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東京五輪へ向けて日本の伝統美をPR!196カ国を着物と帯で表現する「KIMONO PROJECT」始動

 国立競技場問題やエンブレム問題などが相次ぎ、暗い話題ばかりが先行していた東京オリンピック2020。そんな東京オリンピック関連のニュースで、久々に明るい話題として注目を集めているのが、社団法人イマジン・ワンワールドが展開する「KIMONO PROJECT」だ。

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 イマジン・ワンワールドは、「世界は、きっとひとつになれる」をキーワードとし、世界の平和と繁栄に貢献することを目的とした団体である。東京オリンピックで日本が世界から注目される2020年に向け、全国各地の着物作家が、196カ国の着物と帯を製作。消費者離れや後継者不足に悩む呉服産業を盛り上げようと世界に向けたアピールはこれまでも行われてきたが、全国の染元や製作者が一同に参加するこのような取り組みは珍しい。

 2014年、福岡県久留米市にある創業77年の呉服屋「蝶屋」3代目店主の高倉慶応氏が中心となり、業種を超えた有志によってスタートした同企画は、高倉氏のSNSからクチコミによって瞬く間に広まり、外務省、経済産業省、各国大使館に加え、多くの個人や企業の協力を得て急スピードで進んでいる。

 開催地・東京から遠く離れた久留米で始まったムーブメントが、なぜこれほどまでに賛同を集めているのか。代表の高倉氏にお話を伺った。

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高倉慶応氏

1968年、福岡県久留米市出身。蝶屋株式会社の3代目社長。24歳で蝶屋に入社2000年より、公益ひとづくり事業「ミスジャポン」を立ち上げ、2010年より福岡打ち水大作戦へ参加協力し、人づくりや街づくり活動に尽力する。洋楽好きが高じて久留米のコミュニティFM「Dreams FM、LOVE FMにて音楽番組のパーソナリティを務めた。2014年に社団法人イマジンワンワールドを発足。

地方も、中小企業も、斜陽産業も参加できる東京五輪に

 2013年11月、プランタン百貨店の最上階のレストランを貸し切り、パリで初めて着物の講演を行いました。父がかつて運営していた染織美術館の貯蔵品によるショーです。その際、近現代の着物もよいけれど、フランスと日本の架け橋となる記念に1枚着物を作ろうと思い立ち、日本からは伊藤若冲(江戸時代中期の京にて活躍した絵師)を、フランスからはアールヌーボーをひとつに融合させ、振袖を披露したのです。

 製作者はフランスに関係のある方たちがよいと、1900年のパリ万博で名誉総裁賞を受賞している染元にお願いしました。「当時の日本の使節団がパリ万博へ行き、持ち帰ってきた柄が大正ロマンにおけるアールヌーボーというデザインです。その110年後にパリへ来ることができたので、ゆかりのある着物を作ってきました」とスピーチすると、パリジェンヌたちの態度が一変しました。服飾に目が肥えたパリジェンヌさえも一斉に歓迎し、リスペクトしてくれるようになったのです。

<ブータン王国/Kingdom of Bhutan>

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 いたく感動してくださるフランスの方たちを見ながら、日本人が世界の人たちに向けてこういったことをどんどんやっていけば、日本発の平和を作れるのではないかと思いました。ちょうどそのタイミングで2020年の東京オリンピックが決まり、その気持ちに拍車がかかりました。大手企業を中心とした、ほんの一握りの人たちが企画を考えて運営する東京オリンピックではなく、地方からも、中小企業からも、私たちのような斜陽産業からも、ほんの少しがんばれば、そういった世界イベントに関わっていける。そういう夢を実現したいと思いました。

<フィリピン/Republic of the Philippines>

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 呉服人として、世界の平和に貢献しながら、着物業界全体に新しい風を吹かせ、皆のモチベーションがグッとあがるような突破口を見出したい。小さな力でもたくさん結集すれば、東京オリンピックという世界的イベントに手が届くんだという物語を作りたいと考えました。

 とはいえ、始めるまでは相当悩みました。「そんなことを言っても無理だよな」、「途中でポシャるのは目に見えているじゃないか」という不安やネガティブマインドは、今でも頭をよぎります。でも、とりあえずやってみないことにはわからない。不安を振り切って、直球勝負に出ることにしました。

 

やると決めたらやる!196カ国の着物と帯を揃える夢

 便宜的には、すべての国に人は所属していて、どこかひとつの国が欠けても成立しません。それで国という単位がいくつあるかを調べてみたら、国連加盟国と日本と国交のある国を合わせて196ありました。だとしたら、196カ国やらなければ意味がないですし、196カ国を結集できて初めてひとつです。ならば最後までやり抜こうと決めました。

 昨年の展示会は6カ国を発表したのですが、正確に言うと最初に作ったのは五輪にかけて5カ国で、大陸から1カ国ずつを選びました。当初は見切り発車だったので寄付金も手元になければ、製作者の方たちへのギャラの見込みが立たない状況です。でも、まぁ、5カ国はなんとか作れるだろうと私が決めました。最悪の場合、その実費はすべて自分が負担しようと思っていました。

