職場における「コンセプト」の重要性とは|おちまさと×迫田健太郎 対談

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第一線で活躍するビジネスパーソンに、「ファッションへのこだわり」をうかがうシリーズ第 2 弾。今回は「オトナな保育園」というコンセプトを掲げ、注目を集めている社会福祉法人あすみ福祉会 茶々保育園グループの迫田健太郎さん。そして同グループのCBO(チーフ・ブランディング・オフィサー)を務めるおちまさとさんです。

<プロフィール>

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おち まさと
1965年東京都出身。プロデューサー。
数多くの人気TV番組やWEBサイトの企画、数多くの企業ブランディングまでジャンルを越えて活躍。近年では、東京スカイツリーソラマチ室内遊園地「東京こども区こどもの湯」総合プロデュースや、ダイワハウス「IKUMACHI」総合プロデュース他、多岐にわたる企業のCBO(チーフ・ブランディング・オフィサー)・顧問を務める。
おちまさと (@ochimasato) | Twitter
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迫田健太郎 (さこだ けんたろう)
社会福祉法人あすみ福祉会 茶々保育園グループ理事長。
立教大学経済学部経済学科を卒業後、アクセンチュア入社。2003年同社を退社し、社会福祉法人あすみ福祉会の常任理事に就く。茶々保育園グループの全体統括や人事管理、人材育成を行い、2013年に理事長に就任。
迫田健太郎 (@Kentaro_Sakoda) | Twitter

保育士が誇りを持って仕事できるエプロンをデザインしよう

——茶々保育園グループは、保育士の制服に非常にこだわったそうですが、その理由とは? 

おち:まず前提として、これからの時代は子どもたちの制服や先生たちの割烹着のデザインをもっとこだわっていくべきと考えがありました。保育業界では人材不足が続いていますが、求職者が仕事を探すとき「ここの制服いいな」と感じてもらうことはひとつの武器だと思います。子どもたちが身につけるものも、「汚れるから何を着せても同じ」という時代から変わりつつありますので、大人も欲しくなるようなデザインにしたかったのです。

f:id:kensukesuzuki:20170928182112j:plain迫田:一般的には保育士さんの制服にこだわるなんて邪道だと思われるかもしれません。「格好にこだわるより、仕事に心を込めろ」みたいな。しかし我々は制服にかぎらず形から入ることが多く「このエプロンに似合うよう、誇りをもって仕事をしよう」と、形から入るからこそ意識が変わると実感しています。

おち:「茶々保育園」のネーミングの由来を最初に伺ったとき、特に意味合いはなく「茶畑で生まれて、なんとなく響きが良いから」というお話でした。しかし「名は体を表す」というように名称は強く印象に残りますので、それならもっと「茶」にこだわったほうが良いと提案したんです。

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▲茶々そしがやこうえん保育園内「ちゃちゃカフェ」。地域住民も利用できる

そこでカフェのアイデアを出して保育園が地域のサードプレイスとしての役割を持てるようにし、カフェに似合うエプロンを作りました。そしてエプロンだけではなく厨房のコックコートも作ろう、さらに子どもたちもステキな格好にしよう……と、さまざまなアイデアが生まれていきました。

——エプロンのこだわりポイントについて、詳しく聞かせてください。

f:id:kensukesuzuki:20170928182147j:plain迫田:機能性とデザイン性、両方を追求しました。機能性としては、胸元の内側に大きなポケットを付けて抱っこしながらでも子どもを傷つけずメモ帳などモノの出し入れができます。また、ポケットの内側を抗菌性の布に。保育士さんは子どもから目が離せず「ちょっとゴミを捨てに行く」こともできない場合があるため、ポケットをゴミ箱代わりにできるようにしました。さらにポケットにモノを入れたとき着崩れないよう、ポケットの位置や切り込みの入れ方にもこだわっています。

そうした機能は担保しつつ、一方で保育士さんは子どもたちが初めて出会う社会人です。保育業界では機能性だけを追求しダサくなりがちですが、我々は働く“その人らしさ”が感じられるようなシックで洗練されたデザインを追求しました。

f:id:kensukesuzuki:20170928182206j:plainおち:仕事を探す保育士さんは20歳前後の方がほとんど。若い人ほどそうした「かっこよさ」には敏感だと思いますし、「働きたい」と感じる大きなきっかけになると思います。そして、さらに大切なことはデザインの一貫性です。ステキなカフェでカッコ悪い割烹着を着ていてはガッカリしてしまいますから、細部にこだわって作り上げました。

