後任者がいない、引き継ぎができないほど忙しい…そんなあなたへ

円満退職の分かれ道

スッキリきれい編 ゴチャゴチャトラブル編

転職を成功させるための第一歩は、今の会社を円満退職すること。とはいえ、少し手順を間違えたり、気配りが足りなかったりすると、思わぬトラブルに巻き込まれてしまう…。でも、ポイントさえ押さえておけば大丈夫。さあ、あなたもスッキリきれいな円満退職を目指しましょう。

2006年8月23日

PROFILE

キャリア・コンサルタント
本田勝裕氏(通称:ポンタ)

1962年生まれ。甲南大学経営学部卒。出版社にて編集・企画業務のかたわら、学生・社会人向けのイベントやセミナーをプロデュースする。その後、別の出版社などを経て、97年2月独立。就職、起業、進学をテーマに講演や執筆を行っている。

スッキリきれい編 ゴチャゴチャトラブル編

スッキリきれい編

「私はこうして“スッキリきれい”に退職できました」

Case.1 目をかけてくれる上司に申し訳ない
→ 勤務先が変わっても一生、人生の師

(広告・営業・29歳・男性)

入社以来、何かと目をかけてくれたM部長。聞くところによると、採用面接でも強力に僕を推してくれたらしい。
全社的な組織改編があったため、同じ部署で仕事ができたのは3年だったが、その後も飲みに誘ってもらったりして、「独立されることがあったら、声を掛けてください」と冗談交じりにお願いするほど、人間としても尊敬していた。そんなある日、前々からやりたかった仕事で、待遇もいい某企業の求人を発見。応募すると、とんとん拍子に話が進んだ。ところが、気になるのがM部長のこと。会社に未練はないけど、あの人だけは裏切れない。辞退するべきか、突き進むべきか。自分という人間の真価が問われているようで、なかなか答えが出なかった。

私の対処法

1 直属の上司に話す前に、休日、M部長宅を訪問して、事情を話した。
2 ただし、M部長にお願いして、話の中身は直属の上司に伏せてもらった。
3 転職してから1カ月後、再度M部長宅を訪ねて、近況報告をした。

苦しい選択でした。「残念だが、君が決めたことだ。とことんやれ。でもな、本当をいえば休日に来るっていうから、仲人でも頼まれるんだと思ったよ。今度来るときは、嫁さんを連れて来いよな」と言われたときには、思わず熱い涙がでました。勤務先は変わっても、一生、M部長を人生の師として仰いでいくつもりです。もちろん僕が結婚するときは、ご招待しますよ。

ポンタの考察

誠意を持って、今後のビジョンを伝える

M部長がわかってくれたのも、これから何をしたいかというビジョンが君にあり、誠意を持って伝えにいったからだと思う。こんな場合、「これまでやってきたことを超える仕事をするんだ」という覚悟があるかどうかがキーポイントになる。自信があるなら迷わず進めばいい。周りに気を使いすぎて自分を抑え込むと、それがストレスとなり、やがては心の中に大きなしこりを残してしまう。チャンスは前向きにとらえること。

Case.2 プロジェクトに入っているので、メンバーに迷惑をかけてしまう
→ 残ったメンバーに代休が認められた

(メーカー・技術職・33歳・男性)

2年前に5カ年計画のプロジェクトに抜擢され、かなり張り切って仕事に取り組んでいた。ところが、遠方出張が頻繁にあり、残業や休日出勤をしても代休がとれない生活を送るうち、微熱と朝から体のだるい日々が続くようになる。このままだととんでもない病気になりそうで、早く転職しなければと焦るが、私が抜けると、ただでさえ忙しいほかのメンバーにしわ寄せがいく。ここで築いた人間関係も捨てがたいし、今去るのもなんだか負け犬のようだ。かといってプロジェクトが終了するのを待っていたら、年齢的にも転職の旬が過ぎてしまう。もう人生どん詰まりの状態で、どうしていいかわからなかった。

私の対処法

1 やっぱり最後は体が大事だと割り切って、転職を決意する。
2 思い切って人間ドックに入り、過労のため休養が必要と診断される。
3 診断書を会社に提出。慰留されるが、このあたりでじっくり自分の人生を見直したいと説明して退職願を提出する。

