マネジメントに疑問を抱いて転職したのに、自分も同じことをしていたという事実に気づく~株式会社Emotion Tech代表取締役 今西良光さん【20代の不格好経験】

今、ビジネスシーンで輝いている20代、30代のリーダーたち。そんな彼らにも、大きな失敗をして苦しんだり、壁にぶつかってもがいたりした経験があり、それらを乗り越えたからこそ、今のキャリアがあるのです。この連載記事は、彼らの「失敗談」をリレー形式でご紹介。どんな失敗経験が、どのような糧になったのか、インタビューします。

リレー第26回:株式会社Emotion Tech 代表取締役 今西良光さん

株式会社リフカム 代表取締役 清水巧さんよりご紹介)

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新卒で大手電機メーカーに入社、官公庁向けIT基幹システムの営業を4年間担当する。2010年ファーストリテイリングに転職し、ユニクロ店舗のマネジメント業務を経験。その後、早稲田大学ビジネススクールを経て、2013年3月に株式会社wizpra(現・株式会社Emotion Tech)を創業、代表取締役に就任。

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<同社のサービス「Emotion Tech」>

NPS(ネット・プロモーター・スコア)などの「感情データ」をもとに、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)の分析・改善・マネジメント支援を行うクラウドサービス。独自の感情データ解析技術を用いた効果的な施策支援が支持され、200社を超える企業で導入されている。

すべての人がイキイキ働ける世の中を作りたい!との思いに突き動かされる

当社では、顧客のロイヤルティを数値化するマーケティング指標「NPS」を用いた顧客ロイヤルティ向上を支援するサービス「Emotion Tech」、従業員モチベーション、エンゲージメント向上を支援する「Employee Tech」を展開しています。このビジネスに挑戦しようと思ったのは、就職した会社で抱いた「マネジメントに対する課題」がきっかけ。「すべての人がイキイキ働ける世の中を作りたい」という思いに突き動かされ、今に至ります。

しかし、今日に至るまでにはさまざまな失敗がありました。中でも大きかったのは、理想のマネジメントをしようと志高く入社したファーストリテイリングでの失敗。今思い返しても、反省してもし切れないほどショックな出来事でしたが、あの失敗が今の自分を作ってくれたと思っています。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

新卒入社した会社で、組織の在り方やマネジメント方法に疑問を抱く

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大学卒業後に入社したのは、大手電機メーカー。官公庁向けIT基幹システムの営業に、約4年間携わりました。

ニーズ自体は非常に高く、営業としてやりがいも成長実感も得ることができましたが、同時に組織の在り方やマネジメント方法に、疑問を感じるようにもなりました。自分の同期や後輩が上司のハードマネジメントや高い目標設定に耐え切れず、うつや胃潰瘍などで体を壊してしまうことが続出したのです。

社員がイキイキ働き、そのパワーを最大限発揮することが、会社の原動力となり、業績につながります。会社や上司は、そのための器を作るべきなのに、それができていないと感じました。もっと上司がきちんと彼らと向き合い、適切なケアができていれば事態は防げていたはず。「なぜ組織や上司は、現状を改革しようとしないのだろう?自分が上司だったら、絶対にこんなマネジメントはしないのに!」と憤りを覚えるようになりました。

しかし、当時の自分の力では、この大組織を変えることはできない。ならば、早くマネジメントを経験できる環境に移って、力をつけようと考え、転職を決意。ファーストリテイリングの幹部候補募集に手を挙げ、「ユニクロ」の店舗マネジメント業務に就きました。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

理想のマネジメントを実現するはずが…スタッフから猛抗議を受け反省

入社当初は、「ようやく私が理想とするマネジメントができる。スタッフとコミュニケーションを取り、いい店をこの手で作り上げるんだ!」と意欲に燃えていました。しかし…徐々に業務量の多さに流され、理想のマネジメントをしている「つもり」になっていたようです。

ユニクロでは、3カ月に1度、アルバイトスタッフの昇給機会があります。担当する店舗には、半年前に同時に入社したAさんとBさんがいたのですが、ある時私はAさんだけを昇給させ、Bさんの昇給は見送りました。

Aさんは、朝出社したとき、休憩室に入ってくるとき、いつも明るい笑顔で元気な挨拶を欠かしませんでした。従業員にこれだけ笑顔で元気に挨拶ができるということは、お客様にも笑顔で接しているだろうと高く評価しました。一方のBさんは、あまり快活なタイプではなく、笑顔も足りない印象。目立った「良さ」を感じることができなかったため、昇給させませんでした。

しかし…そのジャッジを下した後、Bさんから猛抗議を受けてしまったんです。
「なぜAさんは昇級して、私は昇級しないのですか。普段私がお客様にどう接しているのか、知っていますか?今西さんは私のことを全然見ていない!」――Bさんに涙ながらに訴えられ、大きなショックを受けました。

実際、やるべき業務をこなし切れず、スタッフ一人ひとりとコミュニケーションを取る時間が捻出できていませんでした。また、スタッフが店舗でどのような接客をしているのか、お客様にどう向き合っているのか、見ることもできていませんでした。

