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【20代の不格好経験】「道ばたでの粗相」という絶望的な経験から、排泄予知デバイスの開発に取り組む~トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社 代表取締役 中西敦士さん

今、ビジネスシーンで輝いている20代、30代のリーダーたち。そんな彼らにも、大きな失敗をして苦しんだり、壁にぶつかってもがいたりした経験があり、それらを乗り越えたからこそ、今のキャリアがあるのです。この連載記事は、彼らの「失敗談」をリレー形式でご紹介。どんな失敗経験が、どのような糧になったのか、インタビューします。

リレー第22回:トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社 代表取締役 中西敦士さん

株式会社チカク代表取締役社長 梶原健司さんよりご紹介)

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1983年生まれ。コンサルティング会社勤務後、海外青年協力隊の一員としてフィリピンに2年間赴任。その後、渡米しUCバークレー校でビジネスを学ぶ。留学中のある日に「粗相」を経験したことを機に「排泄タイミングを予知できるデバイス」の開発を思いつく。2015年2月にトリプル・ダブリュー・ジャパンを設立。

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▲トリプル・ダブリュー・ジャパンが開発した、排泄予知ウェアラブル「DFree」。専用テープやベルト型装着補助具を使って下腹部に装着し、体に影響がない超音波を利用して排尿、排便のタイミングを予測。そのデータをスマートフォンに通知する。

悲惨すぎるお漏らし経験から、「排泄は人間の尊厳」と気づく

 当社が手掛けているのは、排尿や排便の排泄を予知する「DFree」。「今までになかったウェアラブル」と開発段階から評判となり、介護施設や在宅介護をされている方、体の不自由な方、お腹が緩い方などさまざまな「排泄に悩みを持つ方」からの引き合いが拡大。2015年に開発資金集めのために実施したクラウドファンディングでは、約350名の支援者を集め、約1200万円を調達することができました。そして今年2月より、まずは「排尿予測」機能において介護施設への導入がスタート、初年度で1万台の導入を見込んでいます。

 私はもともとコンサルティング会社出身。その後、海外青年協力隊を経て、ビジネスを学ぶために2013年にアメリカに留学しました。留学に際し、何らかのビジネスの芽を見つけたいという思いはありましたが、当時はまさか今のビジネスを立ち上げるとは思ってもいませんでしたね。“排泄予知”という分野に注目したのは、絶望的な「大失敗」がきっかけ。ズバリ言えば、いきなり「ウンコを漏らしてしまった」のです。

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 忘れもしない2013年9月、私は新しいホームステイ先への引っ越し作業をしていました。歩いて30分程度の距離だったため、荷物を持って何度か往復すれば大丈夫だろう、と考えたのが不幸の始まり。まずは洋服をすべて運び入れ、2回目の荷物を運んでいた途中…ちょうど中間地点で、いきなり猛烈な便意に襲われました。

 近くに公衆トイレはないし、日本のようにトイレを貸してくれるような店もない。あともう少し我慢して、引っ越し先でトイレに行こうと頑張ったのですが…道半ばにして、限界が訪れてしまいました。

「家を出る前に、便意が来ると分かっていれば…」と思いましたが、後の祭り。「漏らした」という絶望的な現実を受け入れざるを得ず、打ちひしがれましたね。このまま新居に行くわけにはいかないので、茫然自失のまま元の家に戻り、隣の部屋に住んでいた友人に「何も言わずにズボンを貸してくれ」と頼みました。

 しかし…この二度と経験したくない「大惨事」が、私の人生を大きく変えました。ショックで寝込むぐらいの辛い経験ではありましたが、一方で「排泄は人間の尊厳の問題。自分と同じような犠牲者を出したくない。便意を予知できる方法はないだろうか?」と考えるようになったんです。

「超音波で胎児が見られるなら、便の動きも見られないか?」と思いつく

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 文系学部出身で、技術に関する知識は全くありませんでしたが、素人考えで「超音波で妊婦さんの胎児の様子が分かるのであれば、ウンコも見られるのでは?」と思いつき、医者である兄に相談したところ「小児の場合、腸内の様子を超音波診断装置で見ることもあるよ」との回答。そこで「超音波で便の位置を把握し、出る時間を予測する」というアイディアを、インターンをしていたベンチャーキャピタルで話したら「面白い!」と太鼓判を押されたことから、エンジニアの友人を無理やり巻き込んで試作機を作ることになりました。

 試行錯誤の末に試作機を完成させた後は、エンジニアの体を実験台に排泄予知の精度を高め、2015年4月、開発資金を調達するためにクラウドファンディングに挑戦。すると、1200万円という高額目標にもかかわらず、あっという間に目標を達成することができました。