抜擢されてきたせいか、みんな絶対に弱音を吐かないんです。だから、「こんなことぐらいで体調を崩すなんて情けない」と、自分を責めたことも。ところが、僕が辞めると同時に、2、3人が体調不良を訴え始め、今では休日出勤したら必ず代休を取るということになったみたいですね。やっぱり体は正直です。年がら年中120%の力で仕事をすると、どこかにひずみが出てきますからね。

ポンタの考察

過去のプライドを捨て、自分のブランドをつくる

君が信じる35歳転職限界説の真偽はおいといて、そうそう、何事も命あってのモノダネ。体が一番だというのは正解です。これからは過去のプライドを捨て、自分のブランドをつくろう。自分のことを負け犬だと卑下したようだが、君には、メーカー、技術者のプロジェクト、そして何より失敗した経験がある。失敗は隠すからカッコ悪いのであって、挫折経験はこれからの人生の中で必ず活きる。堂々としていればいいのだ。

Case.3 慕ってくれる後輩を振り切って、自分だけ転職できない
→ 力をつけて、いつかみんなを呼び寄せよう

(流通・販売・35歳・男性)

私が店長を務めるスーパーは、6年ほど前に大きなリストラを敢行。
早期退職者を募り、一時はガタガタの状態だった。私自身もひそかに身の振り方を悩んだりしたが、支店のメンバーが熱いヤツらで、「店長、たとえこの店だけになっても、絶対に僕らで盛り返しましょう!」と支えてくれたおかげで、数少ない黒字店舗に転換した。しかし、その後、経営陣が2度代わったりして、未だ経営指針がはっきりせず、将来が不安な状態である。そんなところに、スカウト会社から転職話が持ち込まれた。チャンスに違いないが、みんなの顔を見ると心苦しくてたまらなくなる。今まで一緒に頑張ってきたのに、自分だけ逃げるようで、ひどい責任者ではないかと自問する日々だった。

私の対処法

1 母の病気を理由に(全くひどい責任者だ)、3日間寺にこもって座禅を組み、己を見つめ直した。
2 自分のやりたいことをするためには、四方八方“いい人”を演じ続けていられないと悟った。
3 支店のメンバーを誘って自腹で飲み会を開き、退職することを話した。

「飲み会をやろう。たまには俺が出すぞ」と言った時点で、どうやらカンのいいヤツは感じたようでした。彼らのやる気をそいではいけないと考え、会社の状況説明は最小限にとどめ、自分がやりたいと思っていることを中心に話しました。「自分さえよければいいんですか!」と責める人もいましたが、大半の人はわかってくれました。幸いにも後任者が育っていましたので、そこで身につけたことのほとんどは引き継いだつもりです。

ポンタの考察

悔しさを将来へのスプリングボードに

時間がたてば人間関係の修復は可能だ。今回、部下を連れて行けなくても、時を経て転職先で力をつければ、一人、そしてもう一人というように呼び寄せることはできる。今は自分が不甲斐ないように思えるかもしれないが、この思いが次へのスプリングボードになる。なお、「自分さえよければ――」という人は、他人への依存度が高い証拠。こんな依存はいったん断ち切ってやるほうが、この人のためである。

Case.4 後任者がいないので、業務の引き継ぎができない
→ それは経営者が考えるべき問題

(メーカー・研究開発・34歳・女性)

私がやっているバイオの研究は、以前、研究員3人が投入されていたぐらい手間と時間がかかる仕事。でも、4年前、社長の鶴のひと声で、私一人で担当することに。上司からは「優秀だから残ってもらったんだ。君の研究には会社の存続がかかっている」などと言われ、プライベートを犠牲にしてまで仕事に没頭してきた。けれども、経営方針がコロコロ変わる企業体質には、いい加減うんざり。真剣に転職を考え始めたが、今となっては私以外にこの仕事がわかる人がいないので、引き継ぎのできる人がいない。かといって、苦労してやってきた研究を放ってしまえば、私の仕事は何だったの?ということになる。進むことも引き返すこともできず、毎日もやもやしていた。

私の対処法

1 会社を辞めた先輩に相談。「組織なんて、一人ぐらい抜けてもなんとかなるものさ。俺のときもそうだったでしょ?」と言われて、はっとした。
2 思い切って上司に退職の意思表示をする。
3 とりあえず上司に引き継いで、次に入ってくる後任者に橋渡ししてもらうことになった。

