プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。

答えの出ない悩みを持っているか。それが、時代を生き抜くカギなのです

姜尚中(政治学者)
かん・さんじゅん●1950年、熊本県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。東京大学大学院情報学環教授。専攻は政治学・政治思想学。著書に『日韓関係の克服』『在日』『姜尚中の政治学入門』『愛国の作法』『ニッポン・サバイバル』ほか。
2008年6月23日

気鋭の政治学者である。
東京大学で教鞭をとる一方で、
多くの討論番組にも出演。
良識ある発言と、やさしい語り口で、
男女問わずファンが多い。
そんな姜氏が『悩む力』という本を上梓した。

このまま進んでもいいことはない。みんな、そう感じ始めている

インターネットをはじめとするデジタル技術の発展により、政治、経済、文化など、あらゆるものが国境を超えて行きかうようになりました。自由でグローバルな市場経済が、豊かさと利便性をもたらしたように思えますが、実際はどうでしょうか。常に変化を求められ、余裕なく急き立てられているのが現状ではないでしょうか。

格差社会が浮き彫りになり、以前とは全く違うステージになっているのに、制度や仕組み、ものの見方など、すべてが高度成長期のまま変わっていない。国も社会も、過去の栄光から抜け出せないでいます。例えば、『ALWAYS 三丁目の夕日』という昭和の高度成長期を舞台とした映画に多くの人がひかれるのも、過去への郷愁の表れといえるでしょう。「あの時代はよかった」と懐かしんでいるわけです。この現状とのギャップが、いろんなところで軋みをもたらしています。

20世紀初頭の日本でも、同じようなことがありました。ギャップに苦しみ、昔に戻りたいという思いが未知のものを求め、不幸なことに戦争へと突き進んでしまった。現代の日本はそんなことはできない。だからといって別の未知のものに突き進んでいく力もない。今の時代に閉塞感があるのはそのせいです。ひと言でいうと、自信が持てないゆえの「これでいいんじゃない」という惰性が蔓延している。このまま進んでもいいことはないのではないか。みんなが、そう感じ始めているのです。

悩むことを知らないのは、最大の不幸

今、必要なのは内省的になること。つまり、悩む力を持つことです。現代のような成果主義、前進主義の世の中では、悩みは否定的にとらえられてしまう。解答を急ぐ時代だからです。その結果、何をどうしていいのかわからなくなってしまっているんですね。だから、悩むことは重要なんです。もしかしたら、答えは出ないかもしれない。でも、悩みの海を泳いでいく力をつけなければ、生きていくための内発的な力は出てこないのです。

そもそも悩む力はみんなが持っているものです。それなのに、悩みの海を自分で泳がないで、誰かから浮き袋をもらったり、豪華客船に乗ってごまかしてしまっている。その場はラクかもしれない。でもそんな生き方をしたら、後々、弊害が出てくる。玉の輿に乗っても、安定した企業に入っても、いつどうなるかわからないでしょう。一時的に誰かの力を借りても、何の解決にもなっていないということです。悩むことを知らないことは、人間にとって最大の不幸なんですよ。

悩みには2種類あります。解決できる悩みと解決できない悩み。なぜ、自分はこんな体で生まれてきたのか。なぜ、この時期にこの親のもとに生まれてきたのか、こんなことを悩んでみても、誰にもわからないわけです。こんな解決できない悩みを若い人には持ってほしいのです。

私自身、もう60歳になりますが、なぜ生きているのだろうかと考え続けてきました。考えても考えても、答えは出ないわけです。それこそ、日々の仕事をしながら悩むのは大変なこともあります。でも私は、安易な解答には飛びつくまいと決めていました。

若い人には大いに悩んで欲しい。悩むこと、そのものに意味があるのです。答えの出ない悩みと向き合うことで、思考力や生きる力が生まれてくるのですから。

日本は、激しい格差社会に向かっています。堕ちた人は皆、「よりによって、なんで自分が…」と思うわけです。そんなとき、何か支えるものがないと、どうなるでしょう。誰もが自分を支える力を持たないと、嫉みや妬み、憤まんが渦巻く社会になる。そんな社会は健全ではない。一人ひとりが悩む力を持ち、自我を形成していなければならないのです。

