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山崎元×山本一郎「10年後に生き残るため、今すべきこと」
国内経済の縮小傾向、日本企業の海外進出加速、グローバル化の進行など、われわれを取り巻く環境は急激に変化している。そんな環境下で、なかなかキャリアの方向性が見えず、迷っているビジネスパーソンは多いかもしれない。これから先、ビジネスパーソンの「働き方」はどのように変化していくのだろうか?そして、どのような戦略を持ってキャリアを築けばいいのだろうか?経済評論家の山崎元氏と、人気ブロガーであり会社経営者である山本一郎氏に話を聞いた。
2013年4月24日
<ADVISER>
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経済評論家 |
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イレギュラーズアンドパートナーズ株式会社 |
10年後の雇用は、どのように変化しているのか?
「会社勤め」の選択肢は残るが、会社と個人の関係性は変わる
――企業の海外採用の拡大により、国内採用の減少が取り沙汰されたり、在宅勤務、ノマドワーカーなど働き方の多様化がニュースになっていますが、10年後を考えたとき、雇用市場はどう変化していると思われますか?
山崎 「会社に勤める」「会社が正社員を雇用する」という選択肢は残るし、これから10年後を想定しても、会社勤めをする人が主流だと思います。会社視点で見れば、「正社員を極力減らし、必要なときにインディペンデント・コントラクター(個人事業主)やノマドワーカーと契約する」というやり方は、契約コストが高く、正社員を囲うよりも経済性に欠けるためです。海外進出にしても、「グローバルに稼ぐ」という意向は当然高まるでしょうが、それにより日本国内で働ける環境が激減するとは思えない。ただ、「会社」と「個人」の関係は、間違いなく変化していくでしょう。
山本 確かに、会社と個人との関係は、あきらかに緊張感を増すでしょうね。企業側に、ゆっくり人材を育成したり、余剰人員を抱えたりする余裕がなくなり、無駄を削ぎ落とす方向に変わってきましたからね。
山崎 現在、正規社員の解雇規制緩和論が高まりつつありますが、規制が緩和されることで、10年後は今よりずっと労働の流動化が高まっているでしょう。そうなると、会社は当然、「将来いなくなるかもしれない社員」への教育投資をしなくなるわけで、自分のスキルセット、自分の人材価値は自分で作り上げていくという時代になります。ましてや、グローバル化が進み、日本企業の経営方法が外資系の経営にさや寄せされるのであれば、ますます「できない社員の面倒をいつまでも見るのは非合理的だ」という考え方が主流になると思われます。
「会社は取引先」ぐらいの考え方がちょうどいい
山本 自分の身は自分で守らねばならない、ということですね。つまりは、新卒で入社した会社で、その会社で築けると思われるスキルセットをそのまま受け入れるだけでは、あまりにリスクが高い。将来に保証はないし、50過ぎまで勤めても、役員のイスに座れるのはほんの一握りです。できるだけ早いうちから、会社とどのような関係性を築くかを考えておくべきでしょうね。
山崎 「会社は取引先」と考えるぐらいが、ちょうどいいかもしれません。会社は必ずしも、自分の都合のいいように動いてはくれませんからね。今は自分の価値を買ってくれているけれども、買ってくれなくなる時が来るかもしれないし、自分がやりたいことができなくなるかもしれない。そんなとき、「取引先を変える」ことができるように、準備をしておくのです。一つの会社に勤めていると、「社内で今、自分は何番目か」という視点で自分の価値を判断しがちですが、「その会社でしか使えない価値」では意味がありませんから、同業他社のA社ならばどうか、また別の会社ならばどうか…というように自分の価値を客観的に判断し、「自分のスキルの標準化」を意識したほうがいい。
10年後に「人材価値が高い」と言われる人の条件とは?
スペシャリティを複数確立し、マネジメント力も持ち合わせている人
――そんな不安定な将来においても、生き残れるのはどんな人なのでしょうか?
山崎 「自分ならではのスペシャリティを、複数確立している人」ですね。できるだけ早い段階で自分のコースを決め、その分野をある程度まで突き詰める。個人的には、28歳までにある程度の方向性を定め、スペシャリティの確立に動くべきだと思っています。ただ、スペシャリティといっても、ものすごい専門スキルというわけではなく、例えば「営業として、顧客に食い込むスキルには自信がある」というスペシャリティでもいいんです。ただ、それを複数持っていることが、これからの不安定な時代を生き抜くポイントになると思います。
山本 山崎さんは以前からそのようにおっしゃっていますよね?そしてご自身でも体現していらっしゃる。
山崎 私は今までに12回転職し、勤務先の経営破たんも経験しました。そんな中、将来が不確実な中においてはスペシャリティを複数持っているべきだと気付き、経済評論家を始めたんです。今も会社に所属し、一方で大学の先生もやり、たまに講演したり本なども書いていますが、どれか一つが潰えたときにも食べていけるように…というリスクヘッジです。そして、これらの「自分ならではの複数のスペシャリティ」を掛け合わせたところに、さらに「自分にしかない価値」が生まれます。例えば私の場合、ファンドマネージャーとして得た経験と、ファイナンスの研究というアカデミックな知識を、個人向けの運用アドバイスに活用したら、ほかのFP(ファイナンシャルプランナー)と差別化できるなと。複数のスペシャリティを持っていると「自分ならではのポジション」が築きやすくなるんです。