<インド共和国/Republic of India>

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 南アフリカには、「奇跡の2週間」と呼ばれる高山大地にきれいな花畑が広がる時期があります。さまざまな花が咲きほこる光景は、人種の融合とも通ずるので、南アフリカを花で表現しようと考えました。お花といえばこの人と思っていた松田徳道先生に「着物で南アフリカという国を表現してほしい。ついては、南アフリカの代表花であるプロテアとジャカランタを使っていただきたい」とお願いしたところ、当初は「いやいや、南アフリカなんて行ったことないし」と戸惑われたのですが、1カ月後、先生がプロテアを買いに行かれ、描きはじめたそのスケッチを見て「これは勝った!」と思いました。完璧なスケッチや下絵ができないと、ろうけつ染めはできないのですが、まあ見事でした。かつ、すべてが手仕事でコピー・アンド・ペーストをしないので、ひとつひとつの形が違います。つぼみのところ、開きそうなところ、開ききったところ、花が生き生きしています。

<南アフリカ共和国/Republic of South Africa>

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消費者が強すぎる時代、圧倒的な美と揺るぎないコンセプトで勝負

 「一国を着物で表現してほしい」とお願いにあがると、躊躇される先生、ふたつ返事で承諾してくれる先生とさまざまですが、共通するのはそういう仕事をしたかったという潜在的な気持ちです。

 今の時代、「売れるものを作ってくれ」、「このくらいの値段で作ってくれ」という仕事ばかりで、「本当にいいものを作ってくれ」という注文がほとんど入りません。それが今の日本の経済社会の宿命であり、仕組みなんですね。

 今は消費者が強すぎる時代というか、「ここまでできる」という付加価値がお客さんに伝わりにくい時代です。人の心が動かなくなってしまっているといいましょうか。それを打破するには、圧倒的に美しいものや、誰にどう聞かれても揺るぎないコンセプトのあるものを打ち出していくしかないと思っています。このプロジェクトは、そういった揺るぎない価値のあるもの、ともすれば好き嫌いがはっきり分かれるほどの圧倒的な存在感がある美を想像し、創造してよいのだと証明するための、呉服人としての私自身のチャレンジでもあります。

<イギリス/United Kingdom>

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勇気や平和の象徴を表現、大使館関係者を魅了

 昨年の製作発表会には、日本に大使館のある国の方々はすべて足を運んでくださいました。南アフリカからは一等書記官の方がいらっしゃり、「ジャカランタという花は私たちの国の桜なんです。日本に来てこんなにうれしかったことはありません。いつでも大使館に遊びに来てください」と、とても感激して帰っていかれました。

 リトアニアの着物には、世界遺産の教会と、ドイツやポーランドからロシアへと逃げるユダヤ人に大量のビザを発行し、6000人以上もの命を救った日本人のリトアニア領事、杉原千畝の執務室を密かに描いたのですが、そちらも大変喜ばれました。第二次世界大戦当時、国命に反して大勢のユダヤ人を助けるという行為は想像を絶する勇気です。リトアニアにそんな勇敢な日本人がいたということを知ってもらうと同時に、勇気を美しく表現するというのはいいことじゃないかなと思いました。

<リトアニア共和国/Republic of Lithuania>
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 今年の展示発表会は、アメリカやイタリアなどの大国がステージにあがります。アメリカの着物で苦労した点は、そのコンセンプト作りです。たくさんアイコンがあるため、それを絞り込むのに頭を悩ませました。最終的にたどり着いたコンセプトは、アメリカンイーグルに象徴される大統領と50州です。大統領が地球を俯瞰するようにアメリカ大陸を見つめ、大国を表現するために、すべての州の花を入れました。それだけでは面白くないので、ベースボールや自由の女神、リンカーン像、ケネディなどの、いわゆる”アメリカの華”を描写。アメリカンイーグルの足は、片方は13葉のオリーブを、もう片方の足は13本の矢を持っていて、平和と戦争を象徴しています。大統領の首は、オリーブを持っているほうの足側を向いているのですが、これは「大統領は最終的に平和を求めている」という意味があります。

<アメリカ合衆国/United States of America>

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<イタリア共和国/Italian Republic>

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よい意味でのライバル心こそ、傑作を生む原動力

 今回のプロジェクトでは、どの国も同じ予算で作ることを条件にしています。着物は100万円、帯は50万円の予算です。お願いする先生の経歴や年齢、国による差は一切ありません。よって、先生へお支払いするお代も均等です。

<ツバル/Tuvalu>

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 昨年の5カ国の着物がとても高いレベルだったので、昨年の作品群に負けたくないと今年作る人たちは必死でした。いい意味での冷戦です。展示会ではすべて横に並ぶので、その出来栄えは一目瞭然で分かります。もちろん好き嫌いはありますが、口で説明する価値と、着物が並ぶことによって見えてくる価値がすりあっていない場合は敗北感を味わうことになります。

