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リクナビNEXTジャーナル

キャリア・ビジネスの情報満載【リクナビNEXTジャーナル】

「文春砲」の裏にある緻密な仕事術とは?『週刊文春』編集長が語る、仕事の奥義

政治経済、芸能、社会問題…さまざまな分野でスクープを飛ばし続けている『週刊文春』。同誌によるスキャンダル・スクープは「文春砲」と呼ばれ、「次はどんな“文春砲”がさく裂するか」と注目されている。

そんな週刊文春の編集長が先ごろ、自らの「仕事術」を書籍化し、話題となっている。人気雑誌の編集長という特殊な立場ではあるものの、雑誌作りを通じて染み付いた仕事術は、「どの仕事にも応用可能な普遍的なもの」であるという。

その「仕事術」とは具体的にどんなものなのか、そして若手ビジネスパーソンにどう活用してほしいのか、『週刊文春』編集長の新谷学さんに語ってもらった。

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株式会社文藝春秋 『週刊文春』編集長
新谷 学さん
1964年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、1989年に文藝春秋に入社し、『Number』『マルコポーロ』編集部、『週刊文春』記者・デスク、月刊『文藝春秋』編集部、ノンフィクション局第一部長などを経て、2012年より『週刊文春』編集長。先日、初の著書『「週刊文春」編集長の仕事術』(ダイヤモンド社)を発売。なお新谷さんは、「編集長が雑誌の前に出過ぎることによる、雑誌の将来に与える弊害」を考慮し、メディアでの顔出しは行っていない。


編集長の仕事は、決して特殊なものではない

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この3月に発売された『「週刊文春」編集長の仕事術』は、新谷さん初の著書。今年に入ってからも数々の“文春砲”を連発し、今乗りに乗っている『週刊文春』の編集長が、今なぜ「仕事術の本」を出そうと思ったのだろうか。

 

 この本の担当編集である、ダイヤモンド社の竹村さんから丁寧な手書きのお手紙をいただいたのがきっかけ。彼に「日々大量の仕事をさばき、最高のパフォーマンスを発揮する編集長の仕事術は、あらゆるビジネスパーソンに役立つはずだ」と言われて、自身の仕事を振り返り、「なるほど」と思えたんです。

『週刊文春』の発売日は毎週木曜日。その1週間前の木曜日にラインナップを決める会議を行い、企画ごとに20ほどの取材班を組みます。各班が動き出したら、途中経過を随時確認し、「当初聞いていた話と違うから撤収する」、「思いのほか大きなネタになりそうだから応援部隊を投入する」などの判断をし続け、土曜日にラインナップの見直し会議を実施。月曜日の夜に原稿を書き、火曜日の夜に校了、そして最新号が書店に並ぶ木曜日には、また次のラインナップ会議を行う…こんなサイクルを毎週毎週、年間約50回、続けています。

「編集長」の仕事は、極めて特殊なもののように思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。それぞれの記者が持つ人脈の中から「情報」を入手し、それをもとに世の中の流れを読みながら「企画」を立案し、各メンバーの得意分野や調子を見ながら取材班を組むという「人事」を行い、取材状況を判断しながら「戦略」を見直し、これで行こう!とスピーディーかつ的確に「決断」する――どれも、多くのビジネスパーソンがやっていることです。ただ、それが1週間の中にギュッと濃縮されているのが、一般の仕事と異なる点だと思います。

 おそらく踏んだ場数、経験した修羅場の数はそれなりに多いはず。だからこそ、仕事を通じてある種の普遍的な、仕事の進め方に関する自分なりの「答え」が見えてくるようになりました。例えば、部下への接し方、チームの作り方、取材先との関係性の構築方法、修羅場の中で勝ち続ける方法など。何度も何度も考え抜き、それを毎週繰り返してきた中で培った「仕事術」は、広く一般の方にも参考にしていただけるものではないか…と思えました。

袖振り合うもみんなネタ元。人との出会いの中に発見がある

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「週刊誌の編集長」の仕事には、切れ目がない。ようやく一息つける校了後の夜も、ほぼすべて会食で埋まっている。「面白い話に出会うには、さまざまな立場の人々と日常的に会い続けることが大切」と新谷さんは言う。

 