研究室に閉じこもっている間に、自分ひとりが会社を動かしているような錯覚に陥っていたようです。私の仕事は課長を経て2年後輩が担当になり、「何か問題があったら電話ちょうだいね」と伝えたのに、一度も連絡がないところをみると順調なのでしょうね。ちょっと寂しい気もしますが、組織なんてそんなものだと、時にはクールに割り切ることも大切かもしれません。

ポンタの考察

後任者のチャンスができたと、前向きにとらえる

“ 自分ひとりが会社を動かしているような錯覚”に、よくぞ気がついた。自分が経営しているならともかく、後任者のことは一社員が考えるような問題ではない。経営者と社員は、もともと役割が違うことを忘れないこと。君はむしろ、「私が辞めて、後任者のチャンスができたんだ」と考えればいい。連絡がないのも、後任者がプライドを持って仕事をしていることの表れ。安心して、今の仕事に取り組もう。

Case.5 狭い業界だから、足を引っ張られないかと心配だ
→ 順番と筋さえ間違えなければ大丈夫

(アパレル・デザイン・28歳・男性)

学生のころからの夢が忘れられず、数年前、テキスタイルのデザイン事務所に転職。一から教えてもらって一人前になれた。けれども不遜なことだが、徐々に社長以下中堅デザイナーのセンスを古臭く感じるようになり、ここではもう学ぶことがないと思うようになった。そんなとき、取引先のアパレルメーカーがデザイナーを募集していることを知り、矢も盾もたまらず応募。顔見知りの先方A部長が人事に口添えしてくれ、採用されることになった。しかし、ここにきて、今の会社をどうやって円満退職するかという現実が大きくのしかかってきた。ワンマンの社長を怒らせたら、どんなことになるか…。狭い業界だけに不安だった。

私の対処法

1 社長は筋を通すことを第一に考える人。先に直属の上司、リーダーのSさんに退職願を提出。
2 Sさん同席のうえで社長に退職の意思表示。「ここで教えていただいたことを基盤に、今後はこんな仕事をしていきたい」と話す。
3 転職先の部長が、うちの社長を誘って一席設けてくれ、丸く収まるように取り計らってくれた。

社長は古いタイプの人で、これまでも社員が退職する際、何度かいざこざがあったそうです。直接、退職願を出せば話が早かったのかもしれませんが、Sさんにクッションになってもらうことにし、彼は社長の機嫌のいいときを見計らって話してくれたようです。先方のA部長にいたっては、もう感謝の言葉もありません。今後はいい仕事をして、皆さんに恩返ししていきたいですね。

ポンタの考察

わずらわしくても、戦略を立てて対処する

多少時間がかかっても、戦略としては非常によかった。これだけ手を打っておけば、辞めた後にどこかで会っても、「おい、どうしているんだ?元気か?」と向こうも声を掛けやすいし、人間関係もスムーズに続く。ただし、狭い業界で転職する場合の掟として、守秘義務は守ること。しばらくは常に、自分の言動が、前の会社と転職先にどんな影響を及ぼすかを考えよう。トラブル回避のためである。

ゴチャゴチャトラブル編

「私はこうして“ゴチャゴチャトラブル”に巻き込まれました」

離婚のような修羅場を経験 (メーカー・商品企画・28歳・女性)

前の会社は良くも悪くも仲良しクラブのような社風。「いつまでもぬるま湯につかっていたらダメだ」と退職を決意。上司に伝えたところ、先輩も加わって懇々と説得された挙句、両者から5枚にもわたる熱〜い手紙までもらった。「僕も昔は退職を考えたことがあったが、今はこんなに居心地のいい会社はないとわかった。お前も逃げずに頑張れ!」には戸惑ってしまったので、余計、「説得の余地あり」と映ったようだった。結局、彼らとは同じフロアにいながら、3回も手紙のやりとりをしたり、「どうして君はわかってくれないのだ」と泣かれたりして、ようやく辞められたのは退職希望日よりも2カ月後。結婚したこともないのに、離婚の修羅場を経験したような疲れがどっと押し寄せた。

こうすればよかった 退職の意思を固めてから、上司に伝えたらよかった。
海外旅行の計画がオジャンに (IT通信・エンジニア・31歳・男性)