他のスタッフに確認したところ、「Bさんに服を選んでほしい」「Bさんに接客してほしい」という固定客を何人も持っている、素晴らしいスタッフだということがわかりました。ニーズの本質をとらえるのがうまく、お客様の要望を聞いて的確に商品の提案を行い、高い支持を集めているとのこと。

そんな姿を全く見ていなかった自分に、愕然としましたね。理想のマネジメントを実行するためにここに来たのに、全くできていないどころか、前職で私が批判していたことと全く同じことをしている自分に気づかされ、ものすごく落ち込みました。

志高くマネジメントに臨もうとしていた自分でも、目の前の仕事に翻弄されてしまう。もっとメンバーと向き合いたいのに、実現できていないことに悩んでいるマネジメント層も多いのではないかと思いました。この課題を解決するには、個人が頑張るのではなく、何か仕組みを作って世の中から変える必要があると痛感。この出来事を機に、真剣に起業を考えるようになりました。

「まずはやってみる」精神で起業し、試行錯誤しながらブラッシュアップ

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とはいえ、「仕組み」について何のアイディアもなければ、そもそもの起業ノウハウもなかったので、まずは起業について勉強しようと考え、会社を辞めて早稲田大学ビジネススクールに入学。アントレプレナーの専門家のもとで勉強すれば、経営知識が身に付き、何らかの道が見えてくると思ったのです。

結論から言えば、とても貴重であり、勉強になった2年間でした。今の会社の共同経営者のほか、ビジネスを支えてくれる仲間にもたくさん出会えました。ただ、師事した先生から学んだのは起業ノウハウや高尚な経営のフレームワークなどではなく、一貫して「まずはやってみろ」という精神(笑)。ノウハウを学んだところで、その通りに行くはずはない。まずはやってみないことには何も始まらないし、やってみてこそ見えてくるものがある…との教えでした。初めは「それでうまくいくのかな…」と思いましたが、今思えば先生の教えは正しかった。振り返ってみれば、わからないながらも、教え通りに一歩踏み出してみたら、それがいつのまにか今につながった…という印象です。

始めに発案したのは、社内コミュニケーションツールとして従業員同士が互いを褒め合うアプリ。しかし、アプリ開発の知識も経験もないので、ビジネススクールづてに紹介してもらった早稲田の理工学部の学生や、ユニクロ時代の学生アルバイトだった東工大生の友達などを巻き込んで、見よう見まねで開発にこぎつけました。

アイディアの元となったのは、ユニクロが行っていた「サンクスカード」。同僚の働きを見て、いいと感じたことをカードに書き、それを貼り出すというアナログなものですが、これを活用してCS(顧客満足度)ランキングで上位になっている店舗があったのです。これをアプリ化することで、一般企業にも応用できれば、従業員のモチベーションが上がり、イキイキ働ける環境が作れると考えたのですが、なかなか普及しませんでした。

企業の話を聞いてみると、「着眼はいいと思うけれど、費用対効果が見えないし、従業員同士のコミュニケーションが業績につながるのか未知数」との意見が聞かれました。そして、併せて寄せられたのが、「ES(従業員満足度)が重要なのはわかるが、まずはCSを可視化したい」との声。まずはこの声に応えようと考え、さまざまな手法を検討。そのなかで「NPS」に出会い、2014年8月に顧客満足度可視化サービス「Emotion Tech」の提供を実現しました。

そして、1年ほど前から、「ESの可視化はできないの?」という問い合わせが舞い込むようになりました。それに対応したのが「Employee Tech」ですが、これこそ元々やりたかった「世の中を変える仕組み」づくり。ずっと抱き続けてきた、「すべての人がイキイキと働ける世の中」を作る第一歩を踏み出すことができて、とても嬉しく思っています。

ESは、CSと密接につながり、業績に大きな影響を及ぼします。従業員がイキイキ働ける環境を整備すれば、それがCS、そして企業の成長につながる――この流れを、1社でも多くの企業において作り出していきたいと考えています。

一歩でも踏み出してみれば、何かヒントが見えてくる

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何度となく失敗と反省、そしてチャレンジを繰り返した結果、今日まで来ましたが、振り返ってみて改めて思うのは、「まずはやってみる」ことの大切さです。

アイディアが浮かんだら、まずは作ってみる。知識やスキルが足りなかったら、無理やりにでも周りを巻き込んでみる。立ち上げたアプリが軌道に乗らなかったら、企業の声を聞いて別の方法を考えてみる…というように、模索しながらも前に進んでいるうちに、徐々にアイディアがブラッシュアップされ、企業にご支持いただけるサービスが生まれ、ずっとやりたかったESサービスも始めることができました。諦めたら、そこで終わりだけれど、諦めずに少しでも前に進んでみれば、何とかなるものだ…と学びました。

もし気になること、興味を持っていること、問題意識を持っていることがあったら、まずは行動してみるのが良いのではないかと思います。実現する方法がわからなくても、一歩でも動いてみれば、何かのヒントが見えてくるはずです。そして結果的にそれがうまくいかなかったとしても、自分の気持ちに素直に従った結果なのだから後悔はないし、後で振り返った時、今につながる「糧」になっていると思います。

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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