 ベースにあるのは「人間への興味」です。人間が織りなす数々のドラマは、本当に面白い。

 愛妻家をウリにしている大物俳優が、セントラルパークで若い女性と息抜きをして素の顔を見せたり、好感度抜群だった女性タレントが不倫の恋に身を焦がしたり、大物政治家が「変態スキャンダル」を起こしたり…愚かではあるけれど、一人の人間としての「素」が垣間見える。立川談志さんには「落語とは人間の業の肯定」という名言がありますが、週刊文春もまったく同じです。人間の営みを善悪のみで伝えるのではない。一方で「話題になればいい」「雑誌が売れればいい」というわけでもない。素晴らしい面、愚かな面も含めて、取材対象者の人間としての様々な顔を伝えるのが、週刊文春の役割だと思っています。

 

SNS全盛の時代ではあるが、基本的に有益な情報は「人対人」でもたらされる、と新谷さん。さまざまな人と向き合い、とことん付き合う中で、思いもよらない情報がぽろりと出てくることがあるのだとか。

 

 舛添要一前都知事のスクープが、好例です。彼の高額な海外出張費が話題になっていた時、都庁の関係者とうちの記者が会食の機会を持ったところ、会話の中で「それよりも我々が問題だと思っているのは、公用車で湯河原の別荘に行くことなんですよね…」とぽろっと出てきたんです。それを聞き逃さずすぐに裏を取り、スクープにつなげました。

「袖振り合うも多生の縁」ならぬ、「袖振り合うも“みんなネタ元”」。もちろん全ての出会いがネタになるわけではありませんが、人と会って話さないことには当然ネタにも出会えません。

 これは週刊誌作りに限らず、あらゆる仕事にも言えること。さまざまな分野の、いろいろな人と接して、お付き合いを積み重ねていく中で、思わぬアイディアが生まれたり、企画の芽を見つけられたりする。人と人とのお付き合いの中にこそ、「アイディアの鉱脈」があると私は思います。

目の前の仕事にフルスイングしてみれば、もっと面白くなる

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そんな新谷さんのモットーは、「どんな仕事でもフルスイングする」こと。ネタの芽を見つけては、ホームランを狙ってバットを振り続ける。それが世の中をあっと言わせるスクープにつながるのだという。

 

 仕事が面白くない、向いていないという人がいますが、フルスイングしてみないと本当の面白さには気づけないし、向いているかどうかもわかりません。まずは目の前の仕事にしっかりと向き合い、思い切りフルスイングしてみる。その結果、やっぱり楽しくない、向いていないと思えたら、転職すればいいんです。

 そもそも、「やりたかった仕事ではないから…」なんて言い訳をして、そこそこの力で「バットに当てに行く」人生なんて、つまらないじゃないですか。予定調和のルーティンワークの延長線上に、面白いものが生まれるはずはありません。

 仕事に真摯に向き合い、懸命にフルスイングしている人には、「コイツと一緒だと面白いことができそうだな」「自分も一枚かませてよ」と自然に人が集まります。自らが求心力になって周りを巻き込んでいけば、仕事がどんどん楽しくなります。

 週刊文春では、全員がフルスイングし続けています。もちろん空振りも多いですが、当たったときはものすごい力を発揮します。大切なのは空振りした時に現場を責めないことです。

 先日の「ハリウッドで活躍する日本人俳優」の不倫スクープは、新人女性記者のフルスイングが決め手となりました。ニューヨークで裏を取り、すぐさまLAの自宅に飛んで本人に直撃取材し、このスクープにつなげました。

 

なお、フルスイングの「精度」を高めるには、ビジネスの根幹をつかむことが大切、と新谷さんはアドバイスする。

 

 どんなビジネスにも、どんな仕事にも「根幹」があります。つまり、このビジネスにおいて、仕事において、最も大切にしなければならない部分です。それさえつかんでおけば、何をやるべきかが明確になり、ブレずにフルスイングできます。

 例えば営業職の場合は、「売ること」を根幹に捉えてしまうと仕事がブレます。根幹は「クライアントに対し、自社商品の魅力をあますところなく、最大限伝えること」であり、この根幹を捉えられれば、どのように商品の魅力を伝えればクライアントの心をつかめるのかを一生懸命に考え抜けるはず。その先に、売り上げがあるのです。

 週刊文春の場合、根幹はもちろん「スクープ」です。読者の期待に応え続けるために、スクープ獲得に全身全霊を捧げる。根幹がわかっているから、みな行動がぶれることはありません。

 読者の皆さんにも、ぜひ失敗を恐れず、それぞれのバッターボックスでフルスイングして、仕事を楽しんでほしいですね。人生の大半の時間を働くことに費やすのですから、仕事を楽しんだほうがいいに決まっています。意に沿わない職場で悶々としている人も、根幹をつかんでフルスイングしていれば、必ず突破口が開けますよ。

 

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▲『「週刊文春」編集長の仕事術』(ダイヤモンド社)

 

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