“あえて”常識の逆をつく!名セリフ誕生の舞台裏ーーマンガ家三田紀房インタビュー《前編》

『インベスターZ』や『エンゼルバンク』『マネーの拳』など数々のヒットマンガを生み出している三田紀房先生。ビジネスに役立つ、小気味のいい名台詞が読者を惹きつけます。新連載『ドラゴン桜2』のスタートを間近に控え、これまで30年に渡って、マンガ界のトップを走り続けてきた三田先生の仕事術についてお伺いしました。

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【プロフィール】

三田紀房

1958年生まれ、岩手県北上市出身。明治大学政治経済学部卒業。
『ドラゴン桜』で2005年第29回講談社漫画賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。
1月25日より『週刊モーニング』で『ドラゴン桜2』の連載がスタート。

どのようにして社会のニーズを捉えているのか?

俣野:それでは三田先生、よろしくお願いします。『ドラゴン桜2』の連載がスタートするとお聞きしています。『ドラゴン桜』と言えば、「東大に入るのは簡単だ」のセリフでもお馴染みの受験マンガですね。当時はテレビドラマ化もされ、一大ブームを巻き起こした作品です。あれから10年が経ち、なぜ今再び「ドラゴン桜」なのでしょうか?

三田:もともと『ドラゴン桜』は、あれで完結していたのです。ところが時間の経過とともに状況が変わり、2020年度から従来の大学入試センター試験が廃止され、新しく大学入学共通テストが導入されることになりました。ちょうど『インベスターZ』の連載が終わるころ(2017年5〜6月)、文部科学省から教育改革に関する方針等が矢継ぎ早に発表されていました。

受験業界にとっては、1989年度のセンター試験導入時以来の大改革です。これだけの改革を行うとなると、教育現場では、大幅な方向転換を迫られます。しかし、今までのノウハウが使えないとなれば、どこからか新しい情報を仕入れてこないといけません。

私はこうした現状を知り、「だったら、情報がなくて困っている教育現場の人々に対して、『ドラゴン桜の続編』を通じて対策案を提示したらどうだろうか?」と思ったのが、『ドラゴン桜2』の執筆を決めた動機です。困っている人がいるということは、そこにはマーケットやニーズがある、ということですから。

俣野:これは「ニーズの見つけ方」として、大変有益なお話ですね。「社会で何か変化がある」ということは、新しいマーケットが生まれる可能性がある、ということでもありますよね。

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【プロフィール】

俣野成敏(またの・なるとし)

ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。著作累計は35万部超。『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」』(日本経済新聞出版社)など。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

「決め台詞」とは、みんなの声を代弁すること

俣野:それでは次に、多くの読者の方が気になっている「創作のヒントについて」いくつかお聞きしたいと思います。先生はいろんなテーマの話を描いていますが、物語はどのように構想されるのでしょうか?

三田:たとえば『インベスターZ』にしても、それまで投資のマンガを描こうなんて1ミリも思っていませんでした。たまたま取材先で、ある甲子園出場校を訪ねた際に、夜の懇親会の席上で、関係者から「学校の経営が厳しい」という話を聞きました。そこで、「投資で資金運用を行えば、学校の経営も安定するかもしれないと思いつき、でも、どうせなら子供に投資をさせたら面白いんじゃないか」と思ったのがきっかけです。

私は、準備に時間はかけません。準備って、1円にもなりませんから。我々の職業は、どんなに事前準備に努力を重ねたところで、原稿というアウトプットに対してしかお金がもらえません。何より、読者からの支持を得られなければ、仕事そのものがこなくなります。マンガ業界とは、「面白くなければ誰もそのマンガを手に取らない」という、現実を突きつけられる厳しい世界です。

俣野:先生は、その厳しい業界で活躍し続けていらっしゃいますが、その秘訣が「準備に時間をかけないこと」なのでしょうか?