自我とは、「私とは何か」を自分自身に問う意識で、「自己意識」と言ってもいい。自我は自己チューとは違います。自己チューは、自分の内側だけで自己完結するもので、他人を必要としない。他者との間に壁を作り、自分の中に籠城すれば自我が確立されると思っている人が多いようですが、それは違います。他者と交わらなければ、自分は見えてこないんです。そして、他人と関わらなければ、他人も見えてこない。それは妻であれ、友達であれ、上司であれ、同じです。他人と関わることは、最大の不幸であり、最大の幸せなのです。


他人と関わる絶好の機会がある。
それは「仕事」だ。
働くこととは、社会の中で
存在を認められることだと、
姜氏は語る。

合法的で迷惑をかけない仕事なら、何だっていい

私がなぜ、就職せずに大学に残ったのかというと、野球ばっかりやっていて挫折し、ほかに行き場がなかったからです。モラトリアムな状態で職業意識もありませんでした。そんな私が欲しがったものは、「他人のアテンション」でした。「アテンション」とは、「ねぎらいのまなざしを受けること」。自分自身に「なぜ、働くのか」と問うたとき、かけがえのない理由が、「他人のアテンション」だったのです。

先日、ワーキングプアを題材としたテレビ番組を見ていたら、30代半ばの路上生活者が出ていました。彼は、ゴミ箱から週刊誌などを拾って売り、命をつないできたのですが、初めて市役所から託された清掃の仕事をしました。その後、「社会復帰できれば、生まれてきてよかったと思えるのではないか」と、涙ながらに話し出したんです。それは、道行く人からかけられた「ご苦労さま」というようなねぎらいの言葉がきっかけでした。

彼は働く以前は、自分のことを世間の邪魔者だと思っていたんです。そこいらに転がる砂利だとしか思えなかった自分が、他人のアテンションを受けて変わった。働くことは、他人からアテンションをもらうチャンスなのです。

何の仕事をしたらいいか、悩んでいる人も多いと思う。私は、人に迷惑をかけずに合法的なものであれば、何だっていいと思います。それこそ、ボランティアのようなものから始めたっていい。他者に交わらなければ、アテンションはありません。無関心状態です。人にとってそれほど辛いものはない。学校のいじめでも、無関心がいちばん辛いでしょう。それと同じです。自分が社会の中で生きていく実感が持てないと、自殺のような悲劇的なことが起こるのです。

自信を持ちたければ、他人に自分を投げ出すしかない

他人と交わることで、もうひとついいことがあります。それは、自信がつくことです。自信を持ちたいという人はたくさんいると思いますが、それは本当に難しいことです。私自身、今でも自信があるとは言い切れない。だけど、これだけは言えます。それは、「他人を信じられないと、自分を信じることはできない」ということです。

マニュアルなんかありません。やってみるしかないのです。ある哲学者が「他人を信じるということは、自分を投げ出すこと」だといっていましたが、その通りだと思います。他人から投げ出してくれるのを待っていてはダメです。勇気を持って、自分から投げ出していかないと。

あなたには、自らを投げ出せる人がどれだけいますか。これまで、人を信じず、厭世的に過ごしてきた人もいるかもしれない。でも、これからだって遅くはない。いくつになっても新しく関係を作ることは可能なんですから。まじめに悩み、まじめに他人と向き合う。そこに突破口があるんですよ。

information
『悩む力』
姜尚中著

情報ネットワークや市場経済圏の拡大に伴う急激な変化により、多くの人がストレスを感じる時代になった。自殺者も急激に増える中、自己肯定もできず楽観的にもなれない人たちは、どうやって生き抜いていけばいいのだろうか。100年前、同じような時代背景の下で、現代に通じる悩みを抱えていた夏目漱石やマックス・ウエーバーの残したメッセージをヒントに、現代を力強く生きる方法を考えていく。姜氏初の生き方本だ。(集英社新書)

EDIT/WRITING
高嶋千帆子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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