山本 私は、「マネジメント力を持っている人」が重要だと考えますね。30前半までにマネジメントを経験したか否かで、10年後に生き残っていられるか否かが決まると思っています。スペシャリティは単独でも成り立ちますが、マネジメントはスペシャリティの上にしか存在しません。山崎さんがおっしゃるように、スペシャリティを身につける努力は当然しつつも、それに見合うようなマネジメント力も同時につけていくことで、プロジェクト全体を率いる力を身につけることが大切です。例えば、モノ作りの現場で上に立つ人は、技術や品質に関するスペシャリティに加えて、どのメンバーに任せて、彼らをどうモチベートして、どういうスケジューリングで完成させるか考え、行動するスキルが重要。スペシャリティとマネジメント力を同時に伸ばす努力をすることで、自分の人材価値の「面積」を広げていくのが、一番効率的だと思います。
山崎 確かに、複数のスペシャリティにマネジメント力が加われば、人材価値に「横の広がり」ができますね。ほかの企業でも、自分の価値がより活用しやすくなる。
ビジョン、情報感度など「マインド面の価値」も重要に
山本 加えて、私が重視しているのは、ビジョン、情報感度の高さ、アピール力。これらは、スペシャリティとは少し違うかもしれませんが、人材価値とは別のところで大きな評価材料になっていると感じます。
山崎 情報感度が高く、パッションがある人は、行動できますからね。ネットで面白そうな人を探してどんどん会ってみるとか、会社以外での活動範囲がとても広い。
山本 周りを見ていても、やりたいことが明確で、かつ同じ思いを持つ人と積極的に交流し、将来の目標を常にブラッシュアップしまくっている人は、労働市場で高く見積もられやすいし、周辺にもやりたいことを言いまくっている人は、「きみ、面白そうだからうちに来ない?」と誘われるケースが多いんですよね。実際、私が声をかける人もこんなタイプの人。仕事はスキルだけでやれるものではなく、情報感度や思いやパッションも含まれている。これらを持ち合わせた人が魅力的であり、高く買われる人材だと感じますね。
10年後、「生き残る」ために今、何をすべきか?
コース変更を前提に、複数ルートを持っておくこと
――「10年後にも生き残りたい」と考えたとき、ビジネスパーソンは今後どういう戦略を持って行動すればいいでしょうか?
山崎 「途中でコースを変える」ということを前提に、複数のルートを自分の中に持っていたほうが戦略的だと思いますね。前述のように、会社は必ずしも、自分が思うように自分をうまく使ってはくれません。将来も不確実な世の中だからこそ、「自分ができること」を複数ルート持ち、育てていこうという意識は、これからさらに重要になるでしょう。万が一、その中の一つがダメになっても、食べていけるという選択肢がほかにあることは、リスクヘッジだけでなく自分の自信にもつながります。
山本 確かにそうですね。10年後にどんなスキルが買われるか、買われなくなるかなんて誰もわかりませんから、複数ルートを持つことで自分を守るべき。今現在でも、以前だったら高く評価されていたスキルの価値が、どんどん下がりつつあります。例えば、トリリンガルなんて10年前には労働市場にほとんどおらず、採用するには数千万円単位の年収を提示する必要がありましたが、今はかなりの数が労働市場に存在するようになりましたから、「普通の額」で採用できるようになった。
山崎 供給が増えると、価値は下がりますからね。同じスキルを持っている人が増えれば、当然スキルの値段も下がっていく。この傾向を考えても、複数ルートを持つことは重要ですね。「今の勤務先は、いつかは辞めることになる」という意識を持ち、会社に利益を還元する一方でスキルを磨き、ルートの異なるスペシャリティを築く努力をする。そのために会社を利用する、ぐらいのスタンスが賢いでしょうね。
あなたのスキルアップ戦略は、間違っていないか?
山本 一方で、自分のスキルセットを作り上げる方向性を間違っている人が、最近多いように感じます。例えば、グローバル化が進行しているからと、目的もなくTOEICのスコアを高めることに一生懸命になったり、MBA取得に走ったり。でも、それって、経営者視点で見ると、「人材価値」としては評価しづらい。
山崎 おっしゃる通り。ハーバードクラスのMBAを30歳より前に取れば別かもしれませんが、楽な大学や国内MBAだったら、私ならば「この人は仕事が暇だったのかな」と評価します。海外であっても、知名度の低い大学だと、語学留学レベルの評価しかしないでしょう。なぜなら、勉強中は仕事の経験に穴が開くわけで、その人が本当にできる人ならば現場がその人を離さないでしょう。特に30代前半なんて、仕事ができる一番能力の高い時期。その時期にMBAコースや語学スクールに通う人が多いけれど、そんな貴重な時期を実務の伴わない自己投資に充てるなんて、消費としては意味があるけれど、人材価値になるかといわれると…。実際のビジネスで応用できなければ、どちらかというとマイナスですよね。仕事に一生懸命取り組んで、業界や仕事の中で有名になることのほうが、よほど価値が高い。
山本 ノマドもそう。「ノマドになって自分の価値を高めよう」なんて人が最近ものすごく増えているけれど、スキルセットを確立できていない人がいきなりノマドになって自分で仕事を取ってこようなんて無茶ですよ。友人に、コワーキングスペースの経営者がいるんですが、大手企業を辞めたばかりの人が、独立の足掛かりにしたいとたくさん入居してくるけれど、3カ月後には半分ぐらいが退室してしまうらしいんです。月3万円の費用が払えなくなって、志半ばにして再就職活動することになる…これが現実です。
山崎 こういった事態に陥らないためにも、できるだけ早く自分の価値を自分自身の努力で高める努力をすることです。労働の流動化は、ビジネスパーソンにとっては不安定要素ではありますが、一方で、より自分の価値を評価してくれるところに移りやすくなるとも言える。ぜひ前向きに捉えてほしいですね。
自分ならではのスキルセットを築くため、スカウトを活用しよう
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- EDIT&WRITING
- 伊藤理子
- PHOTO
- 刑部友康