 賛同し出資してくれた方々は、「お漏らしが直らない子どもに使いたい」という母親や、「お腹が緩くて便意に戦々恐々としている」ビジネスパーソン、「在宅介護に活かしたい」というご家庭などさまざま。「田舎の両親にプレゼントしたい」というご意見もありました。介護施設からもまとまった出資をいただき、排泄で困っている人の多さに驚かされるとともに、期待の大きさを実感し、「早く実用化しなければ」と背筋が伸びる思いでした。

 同時並行で、介護施設において検証を実施。まずは頻度が高くデータを集めやすい「排尿」に絞って検証を行ったところ、排尿時間を予知することで、適切なタイミングでおむつを替えたり、トイレに誘導したりすることができたことから、介護スタッフの労働時間が30%削減。おむつの量も約半分に削減できました。「今までトイレが不安で外出をためらっていたけれど、『DFree』があれば『あと2時間は大丈夫』とわかるので、安心して外出できる」というお年寄りからの声をいただき、本当に嬉しく思いましたね。介護施設で十分に力を発揮できると、手ごたえを得ることができました。

開発は順調なのに…クラウドファンディングで得た資金の返金を決断

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「DFree」の開発自体は順調に進み、量産体制も整備。開発やマーケティングにかかる大型の資金調達も実施することができました。ここまで順調に来たのですが…先日、久々に大きな壁にぶつかり、悔しい思いをしました。2015年に実施したクラウドファンディングで得た資金の返金を決断したのです。

 介護施設での検証では、高い成果を得ることができましたが、同時に「このオペレーションを一般家庭で行うには、専用のソフトウェアやネットワーク機器、ネットワーク環境の整備が必要である」ということに気付いたのです。

「DFree」を下腹部に装着することで、尿や便の貯まり具合を測定し、データをスマートフォンなどに送ることで「排尿・排便タイミング」を通知しますが、それにはwi-fiなどネット環境が整っていることが大前提になります。それに、「老老介護」など、スマートフォンがうまく扱えない方が介護をしているケースも想定されます。介護施設にはネットワーク環境を整備することができ、スマートフォンの操作に慣れている若いスタッフもいるのでオペレーションが可能でしたが、この商品を必要としているご家庭の多くでは、その環境がないということに気付きました。

 つまり、「DFree」という、我々の商品単体では、一般の方々の「排泄の問題」すべてが解決できる状態にはなく、例えばネットワーク関連会社や訪問介護業者、行政、医療機関、ご家族などとスクラムを組んでサービスを提供する必要があると痛感。この体制を整えるにはまだ時間がかかると考え、断腸の思いで返金を決断しました。

 返金を発表した際には、電話やメールで、「プロジェクトそのものを応援しているから、返金しなくてもいい」との声をたくさんいただきました。「急がなくてもいい、いつまでも待つよ」という声もいただき、涙の出る思いでしたね。

 皆さんの期待に応えるには、まずはデータの蓄積が重要。今月から、介護施設への本格導入が始まりました。特に宣伝したわけでもないのに、海外30カ国以上からも引き合いが来ており、フランスにある世界最大規模の介護施設グループへの導入に向けたトライアルも行っています。これら介護施設での導入実績をさらに検証・分析して、将来的には在宅介護向け、そして子ども、アクティブシニア、排泄に悩む一般の方々へと、適応範囲を広げていきたいと思っています。まだ「DFree」の存在が知られていない2015年に出資を決めてくださった方々の期待に、一日も早く応えることが、今の私の大きな目標です。

自分は運がいい!と思い込めば、トラブルや失敗も前向きに捉えられる

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「お漏らし事件」から4年弱、まさかこんな展開になるとは思っていませんでした。人生最悪の経験がビジネスになるなんて、人生分からないものです。

 でも、運や機会、チャンスは誰にでも訪れます。それに気付き、タイミングよく乗れる人が「運を味方にできる人」なんだと思います。

 そのためには、「自分は運がいい!」と思い込むことが大切だと、私は思います。普段からそう思っていれば、目の前に起きているあらゆる出来事を「あれ?これはもしかしてチャンスなんじゃない?」と前向きに捉えられるようになります。逆に「自分は運が悪い、なかなかチャンスが回って来ない」と思っていると、目は曇り、目の前にチャンスが転がっていても気づくことができません。

 私は、自分自身「めちゃくちゃ運がいい」と思っていますよ。だから、ウンコを漏らしたなんていう悲惨すぎる経験もそれで終わらせず、「DFree」を発案することができたんです。皆さんも一度、思い切り何かに挑戦して、大失敗してみてはどうでしょう?漏らすことはお勧めしませんが、何かひらめくきっかけになるかもしれません。

 

 EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