の月給がなければ、「ここで口答えしたら、仕事がこなくなるかも」なんて思ってしまって、言いたいことが言えないでしょ。

でも月給があれば、強く出られる。向こうも、「こいつには亭主がいるから、無理言うと仕事降りちゃうかもな」と、気を使ってくれる(笑)。これがよかったんです。言いたいことを存分に言って、自分のメッセージをきちんと脚本にのせられるようになったら、途端にドラマが当たるようになった。食べるために仕事をしていては、いい仕事はできないということですね。


戦後間もない時期に松竹に入社。
初の女性脚本家の誕生かと騒がれもした。
しかし、実際は男女差別の中、
不遇の日々が続いたという。

暇に任せて、ユースホステルに200泊

小さいころから脚本家になろうと思っていたわけではありません。親の言う通りに結婚するのが嫌で、日本女子大学を卒業した後、早稲田大学に進学したんです。そしたら親から勘当されちゃったの。お金が全くもらえなくなってしまって。

松竹の養成所は、お金がもらえる上に、脚本の書き方も教えてくれるというので、試験を受けに行ったのね。そうしたら1000人以上の人が受けにきていて驚きました。

最初50人が選ばれて、半年間の養成期間を経て、そこから25人に絞られた。その後、脚本を書いて最終的に6人が残りました。その中で女性は私一人だけ。「男社会に初の女性進出か」なんて騒がれて、雑誌の取材を受けたこともありました。

でも、やはり男社会ですから、男女差別はありました。私だけお茶くみや掃除をさせられたりね。腹が立って「やりません」なんて生意気を言っていたら、先輩からすっかり嫌われて。以来、脚本の仕事は全くさせてもらえませんでした。

今考えたら、意地を張らずに、お茶の一杯くらい入れてあげればよかったなと思います。そしたらかわいがられて、もっと早く女性脚本家として脚光を浴びていたかもしれない。惜しいことをしましたよ。

そんな状態で仕事もなく、自宅待機ばかりですから、松竹からはあまりお金をもらえませんでした。だから児童向け雑誌で少女小説を書いてお金を稼いでいたんです。それが結構いいお金になったので、暇に任せて全国を一人で旅して回りました。いろんな人と触れ合って、いろんな話を聞いて。そのときの経験が、後に「おしん」などのドラマの源泉となりました。

不遇な時期っていうのは、何かを貯めるときなのね。暇な時期をどう過ごしたかで人生が決まる。干されているからって、ゆううつになったり、何にもしないのはもったいないですよ。お金がなかったら、ユースホステルに泊まればいいじゃない。私もそうやって200泊くらいしたかしら。

あいつ、とうとうテレビにいっちゃったよ

結局、松竹は34歳の時に辞めました。そのうちに少女小説を連載していた雑誌も廃刊になって、本当にすることがなくなった。これからどうしようかなと考えたけど、いまさら雇ってくれるところもないしね。私には、書くことしか仕事がなかった。脚本しか、残された道はなかったんです。

それで、テレビ局に脚本を持ち込んでね。当時は、映画が全盛で、テレビは下に見られていたから、「あいつ、とうとうテレビにいっちゃったよ」なんて、ずいぶん陰口を叩かれたりもしましたよ。

それでも、なんとか糸口を見つけたくて、テレビ局に何度も何度も脚本を持ち込みました。3年くらい続いたかしら。読まれずに、そのままほったらかしなんてこともよくありましたよ。だって、プロデューサーの机の上には、うず高く持ち込み原稿が積まれていたんですから。

そのうちに『七人の刑事』などの脚本を書かせてもらえるようになって。石井ふく子さんなど、信頼できるプロデューサーとも出会えて、少しずつ脚本家への道が開けていったんです。

きた仕事は、全部自分のものにすればいい

振り返ってみると、私の脚本家人生は苦労だらけ。もうダメかなと思うときも何度もありました。だけど何とか食らいついていった。もちろん、書くのが好きだったからですが、それしか自分にはなかったからということもあります。向き不向きなんて考えたこともない。ただひたすらに突き進んでいったんです。

才能なんて、みんな持っていないんです。自分に何もないのに、向いているものなんて探しても、見つかるわけがないでしょう。何をしていいのか分からない人は、とにかくどこかに就職して、そこに自分を合わせる努力をしないと。そこで何か物にしようと頑張ればいいの。つまらないと思う仕事だって、一生懸命やればいつかは認められるもの。そしたら次はもっと面白い仕事に就かせてもらえるんですから。

現状に不満がある人は、努力が足りないんですよ。もっともっと努力をしないと。努力しないで文句言ってる人が多過ぎます。もし努力しているのに報われないと思うのなら、自分をアピールする努力をしなくちゃ。いい仕事は向こうからやってきません。自分から取りに行かないとね。

向いている、向いていないなんて関係ありませんよ。来た仕事は、全部自分のものにすればいいの。嫌な人がいたら、その人を食べちゃうくらいの気力がないとダメ。それができるようになったら、どんどんいい方向に向かっていきますよ。

information
『夫婦の格式』
橋田壽賀子著

夫婦だからこそ味わえる豊かな人生がある。ホームドラマの書き手として多くの夫婦を見てきた橋田氏が、自身の経験をもとに夫婦円満の秘訣を語った。「夫婦の間では男女平等はあり得ない」「男を立てるということは、男をわかってあげるということ」「自分が輝ける仕事を持っていると、心に余裕ができる」など、この本は結婚論であると同時に、橋田流仕事術でもある。男性も女性も、独身者も既婚者も、仕事で結果を残したいと思う人は、ぜひご一読を。集英社新書。

EDIT/WRITING
高嶋千帆子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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