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迫田:このエプロンを導入したとき、スタッフたちの表情がパッと明るくなりました。同時に「私たちは見られているんだ」という意識が芽生えて所作がとても美しくなっています。でも、エプロンを着たから見られているのではなく、実は前から見られていたんですよ。社会人として「人から見られている」という自覚を持つのは当然のことですが、エプロンの導入でようやくそれが伝わったと感じました。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

デザインのチカラで、職場にもっと創造性を

——最近オープンした「茶々そしがやこうえん保育園」は園舎のデザインも独特ですね

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▲一見、美術館のような外観の「茶々そしがやこうえん保育園」

おち:「茶々そしがやこうえん保育園」は公園内に建っているのですが、通常は自然に溢れた立地の保育園だとログハウスのよう建物になりがちです。しかし、すでにあるものを作っても意味がないと思いますし、また、これから育つ子どもたちは、ハイテクやクリエイティビティとの関わりが欠かせない世代になります。そこで「クリエイティブと自然」をコンセプトに掲げ茶々保育園に提案しました。外観はシンメトリーなデザインに、建物内には巨大なモニターでYouTubeを見られるようにしたり、子どもが触れるタブレット端末を設置したりしています。

迫田:園のデザインは子どもにはもちろん、働くスタッフにとっても重要だと考えています。人事としても「茶々そしがやこうえん保育園」には20代を中心にITリテラシーに強いスタッフを配置しました。ですが私から「こう活用して」と指示せず、「こういう場を作ったから自由に遊んでみて」と任せています。結果、デジタル・ネイティブである若手スタッフたちが思いもよらない使い方をしているようですね。

例えば玄関口にプロジェクターを設置しているのですが、私としては連絡事項を共有する場として使えればと思っていました。しかし実際には、「謎掛け」を映しているんです。あるときはタケノコを映しておき、登園してきた子どもたちがそれを目にします。その日はタケノコ狩りの動画を見たり、本物のタケノコを触ったり、タケノコを使った給食を食べたり……と1日の行動につながっていくんです。私にとっては想定外の使い方でした。日々子どもたちの衣食住を支える現場のスタッフだからこその創造性を感じましたね。

おち: 私はもともと新幹線などで子どもが泣いていると「嫌だな」と思うタイプの人間でした。いまは自分の子どもが生まれて、手のひらを返したように泣いている子どもがいると飛んでいってあやしたくなりますが(笑)だから「近所に保育園が建つ」と聞いて「嫌だな」と思ってしまう人の気持ちも分かるんです。

なので、保育園が出来たことを近隣住民の方に誇りに思ってもらえるような建物を目指しました。森のなかに建つ美術館のような「白くてシンメトリー」というイメージは最初から決めていました。子どもたちには「お豆腐だ!」と呼んでもらいたいと思っていました。親御さんにとっても綺麗な建物に送り迎えしたほうが気分があがると思うんですよね。

いまや子育ての大変さばかりが目立ちますが、少子高齢化解決策のひとつとして「子育ては楽しい」と感じてもらう必要があります。そこで「茶々」のように、ステキな建物に通えて保育士さんもステキな格好をして、みんながハッピーになれる場所が必要ではないかと考えています。

迫田:たしかに「保育園がハッピー」というイメージはまだまだ遠いですね。近年保育園への注目は高まりましたが、どれも同情に近いんです(苦笑)。業界としてもどこかアンハッピーを受け入れている。そうではなく保育園はもっとクリエイティブで生き生きとして「子どもだけじゃなく家族全員にとって良い場所」といわれるようになりたいです。

保育園建設に眉をひそめる方々も、すごく子どもが嫌いなわけではないと思うんです。そこで「子どもは国の宝なんだぞ!」と戦うのではなく「小さい子どもがいると気になりますよね、分かります」と住民の方と話し合い、建築やデザインの力を使って打開策を見つけていきたいです。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

大事なのはデザインよりもコンセプト

——「デザイン」は職場において非常にチカラがあるのですね

おち:せっかくお金をかけてステキなプロダクトをつくっても、コンセプトが一貫していないと結果として勿体ないことになりますよね。大企業や国やお役所にありがちですが、それは方向性がバラバラで連携が取れていないからです。ビジネスファッション、建築・空間のデザインには、コンセプトを共有して、チーム・グループとしての力をまとめていくチカラがあると思います。

迫田:私なりのデザインの定義は「意図して設(しつら)える」です。見た目をカッコつけるだけでなく、デザインのコンセプト = 意図を共有することが何よりも大切だと思います。会社として何を大切にしているのか、その意図が共有できれば、逆に自由にできるところも理解できる。そうすれば働き方の多様性も認めあえるんじゃないでしょうか。

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取材・文:伊藤七ゑ 撮影:鈴木健介

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