社内規則に退職を申し出る期限が書かれていなかったので、1カ月前に退職願を上司に提出。すると、「普通はこんなもの3カ月前に出すんだ。うちは人数が少ないんだから、半年前には言ってもらわないと、仕事が回らないじゃないか!」とネチネチと責められた。そのため、退職前に有給を使って海外旅行する計画がオジャンに。今考えれば、堂々と取ればよかったが、あのときは精神的な余裕がなくて、向こうの言うままだったことが悔しい。

こうすればよかった 退職について、もっと勉強しておくべきだった。
こらえていた分、最後は大ゲンカ (マスコミ・編集・32歳・男性)

もともと平均勤続年数約7カ月という、人の出入りの激しい職場だった。ところが、私が4年も勤務したことが裏目に出て、上司はややこしい仕事をすべて私に押し付け、自分は定時退社を続けていた。もうこれ以上体が続かないと退職を申し出ると、上司はまたイチから人を育てなければならないと思ったらしい。退職を考え直すようしつこく説得され、最後は「3カ月待ってくれ」と懇願してくる始末。こちらも転職先の入社日が決まっていたため、退職日は絶対に譲れないと言い張ったところ、大ゲンカになり、後味の悪い退職となってしまった。

こうすればよかった 相手の感情にのみこまれず、冷静に対処しておけば…。
引き継ぐ人に先に辞められた! (人材派遣・秘書・33歳・女性)

会社創立2年目に新卒で入り、社長ともあうんの呼吸でやってきた。けれども近々、結婚することになり、結婚生活との両立を考えて転職することに。社長には青天の霹靂だったようで、あわてて後任者を3人決めてくれた。ところが、引き継ぎを始めて間もなく、そのうち2人が「こんなに仕事が多いなら、私はやれません」と言いだし、先に退職してしまった。あとの一人も時間の問題という様子だし、社長は「至急、経験者を募集するからちょっと待ってくれ」というけれど、私の仕事はこんなに大変だったのかと再認識。それにしても、社長の右腕とか言われて有頂天になっていたころの自分がうらめしい。一人で仕事を抱え込まずに、いざというときのために後輩を育てておくべきだった。

こうすればよかった 常日頃から後輩を育てておけばよかった。
引き止めは、上司の評価のため? (建設・設計・30歳・男性)

上司に退職願いを出したら、案の定、「何か不満があるのか?」と聞いてきた。よしきた!とばかりに、不平不満を並べて「これで退職できる」と安心していたら、3日後呼び出され、不平不満の一つひとつに改善策が示された。辞めたい理由がなくなってしまった私は、すごすごと退職願いを引っ込めることに。ところが後に、当時、私のほかにも2人が退職願いを出しており、自分の勤務評価が悪くなることを恐れた上司が、口先だけで私を慰留したことが判明。結局、1年後の今、前と同じ辞めたい理由で転職先を探しているが、もっとアンテナを張り巡らして情報収集しておけばよかったとつくづく思う。

こうすればよかった 社内の情報収集をしておけば、正確な判断ができたのに。

円満退職を成功させるための五箇条

第一条 周囲と、とことん話すべし

辞める理由や今後の引き継ぎについて、上司や同僚、部下などの周囲と、理解してもらえるまで話し合おう。一生懸命わかってもらおうと努力する姿は、必ず相手の心に響くはずだ。

第二条 話す順番を間違うなかれ

話す相手を一つ間違うと、こじれる恐れあり。会社という組織は、それぞれが役割を担っているので、相手の面子をつぶさないよう要注意。原則、最初は直属の上司に話そう。

第三条 「相談」か「決意」かを区別せよ

「辞めようと思っているんです」では、相手に“まだまだ説得できる”という感を与えてしまう。「辞めます」なら、“決意は固いな。引き止めようがない”と思ってもらえる。

第四条 退職日まで全力で働くべし

退職願が受理されたら、残りの時間を使って会社のために何ができるか考えよう。後任者の仕事がはかどるようなマニュアルを作ってもいいし、取引先の担当者ごとの対応策をまとめたっていい。今まで忙しくてできなかったことをやろう。

第五条 辞める会社と新しい関係を構築せよ

上司や部下という関係を超えて付き合いたい人はいないだろうか? 人間関係はこれからが面白くなる。立つ鳥なんとかで、いつでも同窓会に行けるような関係を築いておけば、君自身の世界もぐっと広がるだろう。

EDIT&WRITING
中嶋典子
DESIGN
カンダ マキコ
ILLUST
西田ヒロコ

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