リクナビNEXTジャーナル

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「やりたいことに気付けたら、“3年待たず”に石から下りろ」という言葉に背中を押されたーー28歳女性社長、「社会課題」を“花”で解く

セレクトショップが点在する東京・原宿の閑静なエリアに5月8日、1軒の花屋がオープンして大きなニュースとなりました。併設するカフェのメニューに花を採り入れるなどしたユニークな店舗ですが、最も注目されたのは、スタッフとして多くの障害者を雇用している点。これが3店舗目となった花屋の運営会社「株式会社LORANS.(ローランズ)」を率いるのは、創業5年目にして28歳という若さの福寿満希社長です。原宿出店までのいきさつや、起業家としてのビジョンを福寿社長に聞きました。

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福寿 満希(ふくじゅ みづき)
1989年石川県生まれ。大学卒業後、プロスポーツ選手のマネジメント企業での勤務を経て、2013年に株式会社LORANS.を設立し、花のビジネスを開始。ホテルロビーの装飾やイベント向けのフラワーデザインなどを担当してきたほか、「生花店のスタッフに迎える」という新たなアプローチで障害者雇用の拡大に取り組んでいる。

学生時代の経験で起業後のビジョンが見えた

―まず、新店舗と会社の概要を教えてください。

この原宿店(東京都渋谷区)は、昨年オープンした神奈川県の「チッタデッラ川崎店」と「駒込店」(東京都豊島区)に続く生花店で、花束やフラワーアレンジメント、観葉植物、開店祝いの胡蝶蘭などを扱っています。立地環境からニーズを考え、今回初めてカフェを併設しました。食べられる花を彩りに添えたオープンサンドイッチや、バラのパウダーが入ったスムージーなどを提供しています。

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原宿の新店舗にはカフェを併設。「食べられる花」で彩りを添えたオープンサンドイッチなどが楽しめる

会社の設立は2013年2月で、本格的に障害者雇用を始めたのは昨年からです。本社オフィスと3店舗にいる従業員約45人のうち、7割が障害のある方。また各店ごとに花業界のベテランがついていて、責任者として日々の店舗運営をまとめてくれています。

 

―もともと花のビジネスや障害者雇用に興味があったのですか。

実はそうでもないんです。幼いころに花を少し触ったくらいで、中学からはひたすらテニスに熱中。その延長で、大学卒業後の就職先にはプロスポーツ選手のマネジメント会社を選びました。

その後、「手に職を持とう」と“花”を選び会社を辞め、知り合いの方がいる企業からお仕事をいただくようになりました。自宅を作業場にしてスタートし、それほど規模を広げるつもりもなかったのですが、独立3年目にアレンジメントの講師として障害者施設に招いていただいたことが転機になりました。実際の作業を参加者の方に行ってもらったところ、とても意欲的に取り組んでもらえるばかりか、技術的な面でも職業にできる可能性が十分あると分かったのです。

学生のころ、特別支援学校の教員免状を取ったとき、教員の方に「障害者への教育環境は少しずつ充実してきたが、卒業後の雇用に課題が残っている」と聞いたこともそのとき思い出し、私がそれまで別々にやってきたことが、実はつながっていたと気づいたんです。「花のビジネスが障害者雇用の課題解決につながる。それこそ自分の取り組むべき仕事ではないか」というビジョンが、このとき初めて見えました。

 

―障害者雇用の課題とは、具体的にどのようなものですか。

絶対数として障害者の就労機会が限られている上、これまでは「障害者向けの施設に通って作業量に応じた工賃を受け取る」といったものが多く、例えば「花屋さんで働きたい」という夢を持つことや、ひとり立ちできるだけの収入を得ることは現実的ではありませんでした。

「障害と前向きに向き合う人たちと同じ職場で働きたい、働き方の選択肢を増やしたい」というのが私の考えです。ローランズは街の花屋として普通にビジネスを営み、そこに障害者のスタッフを迎えることで東京都の最低賃金(時給932円)以上の給与を支給し、安定して働ける職場を目指しています。働き手として必要とされ、きちんと報酬を得られる喜びがスタッフから伝わってくるので、私もそれがうれしいんです。

一方で、普通にビジネスをする以上は、障害者を雇用しているといっても商品やサービスの面でお客さまに言い訳はできません。ですから、障害のあるスタッフに仕事をお願いするときも要求水準を落とすことはなく、常により高い質を求めています。「配慮はしても優遇はしない」という接し方ですね。

これまで一緒に働いてきたスタッフの障害は聴覚障害、身体障害、高次脳機能障害などさまざまですが、今は精神障害のある方が最も多く在籍しています。「今までは働き続けることが難しかったけど、ここでなら安定して出勤ができる」という言葉をもらうことが多く、花と緑に囲まれた環境にいることで心が落ち着くという効果が大きいのかな、とも思います。

 

スキルをベースに継続できる仕事を

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―若くして起業した女性と聞けば華やかですが、ご自身やスタッフが仕事を長く続けられることを目指しているのですね。