 現在、ナショナルカラーを意識して帯締めと帯揚げを作り始めていますが、着物や帯にはエッセンスとしてのみ入れています。ナショナルカラーが目立つデザインにして、表面しか見ていないと各国の方に思われるのが嫌だったので、そういったデザインをあげてこられた先生には「もう少し深掘りしてください」と申し上げたこともあります。

<ブラジル連邦共和国/Federative Republic of Brazil>

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 どの先生にも恥はかかせたくないからこそ、「海外の人が日本を表現するときに、フジヤマゲイシャを描いたら、なんかイラっとしません?」と時には苦言を呈します。国の捉え方が表層的にならないようにするためにも、そういったやりとりは大事です。

 芸術や美術は、ある程度、目の肥えた人にガイドしていただかないとわかりません。第一印象でパッと見がよい作品はすぐに飽きてしまいます。「翠眼を磨く」ともいいますが、5年後、10年後に目利きの人たちが見ても飽きない、良い柄であってほしいので、作家の方たちに3つお願いしていることがあります。

 ひとつは工芸的価値があること。次に手間暇がかかっていること。そして最後は商業的価値があることです。商業的価値というのは、着たときも含めてきれいでなければならないという意味です。「飾っていると美しいけれど、着るとなんだかおかしい」というのではダメなんです。誰かに着てほしいと思われるようなものを作らないと。そういったものじゃないと意味がないのです。

<グルジア「ジョージア」/Georgia>

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求められているのは、“創造“より“想像“

 現在、「そうぞう」というと、クリエイティブという意味の「創造」を思い浮かべがちですが、むしろ「想像」が欠乏している時代だと私は思います。元来、「想像」がないと「創造」はできないはずです。それがネットの中だけで答えを探し、多数決で多いほうの意見を何の疑いもなく自分の意見と思い込んでしまう人が増えている印象です。

 世界平和と人類愛を歌ったジョン・レノンの「Imagine」の思想は、今こそ必要だと考えています。大学卒業後、金融業界に就職したこともあり、私自身、経済をよくすることが人を幸せにすると思っていた時期がありました。けれど、ここ数十年の日本を観察していると、どうもそれだけではないように感じます。2008年に福岡県久留米市の青年会議所で理事長に就任した際の所信表明では、世界の平和と繁栄に貢献するために地域で活躍するという青年会議所の理念をもう一度再認識するためにも「Imagine」という言葉を使いました。

<カタール国/State of Qatar>

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 実際、地方で暮らしていると、血縁関係や近所付き合いを含めて経済のものさしだけでは動かないことが多々あります。極端な話、好き嫌いや相性といった部分も「幸せ」には大いに関与してきます。文化的交流や価値の共有は不可欠です。

最後は中身ありき、着物を後世に伝承するためには

 着物を後世に残すためには、現在やっていることが一番の近道だと思っています。作者がモチベーション高く、精魂込めて作る。これは大前提です。

 作者本来の芸術性や技を最大限に発揮できる今回のプロジェクトは、どの作家の方にも気合十分やっていただいているので、私が見ても「こんなに力があったんですか?」と驚くほどの傑作が続々と生まれています。着物を作っている方も、帯を作っている方も、皆が直球勝負をしているんですね。自分たちの業界に魅力があると自負するなら、やはり直球の勝負をしないとダメです。思い切ってボールを投げるからこそ、手応えを感じるし、リアクションを得ることができます。

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 手法やマーケティングやプランニングが大事というのも、もちろん分かります。でも、最後は中身です。パッケージがどうだとかいう以前に、商材が命のはずなんです。

 それをこのところの日本人は忘れがちです。だからといって気付けないままなのかというと、きっとそうではないと思うんです。良いものを知らなかったり、今まで出会わなかったというだけで、機会さえ増やせば価値のわかる人たちが増えていきます。良いものというのは出会う確率がもともと少ないんです。本当に良いものが再評価を受ける。そういう社会を、2020年に向けて築いていきたいです。

 ただ、これまでのやり方を続けていても先は見えています。日本人の、日本人による、日本人のための着物を作ったうえで、コンテンポラリーな要素として、外国というエッセンスを入れました。そうすることによって、デザインも色も文様を新しくなりますし、なにより日本全体が活気づく。

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 日本の着物がいかに柔軟で、懐が深くて、形は同じなのに、どれほど異なる個性を表現することができるか。本来は日本人に知ってほしいんです。日本のスタイルはルールを守りながら、その中での自由を謳歌しますが、西洋はルール自体をどんどん変えながら、進歩していこうとする。そこがまったく違います。外国の民族衣装で196カ国をやっても面白くないと思うんですよ。着物という同じ土俵でやるから、比較ができて、シンパシーが生まれる。最終的に私たちは196カ国を表現したすべての着物で手をつないで、世界がひとつになるという瞬間をお見せしたいと思っています。

   

取材・文=山葵夕子  撮影=福士順平  協力=L-CLIP

取材協力=イマジン・ワンワールド