「嘘つき」を極めた者こそ本物のデキる人である!ーー『マネーの拳』に学ぶビジネス格言

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。三田紀房先生の『マネーの拳』、第5回目をご紹介します。

『マネーの拳』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

ここでは、私がオススメする名作マンガの一コマを取り上げます。これによって名作の理解を深め、明日のビジネスに生かしていただくことが目的です。マンガを読むことによって気分転換をはかりながら、同時にビジネスセンスも磨くことができる。名作マンガは、まさに一石二鳥のスグレモノなのです。

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©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「本物の嘘つきは嘘をつかない、ということだよ」

(『マネーの拳』第1巻 Round.2より)

地元・秋田の高校を中退した花岡拳(はなおかけん)は、友だちの木村ノブオとともに上京。花岡は、偶然始めたボクシングによって才能が開花し、世界チャンピオンにまで上り詰めます。

その後、ボクシングを引退した花岡は、タレント活動をしながら居酒屋を開業しますが、経営は思うようにいきません。そんな時に知り合ったのが、通信教育業界の成功者・塚原為之介会長でした。花岡は会長の教えを受けながら、ビジネスの世界でも頂点を目指すべく、新しいビジネスをスタートさせますが…。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

「商売の極意とは嘘つきであること」が意味するものとは?

塚原会長に商売の教えを請う花岡。会長は「商売人の極意とは、第一に嘘つきであること」だと言います。「本当の商売人には、嘘を本物に転化させるだけの力がある」のだと。

人は普段、会社員であろうと自分で商売をやっていようと、顧客や取引先に対して「この商品は絶対に売れます」「これを買えばあなたの望みが叶います」といった話を平気でしています。しかし、未来のことは誰にもわからない以上、その約束は100%ではありません。これが会長の言う「嘘」の意味です。

会長は花岡にこう語ります。「自分の都合を押しつけ、『顧客のためだ』と偽っているビジネスはやがて信用を失い、市場から退場させられる。その前に嘘を察知し、回避できるのが成功者なのだ」と。

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人間社会とは、「ある種の幻想の上に成り立っている」

今回の話は、私たちの生きている社会が、実は思っているほど確たる根拠に基づいていない、ということを物語っています。

たとえば、お金などもその一つです。原価が20円ほどだと言われている1万円札が「1万円の価値があるもの」として通用しているのは、使用する人が「この紙には1万円の価値がある」と思っているからです。

かつて、今ほど貨幣経済が定着していなかったころ、政府は人々に信用してもらうために金貨を鋳造したり、兌換通貨といって、金で裏打ちされた紙幣を発行したりしていました。しかし現在の通貨はほとんどの場合、「政府が保証している」ということだけが信用の源泉となっています。

万一、人々が「国の発行する紙幣で財産を保全するのは危険だ」と察知した場合、人々は一斉に銀行に押しかけ、預金を引き出そうとするでしょう。そうなれば国は預金封鎖を行い、社会は大混乱に陥ります。近年ですと、ギリシャで金融危機が発生した際に、銀行での取りつけ騒ぎや国による預金封鎖が起こっています。

このように、私たちの生活に欠かせないお金ですら、ある種の幻想のもとに成り立っているのです。

通貨の世界に革命をもたらしたビットコイン

最近、「嘘が誠になった」例の一つに仮想通貨が挙げられます。仮想通貨の元祖と言われるビットコインは、取引記録を連ねることによって、いくらでも複製できる電子の世界でも真偽を証明できる方法があることを世に示しました。最初はほぼ無価値に等しかったビットコインが、今では1BTCが200万円を超えています(2017年12月時点)。

ビットコインにまつわる有名な事件の一つに、2014年に起こったマウントゴックス事件があります。マウントゴックスは当時、世界最大級のビットコイン取引所でしたが、ビットコインが「ハッキングにあった」として、456億円もの債務を抱えて経営破綻しました。

事の真相はともかくとして、同社の破産管財人が調べたところによると、今年3月時点で同社の資産は現金10億円と約20万ビットコインとなっています。破産した当時、20万ビットコインは約120億円相当でしたが、その後のビットコインの価格上昇によって、約600億円にまで跳ね上がっています(2017年8月末時点)。これにより、債権者は満額返済になるかもしれないということです。

この事件などは、価値が嘘を上回った結果、本物になった事例だと言えるのではないでしょうか。

編集部参考URL:
マウントゴックス 破綻時よりビットコインの価値が5倍に
http://www.asahi.com/articles/ASK7B34Q7K7BUTIL00C.html

勝ち組と呼ばれる企業も、常に勝ち続けているワケではない

ビジネスとは、基本的に何らかの形で世の中をよくするサービスを提供するために始められるものです。ですが、スタート時は、当然ながら顧客は1人もいません。そこにあるのはただ、創業者の「このサービスを必要としている人が世の中に必ずいるはずだ」という確信だけです。つまりこの時点では、そのビジネスが嘘か本当かはわかりません。実際にそのサービスに顧客がつき、商売として成り立って初めて現実のものとなります。創業者の回顧録に「『できます!』と返答してからやり方を考えた」というエピソードが出てくることがあるのはそのためです。つまり、虚言を真実にする勝負をしているから驚きの結果になるのです。

たとえ世間で「勝ち組」と呼ばれているような企業であっても、詳しく見てみると赤字に陥る年があったり、出店したお店の経営が思うようにいかずに撤退したり、といった苦難の時期を経験していることが多いものです。このような計算外のことがあってもなお、利害関係者に「あそこは勝ち組だ」と思わせ続けることができるかどうかが、企業にとっては「嘘で終わるか、本物であり続けられるかどうか?」の分かれ道となる、ということではないでしょうか。

俣野成敏(またの・なるとし)

大学卒業後、シチズン時計(株)入社。リストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。31歳でアウトレット流通を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に12万部を超えるベストセラーに。近著では『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」』が13刷となっている。著作累計は35万部超。2012年に独立後は、ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。メディア掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿している。『まぐまぐ大賞2016』で1位(MONEY VOICE賞)を受賞。一般社団法人日本IFP協会金融教育顧問。

俣野成敏 公式サイト

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