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リクナビNEXTジャーナル

キャリア・ビジネスの情報満載【リクナビNEXTジャーナル】

エッジの立った社員を生かして「働きがいナンバーワン」――アスペルガー傾向と向き合うIT企業の仕組みとは

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「GPTW(Great Place To Work)インスティテュート」の働きがいのある会社ランキング、従業員100人未満の部門で“2年連続日本一”に輝いた横浜市のIT企業、アクロクエストテクノロジー株式会社。同社は、ユニークな社内制度を数多く整備していることで広く知られています。その中でも、とりわけ異彩を放っているのが、コミュニケーションでつまずきやすいアスペルガー症候群(自閉スペクトラム、AS)の傾向がある人も技術者に迎え、適性を業務に生かしている点です。そのベースとなる同社の社風や、間もなく8年目となるASへの具体的な取り組みについて、共同創業者で人事担当の新免玲子副社長に伺いました。

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▲アクロクエストテクノロジー株式会社 取締役副社長 新免玲子氏

先端を追求するオープンな会社

―2015年、16年と連続で“働きがいのある会社日本一”。17年のランキングでも2位でしたが、まず会社の概要から教えてください。

ITエンジニアの夫が1991年に興した、企業向けのソフトウエア開発やITコンサルタントを柱とする会社です。今はおよそ80人の従業員と、業務委託のエンジニアが働いています。

「アクロクエスト」という社名は、直訳すると「先端の追求」。事業内容の一つのJava障害解決では、突然のシステム障害などでよくトラブルシューティングを依頼されますが、ここまで解決率は「100%」。開発の領域は時代に合わせて変化を続けていて、現在はビッグデータをリアルタイムで処理・分析できるシステムなどを提供しています。

そもそも夫と私が起業した理由のひとつに、「会社組織の中で現場の声を上げてもマネジメントに届きづらい」と感じていたことがあり、それだけにずっと「建設的な意見が通るオープンな職場にしたい」と考えてきました。また、IT企業にとってエンジニアは全財産と言ってよいほど大切な存在。いつも最先端を手がけるとんがった社風で、優秀な人を呼び込みたいという思いもありました。

 

―従業員の報酬を年1回、全員参加の場で話し合って決めるなどユニークな社内制度が多くありますね。

そうですね。全員参加による給与・賞与の査定は20年以上続けています。始めた当初はなかなか思うようにいきませんでしたが、試行錯誤を経て定着した今では、日取りの設定や議事の進行など、人事ではない担当社員で構成された査定コミティチームがすべてを仕切っています。

各自の自己査定と、上司を含めた360度による評価が適切かどうか話し合うので、よく社外の方からは「ギスギスした雰囲気にならないか」と聞かれますが、ならないんです。誰しも失敗するし、成果の出ない時期もあるとみんな理解していますし、あとは最後の1人が納得するまで徹底的に話し合っているからだと思います。「1人についての議論だけで3時間」という年もありますよ。

他にもユニークな制度として、例えば「花一輪」というものがあります。社員の誕生日に他の社員が1輪ずつ花を贈って祝うという習慣です。色や品種など、その日の主役に合うイメージのものを考えて選ぶのがポイント。持ち寄られた花、花と一緒に交わす言葉から、お互いへの理解が形になって見えるという人気の制度です。

 

社員の健康のため、ちゅうちょせず自宅を訪問

―若手の独身社員が住む部屋を、上司がチェックしに行くことがあると聞きました。

はい。しかも、室内の乱雑さが、あまりにも改善されない場合は住宅補助をカットする決まりなので、自室に入られる部下だけでなく、部下を指導する立場の上司にもプレッシャーがかかります。もし同じことをしようとしたら、多くの会社では「プライバシーの侵害だ」と大騒ぎになるでしょうね。どうして当社でそんな制度が成り立つ事になったのかは、健康管理、特にうつの早期発見に必要だと社員が理解しているからです。

会社にいる間はさほど変わった様子を見せない人でも、うつで意欲を失いかけると、身の回りを片付けられなくなって自宅が荒れたりします。社員はほとんど理系大学院卒の男性。身の回りの整理整頓が苦手なタイプも珍しくないとはいえ、異常な荒れ方は見れば分かります。過去にそういうケースがあり「気がかりなときは、ちゅうちょせず居室を見に行き、少しでも早く異変に気づくべき」というのが当社の社員全体の考え方になっています。同時に「逆効果になるのでうつの人は励まさない」といった接し方のポイントも、全員が共有しています。

社員の健康は仕事よりも大切なことですから、会社が「社員個人の問題」という建前だけで済ませてはいけないと思います。何が本人の幸せにつながるかという本質を考えることが大切でしょう。とはいえ、対外的に誤解を与えかねない面が確かにありますので、大企業で実践するのは難しいようにも思えます。そういった意味では、小さい会社で、社員の一体感があるからこそ可能なことなのかもしれません。