そうですね。私は一人娘なのですが、好きなことを思い切りやらせてくれた両親にとても感謝していて、学生時代から「将来は両親2人の面倒をみる」というつもりでいました。そのプランの中で「ずっと会社勤めでは難しそうだから、いつか事業を興そう」と考えていたんです。また、同じく事業を営んでいた両親を間近で見ていて、大変なこともあったと思いますがなんだかいつも楽しそうで、小さくとも自己実現をしていく働き方に魅力を感じていたこともあります。

スポーツマネジメントの会社に所属していたのは2年ほどでしたが、この間にも多くのことを学びました。磨き上げた技術で子どもたちに夢を与えるアスリートの姿に感銘を受ける一方、どんなに素晴らしいイベントや社会的活動も、安定した財源がなければ打ち切りとなってしまうリスクがあると知り「想いあるイベントがずっと開催され続けるためには、その活動自体が自力で運営資金を作っていく仕組みが必要なのではないか」という考えが深まっていきました。

原宿という最高の立地で新店舗を出せたのは、障害者雇用の先進モデルを日本全国につくる「はたらくNIPPON!計画」を実施している日本財団の方が私たちを見つけてくださり、花という切り口から障害者雇用に取り組む事業に対して期待をいただけたからだと思います。開店費用では日本財団に一部を応援いただいたものの、その後の運営は、もちろん自分たちの力で行っています。純粋なビジネスの中で障害者雇用を成り立たせるのは大きなチャレンジ。それでも、雇用主として背負った責任はしっかり果たしていくつもりです。

 

―ちなみに、営業は得意ですか。

いいえ(笑)。知り合いからの依頼に始まり、3,000円の花束、5,000円のアレンジメントといった単発の注文に一つ一つ応えていく中でご紹介が広がっていったという形なので、積極的に顧客開拓をした経験は少ないかもしれません。ただ、店舗数も人数も増えてきたので、既存のお客さまを大切にしつつ、新規の需要も伸ばしていくのがこれからの私の仕事だと思っています。

 

抱え込むより任せる勇気。思いを伝えて仲間をつくる。

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―離れた拠点で働く45人の組織をまとめるのは、かなりハードな仕事だと思います。

はい。実は1人で仕事を抱えすぎ、業務をパンクさせた経験が過去にあります。それ以来、店舗業務については、なるべく各店の責任者を信頼して任せるようにしています。

もともと誰かに甘えたり弱みを見せたりするのが苦手な性格で、会社を作ってからもずっと、何から何まで全部自分が見るつもりでいたんです。周囲に頼るしかない状況まで追い込まれ、ようやくやり方を変えられました。

思い切って周囲へ仕事を任せることで、私自身は少し先のことを考える余裕ができ、各店舗では私が考えつかない方法で新規顧客を開拓し始めるなど、これまでにない活躍がみられるようになりました。気持ちの面でも、以前の私は、仕事で何か自分にできないことがあると「悔しい」と感じていたのですが、今では「できる誰かにお願いできるよい機会」と捉えられるようになりました。

 

―ご自身よりも経験豊富な人や、面識のなかった人も仲間にしてビジネスを進めています。何かコツがあるのですか。

「障害者が花屋で働く選択が当たり前になってほしい。そうなったとき『ローランズで働きたい』と言われたい」という思いを持って以来、私は実現した様子を想像してワクワクし、周囲の人にそのことを伝えてきました。現在は「花のビジネスで障害者雇用100人を達成するのが目標」と話しています。

「花」のビジネスで「障害」の課題に取り組んでいく。ビジョンに共感してくれた人は、細かいことを伝えなくても従業員やブレーンなどの形で加わってくれました。同じ方向を向いていられる間、私と一緒に走ってくれるのが仲間だと考えています。

ビジョンを伝えてきた中では、2店舗目の開店資金を昨年クラウドファンディングで募り、目標額を達成できたことが大きかったですね。すでにお付き合いしている方々のほか、まったく面識がなかった方からも応援が得られたことで「やっていることは間違っていなかった」と思えるようになりました。

 

―起業意識が低いと言われる日本で「いつか起業したい」と考えている人に、経験者からのアドバイスをお願いします。

花の仕事を選んだ私は、新卒で入ったスポーツマネジメントの会社を2年目で辞めることになりました。このとき背中を押してくれた経営の大先輩から「やりたいことに気付けたなら“石の上にも3年”は絶対ではない。1年早く石から下りれば、新しいキャリアを先取りできる」と言われたのをよく覚えています。

私は、ほとんど何のしがらみもなかった23歳のときに独立しました。もっと会社でキャリアを積んでいたとしたら、あるいは既に結婚していたなら、同じように独立を決断できたかどうか、自分でも分かりません。

ただそれでも「自分で考えた仕事を自分でやる面白さを、多くの人に知ってもらえたら」というのが、私の率直な気持ちです。もし起業を考えているなら、副業からでもいいのですぐ動くべき。「一生起業準備中」にならないよう、「今」と、これからの時間を大切にできたら良いのではないかと思います。

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WRITING/PHOTO:相馬大輔