「失敗」に勝る学びなんてものはない!ーーマンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』の第7回目です。

『エンゼルバンク』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものが少なくありません。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい一言をピックアップして解説することによって、その深い意味を味わっていただけたら幸いです。

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©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「人は一度、地面に落ちてみないと目が覚めない!」

(『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』第2巻 キャリア9より)

龍山高校の英語教師だった井野真々子(いのままこ)は、10年目にして仕事に飽きてしまい、転職を決意します。井野は、かつて一緒に働いていた弁護士の桜木建二(さくらぎけんじ)に相談。桜木は以前、経営破綻の危機にあった龍山高校で教鞭を取っていた時期があり、東大合格者を排出することによって当校を救った救世主でした。

井野から話を聞いた桜木は、転職エージェント会社の転職代理人・海老沢康生(えびさわやすお)を紹介。井野は海老沢の下でキャリアパートナーとして働くことになりますが・・・。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

負の連鎖を断ち切るために、「まずはゼロ地点まで戻る」

キャリアパートナーとして働き始めた井野が、初めて担当することになった転職希望者とは、社会人2年目の若手・山口。転職先を紹介するために、井野がパソコンで検索をかけてみると、有名企業が目白押しです。喜んだ井野は山口を励まし、早速、各企業に履歴書を送付。ところがことごとく選考に落ち、面接に進んだ2社からも不採用の通知がきてしまいます。

落ち込む2人の前に、海老沢が現れます。「こうなることは最初から予想していた」と言う海老沢。山口に「今の会社から逃げるために転職をしても良いことはない」という厳しい言葉をかけます。「不満だけで転職しても、また違う不満が出てきて転職を繰り返すことになる」と。

それに対して、山口は「こうなる前に、なぜもっと早く対処してくれなかったのか」と詰め寄ります。海老沢は「現実に気づくためには、一度地面に落ちる必要がある。これでやっとゼロからスタートできる」と言うのでした。

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人は失敗を自覚しない限り、現状を変えようとは思わない

このお話は、本人が「これは失敗だ」と自覚しない限り、周りが何を言っても自ら行動を変えることはない、ということを物語っています。

たとえば、世間には、何社もの消費者金融からお金を借り続けて自己破産をしてしまう人がいます。しかし、本人からしてみると、借りられる間は痛みを感じることはありません。A社から借りるだけ借りて、A社が打ち止めになったら、今度はB社から借りる。これができている間は、本人にとっては同じ「ATMからお金を下ろしている」作業に変わりはありません。要は下ろし先が「自分の通帳か」それとも「消費者金融か」の違いに過ぎません。

そういう人が反転のきっかけを掴むのは、「自分の名前ではどこからもお金が借りられない」となった時です。お金に窮するようになって、初めて痛みを感じます。それが海老沢の言う「地面に落ちる」の意味なのです。

社会人に必要なのは「経験から学ぶ」こと

ビジネスパーソンが学びを得ようと思ったら、主に2つの方法しかありません。それは「自分の失敗に学ぶ」か「他人の失敗に学ぶ」かのいずれかです。

学生時代に学校で習うのは「知識」ですが、ビジネスで必要とされるのは「経験に学ぶ」という姿勢です。社会人向けのスクールとは基本的に、自分で失敗をしないために「お金を払って他人が失敗した経験を買っている」場所だと言い換えることもできます。

しかし、実のところ、他人の経験を自分のものにするというのは、言うほどたやすいことではありません。それは、人は他人の痛みを理解することができないからです。

なるべく痛い思いをせずに、経験から効果的に学ぶ方法としては、

(1)実験する(小さく、早く、失敗をしてみる)
(2)他人の失敗から学ぶ方法を意図的に取り入れる

といったことがあります。

(1)について、私はまだサラリーマンの時に独立準備の「実験」という意味で、出版をしたり、自分の店をオープンさせたりしました。実験であれば、万一のことがあっても傷は浅くて済みます。サラリーマンの方の中には「独立したら頑張る」という人がいますが、それはぶっつけ本番に等しい行為です。実験とは、小さく早く失敗して改善策を得るための有効な手段なのです。

(2)の他人の経験を取り入れるためには、「どんな失敗体験のもとに今の成功があるのか?」という点に注目していきます。人は痛みを忘れたい生き物です。成功体験ではストーリーテラーになる人は多いですが、失敗体験は積極的には語りたがらないものです。
1572年(元亀3年)、三方ヶ原の戦いで武田信玄に手痛い敗戦をして浜松城へと逃げ帰った徳川家康は、自らの失敗を忘れないための戒めとして「顰像(しかみぞう)」という肖像画を描かせました。顰とは「しかめっ面」の意で、確かにその絵の徳川家康は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべています。

「地面への落下」は、反転して飛躍するためのチャンス

人は、失敗したくて失敗する訳ではありません。だからこそ、その失敗を貴重な教訓として次に生かすことが大切です。

人が反転してV字の飛躍をするためには、一度地面に着地して「これは失敗だ」と受け止める必要があります。きとんと受け止めることによって、今後の自分の人生で同じ失敗をしないようになりますし、その失敗した経験が、将来的に他人を救うことにもつながっていくのです。

上手く行き続けている人にとって、行動した結果は、「武勲」か「教訓」のいずれかでしかありません。失敗で立ち止まるということは過去に生きるということ。残された時間は、未来に向けて使っていきたいものですね。

俣野成敏(またの・なるとし)

大学卒業後、シチズン時計(株)入社。リストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。31歳でアウトレット流通を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に12万部を超えるベストセラーに。近著では『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」』が12刷となっている。著作累計は35万部超。2012年に独立後は、ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。メディア掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿している。『まぐまぐ大賞2016』で1位(MONEY VOICE賞)を受賞。一般社団法人日本IFP協会金融教育顧問。

俣野成敏 公式サイト

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