 

才能の持ち主がつまずくポイントを、ツールとミーティングで改善

―AS(アスペルガー症候群、自閉スペクトラム)への取り組みは、どのようなものですか。

国の支援制度などを利用せず、そのため診断で対象者を特定しているわけではありませんが、2010年7月から週に1回「AS向上会」と名付けたミーティングを開いています。AS傾向のある社員が自発的に参加している以外に、業務の基本を学ぶ目的で新入社員も加わっており、従業員およそ80人のうち多いときで10人、現在は5~6人で集まっています。「指示通りに物事をこなす」という苦手分野を改善するため、アドバイザー役のベテラン社員と一緒に過去1週間を振り返りながら「パターン化されていない仕事を整理する練習」をしています

仕様書をすべて暗記して客先で事細かに説明できる、オフィスの隅にいても遠くの会話が聞こえている、計算が瞬時にできるなど、私はこれまで驚異的な能力を持つ社員に出会ってきました。ただ、彼らの多くはなぜか仕事上で失敗を繰り返していて、しかもその失敗に「いくつかの指示を並行して処理できない」「指示の最後に少し付け加えた言葉で、肝心な部分が上書きされてしまう」といった共通性がありました。また、彼らには「耳が良すぎて仕事に集中しづらい」「人と話すときの距離感が近すぎる」「周囲の空気を読まない言動をすることがある」といった特徴もあり、そのために業務やコミュニケーションで支障をきたしていることも分かってきました。

10年ほど前、たまたまテレビでASが特集されているのを観た私は「彼らのことだ」と思い、ある社員と親御さんを説得して、番組で紹介されていた大学病院を受診してもらいました。予想通りASとの診断でしたが、当人は「ずっと悩んでいたことの原因と対策が分かって、気持ちが楽になった」と喜んでいたのをよく覚えています。

AS傾向があると指示通りに動けないのは、良くも悪くも1つのことに集中しすぎて優先順位がつけられないことと、そうした状況を相談する対人コミュニケーションが苦手なことが原因です。文字化・可視化することで意思疎通がスムーズになり、対策も立てやすくなります。当社では、1日の予定と実績を15分刻みで比較できるオリジナルのスケジュール帳「Acro DailyCheckNote」や、判断に迷ったときに分かる範囲で「問題」「事象」「原因分析」「解決策」を記入して上司に提出する「ほうれんそうシート」などを活用しています。

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Acro DailyCheckNote

こうしたツールを使うことで、AS傾向を持つ本人はもちろん、上司もコミュニケーションを効率よく取りやすくなるのでずいぶん楽になります。また、指示を出す側も「必ず文書で・1つずつ」「作業の背景や温度感も併せて伝える」など、伝わりやすい方法を工夫しています。  

 

「ダイバーシティ」とは、いろんな人が共存すること

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―ASなどの発達障害を持つ人の就労問題が、近年クローズアップされています。

ASについては長く取り組んできたので、私も今は採用面接で少し話せば、その傾向があるかどうかがすぐ分かります。ITは「エッジが立ちやすい」、つまり1つのことに秀でた人が、その能力で評価してもらいやすい世界です。プログラミングが好きでセンスのある人なら、AS傾向はマイナスではなく、むしろいいシステムエンジニアになる素質があると言っていい。当然そこに期待して、AS傾向がある人を採用しています。

AS傾向がある人とそうでない人とで、どこまで同じように接するかはケースバイケースです。「分け隔てなく一緒に」という意見が多数派でも、それがふさわしくないこともあるので、いったんASの立場からの希望を全部聞いて、納得できる場合には例外扱いもしています。例えば「周囲の音で気が散りやすいので、就業時間中にヘッドホンで音楽を聴くことを例外的に認める」といったことですね。

女性の活躍や外国人の登用などが「ダイバーシティ・マネジメント」の例としてよく採り上げられますが、本質的には「いろんな人が共存すること」が大切で、AS傾向と会社の関係も、まさに共存だと考えています。

「状況に応じて言動を使い分けるのが苦手」というASの特徴が対人関係を難しくすることもありますが、一方では「表裏がなく信頼できる」というプラス面もあります。会社が目指す方向性に、純粋な気持ちで賛同してくれる人は、経営者にとってありがたい存在でもあると思いますね。

アクロクエストテクノロジー株式会社では、働き方・組織に関する勉強会を主催しています。詳しくはこちら。

■組織いきいき実践勉強会

■中小企業に入って日本を活性化しよう

 WRITING/PHOTO:相馬大輔