三田:私は、見えない努力を否定するものではありません。それはとても尊いものですし、努力を伴わない成功などあり得ないでしょう。けれど忘れてはいけないのは、「ビジネスでは結果に対してしか代金が支払われない」という現実です。ですから、「いかに最小の準備で最大の成果をあげるか?」がポイントになってきます。

私たちは、学生時代に「トレーニング量と結果は比例する」とか「練習はウソをつかない」と教えられて大人になります。しかし、私たちの能力には限りがある以上、「その限られた力をどこに投入するべきか?」と考えることが必要なのではないでしょうか。

俣野:「結果につながる努力をすることが重要だ」ということですね。それでは、次の質問にいきたいと思います。三田先生のマンガは、随所に名言が散りばめられているのが大きな特徴となっていますが、そうした名言は、どのようにして考えつくのでしょうか。

三田:それを業界用語で「決め台詞」と言います。どうやって毎週、決め台詞をひねり出しているのかというと、私の場合、その秘訣とは「世の中の常識とは反対のことを言う」ことにあります。

たとえば『ドラゴン桜』で、「詰め込みこそ教育だ」という台詞があります。これは当時、主流だった“ゆとり教育”とは真逆の考え方です。しかし、あの台詞が本当に暴言にすぎないのであれば、『ドラゴン桜』はあそこまでヒットはしなかったでしょう。

本来、決め台詞とは読者の共感を呼び起こすものでなければなりません。つまり、読んでいる人が「そうそう、そうだよね」と思える内容でなければ決め台詞とは言えない、ということです。だったら、どうすれば人々の共感を呼び起こすことができるのかと言うと、実はみんなも心の中では「本当はこうだよな」と思っているようなことを掘り起こすことです。

あなたも居酒屋などで「ゆとり教育なんて、あいつらは何もわかっていないんだ」とグチっている人を見かけたことはありませんか?実際、読者の多くは、心の中ではそう思いつつも、それを発言できる場を持っていません。だから“決め台詞”という体裁を取っていますが、たいていはみんなが心の中で思っていることを代わりに言っているだけなのです。

どんな人でも、心の中に自分の主張を持っているものです。よって制作する側は、いかにその気持ちに近づいていくかが大事であって、読者と波長が合えば、みんな「面白い」と支持してくれます。

もちろん、同時に「そんなワケないだろう」という批判も受けます。作者の中には批判されるのが嫌で、読者に迎合してしまったり、やめてしまう人もいます。しかし我々の職業にとって、本当に怖いのは「読まれない」ということです。読まれないのは、ゼロと同じですから。

反論があるということは、たとえ接点が0.5でしかなかったとしても、読者との交流ができていると見なせます。今はいろいろなコミュニケーション手段があるとはいえ、作者はやはり作品を通して読者と交流することが基本です。私にとっては、「批判すらも読者との貴重な対話」なのです。

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8,568通り、あなたはどのタイプ?

変化する社会で活躍し続ける方法とは

さて。インタビューの内容はいかがでしたでしょうか?

現在のように、変化のスピードが速く、終身雇用制も崩れた社会では、「その分野に自分の力を投じるべきなのかどうか?」ということを、むしろ早めに見極めたほうがいいのかもしれません。同じ努力をするのであれば、より高い成果が出るほうに注力すべきであり、「きちんと的を射た練習をしてこそ、初めて結果に結びつく」ということです。

もともと『ドラゴン桜』とは、受験制度が先にあって、それに対するノウハウを後付けで提供するという、「制度を後追いするストーリー」でした。ところが『ドラゴン桜2』では、今度はシステムがまだできあがる前に、「先にマンガで対策を提供しよう」というのです。

この逆転の発想と、「ピンチをもチャンスに変える」という姿勢こそ、三田先生が厳しい業界で30年間、常に読者から支持され続けてきた理由なのではないでしょうか。

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《後編》に続く

EDIT&WRITING:俣野成敏  PHOTO:平山 諭

俣野成敏(またの・なるとし)

30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』及び『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』のシリーズが、それぞれ12万部を超えるベストセラーとなる。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」』を上梓。著作累計は38万部。2012年に独立、フランチャイズ2業態5店舗のビジネスオーナーや投資活動の傍ら、『日本IFP協会公認マネースクール(IMS)』を共催。ビジネス誌の掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』1位に2年連続で選出されている。一般社団法人日本IFP協会金融教育研究室顧問。

俣野成敏 公式サイト

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